
第2回 素材をいじり倒して再構築!
有村シグネチャーのボーカル編集術
お世話になっております、in the blue shirt有村です。今月は、私の得意とするボーカル・エディットがPRESONUS Studio One(以下、S1)上でどのようにして行われているのか、順を追って解説できればと思います。
タイムストレッチ欄でDrumsを選び
ピッチ変更時の音色変化を楽しむ
最初に、ボーカル・エディット用に準備するトラックを説明します。まずは楽曲に使うボーカル素材を用意し、その置き場所を確保。今回は2種類の素材を準備したので、オーディオ・トラックを2つ確保します。これは、あくまで素材の置き場であって音は鳴らさないので、ミュートしておきます。絵の具の入ったパレットのようなものだと考えてください。次に、エディットを行うための実作業トラックを作成。私は大体以下のようなトラックを作ります。
●主旋律用トラック
●ハモり用トラック
●パン振りトラック(Lch用とRch用の計2tr)
●ディレイ用トラック(設定違いを複数種)

これらが、絵を描くためのキャンバスのようなところだと考えてください。素材置き場の一部を切り出し、実作業トラックにドラッグ&ドロップしていく……という作業を延々と繰り返し、オリジナルのボーカル・ラインを作成していきます。
“主旋律用トラック”は名前の通り主旋律を作成するための場で、切り出したイベントをひらすら並べていきます。“ハモり用トラック”は、主旋律に対するハモりを作成するのに使用(後述)。“パン振りトラック”は、ただパンが左右に振り切ってあるだけです。パンを用いた効果が欲しいときには、こちらに素材をドロップします。私は同じボーカル素材に対して、音程がオクターブ差になるようピッチ・アップ/ダウンしたものを1つずつ準備し、左右に配置することで男声と女声でユニゾンしているような効果を生み出す、という技をよく使います。
“ディレイ用トラック”は、S1の標準搭載プラグインAnalog Delayをミックス・バランス100%でインサートしたトラック。主旋律用トラックの語尾など、部分的にディレイをかけたい部分があればcommand(WindowsはCtrl)を押しつつドラッグして選択し、ディレイ用トラックにcommand(WindowsはCtrl)を押しつつドロップすることで、簡単に主旋律の一部分のみにディレイをかけられます。
以上の各トラックをS1のPro EQで調整した後、まとめて1つのバス・チャンネルに送ります。このバス・チャンネルにはPro EQ→WAVES Renaissance Vox(サード・パーティ製)→Analog Delay→Mixverbの順でエフェクトをインサート。私はこの並びを基本とし、必要に応じてエフェクトを追加したり、変更するなどしています。

続いては編集作業の詳細です。まずはオケに合わせて、ボーカル素材の設定を変更。インスペクターを開き、トランスポーズ欄の数字を変えて素材とオケのキーを合わせます。次にファイルテンポ欄へ素材のBPMを入力し、テンポ欄でタイムストレッチを選択すると、ボーカルのテンポがオケに追随するようになります。タイムストレッチ欄をSoundまたはSoloに設定すると、トランスポーズ欄でピッチを上げ下げした際も、原音のフォルマントが可能な限り維持されます。他方Drumsに設定すると、ピッチを変えるに従ってフォルマントも変化。私は、ピッチ・アップしたときにヘリウム・ガスを吸ったような声になったり、ピッチ・ダウンしたときに低くうなるような声になったりするのが好きなので、Drumsに設定することが多いです。

ここで、1つの素材について取れ高を水増ししておきましょう。新規トラックを用意して素材をコピー&ペーストし、インスペクターのスピードアップ欄に“2”と入力することで倍速の早口素材が手に入ります。同様に素材をコピぺし、イベントを選択した状態でcommand(WindowsはCtrl)+Rを押すと、リバース音が入手可能。これらはすべて絵の具のようなものです。素材置き場トラックを必要に応じて増やして、こうした素材をいつでも切り出せるように並べておきましょう。
Melodyneはアップグレードしても
S1内でシームレスに起動する
主旋律の作成は完全に気合の試行錯誤です。素材置き場にあるイベントをcommand(WindowsはCtrl)を押しながらドラッグして選択し、command(WindowsはCtrl)を押しつつドロップして配置。option+command(WindowsはAlt+Ctrl)を押しながら各イベントを左右にドラッグしてスタート・ポイントを調整する……という作業を、良いフレーズが生まれるまでひたすら繰り返します。
1つだけティップスを共有しておきます。ボーカル素材の中で息継ぎをしている部分を見付けたら切り出しておき、歌い出しやフレーズの合間など“生身のボーカリストが歌うとすれば、息継ぎが必要だろうな”と思われる部分に配置してみてください。驚くほどフレーズの編集くささが脱臭され、音楽的なものに変わります。息継ぎ素材は使い回しが効くので、私は暇さえあればボーカル素材の息継ぎ部分を探し“息継ぎサンプルフォルダ”にストックしています。

さて主旋律ができた後、ハモりを付けたいところがあったとします。その部分をcommand(WindowsはCtrl)を押しつつハモり用トラックにドロップし、コピーを作成。そのままcommand+B(WindowsはCtrl+B)を押すと、選択したイベントが結合され、つぎはぎで作ったフレーズを1つのイベントにすることができます。これを選択しているときにcommand+M(WindowsはCtrl+M)を押すと、CELEMONY Melodyneがシームレスに起動。あとはMelodyneでピッチを変更すれば、簡単にハモを作成可能。この作業を行えるのがS1の大きな魅力であり、筆者がS1を使い続けている理由でもあります。Professionalグレードには最初からMelodyne Essentialのライセンスが付属しています。筆者はその上位版であるMelodyne Editorのライセンスを別途購入し、アップグレードしていますが、その場合も問題なく、すべての作業をS1の画面上で実施することができます。現状ほかのDAWがマネできない、S1のアドバンテージです。

今回紹介した手法は、ボーカル以外の素材にも応用が可能です。次回も引き続き具体的な手法の解説をさせていただく予定です。何とぞ!
*Studio Oneの詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/