伊橋成哉が使う Studio One 2 第2回

第2回
実戦で活用できる
Studio Oneの便利機能

こんにちは、まだまだ暑い日が続きますね。この号が出るころには少しは涼しくなっているのでしょうか? 35℃なんで子供のころはなかったですよね……ビックリです。さて連載2回目にもなりましたので、今回は僕が使っている便利機能の紹介をしたいと思っています。

MIDIと同じ手順で
オーディオのクオンタイズが可能

同業の方たちと食事する機会があると、やっぱり決まってDAWの乗り換えの相談が多いです。1回目に書きましたが、ほかの方たちも使用しているDAWに飽きてきているかもしれませんね(笑)。今回は乗り換えを検討している方がナルホド!と思える内容にしたいと思います。ほかのソフトにも同じような機能はあるかもしれませんが、僕がこれまでに使ってきたソフトとの比較で便利だと感じている機能を紹介します。

①MIDIトラックの部分的オーディオ書き出し

例えばドラム・トラックなどで、ここのブリッジの部分だけひずませたい!という場合がありますよね? そんなとき、ひずませたい範囲のMIDIトラックをハサミ・ツールで切ってAlt+Ctl+B(Macの場合はCommand+B)のショートカットを押すと、その範囲だけが新規のオーディオ・トラックとして作成されます。その後に、作成されたオーディオ・トラックをひずませればいいのです。

▲黄色枠で囲まれた上段がドラムのMIDIトラックで、下段がオーディオ変換されたトラック。このように指定個所を瞬時に新規トラックにオーディオ化することができる ▲黄色枠で囲まれた上段がドラムのMIDIトラックで、下段がオーディオ変換されたトラック。このように指定個所を瞬時に新規トラックにオーディオ化することができる

この作業がすごいというより、瞬時に指定範囲だけが新規トラックにオーディオ化されるというのがミソです。余談ですが、先日Studio Oneユーザーに無料で配布されたプラグイン“Softube Saturation Knob”でとても良いひずみが得られますよ。これがフリーとはすごいですね。

②オーディオ・クオンタイズ

この精度にはビックリすると思います。この機能は、MIDIのクオンタイズの設定に追随して、オーディオも高い精度でクオンタイズするもの。例えば、イントロのギターのフレーズが少し緩かったかな、とか、8分音符で刻んだミュート・ギターのリズムが甘いなど、クオンタイズをかけたい範囲をハサミで切り、ショートカットのQを押せばクオンタイズされます。

▲Studio Oneのクオンタイズは、MIDIとオーディオを同じように扱うことができる。画面の黄色い枠はオーディオにクオンタイズをかけたリージョンで、グリッド線でクオンタイズされたポイントが表示されている ▲Studio Oneのクオンタイズは、MIDIとオーディオを同じように扱うことができる。画面の黄色い枠はオーディオにクオンタイズをかけたリージョンで、グリッド線でクオンタイズされたポイントが表示されている

特に単音系のフレーズが効果的です。もちろんボーカルでも良い効果は得られます。また、付属されているCELEMONY Melodyneでも自然にタイミングを直すことができます。僕がよく使っている技ですね。

③プチ・ノイズが乗りにくい

これはStudio Oneの地味な親切機能ですが、オーディオでパンチ・インなどの上書き録音をすると、波形のつなぎ目に小さなフェード・イン/アウトを自動でかけてくれます。

▲上書き録音をした際に、自動的にフェードを掛かるようになっている。もちろん、あとから細かくエディットすることも可能だ ▲上書き録音をした際に、自動的にフェードを掛かるようになっている。もちろん、あとから細かくエディットすることも可能だ

そこまで神経質につなぎ目の処理をしなくても、聴感としては奇麗に聴こえると思いますよ。こういう小さな親切が、作業のストレス軽減になりますよね。

④MIDIノートの転送

これは、僕の場合ドラムを打ち込んでいるときに多いのですが、“キックが弱いから、キックだけ別のソフトを使いたいなぁ”というときに、任意のMIDIノートを簡単に別音源に置き換えられる機能です。例えば、ドラムの基本セットがFXPANSION BFDとします(BFDで基本は打ち込み終わっていると仮定)。そのキックのみをNATIVE INSTRUMENTS Batteryに差し替えたい場合、まずBatteryのMIDIトラックを作成しておき、BFDのキックと同じノートに差し替えたい音をアサインさせておきます(キットごとアサインしてもOKです)。そしてBFDのピアノロール画面を表示させ、画面左上の楽器一覧と鉛筆マークのところで、転送したい音色のトラックにチェックを入れます。ここでは“kick”というMIDIトラック名を付けています。そして、BFDのピアノロールから転送したいノートを選択し、右クリック(Control+クリック)>ノートを転送>kickを実行します。

▲1つのMIDIトラックで作業中、任意のノートに別音源を使いたい場合、ノート転送の機能を使えば、任意のMIDIノートを簡単に別トラックへコピーすることができる ▲1つのMIDIトラックで作業中、任意のノートに別音源を使いたい場合、ノート転送の機能を使えば、任意のMIDIノートを簡単に別トラックへコピーすることができる

そうすると、BatteryのMIDIトラックに、BFDのキックのノートが転送されるのです。BFD側のピアノロールからは、キックのノートのみが無くなります。これは、和音で弾いた弦やブラスのトップだけ違う音源にしたいときや、バイオリン1/2、ビオラ、チェロの四声を、それぞれ違う音源にしたいといった場合にも応用の効く便利機能です。

ReWireのソフトを使用する際も
ストレスなく設定可能

⑤やっぱりドラック&ドロップの投げ技

前回触れた便利機能、ドラック&ドロップの使い方ですが、ソフト・シンセだけでなくプラグインでも同じことができます。

▲右側のブラウザーからアレンジ・ビューへのドラッグ&ドロップは、ソフト・シンセだけでなく、プラグイン・エフェクトでも行える。使用したい波形にドラッグ&ドロップすればよい ▲右側のブラウザーからアレンジ・ビューへのドラッグ&ドロップは、ソフト・シンセだけでなく、プラグイン・エフェクトでも行える。使用したい波形にドラッグ&ドロップすればよい

例えばボーカル・トラックにANTARES Auto-Tuneをかけたいとき、ミキサーのインサート部分に追加するのが普通ですが、ボーカルの波形自体に投げ込んでも同じ結果が得られます。これは簡単ですね。

⑥ReWireやVienna Ensemble Proもこんなに簡単

僕も時々使うPROPELLERHEAD ReasonとのReWire。ReWireは、大抵ホスト側のDAWを立ち上げた状態で、スレーブ側のソフトを立ち上げるとホスト側から認識できるというのが普通だと思うのですが、Studio Oneは最初からReWireスレーブにできるソフトが、ソフト・シンセのカテゴリーに表示されています。

▲ReWireを利用する場合にも、特別な設定をする必要はなく、インストール済みのReWireのソフトがブラウザーに表示されるので、ドラック&ドロップで即アサイン可能 ▲ReWireを利用する場合にも、特別な設定をする必要はなく、インストール済みのReWireのソフトがブラウザーに表示されるので、ドラック&ドロップで即アサイン可能

なので、ReWireさせたいソフトをいつものように空のアレンジ・ビューにドラック&ドロップさせて“アプリケーションを開く”をクリックすればReWire完了です。Reasonも同時に立ち上がります。これと同様な作業が、VIENNA Vienna Ensemble Proでも可能です。

⑦CPU負荷の原因が詳細に分かる

パソコンで作業をしている以上、時間がたつにつれどうしても負荷が高くなり、動作が重くなります。またソフトやプラグインの相性で、いきなり高い負荷がかかることもしばしば。そんなときに便利なのが“パフォーマンスモニター”です。

▲使用中のソフト・シンセやプラグインのCPU、RAMの使用量をリアルタイムで表示できるパフォーマンスモニター。全体が重くなった場合など、チェックしてみると良いだろう ▲使用中のソフト・シンセやプラグインのCPU、RAMの使用量をリアルタイムで表示できるパフォーマンスモニター。全体が重くなった場合など、チェックしてみると良いだろう

使っているプラグインとソフト・シンセ、1つ1つのCPU負荷が詳細に表示されるので、そこで負荷を掛けている犯人が見つかるかもしれません。

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ちょうど先日、プロデュースしているバンド、musiquoの取材も僕のスタジオで行われました。Studio Oneを使ってのプリプロや実際のレコーディングでの活用方法などもお話しさせていただききました。Studio Oneは現状、動画の微調整や、譜面機能などが省かれているので、不足に感じる方もいるとは思います。でもそこに重きを置かないのであれば、この高音質と驚異的な軽さに乗り換えたくなるはず。またこれからDAWを導入してみようかなと思っている若いバンドも、価格帯もそうですし、使うのに優しいソフトだと思います。標準のプラグインもPro EQをはじめOpen Airなど、とても優秀なソフトがそろっていますしね。それでは次回は、musiquoのプロデュースにおける実際のStudio Oneの活用方法などをお話ししていきましょう。