伊橋成哉が使う Studio One 2 第3回

第3回
Studio Oneで行う
バンド・プロデュースにおけるプリプロ

皆さんこんにちは。僕の予想通り、先月号が出たころに秋風が吹く季節になってきました。そして本号が発売されるころには、コートを着ているかもしれませんね。余談ですが、先日お伊勢参りをしてきました。芸能の神様にももちろんお参りしてきたのですが、帰りに新規のクライアントさんから留守電が入っていたのは驚きです。恐るべしお伊勢様ですね。

バンド・プロデュースは
“せーの!”で録ってから詰めていく

さて今回は僕がプロデュースしているバンド、musiquoにおけるStudio Oneでのプリプロダクションの使用例を書いていこうと思います。

僕がバンドのプロデュースをするにあたって心掛けているのは、なるべくリハスタの空気をそのまま自宅スタジオに持ち込むということです。DAWでの作業は、終わりの時間を気にせず納得のいくまで楽曲を構築できる。それが強みなわけですから、もっと気楽にアイディアをポンポンと出し合うべきです。そういう空気を出すためにも、僕のスタジオで新曲を作るときは、まずバンド演奏を“せーの!”でStudio Oneに録音します。

musiquoの場合、ドラマーは電子ドラムでMIDI録音を、ギターはLINE6 Pod HDにつなぎ、ベースはプリアンプからラインで録音します。そして、3人で録ったオケに歌を乗せてから、やりたい方向やメロディの弱い部分、構造など話し合って詰めていくわけです。

アレンジする際やディスカッションのときに僕が使用する便利技があるんですが、それはコードが何かひと目で分かるようにする技です。

▲画面のオーディオ・トラックは、実際には音声は入っておらず、上部のファイル・ネームのところに書かれたコード・ネームを表示させるために作ったもの。筆者がよく行っているテクニックの一つだ ▲画面のオーディオ・トラックは、実際には音声は入っておらず、上部のファイル・ネームのところに書かれたコード・ネームを表示させるために作ったもの。筆者がよく行っているテクニックの一つだ

まず空のオーディオ・トラックを作成して、そこにダブル・クリックで空の波形ボックスを作成します。その波形ボックスの名前をコード名にするという単純な技なんですが、複数の仕事をしていたり、久々に開くファイルは、正直コードやシンコペーションの個所など明確に覚え切れていませんよね? そんなときに、とても便利なのです。

ベスト・テイクをストレスなく選べる
コンピング機能

さてプリプロ作業の話に戻ります。ラフで固まったものを基準にシッカリしたデモを作ります。テンポを決め、まずは電子ドラムでMIDIデータを打ち込み/修正します。そして、ベースとギターを順に録り、最後に歌を乗せていきます。ここで活躍してくれるのが、何度か録音したものからベスト・テイクをチョイスするコンピング機能です。

▲指定個所を何度がループ録音して、その中からベストなテイクを選ぶコンピング。Studio Oneでは、そのコンピングをとてもスムーズに行うことができる。黄色枠で囲まれた3トラック分が繰り返し録音されたもので、その中から緑色になっているのが選ばれた部分。マウスで該当個所をドラッグするだけで、素早く選ぶことができる ▲指定個所を何度がループ録音して、その中からベストなテイクを選ぶコンピング。Studio Oneでは、そのコンピングをとてもスムーズに行うことができる。黄色枠で囲まれた3トラック分が繰り返し録音されたもので、その中から緑色になっているのが選ばれた部分。マウスで該当個所をドラッグするだけで、素早く選ぶことができる

ある指定区間で何回かループ録音したら、そのオーディオ波形を右クリック(Contorol+クリック)>テイクとして展開>既存のレイヤーに展開と選択すると、録音したテイクを並べて表示できます。そして各テイクのベスト・テイクの個所をマウスで選択していくだけで完了です。テイクの展開を閉じると、選ばれた別々のテイクが1つのオーディオ・トラックとして表示されます。もちろん録ったテイクすべてを新規のトラックとして新たに追加することも可能です。その場合は、テイクの展開>テイクをトラックに展開と選べばOKです。

また僕は、付属のCELEMONY Melodyneを使いボーカル・ディレクションをします。それはピッチうんぬんについてもそうですが、音符の切れ目を指示するときに役立つからです。ボーカルに“あと○○分音符分伸ばそうか?”と提案して録る際、実際にMelodyneで音符の切れ目をタイム・ストレッチさせて、伸ばしたり短くしたりすると、わずかな切れ目の違いでオケ中ではこんなに聴こえ方が違うと、すぐに理解してもらえるのです。そうすると本人も歌に対して理解度が高まるんですよね。“そこは8分音符で切れた方が良いよ”とベストな答えを最初から導くよりも、目の前で比較したものを聴かせてベターなチョイスを理解してもらうのも大切だと思っています。

▲Studio Oneに付属するオーディオ編集ソフトCELEMONY Melodyne。筆者は編集だけでなくボーカル・ディレクションにも活用している ▲Studio Oneに付属するオーディオ編集ソフトCELEMONY Melodyne。筆者は編集だけでなくボーカル・ディレクションにも活用している

そしてDAWを使った一番効率的な作業、それは完成系を見据えることができるということです。実際にある程度録った後に、構成を考えたり、キーを変えたり、メロディを直したり、大サビを作ったり……これらはフル尺で作ってから、気付くこともあると思うんです。そこで役立つ機能が、フォルダー・トラック機能です。

▲ドラム・トラックなど複数のトラックをひとまとめにし作業することができるフォルダー・トラック機能。ボリューム・バランスやカット・ペースト、全体の構成のエディットなどをの作業をスムーズに手軽に行うことができる ▲ドラム・トラックなど複数のトラックをひとまとめにし作業することができるフォルダー・トラック機能。ボリューム・バランスやカット・ペースト、全体の構成のエディットなどをの作業をスムーズに手軽に行うことができる

これは特定のトラックを1つのフォルダーにまとめて、そのフォルダー自体をハサミで切って、張ったり、繰り返したり、順番を入れ替えたりできる機能。アレンジをする際にとても効率的な機能だと思います。一つ一つのトラックを指定してコピー&ペーストする必要もなく、曲全体の大きな流れを簡単に作ることができますからね。ばらばらで作業していると、中途半端な波形があったり、選択漏れがあったりして、後で整理するのも大変です。

使いやすく充実の
プラグイン/ソフト・シンセを内蔵

今はソフト・シンセ/プラグインが本当によくできているので、簡単にある程度の完成系は見据えながら制作していけると思います。リハスタで“せーの!”で録ったものを持ち帰り、次の練習でまたいろいろと意見を出し合ったり、ほかの曲の練習をしていたら、アッと言う間に時間は過ぎていますよね。でも自宅のDAWで録りながら、その場で手を加えられるということは、金銭的にも時間的にも相当な省エネだと思います。

ここで僕がよく使うStudio One内蔵のプラグインを紹介しましょう。まずPro-EQ。

▲Studio One内蔵のプラグイン、Pro-EQ。GUIはもちろん、かかり具合、操作性の良さから、よく使うプラグインとなっている ▲Studio One内蔵のプラグイン、Pro-EQ。GUIはもちろん、かかり具合、操作性の良さから、よく使うプラグインとなっている

プラグインのEQは、僕の経験上、かかりが悪い、逆にかかりが良過ぎる、周波数のGUI表示が小さ過ぎていじりづらいなどの問題がありました。その点でPro-EQはGUIも大きく、かかり方も自然です。プリセットもとても充実していますし、プリセットを選んだ後で微調整すれば、好みのサウンドはすぐに得られると思います。それからもう1つ気に入っているのがImpact。

▲ソフト・ドラム・サンプラーImpact。パッドにサンプルを割り当てるというシンプルな基本操作で、迷うことなく使用することができる ▲ソフト・ドラム・サンプラーImpact。パッドにサンプルを割り当てるというシンプルな基本操作で、迷うことなく使用することができる

こちらはシンプルなドラム・サンプラーなのですが、シンプル故に使い勝手が良いです。UEBERSCHALLと提携した使えるサンプル・ネタが収録されているので、オッと思わされることが多いです。またStudio Oneはブラウザーが秀逸なので、音ネタの検索もすごく楽チン。独自のキットを作ったり、効果音を有効に読み込んだりと、ここでもドラッグ&ドロップの恩恵が受けられるわけです。

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DAWは簡単なことからでも初めてみると、後々レコーディング・スタジオで実際にエンジニアさんとスムーズにコミュニケーションが取れると思います。その中でStudio Oneは、上級者にとって煩わしい作業の簡略化、軽快な動作と音質を、初級者にとってはとてもシンプルで、DAWを導入する敷居の低さが強みだと思います。ぜひ試してみてほしいです。次回はStudio Oneにおけるエディット〜ミックス/マスタリングについて書いていこうと思います。