伊橋成哉が使う Studio One 2 第1回

第1回
Studio One導入のきっかけと
優れた操作性について理由

はじめまして、作曲家/プロデューサーの伊橋成哉です。今回からDAW AvenueにPRESONUS Studio Oneが加わり、4回にわたり連載を担当することになりました。栄えある1回目ということで恐縮してしまいますが、僕なりにStudio Oneの良さをお伝えできたらと思います

シンプルかつ操作性が良い
クリエイター必須の機能を厳選し搭載

僕はパソコンで音楽制作を始めて約10年目で、当初は別のDAWを使っていました。Studio Oneは約2年前に導入したのですが、前のソフトの機能に不満があったわけではなく、インターフェースに飽きてしまったのが大きな理由で、“違う画面で仕事がしたい!”と、そんな不純な理由でショップの方に相談したところ、薦められたのがStudio Oneでした。

Studio Oneは、STEINBERG Cubaseなどの開発に携わっていたドイツ人プログラマー、ヴォルフガング・クンドゥルス氏とマティアス・ユーヴァン氏が作ったソフトで、導入にはそこまで苦労しませんでした。Studio Oneの教則本なんて本屋さんに並んでないですよね? そのくらいにシンプルで操作性が良いのです。そして圧倒的に軽い! 使用してみればすぐに分かりますが、Studio One自体のインストーラーは、約100MBなんです。100MBですよ!? 昨今のDAWソフトと比べると1/5以下の容量だと思います。シンプルに必要な機能のみを搭載したこの容量が、軽さの要因の1つでもあると思います。

Studio Oneは後発のソフトというのもあり、機能満載というよりは最近のクリエイターが必要な基本機能を重視しており、いろんなソフトのおいしいところをうまく取り入れている印象です。メインのGUIもシングル・ウィンドウを採用しているし、音質に関しても、64ビット・オーディオ・エンジンを採用していることから、分離がすごく良いなと思いました。

▲シングル・ウィンドウが採用されたソング・ページ。編集、ミキサー、インスペクター、ブラウザーのそれぞれの画面が、この1つのウィンドウ内に表示されている。中央のアレンジ・ビュー・エリアで、オーディオ/MIDIトラックのほか、エフェクト、ソフト・シンセ、オートメーションの設定などを表示。また、トラックの表示/非表示やオートメーション、レイヤーなどの設定を管理するトラック・リスト、トラックをまとめて管理できるフォルダー・トラックの搭載により、迅速なワークフローを実現している ▲シングル・ウィンドウが採用されたソング・ページ。編集、ミキサー、インスペクター、ブラウザーのそれぞれの画面が、この1つのウィンドウ内に表示されている。中央のアレンジ・ビュー・エリアで、オーディオ/MIDIトラックのほか、エフェクト、ソフト・シンセ、オートメーションの設定などを表示。また、トラックの表示/非表示やオートメーション、レイヤーなどの設定を管理するトラック・リスト、トラックをまとめて管理できるフォルダー・トラックの搭載により、迅速なワークフローを実現している

では、1回目ということで、僕がこれまで使ってきた中で感じた、基本操作の優れているポイントを挙げていきましょう。

①ドラッグ&ドロップでほとんどの操作が完了

DAWでとにかく面倒な作業の1つが“アサイン”という作業です。例えばMIDIトラックを作り、ソフト・シンセを立ち上げて、MIDIの何chに何のソフト・シンセをアサインさせるか……これは作業上よくあることですが、Studio Oneなら専用ブラウザーから空の編集画面にポイッとドラッグ&ドロップするだけでアサイン完了です。

▲検索機能を搭載したブラウザー。ソフト・シンセやプラグイン、MIDI、オーディオ、プリセット・データなどのファイル管理、検索、保存が行える。それらのファイルを、アレンジ・ビュー・エリアにドラッグ&ドロップすることで即設定が完了する ▲検索機能を搭載したブラウザー。ソフト・シンセやプラグイン、MIDI、オーディオ、プリセット・データなどのファイル管理、検索、保存が行える。それらのファイルを、アレンジ・ビュー・エリアにドラッグ&ドロップすることで即設定が完了する

②優れたブラウザー

一般的にプラグインを使う際(仮にWAVES L2とする)、アルファベット順に大量に羅列されている中から探すか、“インサート>WAVES>Dynamics>L2”みたいな手順をたどると思います。でもStudio Oneならブラウザー右上の検索窓に“L2”と打ち込めば瞬時にWAVES L2が表示されます。そしてこれをインサートするトラックにポイッとドラッグ&ドロップするだけでOKです。この検索機能はソフト・シンセでも同じです。例えば“sty”と打つだけで、SPECTRASONICS Stylus RMXが表示されます。ほかにも音のサンプル・ネタを探すときは、ネタの入ったフォルダーを指定して検索をかければ、目的の音もすぐに探せ、しかもファイル名を選択すると音が再生されるので、内容をすぐに確認できるのです。

▲右上の赤枠内の虫眼鏡ボタンを押すと、検索ウィンドウが表示される。ここでは“drum”と検索したところ、ソフト音源、音サンプル、プリセットの数々が一覧表示されているのが分かる ▲右上の赤枠内の虫眼鏡ボタンを押すと、検索ウィンドウが表示される。ここでは“drum”と検索したところ、ソフト音源、音サンプル、プリセットの数々が一覧表示されているのが分かる

③Melodyne Essentialを標準装備

これはCELEMONY Melodyne Essentialがバンドル・ソフトとして付いているというわけではなく、Studio Oneの一部として統合され、機能するということです。ボーカルの波形を表示させ“Ctrl+M”(Macの場合はcommand+M)のショートカットを押すだけで、すぐにMelodyneが立ち上がり編集できるのです。これは大きなポイントです。ボーカル波形の読み込みはオフラインで完了しているので、Melodyne単体で使うときのような時間はかからず、しかもサンプル精度も変わらないんですからね。

▲CELEMONYと共同開発したARAエクステンションで、Melodyneを立ち上げたところ。新たにボーカル・データを転送する必要はなく、ワンアクションですぐに使用可能となる。また、編集終了後には、その場でオーディオ・データが書き出される ▲CELEMONYと共同開発したARAエクステンションで、Melodyneを立ち上げたところ。新たにボーカル・データを転送する必要はなく、ワンアクションですぐに使用可能となる。また、編集終了後には、その場でオーディオ・データが書き出される

④低価格でドングルなし。5台のパソコンまでアクティベート可能

DAWを導入する際に、1つ大きなポイントになってくるのは価格ですよね。僕の場合は、ほかのソフトからのクロスグレード版だったので、最上位版であるStudio One Professionalでも27,000円程度で乗り換えられました。ちなみに、Studio Oneには、機能やエフェクトの数などの違いでArtist、Producer、Professionalの3種類をラインナップしており、ビギナー向けの、Free(もちろん無償!)まで用意されています。すべての機能を30日間体験できるデモ版もあり、これから導入される方、乗り換えも検討されている方は、試してみるだけの価値はあると思います。

DAW選択の基準は
自分の制作スタイルに合っているか

僕が感じた大きな利点としては以上の4つになりますが、そのほかにも、マスタリングに対応するプロジェクト画面、マスタリング時のDDPの書き出し、マルチトラック・コンピング、VST3プラグインへの対応など、挙げれば切りがありません。しかし、実はDAWのソフトの機能は各社そこまで変わらないというのが僕の持論です。じゃあなぜミュージシャンごと、いろいろなソフトが使われているのかというと、それは自分の制作スタイルに合っているかどうかだと思います。実際、僕が制作する上でイライラする作業というのが、①と②でした。これはどう頑張っても省きようのない頻度の高い基本操作だからです。ゆ、え、に! その基本操作がショートカットできると、作業時間が相当短縮したと実感してます。あとは先述したソフト自体の軽さというものも待ち時間の短縮になり、心地良く制作できる要因でもあります。実際にStudio Oneに乗り換えてみて、高い負荷での作業上、フリーズしてしまうといった状況は1/10程度に減りました。これは全く同じPCでの体験談です。

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4回連載とは言え、あっと言う間に過ぎてしまうでしょう。でも、僕なりの切り口でいろいろと書いていけたらなと思っています。サンレコでこんなことを書いて良いか分かりませんが……僕自身そこまで打ち込みは好きではなくて、だからこそ楽しくなる工夫をしてきました。DAWは、打ち込みが大好きな人のツールではなくて、音楽を作るのが大好きな人のためのツールだと思います。だから苦手な人がいて当然なんです。

次回以降、僕がプロデュースするバンド、musiquoにおけるStudio Oneの導入事例や具体的な作業について、僕なりの手法を書いていきたいと思います。musiquoではStudio Oneが大活躍していますので、来月号もよろしくお願いいたします。

▲筆者がプロデュースしている3ピース・バンドmusiquo。彼らとの制作にはStudio Oneが大活躍しています。次号以降詳しく紹介していきます ▲筆者がプロデュースしている3ピース・バンドmusiquo。彼らとの制作にはStudio Oneが大活躍しています。次号以降詳しく紹介していきます