【音響設備ファイルVol.40】Billboard cafe & dining

日比谷公園に隣接する新スポット、東京ミッドタウン日比谷に、内外の有名アーティストの公演を手掛けてきたBillboard Liveがプロデュースするカフェ&ダイニングが誕生した。飲食だけでなく、DJやトーク・イベント、そしてもちろんライブまで楽しむことができるという新コンセプトの店舗にお邪魔して、その設備をチェックした。

フロアにコンソールを置かずにライブ対応

 今年3月に開業した、日比谷公園に隣接する東京ミッドタウン日比谷。昨年10周年を迎えたBillboard Live TOKYOが六本木・東京ミッドタウン内にあることが縁で、この新スポットに系列店としてBillboard cafe & diningが誕生することとなった。Billboard各店舗の運営を行う阪神コンテンツリンクの上席部長、松峯真一氏はこう語る。

 「ここ日比谷は劇場も多く、東京ミッドタウン日比谷内にもTOHOシネマズ日比谷があり、芸術と文化にかかわるお客様がいらっしゃるエリア。ライブができる店舗という前提ですが、Billboard Live TOKYO/OSAKAのような形態とは違った、よりカジュアルな形で、新しい音楽の楽しみ方をしていただける店舗にしたいと考えました」

 松峯氏の言う“カジュアルさ”は、熱心な音楽ファンにも、そうでない人にも、音楽との新しい接点となれるような空間のことのようだ。氏はこう続ける。

 「良い音を聴けるお店というのがまず第一にありました。飲食店でも、良い音で音楽が聴けるお店は多くありません。おしゃれでおいしいお店はたくさんあるけれども、音にまでこだわった店は少ないと考えました。もちろんミュージック・バーのような業態もありますが、ハードルが高いと感じる方が多いのも事実で、そうした垣根の無い店舗を目指して、Billboard cafe & diningをスタートしました」

 音響面のコーディネートを手掛けたのは、Billboard Live TOKYOでも実績のあるソードクリエイティブの剱菱一郎氏。ポイントの一つが、あえてステージを設けなかったことだそう。

 「Billboard Live TOKYOのように大きな空間と大きなステージであれば別ですが、メンバーがステージに乗り切らない場合はどうしたらいいか。またライブが無いときにはデッド・スペースになってしまいます。それを考えてステージの無いフラットな形にしました。結果として、お客様と出演者が同じ空間を共有する形になって良かったと思います」

 スピーカーは、Billboard Live TOKYO/OSAKAでも実績のあるJBL PROFESSIONAL製品を選択。剱菱氏が試聴して導入を決めたのは、パワードのEon600 Seriesだった。

 「スピーカー・ケーブルを引き回す必要がないので、どこに設置してもパフォーマンスが安定しているという点が、Eon600 Seriesに決めた理由です。パワード・スピーカーを吊る前提で天井の強度についても事前に打ち合わせしていたので、位置は図面上で決めてしまうことになりました。実際のところメイン・スピーカーとして使っているEon612は想像以上に軽く、音もバランスが良いと感じています」

▲メイン・スピーカーはパワードのJBL PROFESSIONAL Eon612をL/Rで計4本、天吊りで使用している ▲メイン・スピーカーはパワードのJBL PROFESSIONAL Eon612をL/Rで計4本、天吊りで使用している
▲サブウーファーはEon618S。その上にはモニターに使用するEon610×4を用意している ▲サブウーファーはEon618S。その上にはモニターに使用するEon610×4を用意している

 メイン・スピーカーの反対側にあるバー・カウンターにも、客席に向かってEon610が設置されている。

 「メイン・スピーカーと正対するので打ち消し合いも起こりうるのですが、カウンターに座ったお客様は前から音が聴こえてくるので、これは導入して正解でした。もちろんライブのときは正面が決まっているので、出力系のプロセッシングを行うBSS AUDIO BLU Seriesで設定を切り替えて、バー・カウンターのスピーカーはミュートします」

▲メイン・スピーカーの反対側に当たるカウンターにも、サブスピーカーとしてEon610を2基設置 ▲メイン・スピーカーの反対側に当たるカウンターにも、サブスピーカーとしてEon610を2基設置
▲カウンター近くにはシーリング・スピーカーのJBL PROFESSIONAL Control 26Cも設置し、BGMのサービス・エリアを確保している ▲カウンター近くにはシーリング・スピーカーのJBL PROFESSIONAL Control 26Cも設置し、BGMのサービス・エリアを確保している

 BLUを含めた機材類はすべてバックヤードに収められた。ミキサーもSOUNDCRAFTのラック・マウント・タイプ、UI24Rを選択。ライブなどのオペレートはAPPLE iPadから行うスタイルとなった。剱菱氏はこう続ける。

 「コンソールをワゴンに載せるアイディアもあったのですが、普段の置き場所やライブ時の設置位置のことを考えると、思い切って何も無くても良いかなと。テスト的にボーカリスト+トラックのゲリラ・ライブをやってみましたが、そのときは照明用と、USENのOTORAKUというサービスを使ったBGM用で計3枚のiPadを譜面台に並べてオペレートしました。UI24Rへの接続は外部ルーター経由で5.2GHz帯を使い、帯域制限していますので、混信することもありません。またUSBメモリーでのファイル再生機能はトラックの出力に便利ですね」

▲バックヤードにあるミキサーとのパッチも壁面に用意。モニターやサブウーファーのアウトに加え、XLRで8ch+マルチ8chで16ch分のインプットや有線のイーサーネット、照明のDMXアウトもまで収められている ▲バックヤードにあるミキサーとのパッチも壁面に用意。モニターやサブウーファーのアウトに加え、XLRで8ch+マルチ8chで16ch分のインプットや有線のイーサーネット、照明のDMXアウトもまで収められている
▲バックヤードにある機材ラック。照明コントロール用のMA LIGHTING Dot 2 Node4(1K)とTASCAMのマルチプレーヤーSS-CDR250Nに続いて、音声の中枢をつかさどるラック・マウント・コンソールのSOUNDCRAFT UI24R、ネットワーク・スイッチを挟んでシグナル・プロセッサーBSS AUDIO BLU-160、BLU-120、AMCRON(現CROWN)のパワー・アンプDCI 4|300N×2などが収められている ▲バックヤードにある機材ラック。照明コントロール用のMA LIGHTING Dot 2 Node4(1K)とTASCAMのマルチプレーヤーSS-CDR250Nに続いて、音声の中枢をつかさどるラック・マウント・コンソールのSOUNDCRAFT UI24R、ネットワーク・スイッチを挟んでシグナル・プロセッサーBSS AUDIO BLU-160、BLU-120、AMCRON(現CROWN)のパワー・アンプDCI 4|300N×2などが収められている
▲UI24Rのコントロールを行うAPPLE iPad。Billboard cafe & diningでは照明のコントロールもiPadで行え、フロアにコンソールやサーフェスを設置しなくても済んでいる ▲UI24Rのコントロールを行うAPPLE iPad。Billboard cafe & diningでは照明のコントロールもiPadで行え、フロアにコンソールやサーフェスを設置しなくても済んでいる

オーディオ・セット完備の個室が人気

 Billboard cafe & diningは、BOXと呼ばれる4つの個室を用意しているのも特徴。BOXごとにオーディオ・セットを設置し、持ち込んだ音源やOTORAKUでのストリーミング、さらには店内に展示されたアナログ盤などを楽しむことができる。「エントランスのレコード・ジャケットを見て、懐かしがって来店されるお客様が想像していたよりも多くいらっしゃいます。BOXを予約される方は持参して来られたり、ここの数枚をリクエストされて、BOXまでお持ちすることもあります」と剱菱氏。各BOXにも遮音を施したそうだ。

 「二重壁で遮音性も高めていますし、扉も遮音性の高いものを使っています。他のテナントに面しているので音漏れには気を遣いますが、同時にBOXのお客様に音量を下げていただきたいとお願いするわけにもいきませんので。また、オーディオ・システムは定期的に入れ替えて、リピーターのお客様にも楽しんでいただけるようにしたいと考えています」

▲BOXと呼ばれる個室を4室用意。写真は7〜12名用のBOX1で、3,240円/2時間で使用できる。他のBOXは2,160円/2時間。2名から利用できるBOXもある ▲BOXと呼ばれる個室を4室用意。写真は7〜12名用のBOX1で、3,240円/2時間で使用できる。他のBOXは2,160円/2時間。2名から利用できるBOXもある
▲BOXごとにオーディオ・システムをセットアップ。BOX1はハーマンインターナショナルのプロデュースで、スピーカーにREVELの4ユニット/3ウェイ・モデルF208WA、DAC内蔵インテグレート・アンプにMARK LEVINSON NO585を設置。前述のOTORAKUの再生も可能となっている。なおBOX2にはTECHNICS、BOX3はBANG & OLUFSEN、BOX4にはTOAのシステムが用意されている ▲BOXごとにオーディオ・システムをセットアップ。BOX1はハーマンインターナショナルのプロデュースで、スピーカーにREVELの4ユニット/3ウェイ・モデルF208WA、DAC内蔵インテグレート・アンプにMARK LEVINSON NO585を設置。前述のOTORAKUの再生も可能となっている。なおBOX2にはTECHNICS、BOX3はBANG & OLUFSEN、BOX4にはTOAのシステムが用意されている

 日比谷界隈で気軽に使える個室スペースということもあって、このBOXは人気があるとのこと。松峯氏がこう語る。

 「オフィス・ワーカーの方がランチ・ミーティングに使われたり、夜はパーティで使われたりと、用途はお客様によってさまざまです。ソフトをお持ちいただかなくてもOTORAKUのBillboardのプレイリストなどで楽しんでいただけますし、扉を開ければライブやイベントもご覧いただけます」

 ディナーやカフェ・ブレイクとともに良い音楽があるスペースとして生まれたBillboard cafe & dining。「スピーカーのご説明やPAの簡単な操作ができるような“音のソムリエ”とも言えるスタッフを常駐させたいですね。そうやってお客様とのコミュニケーションを持つことで、より音楽の敷居を下げていきたいです。ビッグなアーティストのライブ・イベントなども計画していきたいと思っています」と松峯氏が語るように、今後もさらなるアップデートが続けられていくことになりそうだ。

▲左が阪神コンテンツリンク ビルボード事業部 の松峯真一氏、右がソードクリエイティブの剱菱一郎氏。写真は店舗エントランスで、店内へ進む通路の両側にはさまざまなジャンルのアナログ盤が飾られている(もちろん再生も可能) ▲左が阪神コンテンツリンク ビルボード事業部 の松峯真一氏、右がソードクリエイティブの剱菱一郎氏。写真は店舗エントランスで、店内へ進む通路の両側にはさまざまなジャンルのアナログ盤が飾られている(もちろん再生も可能)

■関連リンク
Billboard cafe & dining
http://www.billboard-live.com/cafe/

■導入製品情報
JBL PROFESSIONAL Eon600 Series
JBL PROFESSIONAL Control 26C
SOUNDCRAFT UI24R
BSS AUDIO BLU-160
BSS AUDIO BLU-120
CROWN DCI Series Network

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サウンド&レコーディング・マガジン2018年10月号より転載