the GazettE インタビュー 〜URUHAが語る最新アルバム『MASS』の制作とギター・サウンド作り

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どんなに良いプラグインでもラインの音は拭い去れない
アンプ・ヘッドを使うことで生きた音を取り入れられた

RUKI(vo、写真中央)、URUHA(g、同右から2番目)、AOI(g、同左から2番目)、REITA(b、同左端)、KAI(ds、同右端)によるロック・バンド=the GazettE。ハード/へビー・ロックのサウンドをベースに、セルフ・プロデュースによる精細なアレンジで見せる楽曲は、日本のみならず世界のロック・ファンを魅了している。そんな彼らの3年ぶり、通算10枚目となるアルバム『MASS』が完成した。モダンなロックだが温かみも兼ね備えたサウンドで、細かなシンセやサンプルのフレーズが耳を引く楽曲に仕上がっている。今回はURUHAのプライベート・スタジオを訪れ、『MASS』の制作について、そしてギター・サウンド作りについてを本人に語っていただいた。

Text:Yusuke Imai Photo:Hiroki Obara(Studio)

 

実機のアンプ・ヘッドを使いつつ
キャビネット・シミュレーターで鳴らした

ーアルバム制作はリモートで行ったのですか?

URUHA はい。僕らなりにリモートの環境を構築してみましたが、慣れるのに時間がかかりましたね。これまでもE-Mailでデータを送ったりはしていましたが、今回はもっとレスポンス良くやろうと思い、AVID Pro ToolsのCloud Collaborationを使いました。メンバーは“面倒じゃない?”という感じでしたが、説得して試してみたところ、“これはすごい”と。シームレスにメンバーとアレンジのやり取りが行えて、作業効率を高めることができました。ただ、ネットワークが不安定になることがあったので、今後改善されるとうれしいですね。

 

ーメンバーの使用する機材は合わせているのですか?

URUHA 各自好きな環境で作っていますね。例えばギターのAOIはサブウーファーを使っていて、音のやり取りの中で低域の聴こえ方に誤差があるのはやはり感じます。

 

ー同じギター担当として、AOIさんと音色のすみ分けやマッチングを図ることはしますか?

URUHA それは一番の課題です。最終的なビジョンはお互いに違うし、作曲者とも違うから、結局どうすればよいのか答えは出せないんですが……。僕の場合は、なるべく柔軟にリアンプできるような環境を用意していました。これまでは自分の考える音を提示していくような感じで制作していましたが、メンバーとの考え方が違えば誰かが折れるのを待つとか、違和感が無いようにサウンドをまとめることが必要です。でも今回は妥協するようなことはせず、考えたアイディアを一度テーブルに並べてみるようなイメージで、メンバーのやりたいことを引き出していく流れで作っていきました。

 

ーURUHAさんは以前アンプ・シミュレーターで音作りをしていましたが、今作でも同様に?

URUHA これまではデモ制作から本番、ライブまでUNIVERSAL AUDIOのアンプ・シミュレーター・プラグインを使っていました。でも、今作では“アンプ・ヘッドを鳴らしたい”というところからアプローチが始まって。最初はレコーディング・スタジオでキャビネットを鳴らして録っていましたが少しハマりが悪くて、最終的にキャビネットだけシミュレーターを使う方法に落ち着きました。実機だけのアナログな方法だと、“音の丸み”といった方向にサウンドが行くと思いますが、アルバム大半の曲を手掛けたRUKIはソリッドな音を好んでいました。アンプ・ヘッドを使いつつ、ソリッドな音をどのように出すのかを考えて、そういった録音方法になったんです。ただ、ギター・ソロだけはレコーディング・スタジオでキャビネットを鳴らして録音しました。

 

ーやはりアンプ・シミュレーターだけで音作りをするのと、実機を使うのとでは、音の質感は変わってきますか?

URUHA 違います。今のアンプ・シミュレーターは完成度も高く、若い世代からすると“わざわざ実機を使う必要があるのか”と思われそうですが……。プラグインだと簡単にリコールができて、いつも同じ音が出せますよね。実機では、EQがそれぞれ干渉し合ったり、いろいろな要因で音に変化が生まれる。例えば、EVH 5150IIIはリア・パネルにRESONANCEというツマミが付いていたりと音作りの幅が広くて、音の出方をコントロールするのに時間がかかります。でも、プラグインだけではそういう感覚が得られない。デジタルとアナログを行き来することで、アンプ・ヘッドでの音作りの奥深さや難しさにあらためて気付きました。

 

ーほかにはどのようなギター・アンプを使いましたか?

URUHA 個人的には古臭い音が好きで、ひずみではTWO-ROCK Opalなどを使うんですが、ラウドなサウンドでは低域がドンと出てくれないこともあって、そういう場合は5150IIIを使った方が良いですね。

 

 URUHA Private Studio 

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URUHAのプライベート・スタジオ。DAWはAVID Pro Toolsで、デスクのディスプレイ前には同社のコントロール・サーフェス=S3をセットしている。モニター・スピーカーにはBAREFOOT MicroMain 27とGENELEC HT206B、PELONIS SOUND Model42 MK2を用意。デスクの右側、写真中央に映るラックにはギター・プロセッサーのLINE 6 Helix Rack、オーディオI/OのMETRIC HALO ULN-8、SHADOW HILLS Mastering Compressor、MCDSP APB-16、SHADOW HILLS Quad GAMAがセットされている

 

Tranzformer GTで入力レベルを調整
サチュレーションも少し加える

ーエフェクト・ペダルも併用して音を作っていく?

URUHA エフェクターにはAPI Tranzformer GTをいつも使っていて、ギター・アンプへの入力レベル調整を行います。ギターによってはレベルが強かったり、逆に弱い場合もありますから。Tranzformer GTでオーバー・ドライブさせるというよりもDI的な使い方で、若干のサチュレーションを加えるようなイメージです。

 

ーひずみ具合は飽和し過ぎず、温かみとモダンさを兼ね備えたサウンドになっていると感じます。

URUHA ひずみに関してはRUKIの強いこだわりがありました。最初に僕はDRAGONFLY Maroonを使って弾いていたのですが、RUKIが“ひずみが弱い”と言って。どうしようか悩んでいる中、アクティブ・ピックアップのESP E-II Horizonを使ったところ、RUKIも納得の行くひずみになったんです。そこでアンプ・シミュレーターまで使っていたら、もしかすると硬い音になってしまっていたかもしれません。

 

ーギター・アンプからDAWまでの経路は?

URUHA ギター・アンプからは、アッテネーターを通ってオーディオI/OのMETRIC HALO ULN-8へ入力し、Pro Toolsに録音します。キャビネット・シミュレーターのプラグインはPOSITIVE GRID Bias FX 2です。RUKIが好んで使っていて、彼が考えているギター・サウンドに近付けるために採用しました。キャラが強いプラグインですが、入力する時点でアナログな音をしっかり作っているので、デジタルっぽさというのはあまり出ていないと思います。

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デスク左側にはMIDIキーボードのNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S61が置かれている。その奥にあるのはDIEZELやEVHのアンプ・ヘッド、LINE 6のキャビネット。DIEZELの上にはロード・ボックスのTWO NOTES Torpedo CaptorとAPI Tranzformer GTが乗っている

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URUHAが使用しているギター。アンプ・ヘッドの前にあるのがESP E-II Horizonで、アクティブ・ピックアップを搭載するモデルだ。RUKIのイメージするひずみを再現するために使われた。アンプ・ヘッドはEVHやDIVIDED BY 13、ENGLが置かれている。URUHAいわく、よく使うのは一番上のEVH 5150IIIとのこと

シミュレート機能をオフにしたVMS ML-1で
アコースティック・ギターを録音した

ーアルバムではアコースティック・ギターも出てきますが、どんなマイクで録音を?

URUHA NEUMANN U87とSLATE DIGITAL VMS ML-1を使いました。VMS ML-1はさまざまなマイクをシミュレートできますが、その機能は使わずに録っています。素の音に癖が無くて扱いやすいんです。U87とVMS ML-1を寄せて配置し、マイクのポジション感を出さないようにしていました。U87は腰高な音なので、レンジが広くて低域までカバーできるVMS ML-1をレイヤーしたんです。また、SHADOW HILLS Mastering Compressorをかけ録りしています。AOIはアコギのピエゾ・ピックアップで録音して、さらにアコースティック・ギター・シミュレーターを使っているようです。低域はバッサリとカットしてきらびやかさを出しています。

 

ーバンド・サウンドだけでなく、サウンド・エフェクト的なシンセやサンプルが加わっていることで楽曲に彩りが生まれているように感じます。

URUHA そういうサウンドはRUKIによるものです。耳に残るキャッチーなフレーズやサウンドを作るのが昔から得意で。the GazettEが始まったときもYAMAHA QYシリーズなどでシーケンスを作ったりしていましたね。僕もRUKIからインスピレーションを受けたりしています。

 

ー今作にURUHAさんが入れたシンセ・サウンドはありますか?

URUHA 今回はそんなにありませんが、サビ前のサブヒットなど細かい部分は入れました。昔からよく使っているのがJST Sub Destroyerで、サイン波のピッチが下がっていくような効果音を作っています。SPECTRASONICS Omnisphereのような特徴あるサウンド・エフェクトではなく、純粋な鳴りを付け足したいときに重宝するプラグインです。

 

自身のモチベーションを保つためにも
音作りの欲求やこだわりが必要

ー録音したトラックに対してはプラグイン処理をするのですか?

URUHA 下処理のEQくらいです。ガッツリと音を変えるようなプラグインはあまり使わず、いかにアンプ・ヘッドのキャラを出せるかを考えています。EQはFABFILTER Pro-Q3で主にローカットをしますが、エンジニアの作業も考えてあっさりめな処理です。

 

ー空間系エフェクトの処理は?

URUHA 音の距離感を決めるリバーブは絶対にエンジニアに任せた方が良いので、手を付けません。ただ、ギター・ソロなどでの明確なエフェクトとしてのリバーブやディレイはこっちで作って、書き出してエンジニアに渡します。

 

ーギター・ソロはキャビネットを実際に鳴らして録ったということでしたが、空間系エフェクトはプラグインで後からかけていたのですか?

URUHA はい、プラグインでの後処理でした。使ったのは、最近導入したLIQUID SONICS Cinematic Rooms。パラメーターをあまりいじらなくても素晴らしい奥行きが得られます。さらにエフェクティブな感じを出したいときは、VALHALLA DSP Valhalla Shimmerです。飛ぶようなギター・ソロの空間演出で使いました。単純なディレイではTC ELECTRONIC TC2290をかけたりします。

 

ーやはりアンプ・ヘッドとプラグインという、アナログとデジタルの組み合わせが今作のギター・サウンドの肝のようですね。自宅録音で一工夫したいギタリストは、アンプ・ヘッドを使ってみるのも一つの手と言えるでしょうか?

URUHA 今はアンプ・シミュレーターでも良い音は出ますし、わざわざアンプ・ヘッドを自宅で使うなんてほとんどの人は面倒でやらないでしょう。僕みたいに、“どうしても使いたい”という欲求やこだわりが無いと行動に移せないと思います。でも、実際に試してみると違いは如実に出ますね。加えて、演奏にも影響はあります。弾き心地は絶対実機には勝てないですし、どんなに良いプラグインでもラインの音だということは拭い去れない。弾いているうちに違和感が出てくるんです。それに、こういうやりがいを持っていないと長いギター人生で高いモチベーションを保つのは難しいですから。自分を納得させるという意味もありますが、結果的に生きたギター・サウンドを作品に取り入れることができたと思います。

 

Release

『MASS』
the GazettE
ソニー・ミュージックレーベルズ

  1. COUNT-10
  2. BLINDING HOPE
  3. ROLLIN'
  4. NOX
  5. HOLD
  6. THE PALE
  7. MOMENT
  8. BARBARIAN
  9. FRENZY
  10. LAST SONG

Musician:RUKI(vo)、URUHA(g)、AOI(g)、REITA(b)、KAI(ds)
Producer:the GazettE
Engineer:原浩一、SIN
Studio:プライベート、アライブレコーディング、MSR