
AVID Pro Toolsユーザーを訪れ、仕事で使うツールとしての魅力を語っていただく連載をサンレコWebサイトでスタートする。初回はthe GazettE、LUNKHEAD、The Super Ball、飯田里穂、田村直美など、さまざまなアーティストの作品に携わるSIN氏のスタジオ、LITTLE BiG MAN STUDIOを訪れ、Pro Toolsに触れたきっかけから現在の仕事における位置付けなどを語ってもらった。
人のプレイを録るという場面においては
Pro Tools|HDXしか選択肢はありません
SIN氏はKagrra,のメンバーとして2004年にメジャー・デビュー。2010年のバンド解散後はエンジニアとして多くのバンドのレコーディングやミックス、プロデュースに携わるほか、ライブ・マニピュレートなども手掛け、マルチに活躍をしている。Pro Toolsとの出会いはバンド時代のレコーディングに遡る。
「メジャー・デビュー前はまだテープ録音の時代で、テープのトラック数やコンソールのチャンネル数が足りなくなることもありました。そこで、コンピューターを同期させて足りないトラックやチャンネルを補うということを始めた……当初はほかのソフトだったと記憶していますが、オーディオのエディットなどを考えるとPro Toolsがベストな選択肢で、使い始めるようになりました。まだMac OS 9で、Pro ToolsもVer. 5だったと思います。今と比べれば、画面もかなり平面的なデザインのころでした(笑)」
バンド時代からレコーディング周りはSIN氏の担当だったとのこと。当初は今でいうCPUネイティブのシステムで、レコーディング・データを持ち帰って作業することも多かったそうだ。
「Pro Toolsは、操作体系がそのころから変わっていないので、そこが長く使い続けられている理由でもありますね。拡張はされているんですが、基本は変わらない。楽器に近い感覚というか、例えば歌を録って、ノイズなどのエディットをして、クリップにフェードを書いてという一連の作業が手に馴染んでいるんです。クリップ・ゲインやコミットなど追加された機能を使うことも多いのですが、違和感無くパッと手が動く。今でも作業内容によってはほかのソフトを使うこともありますが、すべてPro Toolsのショートカットに合わせてカスタマイズしています」
4年前からは、現在のPro Tools|HDX環境をメインにしているSIN氏。その最大のメリットは、DSPによる、モニター・レイテンシーの少なさだと語る。
「僕の場合、人のプレイを録るという場面において、現状ではPro Toolsしか選択肢はありません。例えば歌録りしていて、アウトボードでかけ録りしているコンプは浅めにしたいけど、プレイヤー側はもう少し立ち上がりの速いコンプがかかっていてほしい。でもそれをかけ録りしてしまったらミックスする人は困る。モニターに遅れなくそういうことをしようとするとPro Tools|HDXになりますよね。プラグインのコンプを入れたセッションを次の人に渡しても、“こういう風に作業したんだな”というのが分かるし。共通したフォーマットで受け渡せて、プレイヤー側の急な要望に対してレイテンシーを気にせず応えるには、Pro Tools|HDXしかない。現状では演奏を録音するという面において、一番強いシステムだと思いますね。ですので、さまざまなメーカーのプラグインを所有してはいますが、ファーストチョイスはAAX DSP対応のものが多いです。PLUGIN ALLIANCE製品はAAX DSP対応のものが多くて重宝しています」



Pro Tools 12.6のクリップ・エフェクトは
長尺のライブ・ミックスなどに便利
SIN氏は、レコーディングやミックスなどのDAWを使うシチュエーションにおいても、楽器的なレスポンスを大事にしているとも言える。タッチパネル・コントローラーSLATE MEDIA TECHNOLOGY Raven MTI2を導入したのも、そうした理由があってのことだそうだ。
「マウスで画面上のフェーダーをドラッグすると、数値が目に入ってしまい、音に集中できていないなと感じていたんです。一方で、アウトボードでノブを触っていると、そこから解放される感じがしていました。自分の身体を使ってちょっと動かすだけでも何かが違う……操作と音がつながる感じがして、しっくりきたんです。それで8フェーダーのコントローラーを使い始め、感触には満足していたのですが、トラックを探してアサインするのが面倒だとも思いました。“画面に映っているものを直接触れたら”と感じていたときに、初代のRaven MTIが出たんですね。当初は大型でしたし採用には至らなかったのですが、Raven MTI2ではVESAマウントにも対応したので、すぐに購入しました。普通にちょっといいディスプレイを買うのと同じくらいの価格ですしね。OS Xがマルチタッチをサポートしていない現状でも、マルチタッチでフェーダーが触れるというのはありがたいですね。例えば、録音直前にデータをもらって、急いでラフなバランスを取らないといけないときに、パッと触ってできる。チャンネル・ストリップ系プラグインなどは、感触こそありませんがアウトボードを触っているのに近い作業感が得られます。その意味ではPro Tools自体の画面構成も、より直接触りやすいようになってくれるとうれしいですね」
Raven MTI2に限らず、積極的に新しいものを取り入れているSIN氏。Pro Tools HD 12.6で加えられた最新機能、クリップ・エフェクトも重宝していると語る。
「長尺のライブ・ミックスなどで、瞬間的な処理をする必要があるときに、別トラックを用意したり、書き出したりすることなくEQやコンプがかけられるのは便利です」
SIN氏のスタジオにはそのほか、厳選したアウトボードに加え、ギター、アンプも常設されている。もちろんプレイヤー自身の楽器やアンプを使うのが基本ではあるが、万が一出音や録り音に満足できない場合に、クオリティを担保するのが目的だそうだ。
「一つ一つのことを、録る段階で可能な限り妥協したくないんですよね。例えば、ドラム録りからやらせてもらえる場合は、その段階からもうミックスは始まっているとも言えます。ドラムがこういう音で、それに合った音色でベースが乗り、ギターが録られ、ボーカルがダビングされている。それをもうちょっと盛り上げてあげるミックスというのが僕の中の理想で。DSPでプラグインをかけた音を遅れなくモニターできるPro Tools|HDXを使っているのは、そこにつながるんです。完成形に近い音を聴きながらプレイしてほしいし、それに対してかっこいい音やプレイを出してほしいと思うので。だからなかなかPro Tools|HDXから離れられないです」



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