ぷにぷに電機『創業』に見るコラボレーションの流儀

ぷにぷに電機『創業』に見るコラボレーションの流儀

ぷにぷに電機は、インターネットのナードな文化と都会の洗練された空気を同時に感じさせる、ミックス・カルチャーなシンガー/音楽プロデューサーだ。これまでセルフ・リリースとレーベルからのリリースを合わせて数多くの作品を世に送り出してきたが、その集大成の一つと言えるのが、6月に発表された『創業』である。80KIDZやShin Sakiuraなどを擁するレーベル=PARKからデジタル・リリースしてきたエレクトロニックAOR曲を総括するフル・アルバムで、ぷにぷに電機として初の全国流通フィジカル作となる。自身の肖像画をモチーフにしたジャケットは、環境負荷を考慮して“竹紙”で作成。その印刷やCDプレスを国内で行ったのも、輸送時のCO2や化石燃料の削減を勘案してのことだそう。『創業』に先駆けて自主リリースしたEP『フリークエンシー・イン・ブルー』の話も交えて、ぷにぷに電機への取材を敢行した。

Text:Tsuji. Taichi

共作者をきちんとクレジットしたい

ここへ来て、なぜフィジカルのアルバムを?

ぷにぷに電機(以下、ぷに電) “PARKラインのぷに電を手に取れる形にしたい”と、レーベル・オーナーの菊地(龍平)さんから言ってもらえて。当初は、デジタル・リリース済みの曲を3つほど入れつつ大半を新曲で構成しようと考えていましたが、サブスクにも展開することを見越したときに、ディストリビューターによってはデジタルのアルバム一枚に“アーティスト”として登録できる人の数に上限があると分かったんです。

 

参加ミュージシャンではなく“アーティスト”という登録の仕方だと、そういった上限があるのですね。

ぷに電 私は近年、一緒に曲作りした方をきちんとクレジットし、“コラボ曲”としてリリースしているんです。アレンジをお願いしただけだから自分だけの名義で出す、っていうのではなく、アレンジしてくださった方をコラボレーション相手としてクレジットするというのを心掛けていて。お互いのキャリアにとってすごく良いことだと思うし、そういう透明性が大事だとも考えています。ただ、さっき話した通り登録アーティストの人数に制限があったり、デジタル・リリース済みの曲をフィジカル向けにリマスタリングすると別途ISRC(国際標準レコーディングコード)の付番が必要になったりする。つまり、そのアルバムをサブスクに展開したら重複する曲が出てきてカタログが煩雑化する上、曲そのものは同じなのに再生数が割れてしまうんです。それで、どうしようか考えた結果、デジタル・リリース済みの曲をフィジカル・オンリーのアルバムとしてまとめて、1つだけ新しい曲を入れる。その新しい曲についてはシングルとしてデジタル・リリースも行う、というのが奇麗なんじゃないかという結論に達しました。

 

ぷに電さんは、CDプレーヤーを所有していますか?

ぷに電 普段はPIONEER DJのCDJ-900でCDを聴いています。でも、今はCDプレーヤーを持たない人が多いようですね。むしろビニール盤の方が再生しやすいという方も増えてきていますね。

 

サブスクが主流と言われる時代にあっても、やはりフィジカル・リリースに特別な思いがあるのでしょうか?

ぷに電 独立したメディアに作品をアーカイブして、みんなで保存しておく、ということがすごく大事だと思っているんです。自分で保存しているものはハード・ディスクが飛んだら無くなってしまうし、デジタル・リリースした曲もストリーミング・サービスなどが終了すれば失われてしまいます。でも独立したメディアにアーカイブして、それがいろんな人の手に渡れば、自分の作品がこの世から消えてしまうというリスクが下がりますよね。だから近頃、楽譜も一曲作ったらプリント・アウトして、ファイリングしているんです。最悪の場合、この楽譜で曲を再現できるように、という。

ぷに電の作業場は防音仕様だ。DELLのWindowsマシン、RME Fireface UCX(オーディオI/O)、FOSTEX PM0.4N(モニター・スピーカー)、SE ELECTRONICS Reflexion Filter Pro(リフレクション・フィルター)などを用意し、曲作りから歌録りまで行える

ぷに電の作業場は防音仕様だ。DELLのWindowsマシン、RME Fireface UCX(オーディオI/O)、FOSTEX PM0.4N(モニター・スピーカー)、SE ELECTRONICS Reflexion Filter Pro(リフレクション・フィルター)などを用意し、曲作りから歌録りまで行える

“ノーリアクション状態”からの快進撃

“PARKラインのぷに電”と“自主リリースのぷに電”には制作の面でどのような違いがあるのでしょう?

ぷに電 PARKさんからの曲は、なるべくレーベルのカラーに合うよう細部のクオリティまで気を配り、スムースなテイストを心掛けています。レーベルについているリスナーの方々を混乱させても良くないので、「電子DISCO密林」のように邪悪なやつは選ばないというか(笑)。

 

2020年に自主リリースしたドリルンベース・ポップですね。PARKとの関係は、どのように始まったのですか?

ぷに電 「君はQueen」という曲のデモ版をMikeneko Homelessのhironica君がインターネットで聴いて、“この曲のアレンジをブラッシュアップして、どこかのレーベルから出してみたら?”とアドバイスをくれたのが始まりで。彼の紹介でShin Sakiura君も交え、今リリースされているバージョンを完成させたんです。ジャケットも自分たちで作って、いろいろなレーベルに送ってみたんですが、どこからも返事がなく……。で、恵比寿のBATICAでShin Sakiura君のワンマン・ライブがあったとき、現場でhironica君が“Shin君の所属レーベル、めっちゃ良いよね。うちらも出せないかな”みたいなことを言ってくれて、後日PARKさんと打ち合わせできることになったんです。そのときの印象がとても良くて。ああしろこうしろと言われなかったし、レーベルのカラーを簡潔に説明してくださって、まずはお試しで「君はQueen」をリリースしてみましょうと。そしたら思った以上に広まってくれて、以降も曲単位でリリースさせていただけることになりました。

 

PARKからのリリースで何か変わりましたか?

ぷに電 それまでインターネットやコミケで作品を発表していましたが、PARKレーベルから出るとリスナーさんが全く違って。80KIDZさんやShin Sakiura君が出るレーベル・パーティへ行ったとき、客層がおしゃれすぎてビビったんですよ……この中にオタクはおらんのかー!って(笑)。私は、音ゲーにも楽曲提供しているトラック・メイカーの方が出るようなパーティで遊ぶことが多かったし、周りのお客さんもアーティストTシャツでバキバキに固めてイッエーイ!みたいな感じだったから、PARKさんのパーティにびっくりしたんです。

 

PARKの音楽のリスナー層にも、ぷに電さんの楽曲が見事にリーチしたわけですね。

ぷに電 戸惑いでしたよ、最初は(笑)。“合ってるかな、私……”って。ものすごく不安だったので、心の癒しを求めにコミケやM3に行く、みたいな。“これこれ~、安心する~”って。そんな感覚は今でもあります(笑)。でも私も慣れてきたというか、おしゃれなパーティに関しても“こういうふうに楽しむのか”っていうのが分かってきたりして、いろいろなリスナーさんといろいろな体験ができるから、良いなあと思っています。

 

個人もサブスクなどに曲を出せる時代ですが、人気レーベルからのリリースには依然、大きな意味があると。

ぷに電 やっぱり、レーベルやその雰囲気についているリスナーさんがいるんだなとか、レーベルによって得意な分野があるんだなというのをあらためて実感しますね。

愛用マイク。写真左から、ライブで使っているコンデンサー・マイクAUDIO-TECHNICA AE5400、録音用のNEUMANN TLM 103、新しく導入したライブ向けのアクティブ・ダイナミック・マイクAUSTRIAN AUDIO OD505

愛用マイク。写真左から、ライブで使っているコンデンサー・マイクAUDIO-TECHNICA AE5400、録音用のNEUMANN TLM 103、新しく導入したライブ向けのアクティブ・ダイナミック・マイクAUSTRIAN AUDIO OD505

ハーフ・ディミニッシュを多用した事情

『フリークエンシー・イン・ブルー』は、ぷに電さんが1人でプロダクションを手掛けたEPです。

ぷに電 あのEPを出す前は、客演のご依頼や『創業』の制作もあって、“お仕事”としての音楽でスケジュールがいっぱいで、“わ~って曲が作りたい”という欲望をためていたんです。しかも4月のM3に出展を申し込んでいて、新譜を持たないまま即売会に出るのかと思うと"それはダメだ!"と思い直しました。挙句、10日ほどで作編曲からミックス、マスタリングまで完遂したのが『フリークエンシー・イン・ブルー』です。うわあああああああ!っていう勢いで寝る間を削って作業して、体調とかも若干崩しながら(苦笑)。でもメンタル的にはすごく良くて、無理して本当に良かったなと思います。

 

“お仕事”ではなく“表現したい”という思いだけで作る曲がないとアーティストとしてストレスがたまりそうですね。

ぷに電 そうなんです。特に3曲目の「春」には、すごく良いものが書けたなという実感があって。ローファイ的な要素を入れつつ、緊張感のあるコードを意図的に混ぜ込んで……ハーフ・ディミニッシュ(m7(♭5))を多用したんです。私が使っているPG MUSIC Band-in-a-Boxは、ジャズメン向けに作られたソフトのはずなのに、テンションをたくさん入力すると“難しい音が入っています”みたいな警告が出てきて対応し切れなくなるんですよ。それがちょっとかわいいんですけど(笑)、ソフトが余裕を持って対応し得る4和音で表現できる緊張感、というのをテーマに作りました。

 

「春」はアンニュイな曲調ですが、不思議とオープンな印象も受けます。好きなものを好きに作った感じというか。

ぷに電 お仕事として音楽をするときはクオリティを最も気にかけるんですが、じゃあどうしたら望ましいクオリティを出せるのかと言えば、やっぱり自分自身がヘルシーであることなんです。メンタル的に落ちていたり体調が悪かったりすると良い歌が出てこなかったりするから、ストレスフルすぎない環境を自分のために作ることが、実はクオリティを出すための最短経路で。なので過度にハングリーにならず、“ぷにぷに電機”としては心も体もヘルシーに働いて、質の高い仕事をして、質の高い人生を送る、ということを企業理念にしています。だから弊社はスーパー・ホワイト企業ですね!

ぷに電が作編曲に使っている伴奏自動生成ソフト、PG MUSIC Band-in-a-Box。MIDIデータを入力することなく、コード・ネームを書き込むだけで和音を鳴らせる。このソフトが生成したフレーズをSTEINBERG Cubaseで加工してトラックを構築するのが、ぷに電のスタイルだ。画面は『フリークエンシー・イン・ブルー』に収録の「春」のプロジェクト。m7(♭5)を効果的に使い、緊張感を演出している

Release

『創業』
ぷにぷに電機
Tsubame Production/PARK:PNDN-010

Musician:ぷにぷに電機(vo)、Mikeneko Homeless(prog)、Shin Sakiura(prog、g、other instruments)、PARKGOLF(prog)、80KIDZ(prog)、Yohji Igarashi(prog)、Kan Sano(k、prog、other instruments)
Producer:ぷにぷに電機、Mikeneko Homeless、PARKGOLF、80KIDZ、Yohji Igarashi、Shin Sakiura、Kan Sano
Engineer:yasu2000、Mikeneko Homeless、80KIDZ、Yohji Igarashi、Shin Sakiura、藤城真人
Studio:big turtle、他

 

『フリークエンシー・イン・ブルー』
ぷにぷに電機
Tsubame Production:PNDN-009

Musician:ぷにぷに電機(vo、prog)
Producer/Engineer:ぷにぷに電機
Studio:プライベート