2020年6月よりサービスが開始されたNINTENDO Switch™専用のオンライン対戦ニンジャガム・アクション・ゲーム『ニンジャラ』。ポップなアバター・デザイン、8人同時プレイによる対戦、縦横無尽に展開されるアクション、多彩な武器を使った戦略性……と魅力が満載。さらに基本プレイ無料となっており、幅広いプレイヤー層に支持されている。また、ゲームを彩る楽曲に力を入れているのも特筆すべき点だ。非常に多くの楽曲を収録しており、現在も追加曲が続々と増えている。その制作について、ガンホー・オンライン・エンターテイメントのサウンド・ディレクター、尾崎景吾氏に話を聞いた。
Text:Yusuke Imai Photo:Takashi Yashima
ニンジャラとは?
忍者の子孫たちがエクストリームニンジャ競技大会“ニンジャラ”で戦う近未来が舞台で、ニンジャガムというアイテムを使って武器を作り、バトルを繰り広げるアクション・ゲーム。最大8人で戦う“バトルロイヤル”のほか、チームに分かれて戦う“チームバトル”、さまざまなエピソードを楽しめる“ストーリーモード”が用意されている。ゲーム内に収録されている楽曲は非常に多く、現在で100曲以上。お気に入りの曲を設定しておけばバトル中に再生され、さらにバトル内で1位のプレイヤーの曲がほかのプレイヤーの画面でも流れる“シノバズサウンド”というシステムを取り入れている。
個性豊かな武器で繰り広げる爽快なアクション・バトル
敵を倒してIPPONを勝ち取ろう!
『ニンジャラ』
対応プラットフォーム:NINTENDO Switch
※Nintendo Switchは任天堂の商標です。
ⓒGungHo Online Entertainment, Inc.
1位の人の曲が流れるシノバズサウンド
Sound Director|尾崎景吾
ー『ニンジャラ』の世界観がサウンドにも取り入れられていると思います。どういったテーマの下、制作を行っていますか?
忍者の末裔たちが活躍するゲームなので、和の要素を取り入れたい気持ちは当初からありました。ただ、世界観としては近未来で、世界各地をモチーフにしていますし、さまざまな人種のキャラクターが居るので、和楽器や和風の旋律は要所で使うことにとどめ、さりげないアプローチで構成しました。プレイヤーが一番耳にするのはバトル中の楽曲でしょう。バトル中なのでテンポは速めでビートが強い、ノリながらプレイできる楽曲が多くを占めています。ゲームの邪魔をせずにバトルへの意欲や戦意をかき立てるような曲調を意識していますね。
ーとても多くの楽曲が収録されていますね。
『ニンジャラ』ではアバターの衣装が豊富に用意されており、そのブランドごとに音楽性を決めているんです。現在のシーズン7までで114曲を収録しています。例えば、Freedom & Peaceというブランドはライダース系の衣装もありハードロックのイメージ、ALTER LAPSEは近未来的でサイバーをテーマにしたデザインなのでトランスやEDM、おしゃれなハイブランドのSydney Jamesではジャズを取り入れたエレクトロ・スウィング……というように曲を決めているんです。また、シーズンごとにテーマが決まっていて、現在のシーズン7ではホラーとなっています。そのテーマに合わせてハロウィン感のある曲や、ホラー映画音楽のような曲を追加しました。そのようにシーズンごとにテーマに合わせた楽曲をどんどん作っていますね。シーズン3ではドラゴンがテーマだったのでファンタジーっぽい曲も作っていましたが、ドラゴンというとメタル・バンドのアルバム・ジャケットによく使われているイメージもあったので、シンフォニック・メタルの曲も追加したりしていました。いろいろなところから着想を得てチャレンジしています。
ーその楽曲はゲームのプレイ中に流すことができるのですか?
お気に入りの曲を設定しておけばバトルで流れます。また、シノバズサウンドというシステムがあり、バトル内でスコアが1位になっているプレイヤーの設定している楽曲が、ほかのプレイヤーの画面上でも流れるんです。今1位になっているのがどのプレイヤーで、その人がどういう曲を使っているのかが伝わります。“自分の曲を聴かせてやる!”というような意気込みでプレイができるわけですね。これは社長であり『ニンジャラ』のゲーム・デザインとシナリオを担当している森下(一喜)から提案されて実装したシステムになっています。
ー楽曲は社内のサウンド・チームで制作を?
社内だけでなく社外クリエイターにも協力いただき、ジャンルごとに得意な作家の方をピックアップして依頼をしています。細かい指定をするわけでもなく、作家の方にもどういう曲を作りたいのかヒアリングし、それが『ニンジャラ』の世界観と合致するようであれば採用したりもするんです。バラエティ豊かな楽曲を求めているので、あまりNGなものは無いんですよね。
ー『ニンジャラ』の楽曲としてまとめられることを考慮して、楽曲で統一していることなどはありますか?
ラウドネス値は–24LKFSを基準として発注していますが、音の質感やバランスを合わせるようなことはしていません。シノバズサウンドで曲が切り替わることを考えると、全く違うものに変わった方が印象的ですから。曲の構成としても、静かに始まって盛り上がっていくようなタイプではなく、頭に印象的なメロディが来てインパクトが出るように意識して作っています。
環境に合わせて音量バランスを自動調整
ー『ニンジャラ』はNINTENDO Switch用ゲームですが、ゲームのサウンドにおいて、プラットフォームを意識して制作することはあるのですか?
ありますね。Switchの特徴は、携帯ゲーム機として遊べる携帯モードだけでなく、テレビに接続して大画面でプレイできるTVモードで遊べることです。そこでかかわってくるのが、昨今のラウドネスの問題でした。TV番組の音量はラウドネスの基準があるのでそこに統一されていますが、Switchのゲームをその基準に合わせてしまうと、携帯モードでプレイしたときに音量がすごく小さくなってしまうんです。そこで『ニンジャラ』では、リアルタイムでどのモードで遊んでいるのかをゲーム側で判断して、適した音量バランス設定に切り替わる仕組みを採用しています。携帯モードでSwitch内蔵スピーカーで聴いても、TVモードでテレビのスピーカーから聴いても、自動的に最適な音量でプレイできるようになっているんです。
ー最近では、オプション画面でBGMと効果音、セリフなどの各音量バランスを細かく調整できるゲームも増えましたが、『ニンジャラ』では環境に合わせて自動でコントロールしてくれるのですね。
もちろん細かいパラメーターをゲーム内に表示することも可能でしたが、メインとなるプレイヤー層は小学生~中学生くらいを想定していたので、ゲーマー向けのコアな設定を入れ込むと分かりづらくなるだろうと考え、オプション画面ではシンプルなパラメーターに留めています。
映像と音の聴こえ方を合わせていく
ーガンホー・オンライン・エンターテイメントでは『パズル&ドラゴンズ』『ラグナロクオリジン』『TEPPEN』など、パズルやRPG、カード・ゲームといったさまざまなジャンルの作品をリリースしていますが、そういったゲーム・ジャンルも音楽制作では影響してきますか?
『ニンジャラ』は8人同時対戦の3Dアクション・ゲームなので、一番考えるべきことが多いジャンルだと思っています。RPGやアドベンチャー・ゲームだと、順序立てて制御しやすいこともあるんですが、『ニンジャラ』のようにオンラインのマルチプレイとなるとみんなが自由にプレイするため、いつ何が起こってどういう音が鳴るのか予想できない。乱戦状態になったときでも、ゲーム・プレイにとって重要な音がしっかりと聴けるように制御することを意識しています。
ーBGMやSEなど、多くのサウンドが入り乱れますし、快適なプレイのためには発音の制御が重要なのですね。
『ニンジャラ』では打撃音が鳴る場面が多いのですが、単に打撃が起きたら音を出すようにしてしまうと、多段ヒットの攻撃ではたくさんの音が同時に鳴ってしまいます。状況に合わせて、最大で2音しか鳴らないようにする、不要な音はカットや音量を下げる、といったことも行います。後ろに回った音は音量を下げて、フィルターでこもらせるようにして後ろから聴こえているような演出もしますね。また、あまり語られる部分ではありませんが、音を拾う場所というのも意識しています。ゲームではプレイするキャラクターが居て、それを映しているカメラがありますが、このカメラ位置で音を拾ってしまうと、カメラの真後ろにある音がとても大きな音で聴こえてしまいます。かといってキャラクター位置で音を拾うとすると、カメラを操作してキャラクターから離れたアングルになった場合、映像と音の聴こえ方に齟齬が出てくるんです。そのため、キャラクターとカメラの中間地点から少しキャラクター寄りの位置に音を拾うリスニング・ポイントを設定して、映像と聴こえ方を合わせていくことをしています。
ーそのような音の聴こえ方にかかわる制御はミドルウェア上で行うのですか?
はい、ミドルウェアで完結するような仕組みになっています。ミドルウェアにはAUDIOKINETIC Wwiseを導入しました。『ニンジャラ』のゲーム・エンジン、EPIC GAMES Unreal Engine 4との相性も良く、サウンドの細かなプロパティ設定もできます。また、WwiseにはInteractive Musicという機能があるのですが、これが前述のシノバズサウンドのシステムを作る上で欠かせなかったんです。Interactive Music機能は、ゲーム中の条件に合わせて再生する楽曲を自動的に切り替えることができます。今1位のプレイヤーが誰で、バトルの残り時間がどのくらいで、今再生されている楽曲が何なのか、という条件は対戦の中でどんどん切り替わっていきますが、その中で条件に合致した場合はWwiseが曲の切り替えを行うんです。
ー現代のゲームでは必須の機能ですね。
Wwiseの良いところは、そういった機能が一通りそろっていて、こちら側で別途用意する必要があまり無いことです。例えばテンポが違う曲同士をつなぎ合わせたいという場合も、徐々にテンポが変わるようなシーケンスを挟むということが比較的簡単に実現できます。システマティックに曲が切り替わるのではなく、DJのようにシームレスな曲のつなぎ方を行いたかったんです。それを実現できたのがWwiseのInteractive Music機能でした。
快適なプレイには音のすみ分けが大切
ー効果音はどのように作っていくのですか?
和太鼓や琴の音などの和楽器サウンドはSONICA INSTRUMENTSの音源を使用したり、NATIVE INSTRUMENTS MassiveやAPPLE Logic Pro内蔵のAlchemyの音をレイヤーすることもあります。刀の音などはOGAWA SOUNDのライブラリーを活用しました。多くの場合、50Hz以下と高域のキンキンする部分はカットし、大体100Hz〜10kHzに音の要素が収まるようにしています。キャラクターの声や楽曲、ゲーム内のインフォメーションの音などが同時に鳴るので、音のすみ分けをすることでバランスを取ることが大切なんです。
ー11月8日までは初音ミクとのコラボ・イベントが開催されていますね。どのような内容になっているのですか?
初音ミクのほか、鏡音リン・レン、巡音ルカといったバーチャル・シンガーの代表的な曲をゲーム内に追加し、さらに同時期に開催される【初音ミク「マジカルミライ 2021」】のテーマ曲「初音天地開闢神話」も収録しています。敵を倒した際に表示されるIPPONデコレーションや、エモーション(バトル中のアピールに使えるキャラクターの動き)、そのエモーション用楽曲なども初音ミク仕様のものを用意しました。バーチャル・シンガーたちのファンに喜んでもらえるような選曲を行っています。
ーコラボを通じて新たな楽曲が登場していくのも楽しみです。これから『ニンジャラ』をプレイするユーザーには、どういった点に注目してサウンドを聴いてほしいですか?
アバターの衣装……例えば履きものや手袋の素材によって足音やクラップの音を変えたり、ロボットのようなマスクをしていたら声にエフェクトがかかったり、そういったアバターの遊びをふんだんに入れているんです。また、ステージに合わせて細かいサウンドが用意されていて、ラクダの鳴き声やパチンコ店の音が聴こえるというような、耳を澄ますと再発見できる部分が多くあります。ぜひトレーニング・モードでステージを歩き回ってもらい、そういった部分に注目してみてほしいですね。