スペシャル対談|中田ヤスタカ × Ayase

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共感が変容する時代の中でヒットを導くものは何か?
2人のJポップ・クリエイターの本能と戦略と音楽表現

日本のエレクトロ・シーンを代表する音楽家、中田ヤスタカ。今年デビュー20周年を迎えるCAPSULEのクリエイターとして活動するほか、Perfumeやきゃりーぱみゅぱみゅの音楽プロデューサーとしても国内外の音楽ファンを長年熱狂させ続けている。そんな中田と不定期で敢行してきたクリエイターとの対談企画がこのたび復活! 巻頭を飾ってくれたYOASOBIのAyaseとの対談が実現した。今回が初対面となる2人にヒットを遂げた楽曲について振り返ってもらう中で、中田の音楽とAyaseの意外な接点も明らかになった。

Interview:Kentaro Shinozaki Text:Mizuki Sikano Photo:Hiroki Obara

 

Ayaseさんはトラック・メイカーというより
シンガー・ソングライターだと思いました

中田 今、Ayaseさんはお幾つですか?

Ayase 26歳です。

 

中田さんが26歳のときは何をされていましたか?

中田 21歳でデビューしたCAPSULEの活動が軌道に乗ってきたタイミングですね。2006年なので、そのころ既にプロデュースから数年たっていたPerfumeがいよいよブレイクする前夜という時期でもありました。翌年の2007年には、テレビ・ドラマ『LIAR GAME』のサントラを作りました。

Ayase 僕は最初に『LIAR GAME』で中田さんを知ったんです。音楽がめちゃくちゃ格好良いなと思って、サントラを手に入れて勝手に自分のバンドのSEで使わせていただきました(笑)。僕にとっては初めて触れた打ち込みの音楽でもあります。

中田 僕はもともとインストから音楽の道に入ったので、『LIAR GAME』のサントラで僕の名前を知ってもらえたのはうれしいね。CAPSULEはデビューするために戦略的に組んだユニットだったから、当時は“歌が無いとメジャー・デビューは難しいのかな”と思っていたので。

 

中田さんはYOASOBI『THE BOOK』を聴いてみて、どんな感想を持ちましたか?

中田 Ayaseさんはトラック・メイカーというよりも、シンガー・ソングライターに近いのではないかと感じました。現代のトラック・メイカーの中にはオーディオ・サンプルを並べて音楽を作る人も居るけれど、Ayaseさんは譜面で音楽を作る人なのかな?

Ayase 僕はコードのこともあまり分からなくて、音階のみの感覚でピアノ・パートを打ち込んでいるんですよね。

中田 全曲でピアノを使っている理由は戦略的なもの?

Ayase いや、単純にピアノの音が好きなのと、これ以外でコード感やオケに厚みを持たせる方法を知らなくて。

中田 戦略じゃないんだね。実際に弾いてみても気持ち良さそうなピアノだよね。打ち込みはキーボードで?

Ayase 制作に鍵盤は使っていないんです。過去にピアノは習っていましたけど。APPLE MacBookのトラック・パッドで一つ一つMIDIを打っています。

中田 え、すげぇ。アフロジャックじゃん。腱鞘炎になりそうだけど(笑)。

Ayase 少しでも弾いているピアノっぽくするために、ベロシティを変えて調整しています。

中田 僕は鍵盤を弾いて作ったほうが楽なのでそうしてるけど、今は演奏しない人も多いから、そういう人向けのトラック・ボールとかあると良いよね。今のマウスとキーボードは音楽を作るためのものじゃないから。曲作りのためにベロシティとかすぐ打てるような……そうしたら作業スピードも上がって、手も痛くなくなるよね。DAWは何を使っているの?

Ayase APPLE Logic Proです。

中田 APPLEがそのマウスを出した方が良いね! Magic Keyboardと同じシリーズでMagic Composer Mouseみたいな名前のマウス……きっと映像編集の人も欲しいと思う。

Ayase 便利そうですね(笑)。

 

今まで作ってきた曲と変わらないから
世の中にやっと選ばれたと思った

そもそも最初のヒットはどれほど狙ったものでしたか?

中田 僕は周りからちらほら“売れてる”と言われ始めたときに“今まで作ってきた曲とそんなに変わらないんだけどな”って思った記憶があるんです。だからそのときの曲は、世の中に選ばれるようなチャンスが訪れたってことなんだなと思いました。それに大昔は、売れる=良い音楽を作っていることとされていた部分は今よりあったけど、それって幻想に近くて。僕の場合も『LIAR GAME』の音楽を、単にソロのインストとしてリリースしても聴く人は少なかったと思うし。そして今は、売れる=注目を集めること、という認識に変わってきたような気がする。

Ayase 「夜に駆ける」は作りながらウケはそこまで意識していなくて、良いものを作ることを純粋に考えていたと思います。しかも当時はDTMを始めてから4カ月ぐらいだったんです。ダンス・ミュージックを作るのも、自分以外のボーカルのために曲を作るのも、初めてのことで。今も不思議に思うことがあるんですけど、当時はもっと戸惑いを抱いていました。それで「夜に駆ける」がヒットして……バンド時代にもCDは作っていたけれど全く売れなかったので、話題になったときは“僕らの曲、やっぱり良かったじゃん”とは思いましたね。もちろんボーカルikuraちゃんの力もありますけど。

 

サウンドで時代の流れを意識してみたりは?

Ayase ザックリと“デジタル・サウンドは入れたいね”くらいしか音色で意識したことは無かったです。そもそもYOASOBIは、小説投稿サイト『monogatary.com(モノガタリードットコム)』でグランプリに選ばれた小説とのコラボ音楽=賞品を作るためのユニットだったので、当初は長期間の活動を視野に入れていませんでした。

中田 YOASOBIは企画があってそのために音楽を作ることからスタートしたけれど、今はYOASOBIがあるから小説を書く人も居るから立場が逆転したよね。いろいろな音楽の聴かれ方があるけれど、新しいリスニング体験をYOASOBIは作っている。音楽が好きだからこそ思うけど、音楽の力には限界を感じるね。自分の好きなように音楽を探して聴く人がもっと増えてくれたらいいなとは思うけど。世の中に流れてくる音楽から選ぶか、もしそこにあまり自分の好きなものが無くても別のものを探そうとする人は少ないと思う。だから聴いてもらえるきっかけというのが、その時代ごとに発明されないと、みんな音楽に興味を持ってもらえないのかなぁと思うね。

 

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「防音空間がある家を買って周囲を気にせず宅録をして
友人と酒を飲みながらガンガン騒げる場所にしたいです」

 

メロディと歌詞と楽曲構成に自信があるから
本当は自分で打ち込みはやりたくなかった

聴かれるためのきっかけ作りが大事というのは、以前から中田さんが話してきたことでしたね。

中田 僕の場合は自分で考えざるを得なかったんですよね。最初の20年前のCAPSULEの1stアルバム(『ハイカラ・ガール』)は、用意されたものを受け入れていくという感じで、結果メジャー・デビューしたというだけでうまくいかなかった。もちろん一般的なプロのメジャーの制作現場というものを経験させてもらったのはとても大きいですが。その後はまた自分に合った感覚に戻した活動ができたのが良かった。Ayaseさんも今のような大注目を浴びる前にバンドやボカロPとして活動していなかったら、今ごろもっと悩んでいたかもしれないね。

Ayase 間違いないですね。

 

Ayaseさんは現在悩んでいることなどありますか?

Ayase 小説を読んでから音楽制作を始めるので、確実にほかのトラック・メイカーよりも一手間多いこととか……DAWの使用歴が1年半くらいで技術的に未熟な部分もあることですかね。今年はもっと勉強したいと思っています。今のところLogic Pro純正プラグイン以外を楽曲に使用したことが無いので。

中田 確かに、膨大なソフト・シンセをインストールしている音ではないよね。ピアノは全部同じ音を使ってる?

Ayase Logic Pro内蔵の“Steinway Grand Piano”ですね。

中田 なるほど、Ayaseさんが今世界で一番その音色を使っているんじゃないかな。そのピアノが楽曲たちの統一性を高めていて、ほかの人が使いづらくなるくらいYOASOBIの音なんだと思う。

Ayase 効果音や環境音とかをSpliceで落とすことはしています。Spliceを使ってからすごく世界が広がりましたね。

中田 自分が必要だと思ったものしか増やさないタイプなのかもしれないね。

Ayase この音に慣れているので、ほかのピアノ音源だと制作中にテンションが上がらないんですよ。

中田 音楽は楽器の音色に導かれて作る部分も大きいよね。YOASOBIはバンド・サウンドに近い楽曲が多いけれど、グランド・ピアノでピアニストに弾いてもらったりしたら、もう違うものになっちゃうとも思う。それはピアニストが勝手にYOASOBIの曲を弾いてYouTubeにアップすれば良い話で。そうやって音楽が広まる時代だとも思うから。

Ayase 極論を言うと、本当は打ち込みはやりたくなかったというか……僕はメロディと歌詞と楽曲構成に自信を持っているので。当初は細かい音作りは、売れたらその道のプロがやってくれるイメージを持っていたんです。でも今は、編曲家を挟んでアレンジを任せるのは嫌だなとすら思う。ならば、やりたいことを自分でもっと実現させるために、トラック・メイカーとしてクオリティを上げなければならないとも感じています。

中田 録音やエンジニアリングは自分でしないの?

Ayase 今はエンジニアの方にお任せしていますね。そもそも自宅が防音ではないので、まずは最低限歌録りができる環境にしたいです。初音ミクで打ち込むのは時間がかかるので、自分の遊びで曲を作るときは特に歯がゆさを感じています。

 

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「センターに囲炉裏があるとかね(笑)
常識にとらわれないスタジオを作ってもらいたいです」

 

レーベルに地ならしされることなく
自分の音楽で成功できるのはうれしいこと

中田 もしYOASOBIが最初からとても大掛かりなプロジェクトとしてスタートしていたら、きっとサウンド・プロデューサーが付けられていたと思うから。Ayaseさんにとっては、自分の音楽で成功できたのはすごく良いことだよね。今は音楽業界があまりあこがれられるような場所じゃなくなっていると思うけど、中学生とかはサンレコでAyaseさんの使用機材を読んで、同じ音を出すためにLogic Proを買うんだろうなと思うんですよ。

 

サウンド・プロデューサーを立てようという話は無かったのですか?

Ayase 今と違ってとにかく予算が無かったんです。「夜に駆ける」は、僕に最初支払われた少ないギャラと、レコーディング/ミックス代、MVの制作費しかかかっていないです。

中田 予算が増えたらどこに使いたい?

Ayase 防音空間がある家を買いたいですね(笑)。部屋をウロウロしながら周囲を気にせず宅録もしてみたいので。ついでに友人と酒を飲みながらガンガン騒げる場所にもしたいです。

中田 センターに囲炉裏があるとかね(笑)。常識にとらわれないスタジオを作ってもらいたいですね。

 

最近はどんな音楽制作をしていますか?

中田 今年CAPSULEが活動20周年なので音楽制作もしています。これは毎回そうなのですが、純粋に音楽作品としての楽しみ、そして音楽を作る楽しみを感じてもらえるようなものになればと思って作っています。

Ayase 僕は12月頭に『THE BOOK』の制作が終わって、1日だけダラダラと寝た次の日からは、何に使うわけでもない音楽をずっと作っていますね。僕もやっぱり音楽好きなんだなと思いました。バンド・セットでライブもやりたいです。そのために今はピアノを習うことも検討中です。

中田 着席で鑑賞するコンサートなら“盛り上げなきゃ”というプレッシャーが無いから僕もやってみたいです。最近はDJをやっていないから作る曲の幅が広がったんですよ。アーティストはライブで盛り上がる曲が欲しいことが多いけれど、音楽表現としてそれは良いことばかりじゃないと僕は思う。いろいろな観点で音楽を作ってみることが大事なんだろうね。

 

中田さんからAyaseさんにアドバイスはありますか?

中田 今までと違ういろいろな声が聞こえてくると思うけど、気にしないで自分の好きなことを追求してほしいと思います。

Ayase ありがとうございます。楽しみながら続けていきたいと思います!

 


yasutaka-nakata.com

www.yoasobi-music.jp

 

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