YOASOBI インタビュー【後半】〜「怪物」はビリー・アイリッシュ「bad guy」のボーカルの距離感を参考に

YOASOBI Ayase,ikura

コンポーザーのAyaseとボーカルikuraにより“小説を音楽にするユニット”として活動を開始したYOASOBI。1st配信シングル「夜に駆ける」は2019年12月にリリースされ、1年でストリーミング再生回数3億回を突破し、CD未リリースながらNHK紅白歌合戦への出場を果たすなど飛ぶ鳥を落とす勢いで人気を集めている。本誌は昨年末に、Ayaseとikuraにインタビューを敢行! 衝撃的な「夜に駆ける」の楽曲構成のルーツや、YOASOBIの特徴であるメロディックなピアノが確立された背景を紐解きつつikuraのボーカリストとしての軌跡も聞いた。

Interview:iori matsumoto Text:Mizuki Sikano Photo:Hiroki Obara Styling:Daisuke Fujimoto(tas) 衣装協力:HOMME PLISSE ISSEY MIYAKE、MOONSTAR、YuumiARIA、ReFaire、BEAUTIFUL SHOES

 

インタビュー前半はこちら

www.snrec.jp

 

「怪物」はビリー・アイリッシュ「bad guy」の
ボーカルの距離感を参考にしました

「たぶん」からはR&Bのエッセンスも感じます。

Ayase R&Bやローファイ・ヒップホップっぽい作り方をしています。ヒップホップも好きで、普段からメロディを主体にしていない音楽をよく好んで聴いているんですよ。

 

その流れでは、最新配信シングル「怪物」が新しい扉を開いている気がしました。パッと聴いて思ったのが、Ayaseさんなりのビリー・アイリッシュ「bad guy」解釈なのかな……と。

Ayase 頭の中に「bad guy」を筆頭とするダークな音楽は、リファレンスとしてあったと思います。アニメ『BEASTARS』のオープニング・テーマに決定していたので、人間の死に迫るシリアスなヒューマン・ドラマをどう音楽で表現するかを考えたら、あの暗さでした。ただトーンよりも、声の近い距離感を参考にしています。いかに声を立体的かつ近く響かせるかを研究して取り入れたんです。当初はボーカルをラジオ・ボイスにする予定で作っていましたが、「怪物」でYOASOBIを知る人もたくさん居るのにikuraちゃんの声を加工するのはもったいないなと。そのままベタっとボーカルを張ってもオケと浮いてしまうし、面白くないので工夫しました。

 

 

どのように工夫したのですか?

Ayase ミックス・エンジニアの福井さんと相談して、ボーカルを音場のいろいろなところに3トラック置くことになりました。最初は無理矢理近くに配置させてみたのですが、それだと不要なノイズが立ってきてしまったんです。なので、3つのボーカル・トラックを立体的に聴こえさせつつ、それぞれをなじませることで、あたかも耳の近くで歌っているような雰囲気を作りました。

 

ikuraさんは、歌唱力もさることながら、声の倍音の出方が魅力的ですね。低くても弱くても、ハッとさせられます。

Ayase ikuraちゃんは歌がめちゃくちゃうまいです。抜けの良い高音も魅力だけど、最近は彼女の低音の魅力にも気付いたので、低めのメロディも多く入れてみたりしています。「怪物」のAメロはそれをすごく生かせました。サビでは特に僕の思うアニソンらしい表現をしたくて、疾走感のあるバンド・サウンドにしました。メロディは、昔のアニソンをリファレンスにしています。サビまでの展開は普通のバンド・サウンドっぽい感じで進みたくなかったので、序盤の音数はなるべく少なくしているんです。

 

ボーカル・レコーディングは、既にオケを完成させた状態で行うのですか?

Ayase そうです。ikuraちゃんは完成したオケにVocaloidの初音ミクによる歌メロが入った状態のものを聴いてレコーディングの準備をしてきてくれます。ボイトレの段階から自分のイメージや表現をすごく考えてきてくれて、小説も何度も読んでレコーディングに挑んでくれるんです。僕らのすり合わせはレコーディングの現場で行っていて、ikuraちゃんの表現をいったんそのまま聴かせてもらってから、僕のリクエストなども伝えて完成させていく感じです。

ikura 歌詞にはシーンの背景や人の感情などさまざまな要素が出てきますが、その都度言葉に合わせて表現を分けています。自分の中でカラーを浮かべて歌うようにしているんです。

 

「夜に駆ける」Project Window

f:id:rittor_snrec:20210126151940j:plain

「夜に駆ける」のプロジェクト画面。YOASOBIのピアノとしておなじみのサウンドはLogic Pro内蔵の“Steinway Grand Piano”。伴奏とピアノ・リードで同じ音色が使われているが、トラックは分けられている。ベースには“Stinger Bass”が使用されているようだ。画面下に写るのはアウフタクトで始まる8小節のピアノ・リードのピアノロール(0:17〜0:32辺りで聴くことができる)

 

音が一瞬でオクターブ飛ぶので
慣れるまではのどの訓練が必要でした

Ayaseさんの難しい曲をよく歌いこなせますよね。

ikura 難しいけれど練習しがいがあります。歌えるようになると“また一段と歌がうまくなれた”という達成感があるんです。「夜に駆ける」も難しいけれど流行するから……最近は難しいことが頑張れる理由の一つになりました。歌ってくれる方もたくさん居るけれど、私はYOASOBIのikura本人なので誰よりもうまく歌わなければという気概で取り組んでいます。

 

YOASOBIの曲のどんな部分が難しいと感じますか?

ikura 音が一瞬でオクターブ飛んだりするので、慣れるまではのどの訓練が必要でとても難しかった……。十数年歌ってきたものを一回フラットな状態に矯正して、何とか歌えるようになりました。それによって表現力の幅が広がったのは実感しています。一回立ち帰る機会をもらいました。

 

ボーカル・レコーディングには、どのくらいの時間がかかるのでしょうか?

ikura 一番時間がかかったのは「夜に駆ける」で、昼過ぎの13時前に録り始めて夜の23時まで歌っていましたね。

Ayase でもあのときはikuraちゃんが悪いとかではなくて、YOASOBIチーム全員が何が正解なのか分かっていなかったなと思います。最初だったので、いろいろと試してもらった結果です。逆に「群青」はハモリも含めて2時間ぐらいで終わりました。これは、僕らのイメージがすごく合致していたケースですね。ピッチやタイム感のズレ以外はすべてOKでした。ちょうどテレビの密着取材が入っていたので、すごく恥ずかしいところを撮られたなと思っています(笑)。

ikura いつもYOASOBIはこんなベタベタな感じでやっているのかと思われかねない(笑)。そんなことはないです。

 

そのテレビ番組でレコーディング風景を見たときはTELEFUNKEN Ela M 251を使っているようでしたが、いつも同じマイクを使っていますか?

ikura いつもその日そこにあったマイクを使っているので、あまり意識していなかったかもしれません。

Ayase マイクはNEUMANN U67を使うことが多いですね。録音は齊藤隆之さんというエンジニアの方にお願いしていて、その都度押さえたスタジオで録っています。

 

YOASOBIでは使わないかもしれませんが、ikuraさんは宅録用の機材なども持っているのですか?

ikura 持っています! コロナ禍で宅録する必要があったので、マイク、ポップ・ガード、オーディオI/O、Logic Proを購入しました。詳しい方にお薦めしてもらいました。

 

f:id:rittor_snrec:20210124140835j:plain

「十数年歌ってきたものを一回フラットな状態に矯正して
表現力の幅が広がったのを自分でも実感しています」

 

Ayaseが音を作ってikuraが歌えば
YOASOBIというのが僕の理想です

「群青」のサビ前の“あー!”はインパクトがありますね。

ikura あれは得意なんです(笑)。“あー”とかでエッジを効かせるのは昔から好きなので。Ayaseさんがなぜサビの一言目に“あー”というのを持ってきたのか考えると、やはり心の叫びだろうと考えて、通常より激しく歌っています。

Ayase 一発目から完ぺきで、その“あー”が欲しかった!って思いました。ikuraちゃんが「夜に駆ける」から一曲一曲学んできたものが生かされていると感じたんです。得たものが剥がれ落ちずに、毎回きちんと身にまとって突き進んでくるのがすごいと思います。

ikura この1年で引き出しが100個ぐらい増えました。

 

全体的に譜割りが細かいのもありますが、ikuraさんのリズム感の良さが際立っているなと思います。

ikura リズムは初音ミクのデモに忠実ですね。それがAyaseさんが作るグルーブなので。私自身はもともとバラードを歌う方が好きだったから、最初は早口で歌うのも難しいと感じていました。

Ayase シンガー・ソングライターとしての幾田りらが、しっとりとしたバラードを上手に歌うことは分かっていました。だからこそ、YOASOBIではキャッチーで跳ねた歌い方とかも聴いてみたいと思ったんです。絶対格好良くなるって自信がありました。僕はYOASOBIの活動によって幾多りらのソロ活動の引き出しも増えたら良いと思うし、それがさらにYOASOBIにも還元されたらうれしいなと思っています。

 

一つのグループとして、多様なサウンドを出していくのは難しいことではないですか?

Ayase Ayaseが音を作ってikuraが歌えばYOASOBIなんだよっていうのが僕の理想です。ジャンルや音で縛るのではなく、その条件だけで完成するものにしていきたいから……。だからこれからいろいろなジャンルに挑戦したいと考えています。

 

 

Release

『THE BOOK』
YOASOBI
(ソニー)

  1. Epilogue
  2. アンコール
  3. ハルジオン
  4. あの夢をなぞって
  5. たぶん
  6. 群青
  7. ハルカ
  8. 夜に駆ける
  9. Prologue

Musician:ikura(vo)、Ayase(prog)、Takeruru(g)、Rockwell(g)、AssH(g)ぷらそにか(cho)
Producer:Ayase
Engineer:齊藤隆之、福井昌彦、酒井秀和
Studio:クレジット無し

 

www.yoasobi-music.jp

 

関連記事 

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp