デフトーンズ|最新作『オームズ』の録音&ミックスを手がけた伝説的エンジニアの熟練技を紐解く

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“昔かたぎ”なエンジニアと再タッグを組んだ最新作『オームズ』
制作拠点となるアナログ機材に埋め尽くされたスタジオを公開

ヘビー・メタル・バンド、デフトーンズ4年ぶりのアルバム『オームズ』。世界的にも高評価を得ており、オーストラリアのチャートでは3位を獲得し、ビルボード200では5位にランク・イン。“ここ数年バンドに見られなかったリフレッシュしたサウンド”とも評価される。そのレコーディングとミックスを担当したのが、バンド初期の作品を手掛けてきたテリー・デイト氏で、メタルというジャンルの形成に中核的な役割を果たしてきた伝説的な存在である。アナログ機材に囲まれた氏のホーム・スタジオでのミックス風景や、「ヘッドレス」で使用されたプラグインを見ながら、彼の熟練技を紐解いていこう。

Text:Paul Tingen Translation:Takuto Kaneko Photo:Tamar Levine(メイン・カット)、Frank Delgado(*)

 

家族とレコードを作っているような感覚
ライブでやっていることをそのまま演奏してもらう

 「私は相当の昔かたぎなんです」と強い口調で語るテリー・デイト氏。インタビュー中、さまざまに表現を変えつつ何度もこう語った。64歳になるデイト氏は、自身が時代に取り残されていると感じているようだ。シアトル近郊にある彼のホーム・スタジオ=トレインレックがアナログ機材で埋め尽くされていることからも同様の印象を受けることは否定できない。

 

 だが、デイト氏が今日手掛ける作品が今どきのサウンドと比べて全く色あせないところから考えると、これはおかしなことにも感じる。デフトーンズの9作目のスタジオ・アルバム『オームズ』が良い例だ。重厚なベースに暴力的なまでのギター、そしてすべてがアップフロントな、ビッグで美しいサウンドの作品で、古臭さなどどこにも感じられないだろう。

 

 40年にわたるデイト氏のキャリアを見渡すと、パンテラ、アヴェンジド・セヴンフォールド、スレイヤー、リンプ・ビズキット、スリップノット、オジー・オズボーン、ドリームシアター、マザー・ラヴ・ボーン、ブリング・ミー・ザ・ホライズンといった名だたるバンドの作品でその名を見ることができる。これらのバンドの多くと長年付き合い、レコーディングはもちろんプロデュースやミックスまで行う。お察しの通り、デフトーンズもその一グループで、最初期からアルバム4作分の期間、デイト氏は彼らとかかわってきている。その後、デフトーンズは次の4作をボブ・エズリン、ニック・ラスクリネクツ、マット・ハイドらと制作。彼らが『オームズ』の制作を再度デイト氏とともにすると決めたことはビッグ・ニュースだったそうだ。

 

 「なぜ彼らが私のところに戻って来たのか全く分かりませんでした。けれども私たちは出会った最初の日からずっと友人でした。それに私は彼らに言ったんです。ほかの人たちともいろいろやってみると新しい知見が得られるよ、ってね。これはバンドにとってとても良かったと思います。そうして彼らがまた私のところに帰って来たとき、まるで家族とレコードを作っているような感覚でしたね。とても心地良い時間でした」

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シアトル近郊に構えた自身のスタジオ=トレインレックでミックス用のモニターをするテリー・デイト氏。モニターはYAMAHA NS-10Mを使用している

 『オームズ』のベーシックのレコーディングは、2019年末に4週間かけてLAのヘンソン・レコーディングのStudio Bで行われた。

 

 「彼らのレコーディングでは全員を集めて同時に演奏してもらいます。彼らがライブでやっていることをそのまま、同時に生で演奏してもらうんです。『オームズ』の場合、すべてのドラムと、幾つかのベースとギターをベーシックのまま使い、後からベースとギターを差し替え、キーボードのオーバーダブをしました。昔のままの、突飛なことなんて何もないやり方です。バンドの皆が集まってヘッドフォンをして、アンプを別室に置く。慣れ親しんだやり方ですよ。エイブ(カニンガム/ds)のナチュラルなフィーリングがとても良いのでクリックは全く使いませんでした。チノ(モレノ/vo、g)は大体半分くらいの曲でギターを弾き、曲によってはガイド・ボーカルを合わせて歌うこともありました。曲の方向性やフィーリングのガイドとしてのボーカルです。大体2日に1回の割合でベーシックを録り、残りの時間はオーバーダブに充てました。バンドの面々はヘンソンで同時に作曲も進めていましたね。25年もずっと一緒にやって来ている彼らのような場合、これがベストだと彼ら自身が分かっているんです。どうやって互いに絡み合えばいいのかを分かっている。それこそ私がとらえたい瞬間なんです」

 

ステージでSM58を握って過ごしてきたチノ
それが彼に特別なフィーリングをもたらす

 ここまで来れば特に驚くことでもないかもしれないが、デイト氏のレコーディングのアプローチは、“昔かたぎ”で“突飛なこと”など何も無い。

 

 「キックにはマイクを2つ、インにAUDIO-TECHNICA ATM25とアウトにNEUMANN U47 FETをセットしました。キックは毛布を被せてほかのパーツからのカブリを減らしています。今回のレコーディングはシアトルからエンジニアのアンディ・パークを呼んで作業しましたが、彼はインマイクにSHURE Beta91Aも使って高域を足していましたね。スネアはスタンダードなSHURE SM57で、そこにアンディの勧めで選択肢を増やすためにAKG C451を足しています。タムにはATM25、ハイハットにはNEUMANN KM84、オーバーヘッドにNEUMANN U67、ルーム・マイクとしてU67を幾つかセットしました。それから安物のマイクをドラムの近くにセットしたんですが、これはコンプをキツくかけてつぶれたサウンドを足すためで、STEVEN SLATE DRUMSのサンプル・パックでも使ったクラシックなテクニック。このサンプルも全く同じスタジオの同じ部屋で録りましたね。シグナル・チェインもよくある感じで、NEVEのマイクプリを通してナチュラルなサウンドを得た後にSSL SL6000Gコンソールに立ち上げ、ものによってはUREI LA-3Aを通します。ルーム・マイクはほかより多めにコンプをかけていましたかね。激しくつぶすために使ったコンプはヘンソン・スタジオのオリジナルで、SSLのリッスン・マイクを元に作られているらしいです」

 

 デイト氏は続いて、ギターのレコーディングに使用するマイクと、その後の処理の流れについて教えてくれた。

 

 「ギターを録るときは大体SM57とラージ・ダイアフラムのコンデンサー・マイクを組み合わせます。NEUMANN U87やAKG C414などですね。SM57はセンターから少し外してグリルのすぐそばに立てるのが好きで、特にディストーション・ギターではそうしますね。それからSSLコンソールを通し、API 550でEQします。これはSSLやNEVEには無いテクスチャーがあるEQですよ。ベースはそのときに応じて多様なやり方で録ります。ベーシストによってサウンドもさまざまですから。セルジオ(ベガ)の場合はミッドが多めのサウンドで、ディストーションやエフェクトを多用するのが特徴です。常にDIを併用し、キャビネットにはU47 FETを使います。ELECTRO-VOICE RE20やSM57を試すこともありますね。それからSSLコンソールに入力します」

 

 ヘンソンで1カ月を過ごした後、デイト氏とバンド一行はシアトル近郊にあるデイト氏のスタジオへと移り、そこでキーボードとボーカルのオーバーダブ、ミックスが行われた。

 

 「キーボードは直で録音しました。フランク(デルガド)が使っていたキーボードは2台だけでしたが、大量のペダル・エフェクトを駆使してほとんどのサウンドを作り出していましたよ。チノのボーカルにはSHURE SM58を使い、マイクプリを通した後にUNIVERSAL AUDIO 1176LNを2台直列につないで使いました。片方を少しだけ深めにかかるようにし、アタックとリリースは2台が対称になるようにしました。こうすることでポンピングを防止できます。彼のボーカルはささやき声から叫び声まで幅広いですからね、常にボーカルがフロントに来るようにするためのセッティングです。マイクに関しては死ぬほどつまらないチョイスなのは分かってますよ! でも私の考えはこうです。チノはバイブスにあふれたシンガーで、その人生をステージでSM58を握って過ごしてきた。それが彼に特別なフィーリングをもたらすんです。いわば好きなギターを弾いているかのようにね。その手に持つマイクが彼の相棒なんです。なので音響的なクオリティや安定性は諦めました。メインではSM58を使っていますが、時には電話用の変わったマイクを使ったり、チノが持っているBOCK AUDIOのマイクを使うこともあります」

 

 デイト氏は、ボーカル・レコーディングの際にはシンガーと同じ部屋に居ることを好むという。

 

 「その方が圧倒的に協力している感じがしますし、面白いんです。プロデューサーとして、私がすべきことは彼らを励まし応援することと、建設的な批評を出すことです。クリエイティブな人たちは誰かにお墨付きを得たいものですから。自分たちがやっていることが他人にも気に入ってもらえるか確認したいんです。ボーカルを録り終わったらテイク選びもシンガーと一緒にします。ボーカル・プロダクションにANTARES Auto-Tuneを使うのは好きじゃありません。完ぺきな見栄えの作品を作っているわけじゃないですし、実際に作ったこともありません。もしシンガーから“このテイクはすごく良いんだけど、この1音だけが気になっているんだ。直せるかい?”と言われたらもちろんやりますが、すべてを完ぺきに合わせる必要は無いんです。ドラムをグリッドに合わせることもしません。私にとってそれは音楽ではないんです。テープに生で録音された音楽を聴いて育ってきましたからね。時にはそこかしこにミスがあることもありました。けれどそのミスこそが個性を生み、曲の存在を美しく主張してくれるマークになるんですよ」

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ラック上には︎AUDIO CONTROL INDUSTRIAL SA-3050、ラック内にはDBX 223XS、SMART RESEARCH C2、DRAWMER DS201、OVERSTAYER Saturator MT-02A、SPL Vitalizerがスタンバイ

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上部に位置するのはエフェクト・ユニットのZOOM 9090×2。最下部には、ステレオ・コーラスにして使いボーカルに厚みを出すYAMAHA SPX90×2が見える

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RADIAL EXTC-SAやJ48のほか、ボーカル・エフェクトに使用されたペダル・エフェクトのPROCO Rat2やSTRYMON Volanteが並ぶ

RUPERT NEVE DESIGNS 5088を導入
慣れ親しんだクリアなサウンドを選択

 新型コロナ・ウィルスのパンデミックが本格化する直前の2020年3月までにはレコーディングは完了し、デイト氏は自身のスタジオでロックダウンを行い、安全を確保しつつミックス作業に取り掛かることとなった。

 

 「パンデミックの最中に自宅作業をする一つのメリットとして、焦らなくて良いことが挙げられます。何千ドルというスタジオ使用料を気にしなくていいんです。1曲に3日を費やし、それを皆に送って熟考してもらい、もらった意見や要望を反映して変更を行って、それをまた送る。こうしてやり取りを繰り返していると、時には1曲を完成させるのに1週間かかることもあります。すべてが出来上がったらステムを作成し、後から変更する必要が出てきたときはステムを使って作業をします」

 

 こうした氏のやり方は、パンデミックによる制限だけが理由ではなく、トレインレックにおけるアナログ機材中心のセットアップも大きな理由を占める。つまり簡単にセッティングを変えることができなかったのだ。デイト氏はまず、YAMAHA NS-10Mにサブウーファーを組み合わせたモニター周りや、RUPERT NEVE DESIGNS 5088コンソールなどに始まる“昔かたぎ”なスタジオについて説明してくれた。

 

 「私はSSL育ちですが、もともとこのスタジオにはTOFT AUDIO DESIGNSのコンソールを入れていました。コロナ禍でいろいろなところが商売をたたんだ流れで、RUPERT NEVE DESIGNS 5088を手に入れたんです。NEVEやAPIのアウトボードは普段からよく使いますし、できるだけクリアなサウンドでモニタリングしたいので、慣れ親しんだNEVE系のコンソールを選びました。私にとってスタジオの核は、今でもコンソールなんです。AVID Pro Toolsはマルチトラック・レコーダーとしての役割が中心ですね。最近はPro Tools内で行う作業も多いですが、今でもすべてアナログを通す方が好きです。なのでラック数台分のアウトボードは今でも現役ですし、アナログ機材を使うのはもはやプロセスの一環ですね」

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メイン・コンソールにはRUPERT NEVE DESIGNS 5088を使用。「私にとってスタジオの核は、今でもコンソールなんです」とデイト氏は語る

 デイト氏のミキシングは、Pro Tools上での小規模なプラグインの使用と細かなボリューム・オートメーション、それからEQやコンプ、エフェクトの大部分をアウトボードで賄いつつ、32chの5088コンソールを必要なだけ使って行われる。デイト氏が説明に使ったのは収録曲の「ヘッドレス」。チノのギターや、パーカッションなど、いろいろなものが含まれているために選んだという。

 

 

 「普段ミックスをするときにはコンソールの32ch分すべてを使うことが多いんですが、デフトーンズの場合はなるべくシンプルにするように努めているので、そこまでトラックが無いことが多いです。必要があればPro Toolsでトラックをまとめることもあります。例えばキーボードはバウンスして2trにまとめました。Pro Toolsに向かっている時間とコンソールに向かっている時間は半々くらいです。コンソールのEQはとてもワイドなので、EQ処理にはアウトボードを使うことがほとんどですね。キックとスネアはNEVEがメインで、ギターとベースはFOCUSRITE ISA 110です。どの曲も全く同じセットアップにすることはなく、いろいろ試しながら曲によって少しずつ変えています。なのでパッチ・ベイは良き相方ですよ」

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「ヘッドレス」ミックス時のRUPERT NEVE DESIGNS 5088。左からキック、スネア、ハイハットなどやルーム・マイク用チャンネルが並んでいる(写真左)。左写真に続き、ベースDIやステファンのギターが並び、右側にはYAMAHA SPX90、ZOOM 9090などが立ち上がっているのが見て取れる

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上部にはマイクプリNEVE 1081やFOCUSRITE ISA 110を配備。下部にはコンプレッサーのPURPLE AUDIO MC77とUNIVERSAL AUDIO 1176LNがラックされている

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中段に並ぶ︎API 550Aについてデイト氏は、「SSLやNEVEには無いテクスチャーがある」と語る。ギターのレコーディングの際に、SSLコンソールを通した後のEQ処理で使用するという

アルバムごとに弦が増えるステファンのギター
ベースとぶつからないよう音域を整理

 そして、デイト氏は「ヘッドレス」で実際に行われた具体的なミックスの流れを語り始めた。

 

 「ミックスはまずドラムから始めます。キックとスネア、そしてオーバーヘッドにルーム・マイクと移っていきます。タムの整理は、ミックス上で副次的な要素なので大げさなことはしません。キックやスネアはSTEVEN SLATE DRUMS Trigger2でサンプルを足して補うことが多いですね。密度の高い音楽なので、大騒ぎの中でもキックとスネアにしっかり芯を主張させることが大事なんです。SSLコンソールでの作業に慣れているので、ドラムには、UNIVERSAL AUDIO UADのSSL 4000 E Channel Strip Collectionや、API500互換のSSLモジュールも使います。ドラム・バスには80年代のアンプ・シミュレーターART Power Plant Studio Guitar Ampを使い、Pro Toolsに戻して録りました」

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ドラムのミックス時にキックやスネアはSTEVEN SLATE DRUMS Trigger2でサンプルを足して補う︎。サンプルはレベルを安定させるのにも有効だという

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ドラムに使われるUNIVERSAL AUDIO UAD SSL 4000 E Channel Strip Collection

 ドラムの作業の次はベースの処理を行う。

 

 「次はキックとベースの低域が正しく収まるようにします。DIとマイクの位相は、アンディがAVID Time Adjusterを使ってそろえてくれました。ハリソンにあるアウトボードで特にベースに好んで使うのがTECH21 Sansampで、これはひずみを足しつつ低域を補強する目的です。プラグインのAVID SansAmp PSA-1を使うこともありますね。そうしてできたサウンドをキックと合わせて聴き、ローエンドが濁らないように仕上げていくんです」

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ベースにはひずみを足しつつ低域を補強する目的でTECH21 Sansampを使用するほか、プラグインのAVID SansAmp PSA-1を使うこともある

 続くギターのミックスはヘビーなギター・サウンドを作るためのとても重要な作業だ。デイト氏は、その工程について、今作のミキシングにおける苦労話を交えて教えてくれた。

 

 「低域がぶつからないようにすることが必要なのですが、今作中の2曲は特に大変でした。ステファン(カーペンター/g)が使った9弦ギターが、低音側に3本足されたものだったんです。ステファンは面白いやつで、アルバムごとに弦が1本ずつ増えていくんですよ。ともかくこの9弦ギターがベースの音域と完全にぶつかっていました。低域の整理は本当に大変ですよ! ヘビーなギター・サウンドを作るには、まずギタリスト自身がヘビーなサウンドを出すことが必要です。そこから必要に応じて私がEQを使って細かい形作りをしていきます。使うのは、TRIDENT AUDIOの80B 500 Series EQや、TOFT AUDIO DESIGNSのChannel EQ。NEVE 551はチノのクリーン・ギターにぴったりですね。作業中はすき間を開けることを意識します。威勢の良いリズム・ギターなどは、1.5kHz辺りを狭めのQでカットしてボーカルやスネアのためのスペースを作ることが多いですね。ヘビーなギターには3kHz辺りでブーストをかけることが多いです。ギラついた感じやダーティな感じがこの辺りに詰まっていますからね。100Hz辺りにもそういった要素はあるのですが、70Hzより下はバッサリとカットすることが多いです。曲の密度にもよりますが、常にすき間を作るためにタップ・ダンスで穴を開けているような気分です。EQを積極的に使うことはためらいません」

 

 チノには、1stアルバムから常に使っているボーカル・エフェクトがあるという。

 

 「まず昔ながらのYAMAHA SPX90をステレオ・コーラスにして使い厚みを出します。最初のアルバムから使っているんですよ。ほかには、少しアグレッシブな感じを出すためにPROCO Rat2を使います。はっきりとは聴こえないと思いますが、彼は常にボーカルにこの2つのエフェクトを使っているんです。ほかに、BINSON Echorecというとてもクールなスラップ・ディレイの話をよくしていましたが、残念ながら実機を見付けられず、その代わりに使ったのがSTRYMON Volanteです。Pro Tools上のボーカル・トラックに“3”と表示されたセンドが多数並んでいますが、これはエフェクトAUXへのセンドです。VALHALLA DSP VallhallaVintageVerbやVallhallaShimmerを使った幾つかのトラックと、アンディが試していたUNIVERSAL AUDIO UAD Eventide H910 Harmonizerなどを使ったトラックになります。H910はキーボードに使いました。ステレオで動きがあり、SPX90に似たコーラスですが、よりタイトなディレイっぽいサウンドです」

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AUXで使われたリバーブのVALHALLA DSP ValhallaShimmer(画面上)とValhallaVintageVerb(同下)

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キーボードに使われたUNIVERSAL AUDIO UAD Eventide H910 Harmonizer。わずかにピッチを下げた音を加えて生まれるステレオで動きがあるコーラス効果はSPX90に似ているが、よりタイトなディレイっぽいサウンドを皆が気に入ったので、アルバムを通して多用したという

 デイト氏のマスター・バスは、とてもシンプルに構成されているという。その詳細は次の通りだ。

 

 「マスター・バスはほぼSMART RESEARCH C2を使っただけで、後はほかの人の確認用にFABFILTER Pro-L2をPro Tools上でかけたくらいですね。マスタリング後にどうなるかを簡易的にデモンストレーションする目的です。ファイナル・ミックスはマスタリング担当のハウイー(ウェインバーグ)にPro-L2ありと無しで送り、どちらを使うか決めてもらいました」

 

 こうしてミックスを無事終えると、デイト氏はステムを作成し、コンソールとアウトボードの写真を撮ってリコールの助けとした。最後に、最近のサウンドのミックスを参考にすることがあるのか尋ねたところ、彼は次のように答えた。

 

 「音響的に現代のサウンドに対抗する必要はありますよ。今はよりベースが大きいですし、すべてのすき間は埋め尽くすようにしています。ビリー・アイリッシュの作品の空間の使い方はとても新鮮でしたね。1970年代のサウンドは素晴らしいですが、私もそのまま再現しようとしているわけではありません。現代とは世界が違うんです。私も幾らかスペースを残すように気を付けつつ、同時に危機感のようなものもキープするようにしています。私は完ぺきなものを作ろうとはしていないのです。音楽を聴いていて楽しいと思わせる要素の一つに、崩壊するかしないかギリギリの線を攻めることもあると思います」

 

 これが、“昔かたぎ”なデイト氏の21世紀風のやり方と言えるのだろう。

 

Release

『オームズ』
デフトーンズ
ワーナー:WPCR-18359

  1. ジェネシス
  2. セレモニー
  3. ウランティア
  4. エラー
  5. ザ・スペル・オブ・マセマティクス
  6. ポンペイ
  7. ディス・リンク・イズ・デッド
  8. レディアント・シティー
  9. ヘッドレス
  10. オームズ

Musician:チノ・モレノ(vo、g)、ステファン・カーペンター(g)、セルジオ・ベガ(b)、エイブ・カニンガム(ds)、フランク・デルガド(k)、他
Producer:テリーデイト、デフトーンズ
Engineer:テリー・デイト、アンディ・パーク
Studio:ヘンソン、トレインレック

 

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