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banvox 〜ヒップホップ的なビートにドロップが付いていたりする それって自分にしかできない音楽だと思うんです

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エレクトロ・ハウスなどのクラブ・ミュージックを手掛け、2010年代を象徴するトラック・メイカーの一人となったbanvox。その彼がヒップホップをテーマにしたアルバム『DIFFERENCE』を7月24日にリリースする。これまでも自らのルーツにヒップホップがあることを公言していたが、そこはbanvox、やはり一筋縄では行かない。90's的な音の質感やトラッピーなビートを聴かせつつ、ドロップやエレクトロ・テイストの音色を巧みに融合させ、斬新な仕上がりとなっているのだ。総勢9名のZ世代=1990年代後半~2000年代初頭生まれのラッパーたちとのコミュニケーションを含め、アルバムの制作について伺った。

Text:Tsuji. Taichi

ラッパーの声を自ら録音したり
録り音の加工に心血を注いだ

ーアルバムの制作はいつごろから行っていたのですか?

banvox 曲によって制作の時期がまちまちで、古いものだと2013年に作っていたりします。でも本格的には2019年の夏ごろからで、結構な数のトラックがストックできていたので、まずはSNSでラッパーに“デモを送ってほしい”と呼び掛けてみたんです。そうしたらいろいろな方々からデモを送ってもらえて、マッチする人を選ばせてもらいました。それから各アーティストに幾つかのトラックを候補として送って、選んでいただいたという流れです。

 

ーbanvoxさんはかねてからヒップホップが素地であることを公言していましたが、エレクトロ・ハウスなどの諸作を経て、なぜこのタイミングで回帰したのでしょう?

banvox 前の事務所を去るタイミングで、やりたかったヒップホップをやってみてはと提案されて。それが2019年の春で、トラックを作りつつラッパーを探していたんですけど、ヒップホップが世間的にも盛り上がっている状況だったし、またたく間にブレイクして声を掛けづらくなった人も居て。それにヒップホップのシーンから見れば、僕はクラブ・ミュージックのアーティストという印象だと思うので、相容れないものを感じたりもしていました。でも、やがてZ世代と呼ばれるラッパーたちのことが耳に入るようになって、若者をフックアップするような方向にシフトしてみようと。だから、あえて自分からはオファーせずに、公募するような形を採ったんです。ツイートしてから1カ月くらいは、かなりの数が送られてきましたね。その中から選んだ人を中心にしつつ、BBY NABE君のように紹介という形でコラボレーションするケースにも恵まれたんです。実は彼とのセッションで、初めてボーカル録りというのものをやって……。

 

ーbanvoxさんがマイキングをして、自らレコーディングしたのですか?

banvox  はい。これまでは、楽曲提供やプロデュースの際に歌を録るとなっても、実際のプロセスはエンジニアの方にお任せしていたわけですが、今回は「Bubble Gum(ft. BBY NABE)」と「Lolipop(ft. ASA Wu)」「関係者以外立入禁止(ft. BEMA from カイワレハンマー)」を自分で録ってみました。事務所のレコーディング・スタジオにラップトップとオーディオI/Oを持ち込んで。

 

ーオーディオI/Oは、どのようなモデルを?

banvox ROLANDのSuper UAです。家でトラック・メイクをするときにも使っています。外観のスタイリッシュさとボリューム・ノブの感触、あとはミキサー・ソフトであらゆるパラメーターを操作できるところが気に入っていますね。ハードとソフトを行き来せずに、マウスで完結させることができて良いんです。でもコロナ・ウィルスが流行してしまったので、途中から歌録りを断念せざるを得なくなって、皆さんに録音済みのデータを送ってもらうことにしました。“ミックスとマスタリングは僕がやるので、ノー・エフェクトの状態でください”と伝えて。

 

ー録り音のクオリティはいかがでしたか?

banvox 若い人ばかりだったので、機材にお金をかけられず音の質が低い場合も多くて……APPLE iPhoneのボイスメモで録ったとおぼしき“.m4a”のデータが送られてきたこともありました。パフォーマンスが良かっただけに“もったいないな”とも思ったので、僕がミックスとマスタリングで可能な限りブラッシュ・アップする感じでした。録り音にトラックがかぶっていたりして、どうしても加工が難しい場合は録り直してもらうようお願いしたりもして。10代の人たちにとって、機材をそろえる以前にパソコンを買うというのが、ハードルの高いことなのかもしれません。

 

ーボーカル・データのノイズ処理は、IZOTOPE RXなどで行ったのですか?

banvox IMAGE-LINE FL Studioに付属しているEdisonを使いました。基本的にはサンプラーなんですが、ブラシ・ツールでオーディオのグラフィックをドラッグするとノイズを消去できるんです。また、ドロップとぶつかってしまうところを泣く泣くカットさせてもらうなど、ラッパーとコミュニケーションを取りながら進める場面も多かったですね。

 

ートラックは、歌が乗ることを想定して作っていたのでしょうか?

banvox はい。“banvoxのドロップに声が入っていたら面白いかな?”と思って、あまり主張しないドロップを作ったりしていました。「Money is Power(ft. XakiMichele)」は、ドロップに歌を乗せてもらうようお願いして、ドロップをフックにしていただいた感じです。やっぱり、自分だけでトラックを作るときとは随分違いましたね。声とかぶらないようなドロップにしなきゃいけないというところに意識が向いて、結構難しかった。

 

ー具体的には、声に干渉しない帯域で作ることになってくるのですか?

banvox 「LazerBeam(ft. Baindali)」などは、その辺りを意識しました。例えばウォブル・ベースを使うと中域を占めてしまうので、サイケ・トランスのベースみたいな特性の音を使ったりしたんです。

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ピッチ補正に使用したプラグインの一つ、NewTone。愛用のDAW、IMAGE-LINE FL Studioに標準搭載されているツールだ

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「関係者以外立入禁止(ft. BEMA from カイワレハンマー)」のラップに活用したWAVES JJP Vocals

自ら打ち込んで作ったフレーズを
オーディオ化してから再構築

ー「LazerBeam(ft. Baindali)」や「Genius(ft. BENXNI)」には、印象的なシンセの音が使われていますね。

banvox シンセは、HarmorやSytrusといったFL Studio付属のものをよく使っているんですが、サード・パーティ製品も取り入れていて、「Genius(ft. BENXNI)」のプラックにはSYNAPSE AUDIO SOFTWARE Dune 2の音を使ったと思います。ドロップの金属的な音は、IMAGE-LINE HarmorかXFER RECORDS Serumだったはず。ほかの人とは違う音色を作りたいというのが根本にあるから、複数のシンセをレイヤーするのは日常茶飯事ですね。

 

ーbanvoxさんを象徴するようなドロップや音色が、ヒップホップのフォーマットに落とし込まれているところに個性を感じます。

banvox 単にヒップホップやトラップをやるのは、面白くないんじゃないかと思っていました。語弊があるかもしれませんが、トラックって今や誰でも作れると思うんです。サンプルだって世の中にあふれているし、ループさせて重ねるだけで割と形になったりしますよね。そういう状況にあって、どうやってbanvoxらしさを出すのかを考えました。例えばドロップだったり、フィルのサウンドだったりはものすごく意識しましたね。音に関してはかなり作り込みましたし、今トレンドのUSヒップホップのようにはなっていないと思います。聴いたことがあるようでないようなビートにドロップが付いていて、しかも音色がエレクトロっぽいという……それって、自分にしかできないなと思って。

 

ー例えば「Relaxpaipo(SUGAR Version)」や「Utrecht」「4h52 5h56」などは、オールドスクールな質感ながらモダンにも聴こえる不思議な音像です。

banvox ドラムなどもサンプリングではなく打ち込みで作っているんですが、いったん打ち込んだものをループとして書き出して、再構築するようなやり方でした。例えば「4h52 5h56」は、書き出したループをリバースさせてサイド・チェイン・コンプをかけたりカットアップしたり、新しいビートを打ち込んで重ねたりしている。ドラムだけじゃなく、上モノや声ネタもリバースして使っていますね。

 

ー自分で作成したフレーズをサンプルとして扱うような方法ですね。「Relaxpaipo(SUGAR Version)」は、さまざまなフレーズや音色がコラージュされたような作りで、非常に複雑に聴こえます。

banvox あの曲は、リバースさせた声のような音が基準になっています。まずはそれをビートに合わせてカットアップして、すき間を埋めるようにいろんな音を弾いたりして入れていきました。あとは、ビートをミュートしたところに全く別のビートを放り込んだりとか。

 

ーレコードからのサンプリングなどを使わずに、自ら演奏したものを素材にしているのがユニークだと思います。

banvox 「4h52 5h56」のホーンっぽい音なども、ジャズのサンプル・パックからワンショットをピックアップして、サンプラーで音階を付けて弾いたものが素材です。またSPECTRASONICS Keyscapeのピアノで弾いたフレーズは、いろいろな曲で使っています。

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SPECTRASONICS Keyscape。ピアノの音色にはほぼこの音源を使用し、弾きで打ち込んだものをオーディオへ書き出した後、リバースなどのエディットを加えていることもある

“マスタリングで何とかなる”よりも
ミックスで詰めた方が良いと思う

ー素材を仕込むときは、単体で聴いて格好良いフレーズでなくてもよいのでしょうか? 後のエディットで全く異なるものに変わることを考えると、どのような判断基準で作られているのかが気になります。

banvox “明るいか・暗いか”っていう判断基準ですね。中途半端なものができたらボツにします。

 

ー普段から録りためていたフレーズ・サンプルを元に組み立てていくのですか?

banvox いや、曲ごとに仕込んで、勢いで完成させる感じです。僕は普段、朝9時くらいに起きて音楽を作って、夜にはきちんと寝るという規則正しい生活を送っているんですが、「Relaxpaipo(SUGAR Version)」や「Utrecht」みたいなトラックは、眠れなくて深夜にDAWを触っているうちにできることが多いんです。「4h52 5h56」もそうで、4時52分から作り始めて5時56分に完成したという意味なんです。

 

ーミックスやマスタリングは、やはりトラック・メイクと並行して進めるようなスタイルなのでしょうか?

banvox そうですね。だから曲作り用のプロジェクトに直接マスタリング用のエフェクトを挿しています。ただ、ミックスがあってこそのマスタリングだと思うので、“マスタリングで何とかなる”という発想はありません。可能な限りミックスで詰めて、マスタリングではあまり手数を増やさないようにしているんです。

 

ーマスタリングでは、どのような処理を?

banvox IZOTOPE Ozoneだけでやっていて、M/S処理を少し施したり、低域から高域がバランス良くワイド・レンジに出るよう調整するような処理です。バージョン5と最新のバージョン9を使い分けているんですが、個人的な好みとしては前者の方。banvoxっぽい音が出るような気がしているんです。

 

ー制作手法の変化もあって、新機軸のアルバムとなったわけですが、今後もこの路線を追求していくのですか?

banvox もともとはヒップホップとR&Bを自分なりにアップデートさせたいと思っていたんです。クラブ・ミュージックも制作しつつ、新しいアプローチを探っていきたいという思いはありますね。実は既に、このアルバムに参加してくれたラッパーと次作にも取り組んでいます。

 

Release

Difference

Difference

  • banvox
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2241

『DIFFERENCE』
banvox
bpm tokyo:BPMT-1022 

  1. You(Intro)
  2. Genius(ft. BENXNI)
  3. 関係者以外立入禁止(ft. BEMA from カイワレハンマー)
  4. Stardom(ft. Fuji Taito)
  5. Relaxpaipo(SUGAR Version)
  6. Coffee(ft. ORIVA)
  7. Period(ft. oozash)
  8. Missing You(ft. BBY NABE)
  9. Utrecht
  10. Money is Power(ft. XakiMichele)
  11. Lolipop(ft. ASA Wu)
  12. LazerBeam(ft. Baindali)
  13. 4h52 5h56
  14. Bubble Gum(ft. BBY NABE)
  15. Stay The Night
  16. Watched You(Outro)

Musicians: banvox(prog)、BENXN(I rap)、BEMA from カイワレハンマー(rap)、Fuji Taito(rap)、ORIVA (rap)、oozash(rap)、BBY NABE(rap)、XakiMichele(rap)、ASA Wu(rap)、Baindal(i rap) P E banvox S プライベート、他
Producer / Engineer: banvox
Studios: プライベート、他

 

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