
電子音楽に特化したDAWソフト
アップデートが永久に無償
Channel Rackと呼ばれるステップ・シーケンサーを搭載したサンプラーでMIDIを打ち込み、作成したパターンをPlaylistに配置して楽曲制作を行っていくのがFL Studioの大きな特徴です。この独自のシステムが電子音楽の作りやすさのベースとなっていて、パターンをループさせたり細かくカットしたり……といったことが、ほかのDAWよりも直感的にできるようになっています。
FL Studioはライフ・タイム・フリー・アップデート方式を採用しており、1回購入するとアップデートが永久に無償で行えます(残念ですが、アップデート時には日本語のマニュアルは付属しないそうです)。私はFL Studio 6のときから使用していますが、実際に今回のバージョン20までずっと無償でアップデートしています。IMAGE-LINEには本当に感謝です。
内蔵プラグインもビート・メイキングに長けたものが多く、Producerでは80種類以上を収録。スクラッチ・エフェクトをかけたりリズムに変化を与えるGross Beat(Signatureのみ収録)や、ボコーダー・エフェクトのVocodexといったエフェクトは私もよく使用しています。また、シンセサイザー・プラグインは、ソリッドで存在感のある音が特徴で、リード・フレーズには重宝することでしょう。楽曲制作だけではなくZGameEditor Visualizerといった映像制作向けのプラグインも収録しています。


バージョン20からMacに対応
従来のWindows版との互換性は抜群
今まではWindowsのみの対応でしたが、今回のバージョン・アップによってMac(OS X 10.11以降)に対応しました。これが一番大きなアップデート内容なのではないでしょうか? Mac版ではネイティブ64ビット・アプリケーションとして、AU/VSTプラグインが扱えます。また、Windows版では実装済みのFL Studio自体をVSTプラグインとして使用する機能は、Mac版でも対応予定です。
私は約4年前にAPPLE MacBook Proに乗り換えてからBoot Camp(Mac上でWindowsを使用するソフトウェア)でFL Studioを使用していたため、今回の対応は非常に喜ばしいです。Boot Campを使用しての動作はCPUに結構な不可がかかっていたのですが、Mac版を使用してみると圧倒的に動作が軽くなりました。体感で分かるレベルで軽くなるので、Boot Campで使用されている方はMac版の使用を強くお勧めします。
移行について心配している方がいらっしゃると思いますが、Windows版との互換性もしっかり取れています。私はバージョン20がリリースされた日からMac版をインストールして作業しているのですが、Windows版で作業していたプロジェクト・ファイルはMac版で立ち上げても目立ったバグはなく、サード・パーティ製のプラグインも快適に動作しました。
Mac版とWindows版を比較をしてみたのですが、Mac版の音の方が少し丸く温かみのある印象でした。ちなみに2ミックスをバウンスした後は音の変化はほぼ感じられなかったので、再生時のみということだと思います。
MIDIをオーディオ・データに素早く変換
拍子記号を自由に変えることが可能に
それでは新機能について触れていきましょう。かなり多くの機能が追加されたので、まずは作曲をする際に便利になった点について触れていきたいと思います。
拍子を制限無しに設定できるタイム・シグネチャー機能が追加されました。3/4拍子から4/4拍子に変化させたり、はたまた元の拍子に戻したりということができます。今まで変拍子の楽曲が作れなかったFL Studioにとっては大きな進化と言えるでしょう。

次はプレイリスト・アレンジメントという新機能について紹介。MIDIパターンやシンセ、ミキサーなどを維持したまま、もう一つのPlaylistを作ることができます。この機能のおかげでボーカル・トラックとインストゥルメンタル・トラックを分けたり、ダンス・ミュージックを作る上で重要なExtendedバージョン(主にDJが使用するイントロとアウトロにキックを追加したもの)を作る際に、1つのプロジェクト・ファイルで完結するので複数のファイルを管理するわずらわしさから開放されます。

アレンジ面においても利便性が向上しています。サンプル・チャンネルに以前搭載されていたオーディオのスタート・ポイントを設定するStart OffsetやSample Start、再生する長さを決めるLengthが追加されました。サンプル・チャンネルにはEQ、BOOST、RingModulation、POGO……など、派手にかかかるエフェクトが多数用意されており、攻撃的な音を簡単に作り出せます。ちなみにサンプル・チャンネルはオーディオ・データをダブル・クリックして表示可能です。

さらに、長らく悩まされていたプラグインの遅延補正が再構築されて、プラグイン使用時にレイテンシーがほぼ気にならなくなりました。プラグイン・エフェクトのゲインにオートメーションを描くことが多い自分にとってはうれしい内容です。
細かい点では、トラック数が100から125まで増えています。特にボーカル・トラックが多くなるような歌モノや、クラシック楽器を多用する劇伴音楽を作られている方にはありがたいアップデート内容ではないでしょうか?
作業効率が上がるような変更点もありました。今までは上部に固定だったツール・バーですが、レイアウト場所が自由になり、カスタマイズが可能になりました。私は普段15インチの画面で作業しているのですが、今まで2段だったツールバーを1段に収めて画面を広く取っています。
そのほか、バージョン20からレンダリング機能が大幅に強化されて、Playlist上のパターンを簡単にオーディオへ変換することができるようになりました。Consolidatedでレンダリングすると、パターンと同位置にオーディオが配置され、パターンがミュートされて残りますが、私の場合はパターンが消されてオーディオ・データに置き換えられるRender and replace機能の方が使い勝手がよく感じました。少ないクリック数で素早くオーディオ・データ化することができる上に、Undoで戻せるので重宝しています。

ほかにもここでは紹介しきれないほど多くの機能が強化されています。個人的には以前よりサクサク作業できるようなり、快適な操作性を実現していると感じました。アップデートに悩んでいる方へ100%お勧めできる内容と言えるでしょう。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2018年10月号より)