「IMAGE-LINE FL Studio 20」製品レビュー:新たにMacに対応して作業効率の上がる新機能を備えたDAW

IMAGE-LINEFL Studio 20
FL Studioは主にダンス・ミュージックなどの電子音楽向きに作られており、打ち込んで楽曲制作をしていくスタイルに最適化されたDAWソフトです。楽器が弾けない私は約10年前にFL Studioに出会い、MIDIの打ち込みやすさと直感的な操作感のとりこになって、今でも使用し続けています。このたび、FL Studioが誕生20周年を迎え、バージョン12から20(!)にアップしたとのこと。使用したことのない方にはFL StudioがどんなDAWかを紹介し、今まで使用してきた方にはどんな新機能が加わったのかをレポートしていきたいと思います。

電子音楽に特化したDAWソフト
アップデートが永久に無償

Channel Rackと呼ばれるステップ・シーケンサーを搭載したサンプラーでMIDIを打ち込み、作成したパターンをPlaylistに配置して楽曲制作を行っていくのがFL Studioの大きな特徴です。この独自のシステムが電子音楽の作りやすさのベースとなっていて、パターンをループさせたり細かくカットしたり……といったことが、ほかのDAWよりも直感的にできるようになっています。

FL Studioはライフ・タイム・フリー・アップデート方式を採用しており、1回購入するとアップデートが永久に無償で行えます(残念ですが、アップデート時には日本語のマニュアルは付属しないそうです)。私はFL Studio 6のときから使用していますが、実際に今回のバージョン20までずっと無償でアップデートしています。IMAGE-LINEには本当に感謝です。

内蔵プラグインもビート・メイキングに長けたものが多く、Producerでは80種類以上を収録。スクラッチ・エフェクトをかけたりリズムに変化を与えるGross Beat(Signatureのみ収録)や、ボコーダー・エフェクトのVocodexといったエフェクトは私もよく使用しています。また、シンセサイザー・プラグインは、ソリッドで存在感のある音が特徴で、リード・フレーズには重宝することでしょう。楽曲制作だけではなくZGameEditor Visualizerといった映像制作向けのプラグインも収録しています。

▲Gross Beatはオーディオのピッチやボリュームをリアル・タイムで制御して、簡単にグリッチ、スタッター、リピート、スクラッチ、トランス・ゲートなどのサウンドに変化させる ▲Gross Beatはオーディオのピッチやボリュームをリアル・タイムで制御して、簡単にグリッチ、スタッター、リピート、スクラッチ、トランス・ゲートなどのサウンドに変化させる
▲ロボットのような声に変化させられるボコーダー・エフェクト・プラグインのVocodex。SignatureとProducerには標準で収録 ▲ロボットのような声に変化させられるボコーダー・エフェクト・プラグインのVocodex。SignatureとProducerには標準で収録

バージョン20からMacに対応
従来のWindows版との互換性は抜群

今まではWindowsのみの対応でしたが、今回のバージョン・アップによってMac(OS X 10.11以降)に対応しました。これが一番大きなアップデート内容なのではないでしょうか? Mac版ではネイティブ64ビット・アプリケーションとして、AU/VSTプラグインが扱えます。また、Windows版では実装済みのFL Studio自体をVSTプラグインとして使用する機能は、Mac版でも対応予定です。

私は約4年前にAPPLE MacBook Proに乗り換えてからBoot Camp(Mac上でWindowsを使用するソフトウェア)でFL Studioを使用していたため、今回の対応は非常に喜ばしいです。Boot Campを使用しての動作はCPUに結構な不可がかかっていたのですが、Mac版を使用してみると圧倒的に動作が軽くなりました。体感で分かるレベルで軽くなるので、Boot Campで使用されている方はMac版の使用を強くお勧めします。

移行について心配している方がいらっしゃると思いますが、Windows版との互換性もしっかり取れています。私はバージョン20がリリースされた日からMac版をインストールして作業しているのですが、Windows版で作業していたプロジェクト・ファイルはMac版で立ち上げても目立ったバグはなく、サード・パーティ製のプラグインも快適に動作しました。

Mac版とWindows版を比較をしてみたのですが、Mac版の音の方が少し丸く温かみのある印象でした。ちなみに2ミックスをバウンスした後は音の変化はほぼ感じられなかったので、再生時のみということだと思います。

MIDIをオーディオ・データに素早く変換
拍子記号を自由に変えることが可能に

それでは新機能について触れていきましょう。かなり多くの機能が追加されたので、まずは作曲をする際に便利になった点について触れていきたいと思います。

拍子を制限無しに設定できるタイム・シグネチャー機能が追加されました。3/4拍子から4/4拍子に変化させたり、はたまた元の拍子に戻したりということができます。今まで変拍子の楽曲が作れなかったFL Studioにとっては大きな進化と言えるでしょう。

▲拍子を変更したい場所に再生バーを移動させ、shift+option+T(Windowsの場合はShift+Alt+T)を押すことで、再生バーがある場所以降を指定の拍子に変更する。指定した拍子をさらに変更したい場合は、拍子マークを右クリックしてSet time signatureを選択 ▲拍子を変更したい場所に再生バーを移動させ、shift+option+T(Windowsの場合はShift+Alt+T)を押すことで、再生バーがある場所以降を指定の拍子に変更する。指定した拍子をさらに変更したい場合は、拍子マークを右クリックしてSet time signatureを選択

次はプレイリスト・アレンジメントという新機能について紹介。MIDIパターンやシンセ、ミキサーなどを維持したまま、もう一つのPlaylistを作ることができます。この機能のおかげでボーカル・トラックとインストゥルメンタル・トラックを分けたり、ダンス・ミュージックを作る上で重要なExtendedバージョン(主にDJが使用するイントロとアウトロにキックを追加したもの)を作る際に、1つのプロジェクト・ファイルで完結するので複数のファイルを管理するわずらわしさから開放されます。

▲上部のPlaylist名をクリックしてAdd oneを選択すると新たなPlaylistが作成される。切り替え時には再びPlaylist名をクリックしてArrangementsから開きたいPlaylistを呼び出す ▲上部のPlaylist名をクリックしてAdd oneを選択すると新たなPlaylistが作成される。切り替え時には再びPlaylist名をクリックしてArrangementsから開きたいPlaylistを呼び出す

アレンジ面においても利便性が向上しています。サンプル・チャンネルに以前搭載されていたオーディオのスタート・ポイントを設定するStart OffsetやSample Start、再生する長さを決めるLengthが追加されました。サンプル・チャンネルにはEQ、BOOST、RingModulation、POGO……など、派手にかかかるエフェクトが多数用意されており、攻撃的な音を簡単に作り出せます。ちなみにサンプル・チャンネルはオーディオ・データをダブル・クリックして表示可能です。

▲サンプル・チャンネル。Precomputed effectsの横のマークを押すことでEQやRingModulation、POGOといったエフェクトの操作エリアに切り替わる ▲サンプル・チャンネル。Precomputed effectsの横のマークを押すことでEQやRingModulation、POGOといったエフェクトの操作エリアに切り替わる

さらに、長らく悩まされていたプラグインの遅延補正が再構築されて、プラグイン使用時にレイテンシーがほぼ気にならなくなりました。プラグイン・エフェクトのゲインにオートメーションを描くことが多い自分にとってはうれしい内容です。

細かい点では、トラック数が100から125まで増えています。特にボーカル・トラックが多くなるような歌モノや、クラシック楽器を多用する劇伴音楽を作られている方にはありがたいアップデート内容ではないでしょうか?

作業効率が上がるような変更点もありました。今までは上部に固定だったツール・バーですが、レイアウト場所が自由になり、カスタマイズが可能になりました。私は普段15インチの画面で作業しているのですが、今まで2段だったツールバーを1段に収めて画面を広く取っています。

そのほか、バージョン20からレンダリング機能が大幅に強化されて、Playlist上のパターンを簡単にオーディオへ変換することができるようになりました。Consolidatedでレンダリングすると、パターンと同位置にオーディオが配置され、パターンがミュートされて残りますが、私の場合はパターンが消されてオーディオ・データに置き換えられるRender and replace機能の方が使い勝手がよく感じました。少ないクリック数で素早くオーディオ・データ化することができる上に、Undoで戻せるので重宝しています。

▲Picker Panel(画面左)内にあるパターンを右クリックして、Render and replaceを選択すると、Playlist上にあるパターンがオーディオに置き換えられる ▲Picker Panel(画面左)内にあるパターンを右クリックして、Render and replaceを選択すると、Playlist上にあるパターンがオーディオに置き換えられる

ほかにもここでは紹介しきれないほど多くの機能が強化されています。個人的には以前よりサクサク作業できるようなり、快適な操作性を実現していると感じました。アップデートに悩んでいる方へ100%お勧めできる内容と言えるでしょう。

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サウンド&レコーディング・マガジン 2018年10月号より)

IMAGE-LINE
FL Studio 20
Signature(34,000円)、Producer(26,000円)、Fruity(16,000円)
【REQUIREMENTS】 ▪Mac:OS X 10.11以降 ▪Windows:Windows7以降 ▪共通:空き容量4GB以上のディスク、4GB以上のメモリー