皆さん、こんにちは。南アフリカ発祥のダンス・ミュージック、アマピアノを制作しているプロデューサー/DJのaudiot909です。この連載では、IMAGE-LINE FL Studioを使ったアマピアノの制作についてお伝えしています。第1回はアマピアノのベースについて、第2回はドラムについて焦点を当ててきましたが、今回はよく使われるFL Studio付属ソフト音源のプリセットや、付属プラグインのプリセットについてお話しします!
アマピアノのドローン・ベースはGMSのプリセット“Diablo TE”で鳴らす
アマピアノの制作では、多くのプロデューサーたちがよく使うFL Studio付属ソフト音源のプリセットが幾つかあります。そのうち、代表的なものを紹介していきましょう。
まずは一曲、アマピアノ・デュオMFR Soulsの大ヒット・ナンバーである「Amanikiniki(ft. Major League Djz, Kamo Mphela & Bontle Smith)」をお聴きください。コード感は薄いのですが、アマピアノの真骨頂とも言える独特なリズムのグルーブが堪能できる楽曲です。0:50辺りからは、ドローンのようなダークな音色のシンセ・ベースが独特なムードを演出しています。
このシンセ・ベースはドラムンベースなどでよく聴くリース・ベースに近いサウンド。実はこれ、アマピアノのシーンではFL Studioに付属するソフト音源GMS(Groove Machine Synth)のプリセット、“Diablo TE”によって生み出されているのです。
アマピアノの楽曲ではログ・ドラムが入る前の段階で使用されるのが一般的で、参考曲として挙げた「Amanikiniki」では0:50辺りから入ってきます。一方のログ・ドラムは、1:41辺りから登場します。このように、アマピアノでは2種類のベースを使い分けることでお互いのサウンドを引き立てているのです。
今回はこのベースを用いて、「Amanikiniki」に登場するドローン・ベースにインスパイアされたフレーズを打ち込んでみました。他のジャンルでは割とシンプルな動きをするドローン・ベースですが、アマピアノでは細かい動きが入るのが特徴です。南アフリカに住む音楽クリエイターたちのリズムに対する高い意識が感じられます。GMSのプリセットのDiablo TEは、アマピアノのクリエイターたちが最もよく使うものなので覚えておくとよいでしょう。
次に紹介するのは、同じくGMSのプリセット“Classic Detune TE”。こちらもノコギリ波を軸としたシンセ・サウンドなのですが、主にバッキングとして用いることが多く、裏拍を意識したフレージングが多い印象です。
南アフリカ発ダンス・ミュージックの一つ、ゴム(Gqom)のシーンで“帝王”と呼ばれるDJ Lagも、自身のチュートリアル動画でClassic Detune TEを使用していました。それくらい標準的なサウンドであると同時に、FL Studio自体が南アフリカのクリエイターたちにとってスタンダードなものだということが推測できます。
アマピアノのバッキング・サウンドはMorphineのプリセット“BRS Trombone MC”
アマピアノのバッキングでよく使われるサウンドとしてもう一つ紹介したいのが、FL Studio付属のソフト音源Morphineに収録されたプリセット、“BRS Trombone MC”です。その名の通り、トロンボーン調のサウンドがします。もちろんそのまま使ってもいいのですが、音作りの面ではエンベロープ・ジェネレーターを触って音価を短くするのがポイントです。具体的な設定としては、ディケイを100%から28%へ、サステインを100%から22%へ、そしてリリースを24%から20%へ設定しましょう。
フレージングとしては、ルーツ・ロック・レゲエのように裏拍で伴奏するスタイルが典型的です。ここでのTipsは、曲のコード進行に合わせてピッチを変えるのではなく、なるべく同じ音を鳴らしつづけてグルーブを出すこと。こうすることで、よりアマピアノらしいフレーズになります。
次はFL Studio付属のプラグイン・エフェクト、Maximusのプリセットを紹介。Maximusは低域/中域/高域ごとにコンプレッションやサチュレーションなどを処理できるマルチバンド・マキシマイザーです。スレッショルド・カーブを自在に設定できるため、幅広いサウンド・メイキングを実現できます。これは現地のアマピアノ・プロデューサー、テノ・アフリカから教えてもらったノウハウですが、アマピアノではログ・ドラムにMaximusを用いるのだそうです。
具体的には、ログ・ドラムとサブベースをまとめたバスにMaximusをインサートし、プリセット・メニューから“Punchy drums”をセレクトするだけ。ちなみに同メニューには、Punchy drums以外にもPunchy drums 2〜5が用意されています。私はPunchy drums 2が好みですが、いろいろ試して楽曲に合うPunchy drumsを選択するのがよいでしょう。ログ・ドラムのアタックやリリースを分かりやすく聴かせてくれるものがお勧めです。
もし“今まで作ったことがない音楽ジャンルに挑戦したい”と思ったとき、まずはそのジャンルに多用されている楽器や音色を調べるのが王道かと思いますが、アマピアノに関して言うと、FL Studioと幾つかのソフト音源を用意すれば、オーソドックスなアマピアノの音色はカバーできることでしょう。特にFL Studioは手の届きやすい価格帯ですし、無償の体験版もあります。おまけにコンピューターへの負荷は比較的に小さく、汎用(はんよう)性の高いプリセットが収録されているのも魅力です。
もし読者の皆さんが“アマピアノを制作してみたい”と思ったなら、付属のソフト音源とプラグイン・エフェクトを目当てにFL Studioを購入するのも良い選択だと思いますし、そのままセカンドDAWとして導入するのもよいでしょう。まずは体験版をインストールして、この連載で登場した音源を鳴らしてみるのもお勧めです。
それでは、今回はここまでにしましょう。第2回に引き続き、今回も参考となるデモをSoundCloud(下の埋め込みプレーヤー)にアップしますので、私のTwitterアカウント(@lowtech808)と合わせてチェックしてみてください。それではまた!
audiot909
【Profile】プロデューサー/DJ。もともとはハウスを得意とするDJだったが、2020年からアマピアノの制作に着手。同年にはラッパーのあっこゴリラをフィーチャーしたシングル「RAT-TAT-TAT」を発売。同曲はSpotifyの公式プレイリストにピックアップされるなど、自主リリースながら異例のヒットを飛ばす。また音楽活動と並行して記事の執筆、南アフリカに居るプロデューサーへのインタビュー/対談、ラジオ出演など、さまざまなメディアにてアマピアノの魅力を発信しつづけている。Twitterアカウント:@lowtech808
【Recent work】
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FL Studio 21 Fruity:19,800円|FL Studio 21 Producer:33,000円 |FL Studio 21 Signature:39,600円|FL Studio 21 Signature クロスグレード:25,300円|FL Studio 21 Signature 解説本バンドル:41,800円|FL Studio 21 クロスグレード解説本バンドル:27,500円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6以降、INTELプロセッサーもしくはAPPLE Silicon M1をサポート
▪Windows:Windows 8.1/10/11以降(64ビット)INTELもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM