さまざまな現場で多様性を見せるデジタル・コンソール=YAMAHA TF Series

第3回 TF1×武蔵野芸能劇場

マルチタッチ対応のタッチ・パネルを採用し、それに最適化された直感的な操作性を特徴とするPA用デジタル卓、YAMAHA TFシリーズ。今回は、16ch+1マスター・フェーダーのTF1が武蔵野芸能劇場で使われるという情報をキャッチしたので、その活用法を取材すべく現場を訪れた。

アナログ出力の多さが小劇場にうってつけ
オーディオI/O機能で録音〜確認を一息に

武蔵野芸能劇場はJR三鷹駅から徒歩1分の施設で、伝統芸能や現代劇に対応する154席の小劇場を有している。その小劇場で行われた劇団骸骨ストリッパーの演劇にTF1が用いられた。音響を手掛けたのは、本多企画のPAエンジニア星知輝氏。2年半ほど前にTF1を導入したと振り返る。

「YAMAHAのデジタル卓は、乗り込みの現場でLS9などを使う機会が多かったのですが、自分たちで新しい卓を導入しようとしたときに、LS9はやがて生産完了になるタイミングだったしコスト的にも手が出しづらくて。01Vという選択肢もありましたが、今買うならもう少し新しいものが良いなと思っていました。そんな折、TFシリーズのことを知り、仕様面のグレードがちょうど良く価格も手ごろだったので、デモ機を借りたんです。実際に現場で使ってみたところ“小劇場に向いているな”と感じ、導入を決めました

どういった部分が小劇場にマッチしているのだろう?

「まずは、本体にXLRのアナログ・イン/アウトが16基ずつ備わっているところです。小劇場では常設回線のマイク入力端子がいろいろな場所に出ていて、マルチボックスとして設置されている場合もあれば、壁に埋め込まれていることもある。それらの回線は大抵、調光室にまとめられていて、パッチ盤を介して客席の方に伝送するのですが、そのパッチ盤と直接やり取りできる卓の方が素早く仕込めるし、何か起きたときにもすぐに対応できます。そしてアナログ・アウトの数。16基あるというのは、もうそれだけでありがたいです。劇場は、メイン・スピーカーでエリア・カバーの大半を賄うライブ・ハウスなどとは違い、さまざまな場所にスピーカーを設置しているんです。例えば小劇場でも、舞台の上方にプロセニアム・スピーカーが3台あって壁にはウォール・スピーカーが6台、天井にシーリング・スピーカー2台と舞台両脇のメイン・スピーカー+α……のような構成。それらに加えて、映像作品の音声収録などのために別途、アウトを数チャンネル確保しなければならないこともあるので、アウトが多いに越したことはないんです

Feature #1 豊富なアナログ入出力

▲TF1のリアには、アナログ・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)とアナログ・アウト(XLR)が16基ずつあり、特にアウトの多さはスピーカー台数の多い劇場にうれしい仕様だそう ▲TF1のリアには、アナログ・イン(XLR/TRSフォーン・コンボ)とアナログ・アウト(XLR)が16基ずつあり、特にアウトの多さはスピーカー台数の多い劇場にうれしい仕様だそう

星氏は「入出力と言えば、内蔵のUSBオーディオI/O機能も便利ですね」と続ける。
「お芝居の現場では、劇場に入ってから録音が必要になることもあって。例えば今回は、座長が公演の概要をスピーチするので、それを録って本番前に流す予定です。コンピューターをTF1にUSB接続しておけば簡単にDAWへ録音できますし、録り音を再生するとTF1を経由でスピーカーから流せるため、録音からチェックまでがワンストップなんですね

現場に合った構成を組めるカスタム・フェーダー
マイクが多い演目に有用なAUTOMIXER

DAWはBGMやSEのプレイバックにも使用されており、やはりオーディオI/O機能が活躍している。「DAWのアウトをTF1のチャンネルに立ち上げて、マイクなどと並列で扱えるのは最高に便利です」と星氏。本番中は、インプットやAUX、マトリクス、DCAなどから任意のものを選びフェーダーにアサインできる機能=カスタム・フェーダーも重宝しているそう。

YAMAHAの卓は、全般的にカスタム・フェーダーがすごく使いやすいんです。本番中にフェーダーを触らないアウト系のソースもアサインしていますが、EQの設定を見たいときなどにすぐアクセスできるのは便利ですし、マイクが多い現場ならマイク・オンリーにすることもあります」

Feature #2 カスタム・フェーダー

▲16本のフェーダー×2バンクに、インプット系からアウトプット系まで任意のソースを立ち上げられる機能=カスタム・フェーダー。演目に合わせて使用/監視頻度の高いものを配置しておけるのが便利 ▲16本のフェーダー×2バンクに、インプット系からアウトプット系まで任意のソースを立ち上げられる機能=カスタム・フェーダー。演目に合わせて使用/監視頻度の高いものを配置しておけるのが便利

ch1〜8はAUTOMIXERを備え、マイクのゲイン配分がリアルタイムに最適化される。「役者にはいろいろな声の出し方をする方が居て、演目によっては台詞と歌が混在したりもするので、本番中のマイク音量調整も必要です」と星氏。

「なので特にマイクをたくさん使う現場でAUTOMIXERの真価が発揮されると思います。以前はYAMAHA QLシリーズのAUTOMIXERしか使ったことがなかったんですが、TFもファームウェア・バージョン3.5からAUTOMIXERが8ch分追加されたので、多くの演者がラベリア・マイクを着ける状況になっても音量制御が楽というか、微調整で済むんです」

ほかにも、ボタンLEDの明るさ調整機能やAPPLE iPad用のリモート・コントロール・アプリTF StageMixなど、演劇の現場に有用な要素がそろっているというTF1。「設計がシンプルなので、トラブルが起きにくいのも良いですね。性能とコストのバランスを考えても小劇場にマッチした卓だと思うので、僕はお薦めします」と締めくくってくれた。

Feature #3 iPadアプリでの遠隔操作

▲TFシリーズは本体のタッチ・パネルによる操作のほか、APPLE iPad用無償アプリTF StageMixでの遠隔操作にも対応。「従来は2人でやっていた作業も1人でできるようになりました」と星氏は語る ▲TFシリーズは本体のタッチ・パネルによる操作のほか、APPLE iPad用無償アプリTF StageMixでの遠隔操作にも対応。「従来は2人でやっていた作業も1人でできるようになりました」と星氏は語る

Interviewee

▲本多劇場グループの本多企画に所属するサウンド・エンジニア、星知輝氏。「仕事の99%はお芝居の音響ですね」と語る通り、その道のエキスパートである。眼光の鋭さとは裏腹に、気さくに取材に応じてくれた ▲本多劇場グループの本多企画に所属するサウンド・エンジニア、星知輝氏。「仕事の99%はお芝居の音響ですね」と語る通り、その道のエキスパートである。眼光の鋭さとは裏腹に、気さくに取材に応じてくれた

TF Series Overview

直感的な操作性を特徴とするPA用デジタル・ミキサー。TF1(250,000円前後)、TF3(300,000円前後)、TF5(350,000円前後)の3機種をそろえ、さらにリーズナブルな価格となった。機能的にはベーシックなプロセッサーのほか、マイク用プリセットやオート・ミキサーを搭載。Mac/WindowsマシンとUSB接続すれば、付属のSTEINBERG Nuendo Live 2などに最大34trの録音が可能だ。(文中価格はオープン・プライス:市場予想価格) TFseries