第4回 劇団四季
コンパクトなボディや本体のタッチ・パネルによる直感的な操作性を特徴とするYAMAHAのPA用デジタル・ミキサー、TFシリーズ。この連載ではTFシリーズのサーフェス型モデル(フェーダー搭載機)にフォーカスしてきたが、今回からラック・マウント型モデルTF-Rackの導入事例を見ていく。TF-Rackは昨年末に発売された新しい機種で、従来のサーフェス型モデルからさらなる小型化を実現。3Uの筐体にはマイク/ライン・インとライン・アウトが16個ずつ備えられ、コンパクトながら最大40インのミキシング・キャパシティを有している。また、拡張カードのNY64-Dを追加することで、オーディオ・ネットワークのDanteにも接続可能だ。劇団四季『オペラ座の怪人』で使われていると聞いたので、会場のKAAT 神奈川芸術劇場を訪れて取材を行った。
十分な仕様を備えつつ手ごろな価格
3月25日(土)〜8月13日(日)の約半年間にわたり、KAAT 神奈川芸術劇場にて上演されている劇団四季の『オペラ座の怪人』。TF-Rackはここで“運営系”のミキサーとして使われており、公演中の舞台上の音声をレコーディングや舞台機構の持ち場、調光室、奈落、楽屋などに送り出している。「各セクションの担当者が公演の進行をリアルタイムに把握できるようにするためです」と語るのは、劇団四季・技術部音響担当の金森正和氏だ。
「昨年の暮れまではアナログ卓を使っていましたが、ステージ袖などに設置すると、どうしても場所を取ってしまいがちでした。それでコンパクトなデジタル・ミキサーにリプレイスしようと思い、TFシリーズ(サーフェス型モデル)を検討していたら、折良くラック・マウント型のTF-Rackが発表されたんです。サーフェス型のモデルよりも省スペースですし、このコンパクトさで16もの出力端子を備える機種はそうは無いので魅力的だと思いました。運営系のオペレートでは、各セクションからのリクエストに応じてさまざまなモニター・ミックスを作らなければなりません。そのため、ミキサー選びにおいて、出力の数は大事な要素となります。マトリクスを組める特注ミキサーなどもありますが、そうしたものはとても高価なので、手ごろな価格も導入の動機になりましたね」
クローズアップ・ポイントその① コンパクトな3Uボディ
コンパクトなサイズ、出力端子の多さ、リーズナブルな価格といった特徴のほか、Danteに対応する点にも引かれたそう。取材時に現場のTF-Rackを見たところ、入力端子には何も挿さっていなかった。「信号をDante経由でパッチしているからです」と、金森氏は続ける。
「PAシステムはYAMAHAのCL5コンソールを中心に組んでいて、ステージ・ボックスのダイレクト・アウトをTF-Rackに入力しています。各機器をDanteネットワークにつないでおけば、Dante Controllerというパソコン用のソフト上でパッチできるので、ステージ・ボックスとTF-Rackをケーブルで接続するような手間がかかりません。将来的には、TF-Rackを複数台用意してCLシリーズにDanteでパッチし、FOHのサブミキサーとして活用したいですね。例えばミュージカルなどはオーケストラを含むため、インプットが200chくらいにのぼるんです。それらを受けるためのコンソールを用意するとPA席が大きくなりますし、その分、客席をつぶしてしまいます。そこでTF-Rackです。何台か用意してサブミキサーとして使用すれば、スペースを取らずとも多くの回線をミックスでき、さらにはメイン・コンソールも小さくて済みます。それこそCLシリーズで最小のCL1を2台くらい用意するだけで賄えるかもしれません。また、おのずとPA席も小さくなるため、より多くのお客さんに入ってもらえます」
クローズアップ・ポイントその② Danteへの対応
内蔵プロセッサーも省スペースの秘けつ
内蔵の各種シグナル・プロセッサーも、省スペース化に一役買っている。
「アナログ卓を使っていたころは、エフェクトをかけたければアウトボードを用意する必要があったので、それによってもシステムが大きくなりがちでした。しかしTF-Rackは、コンプレッサーやタイム・アラインメント・ディレイなどのよく使うプロセッサーを内蔵していて、外部の機材を減らせるのでありがたいですね。地方の劇場などには“メイン卓とは別途、常設の機材としてステージ袖にもミキサーを置きたい”と考えているところもあるので、そうした用途にも便利でしょう。また操作方法がとても簡単で、プロのエンジニアでない方にも使いやすいことから、ホテルや駅などの設備としても有用だと思います」
劇団四季は、今後の公演でもTF-Rackを活用していく模様。「既に来年の3月まで使う予定が入っているんですよ」と金森氏が話す通り、頼もしいパートナーであり続けるだろう。