
多彩なレコード・コレクションとアマチュアリズム全開の生演奏を融合させ、デジタル・バグを逆手に取った独特の音質でサンプリング・ミュージックの新たな地平を切り開いたマッドリブ。ここでは、カジモト、イエスタデイズ・ニュー・クインテットなど数多くの名義を使い分け、アルバムを出しまくっていた2004年のインタビューをお届けしよう。DJレルズ名義でブロークンビーツ・アルバム『Theme For A Broken Soul』リリースした直後だけあって、4ヒーローやI.G.カルチャーなどUK勢への言及も見られる。
[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2004年11月号のものです]
Interpretation:Hashim Bharoocha Photo:Satoshi Hosoya
西海岸のピュア・ヒップホップ・アクト、リックウィット・クルーに所属するルートパックのトラック・メイカー兼MCとしてシーンに登場したマッドリブ。当初より確かなビート・センスは高い評価を得ていたが、カジモト、イエスタデイズ・ニュー・クインテットといった変名プロジェクトではヒップホップにとどまらない、自由でイマジネイティブなサウンド・メイキングを披露。BLUE NOTEのリコンストラクト・アルバム『Shades Of Blue』をはじめ、ジャザノヴァのリミックスやトロージャン音源のミックスCDを手掛けるなど、今やあらゆるジャンルから注目を集めるビート・メイカーとなった。そんなマッドリブが、今回はDJレルズ名義でブロークン・ビーツのアルバムをリリース。代官山AIR3周年記念イベント"Stones Throw Exclusive Tour 2004"にDJとして出演するため、イーゴン、ピーナッツ・バター・ウルフとともに来日した彼に話を聞いた。
ここ最近の作品はすべてBOSS SP-303で作っている
■今は主にどんな機材を使っているのですか?
マッドリブ 今はBOSS SP-303を使っている。ハイテクな機材が必要ないっていうことを証明しようとしているんだ。MFドゥームとのユニット、マッドヴィレンの「Raid」はホテルでSP-303とポータブル・ターンテーブル、CDプレーヤーだけで作って、カセット・テープにレコーディングしたんだ。誰もそれを知らないけどね。ブラジルに滞在していたときに、ホテルでチープなカセット・デッキにレコーディングしていったんだ。
■今回の『Theme For Broken Soul』も同じ機材で作ったのですか?
マッドリブ ジェイ・ディーとのジェイリブ、DJレルズ、マッドヴィレン、カジモトは全部SP-303。ダドリー・パーキンズのときもそうだったな......どの機材を使うかは重要ではないんだ。どのレコードからサンプリングするかが大事。それと自分の脳の状態によっていい曲が作れるんだ。
■なぜSP-303を使い続けているのですか?
マッドリブ 簡単だからだよ。1分あればビートが作れるんだ。AKAI PROFESSIONAL MPC4000、E-MU SP1200も持ってはいるんだが、SP-303のパッドの方がたたきやすい。MPC4000はほとんど使っていないんだ。唯一使ったのは、あるグループの新しいシングル。音の違いで分かるよ。すごくハイファイに仕上がったんだけど、おれ自身はあまり気に入っていないんだ。
■ファイルは保存しないとおっしゃってましたが、普段はどういったプロセスでレコーディングしていくのですか?
マッドリブ ビートをROLAND VS-880にレコーディングして、すぐミックスするんだ。それで次のビートを作るだけだよ。正しいやり方ではないかもしれないけど、それがおれのやり方なのさ。レコーディングする際は各トラックに音は振り分けてあるんだけど、その場でミックスしてしまう。そして、ミックスした後はすぐにファイルを削除してしまうんだ。
■ベースやキーボードをレコーディングするときはどのようにして録っているのですか?
マッドリブ これも直接VS-880にレコーディングしている。クオンタイズとか同期はしないんだ。"ヒューマン・クオンタイズ"だけだよ。おれは少しズレた演奏の方が好きなんだ。パーフェクトな演奏だってできるけど、あえてズレたタッチを残すようにしている。おれはコンピューターじゃないからね......VS-880はおれにとってレコーダーでもあり、ミキサーでもあるんだ。高いバジェットの機材だって買えるけど、おれはこれで満足だよ。
■楽器やボーカルのレコーディングには、どんなマイクを使用しているのですか?
マッドリブ 20ドルくらいの安いマイクを使っているし、ヘッドフォンを使うことすらある。もっとそういうテクノロジーのことを気にするべきなんだろうけど、おれは興味がないんだ。どちらかと言うとレコードの方に興味があるんだよ。リー・ペリーみたいなダーティなサウンドにしたい。今のヒップホップのアーティストは、みんなサウンドがクリーン過ぎると思う。
■ダーティなサウンドの秘けつは?
マッドリブ ルールに従わないこと。おれはすべてのルールに反抗しているんだよ。とにかく、みんなと違うサウンドを目指している。
DJレルズ
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