スクエアプッシャー 発掘interview【4】 ~ WARPレコーズ特集

「録音された"マジック・テイク"は完全な状態にして、周りにほかのサウンドを構築していく」 (トム・ジェンキンソン/2004年インタビュー)

珍しく自身のポートレートをジャケットにし、ブレイクビーツの狂気から切なさいっぱいのメロウネスまで、心情をすべて吐露したかのような『ウルトラヴィジター』。名曲「Iambic 9 Poetry」制作の話も出てくる貴重なインタビューと相成った。


[この記事は、サウンド&レコーディングマガジン2004年5月号のものです] Translation:Suzukinosuke


エレクトロニカ全盛の昨今において、スクエアプッシャーの影響を口にするアーティストも少なくない。そんな第三者の発言もどこ吹く風か、作品を重ねるごとに濃密になっていく彼のサウンドは、真にオリジナルであり、もはや前人未踏の領域に踏み込んでいるものだ。新作『ウルトラヴィジター』では、ソリッドなブレイクビーツ、シンセ・フレーズ、生ベース、生ドラムが、深いリバーブかかったトラックの中に溶け込み、はかなくも優しい世界が惜しげもなく展開されている。この作品の制作作業について、トム・ジェイキンソンがE-Mailで答えてくれた。


重要な機材は、EVENTIDE OrvilleとDSP4000だね


■まず、今作の制作システムを教えてください。


トム  シーケンサーはYAMAHAのハードウェア、ミキサーはMACKIE.の8バス仕様のものを使った。重要な機材はEVENTIDE Orville×2とDSP4000だね。これらはコンピューターと組み合わせて独自のアルゴリズムを組んで使っているよ。ここで言う"アルゴリズム"はエフェクト・プロセッサーやシーケンサーとは異なるものだ。なぜなら僕が書くアルゴリズムは目的があいまいなものがほとんどだから。MIDIコントロールにより異なるユニットを組み立て、アルゴリズム自体にさまざまな機能を持たせることが可能になっているよ。音源については"どこからでも持ってくることが可能"と答えるね。サンプリング、リアルタイム・シンセシス、またサンプリング音をリアルタイムでリシンセサイズしたものを使っているよ。これらは常に修正できるようにしてあるので、決まったストラクチャーというものは無い。以前から変わらないことだけど、新しいトラックを制作するときはいつでもスタジオの配線を変えるよ。


■曲作りでの最初のアプローチはどのようなものが多いのですか?


トム  僕は制作の過程と作曲のプロセスや演奏といったものとを個別にはとらえてはいないんだ。これらすべてのプロセスは1つのもので、同じ領域に属している。制作の過程においてある行為が作曲につながることもあれば、その逆もある。例えば、ある種のディレイを加えることで、新たなメロディ要素を加えることになったりね。方法というのは、現在やらなければいけないことに対する単なる方便でしかないし、異なる手法をいつでも取り入れることができる。すべての事柄が混ざり合って、僕の音楽はできているんだよ。


■本作には生演奏も多く聴かれますが、演奏はすべてあなたが行っているのですか?


トム  そうだ。演奏したのはドラム、6弦ベース、クラシック・ギター、エレキギター、打楽器、銅鑼、FENDER RHODESのエレピ。さらにMIDIコンバーターを取り付けた6弦ベース経由でコンピューターのアルゴリズムも活用しているよ。すべての楽器は自宅スタジオでTASCAMの16トラック仕様レコーダーを使って録音した。エンジニアも自分自身なんだ。作品に生演奏を使う最大の理由は、シーケンサーやアルゴリズムを使うとより難しくなってしまう要素をその作品に盛り込みたいからだ。だから、それに編集を施してしまうのは全く意味が無いと考えているよ。ライブ録音を使うときは常に絶対に不可欠なところだけにして、後は尺を合わせる程度で極力編集しないでおくんだ。いったん"マジック・テイク"が録音されたら、それを完全な状態にしておいて、その周りにほかのサウンドを構築するようにしている。下手に切り刻んでしまい元来持っていなかった姿にしてしまうことは避けたいからね。例えば「Iambic 9 Poetry」は、生ドラムとそれ以外はすべてプログラミングによる音で成り立っているけど、ドラム・フレーズを2回演奏して録音し、それから連続する流れを形作っていったんだ。


■あなたの音楽では、音自体がまるで生き物のように変形・起伏する様が興味深いですね。


トム  僕は生命が垣間見せてくれるさまざまなコントラストをいつも楽しんでいるよ。もちろん音楽的なコントラストも僕を引き付けてやまないものだ。コントラストこそが、ほかと異なる存在として物事を際立たせる要素と言える。しかし、音楽は常に聴き手が居たところにその人を再び導くべきもので、"新たな光"を持って聴き手に示しているだけと考えている。強調や過大な解釈をされたコントラストは、物事の相対性や互いの関係性を照らし出すものなんだ。そういう意味で、音楽を制作する上での技術や方法に進歩はあっても、音楽自体には普遍的な考え方が存在すると考えているよ。



Ultravisitor.jpgSquarepusher 『Ultravisitor』


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