【ミックスパラレルワールド】浦本雅史がEmerald「MIRAGE」のミックス手法を解説

浦本雅史がEmerald「MIRAGE」のミックス手法を解説

リズムを近くで聴かせて懐かしい時代感を逃さないようミックス

同一曲を複数のエンジニアにミックスしていただき、その個性や音作りの手法を深掘りする企画“ミックスパラレルワールド”。最初に登場するのは、サカナクションやKID FRESINO、長谷川白紙などの作品を多数手掛ける浦本雅史だ。サウンドエンジニア/サウンドプロデューサーとして活躍する浦本が手掛けた「MIRAGE」は、低域の抜けの良さとリズム感が際立つミックスに仕上がった。今回のミックスについて、順を追ってその手法をじっくり解き明かしていただこう。


 題材曲 

Musician:中野陽介(vo、g)、藤井智之(b、cho)、磯野好孝(g)、中村龍人(k)、高木陽(ds)、藤井健司(prog、syn)、えつこ (cho/DADARAY、katyusha)、ユースケ(g/TAMTAM)、松崎和則(ASax)
Producer:藤井健司
Engineer:向啓介
Studio:世田谷REC、プライベート


ここから浦本雅史の2ミックスをダウンロードできます(パスコード:mixdown2024)。記事のミックス解説と併せてお聴きください!

※ダウンロード期限:2024年3月25日まで

ミックスのテーマ:リズムの立ち位置、ジャンル感を出すことを重視

 僕はミックスをするとき、リズムの立ち位置、曲全体のジャンル感を出すことを軸にして進めます。

 今回の「MIRAGE」では、ヒップホップやソウルのようなジャンル感をイメージしながら、中域の張り付き方がナチュラルだけど、ナチュラルすぎない、少し癖がある感じにしようと考えて進めました。例えば、ドラムやベースはヒップホップやダンスミュージックの方向だけど、懐かしさを感じさせる部分はソウルやチルっぽさを出そうと思って、ギターにテープシミュレーターをかけたり、サックスには長めのリバーブをかけたりしました。別ジャンルのエフェクトを当てることで、ちょっとしたジャンルの変化を音にするんです

 リズムは最もジャンル感が分かりやすいので、キックはヒップホップ、スネアはソウルのように組み合わせたりもしました。生楽器の音作りでは、まずは振り切った音色を試してみて、そこからだんだん戻していくように作業を進めました

 作業は自分のスタジオで行いました。DAWはAvid Pro Toolsで、オーディオインターフェースはLynx Studio Technology Aurora(n)16です。以前はアウトボードも使っていましたが、最近はPro Toolsの中だけで完結しています。プラグインにしかできない細かなことがありますし、ディレイやひずみなどのエフェクトに、とても面白いものが多いのです。

 モニタースピーカーはATC SCM150A Proを使っていて、よく聴こえる中域や小さな音のチェックはAURATONE 5C Super Sound Cubeで行いました。どのような環境で聴いてもバランスが取れている状態を作るために、このチェックは欠かせません。モニターコントローラーは、GRACE DESIGN m905を使っています。

 細かいリバーブ感や、ヘッドホン、イヤホンで聴いたときの定位や低域の聴こえ方などはDENON D7200で確認して、完成後のチェックにはApple AirPodsも使いました。

普段、浦本がレコーディングやミックスの拠点としている青葉台スタジオのStudio1。コントロールルームのコンソールはSolid State Logic SL4064G+で、モニタースピーカーにはATC SCM25A Proを採用する。なお、本企画のミックスでは、浦本は自身のスタジオにて作業を行った

普段、浦本がレコーディングやミックスの拠点としている青葉台スタジオのStudio1。コントロールルームのコンソールはSolid State Logic SL4064G+で、モニタースピーカーにはATC SCM25A Proを採用する。なお、本企画のミックスでは、浦本は自身のスタジオにて作業を行った

ポイント1:キック&スネアをレイヤーしてリズムを立たせる

 ミックスの流れですが、まずはPro Toolsにトラックを並べてオリジナルミックスを聴きながらどうしたいかを考えます。続いてデータの整理を行い、ノイズのチェックや、トラックネームと音色が合っているか、バウンスされたデータにテクニカルなズレがないかなどを確認していきます。実作業はリズム→ベース→歌→上モノのような流れで行うことが多いです。それぞれでバランスを作っていきますが、作り込みすぎず、全体ができてから見直すこともよくあります。

 リズムは生ドラムを生かしつつ、ちょっとした癖やしっかりした低音、スネアの近さが欲しいと考えました。生の音のバランスを取ったら、よりリズムを立たせるためにキックとスネアのMIDIデータを作って音色をレイヤーします。MIDI変換に使ったプラグインはMassey plugins DRT v2 Drum Replacerです

❶ドラムのMIDI変換にはMassey plugins DRT v2 Drum Replacerを使用。画面の最下段が生ドラムのオーディオデータで、それをDRT v2 Drum Replacerに読み込んでMIDIデータにしたものが最上段のトラックだ

ドラムのMIDI変換にはMassey plugins DRT v2 Drum Replacerを使用。画面の最下段が生ドラムのオーディオデータで、それをDRT v2 Drum Replacerに読み込んでMIDIデータにしたものが最上段のトラックだ

 まずはキックのMIDIデータを作るので、ドラムのオーディオデータを読み込んで、スネアのかぶりが鳴らないようにスレッショルドを設定してMIDIトラックを作ります。生成されたMIDIトラックをそのまま使うと元の音が鳴る位置とずれることがあるので、タイミングは一つずつ手作業で合わせます。特に今回は差し替えではなくレイヤーしたので、グルーブを出すためにも鳴るタイミングをしっかり合わせることが重要でした。この曲でキックにレイヤーしたのは、Spliceから探してきたサンプルです。

 その処理をスネアでも同様に行い、NATIVE INSTRUMENTS BATTERY 4に内蔵されているクラップのような質感のスネアを足しました。レイヤーする音色は自分のイメージしたジャンル感に近いものなどを探すのですが、元のスネアが生の場合は、近さを出すのが難しい場合があるので、重ねたときに、欲しい近さが出るのがポイントでした。なお、最終的にバックアップを取るときは、別の環境でも再生できるようオーディオ化しています。

❷サンプラープラグインのNATIVE INSTRUMENTS BATTERY 4。スネアの音像をより近くで聴かせるために、ここではClap 7Mile 1をレイヤーした

サンプラープラグインのNATIVE INSTRUMENTS BATTERY 4。スネアの音像をより近くで聴かせるために、ここではClap 7Mile 1をレイヤーした

ポイント2:何段階もコンプをかけてベースを安定させ、抜けの良い低域を作る

 ベースはグルーブや低域の長さを調整して、キックと一緒に鳴らして気持ちいいところに収まるようにします。例えば、このテンポならこれぐらい伸びていてほしいとか、このキーだったらこの帯域はあまり伸びてほしくないというような“長さの調整”を、ダイナミックEQの加減やボリュームの増減、コンプのリリースタイムなどで行います

 コンプは、基本的にUNIVERSAL AUDIO 1176系のプラグインを使っています。ここではWAVESのCLA-76を使い、モードはBLACKYを選択しました。レシオは8:1、アタックが少し速めの4.5、リリースが遅めの4という設定です。細かく数値を設定できるプラグインだとどうしても数字に引っ張られてしまうので、アタックもリリースも調整できてアナログのような直感的な操作ができる1176系をよく使います。

❸ベースでは、コンプのWAVES CLA-76をBLACKYモードで使用。レシオを8:1、アタックを4.5、リリースを4に設定した

ベースでは、コンプのWAVES CLA-76をBLACKYモードで使用。レシオを8:1、アタックを4.5、リリースを4に設定した

 続いて、色付けをするためにコンプのGOODHERTZ Vulf Compressor GHZ-0002 V3でひずみ感を足しました。そんなに強くかけているわけではないですが、このような個性が後々生きてきます。

❹色付けの用途で使用したコンプのGOODHERTZ Vulf Compressor GHZ-0002 V3。ドライ/ウェットの設定はドライ寄りで26%という設定だが、薄めでも後々個性が生きてくる

色付けの用途で使用したコンプのGOODHERTZ Vulf Compressor GHZ-0002 V3。ドライ/ウェットの設定はドライ寄りで26%という設定だが、薄めでも後々個性が生きてくる

 その後EQのfabfilter Pro-Q 3で365Hz辺りを抑えて低域のクリアさを出しました。ベースの少しボヤッとしがちなポイントは総じて300~400Hz辺りにあることが多いです。加えて、生のベースだと少し波があるので、安定させるために200Hz未満を抑えるダイナミックEQを設定しました。

❺EQはfabfilter Pro-Q 3を使用。低域の明瞭さを出すために365Hz辺りを、安定感を出すために200Hz以下をダイナミックEQでカット方向に調整している

EQはfabfilter Pro-Q 3を使用。低域の明瞭さを出すために365Hz辺りを、安定感を出すために200Hz以下をダイナミックEQでカット方向に調整している

 この後段では、WAVES Renaissance Bassで低音の存在感を強めてボトムをしっかり安定させます。そして最後にもう1回リミッターのMassey Plugins L2007 mastering limiterを入れてさらに安定させました

❻WAVES Renaissance Bassでベースの低域の存在感を強め、ボトムを安定させる

WAVES Renaissance Bassでベースの低域の存在感を強め、ボトムを安定させる

❼リミッターのMassey Plugins L2007 mastering limiterでより安定を追求

リミッターのMassey Plugins L2007 mastering limiterでより安定を追求

 低音を抜けさせたい場合、あるものだけで何とかするのもいいですが、サンプルを足したり、場合によってはベースにサブベースのようなものを足したりして、別のアプローチも考えてみるとよいと思います

ポイント3:ボーカルを前で聴かせるためにメロディやニュアンスを意識

 次はボーカルです。歌は一番前で聴かせたいので、メロディやニュアンスがしっかり聴こえるように意識しながら、ここまでで作ったリズムやベースのコードに合わせて、コンプやEQ、サチュレーション、リバーブなどをかけていきます。

 ボーカルの中野陽介さんの声は懐かしさを感じさせる雰囲気があるので、それを逃すことなく聴かせるためにWAVES CLA-76のBLUEYモードでアタックもリリースも速めの設定にしてしっかりコンプをかけました。BLUEYは、先述のBLACKYに比べるとひずみっぽいかかり方をする印象です。

❽ボーカルでは、CLA-76をBLUEYモードで使用。中野の懐かしさを感じさせる声質を生かすことを意識してコンプをかけていく

ボーカルでは、CLA-76をBLUEYモードで使用。中野の懐かしさを感じさせる声質を生かすことを意識してコンプをかけていく

 その後段では、色付けをしつつ少し近さを出す狙いでTONE PROJECTS KELVIN TONE SHAPERを使いました。ボーカル用のVocal - Texture [AM]というプリセットが気に入っていて、これを少し緩めて使っています。続けて、痛い部分をディエッサーのfabfilter Pro-DSでつぶしました。

❾CLA-76の後段では、TONE PROJECTS KELVIN TONE SHAPERを使って色付け

CLA-76の後段では、TONE PROJECTS KELVIN TONE SHAPERを使って色付け

 その後、ボディ部分を出すためにSolid State Logic(以下SSL)Channel Strip 2でロー感を足しました。Channel Strip 2は音量調整とEQの用途で全トラックに入れています。僕はSSLのコンソールで育ったので直感的に触りやすく、SSLのコンソールでも個体差がある中、コンプのかかり方が青葉台スタジオのSSLに近いような気がしています。

❿全トラックにインサートしているSolid State Logic Channel Strip 2。ボーカルでは、ボディ部分を出すために画面左のEQでローを付加した

全トラックにインサートしているSolid State Logic Channel Strip 2。ボーカルでは、ボディ部分を出すために画面左のEQでローを付加した

 僕はミックスの際、各トラックのボリュームフェーダーをほぼ0dBにそろえています。そうするとフェーダーは基本的に横一直線になって、再生中はオートメーションを書いているトラックだけが動くので、どのトラックにオートメーションを書いたか判別しやすくなるんです。例えば、曲全体のダイナミクスを付けるために、シンバルで言えば残響部分、ボーカルでは平歌で少し下げているので、それがパッと分かり、オートメーションの書き忘れなどの防止にもつながります。各チャンネルに挿したChannel Strip 2にOUT TRIMが搭載されているので、そこで音量バランスを取っています。

⓫ミックスでは基本的に各トラックのフェーダーを0dBにそろえ、オートメーションの有無が視覚的に分かるようにしている。ボリュームのバランスはChannel Strip 2のOUT TRIMで設定

ミックスでは基本的に各トラックのフェーダーを0dBにそろえ、オートメーションの有無が視覚的に分かるようにしている。ボリュームのバランスはChannel Strip 2のOUT TRIMで設定

ポイント4:ボーカルはトラックや場面ごとに空間系エフェクトを使い分ける

 メインボーカルは、ドライだとかなり近く聴こえて全体的に詰まった感じになるので、息苦しくならないようにリバーブで整えます。まずVALHALLA DSP ValhallaRoomで部屋の響きを出しました。続けて、もう少し広げるために使ったのがUNIVERSAL AUDIO Lexicon 480L Digital Reverb and Effectsです。実機でも愛用するLARGE CHURCHを薄くかけて、曲に壮大さを出しました

⓬UNIVERSAL AUDIO Lexicon 480L Digital Reverb and Effectsでは、実機でも愛用しているプリセットのLARGE CHURCHを使って曲に少し壮大さを出した

UNIVERSAL AUDIO Lexicon 480L Digital Reverb and Effectsでは、実機でも愛用しているプリセットのLARGE CHURCHを使って曲に少し壮大さを出した

 間奏中に高音で歌い上げる部分では、より響かせるためにXLN Audio RC-20 Retro Colorでかなり長いリバーブをかけました。古めな質感の響きによってチルっぽさやソウルっぽさが出るようにしました。

⓭リバーブのXLN Audio RC-20 Retro Colorをかけ、深い響きとチルやソウルのようなジャンル感を出す

リバーブのXLN Audio RC-20 Retro Colorをかけ、深い響きとチルやソウルのようなジャンル感を出す

 サビでは、Avid EQ Ⅲでローカットを入れたあとに、ディレイのsoundtoys EchoBoyを2つ、それぞれ奥行きと左右の広がりを出すために使いました。奥行きを出すためのものには4分音符のディレイ、左右の広がりを出すためのものではショートディレイ、ともにセンド&リターンでうっすらかけています。

⓮サビのトラックにはsoundtoys EchoBoy。1つは奥行きを出すために4分音符のディレイをかけた

サビのトラックにはsoundtoys EchoBoy。1つは奥行きを出すために4分音符のディレイをかけた

⓯もう一つのEchoBoyには、薄くショートディレイをかけ、左右の広がりを出すために使用

もう一つのEchoBoyには、薄くショートディレイをかけ、左右の広がりを出すために使用

 ハモも基本的には似たような処理ですが、少し華やかにしたかったので、soundtoys Little alterboyをインサートしてメインの1オクターブ上のボーカルを作って足しました。加えて、元のトラックは生感が強かったので、フランジャーのAIR Flangerで少し揺らしてにじませてあります。

 アウトロのコーラスでは、同じくLittle alterboyを足して華やかさを出しました。ただしこちらは、ぐちゃっとしないように何カ所か区切ってミュートしています

⓰soundtoys Little alterboyで1オクターブ上のコーラスを加えて華やかさを付加。上段に表示されているトラックがコーラスで、ところどころミュートすることで音がぐちゃっとしすぎないように調整している

soundtoys Little alterboyで1オクターブ上のコーラスを加えて華やかさを付加。上段に表示されているトラックがコーラスで、ところどころミュートすることで音がぐちゃっとしすぎないように調整している

ポイント5:上モノのリズム感を近く聴かせることを意識

 上モノは歌に対してコード感やフレーズのバランスを取りつつ、何をどの距離で響かせるか探りながら進めました。演奏しているものはドラム以外でもとにかくリズムを近くで聴かせることを意識しています

 リズムものとコードを近くで出すために、まずはシンセのバッキングを右に振り切りました。しっかり張り付いて、ベースと同じくらいの音量感です。シンセでは特に“Key2_Pan”というトラックが好きで、元はモノラルに近かったのですが、近さと奥行きを出すためにリバーブで距離感を表現しました。さらに近さを出し、最後は広い印象でフェードアウトしかったので、オートパンのsoundtoys PanManで動きを出して、リミッターのWAVES L1 LIMITERで前に出してからさらに広げ、RC-20 Retro Colorでリバーブもしっかりかけました。

⓱“Key2_Pan”にオートパンのsoundtoys PanManで動きを出す

“Key2_Pan”にオートパンのsoundtoys PanManで動きを出す

 ギターのフレーズは左に流し、テープシミュレーターのMassey Plugins TAPEHEAD saturatorでテープ感を付加します。これは操作がシンプルかつ音の変化が大きいので、分かりやすくアナログの質感を加えたいときに便利です。これで大きく変えた後に、WAVES CLA-3Aでグルーブがしっかり出るようにコンプをかけています。そこからChannel Strip 2でしっかりバッキングのリズム感を出せるようにEQをします。その際にはソロで聴かずにボーカルやここまで作った音を出しながら作業するようにしています。

⓲ギターフレーズにMassey Plugins TAPEHEAD saturatorでテープ感を付加

ギターフレーズにMassey Plugins TAPEHEAD saturatorでテープ感を付加

⓳WAVES CLA-3Aでグルーブが出るようにコンプをかける

WAVES CLA-3Aでグルーブが出るようにコンプをかける

 サックスに使ったテープシミュレーターのWAVES Kramer MPX Master Tapeはかかり方が絶妙で、薄くかかるけど、あると仕上がりが変わるんです。最後はほんの少しL1 LIMITERをかけました。その後はCLA-76 BLUEYでしっかりコンプしてからリミッターをかけました。

⓴サックスに使ったテープシミュレーターのWAVES Kramer MPX Master Tape

サックスに使ったテープシミュレーターのWAVES Kramer MPX Master Tape

 何段もリミッターをかけつつも、張りつきすぎて息苦しくならないように、そして奥行きを出すためにリバーブをRC-20 Retro Colorで深くかけて色っぽく仕上げました。

 サックスのソロを聴かせるための手法として音量も調整していて、基本は0dBなのですが、ソロ直前のBメロで6dBくらい下げています。ずっと大きく出ていると少し印象が弱くなるので、聴かせたいポイントの直前で少し下げてから聴かせたいタイミングでグッと前に出すことで目立つんです。周波数の調整でも同様に、聴かせたい周波数の両側の帯域をちょっと抑えたりするとよいと思います

 そのほか、アナログ卓のようなドライブ感を出すためにPro Tools上のHEATをチャンネルによってオンにします21

㉑リズムを出すようなトラックには、Pro Tools内の機能であるHEATを入れてアナログ卓のようなドライブ感を出す

21リズムを出すようなトラックには、Pro Tools内の機能であるHEATを入れてアナログ卓のようなドライブ感を出す

ポイント6:マスターセクションでは自作のテンプレートを活用

 マスターセクションではUNIVERSAL AUDIO Manley Variable Mu Limiter Compressorでコンプをかけます22これはいつも使うテンプレートに入れていて、アタックを少しゆっくりめにしてDUAL INPUTを少し上げ、その分OUTPUTを少し下げて好みの質感にしています。ハイパスのサイドチェインスイッチもオンにしました。

22マスターセクションに使うUNIVERSAL AUDIO Manley Stereo Variable Mu Limiter Compressorは、モデリング元の実機でも愛用してきたコンプ。DUAL INPUTをブーストしてOUTPUTのツマミを少し下げることで好みの質感を狙う。ハイパスフィルターのサイドチェイン(HP SC)もオンにした

22マスターセクションに使うUNIVERSAL AUDIO Manley Stereo Variable Mu Limiter Compressorは、モデリング元の実機でも愛用してきたコンプ。DUAL INPUTをブーストしてOUTPUTのツマミを少し下げることで好みの質感を狙う。ハイパスフィルターのサイドチェイン(HP SC)もオンにした

 その後段では、テープエミュレーターのCRANE SONG PHOENiX Ⅱで少しまとめます23歌にコンプがかかって歌以外が下がったときにも、低音などのグルーブが崩れないように意識しました

㉓テープエミュレーターのCRANE SONG PHOENiX Ⅱもテンプレートに入れているもので、任意の設定で組んだプリセットを元にして調整を行った

23テープエミュレーターのCRANE SONG PHOENiX Ⅱもテンプレートに入れているもので、任意の設定で組んだプリセットを元にして調整を行った

 そのほか、曲の最後のフェードアウトの長さは、少し時代感を出すために原曲より早めに終わるように調整しました。

 最後は、マスタリング的な作業で、より歌がフォーカスされるように中域をEQで調整し、ビートを出すためにiZotope Ozoneでリミッターをかけました。マスタリングエンジニアにはこの作業を行ったものとリミッターを抜いたもの両方の2ミックスを送り、リミッティング前のものを使ってマスタリングを行っていただきます。今回、最終的な書き出しは元データのまま32ビット/96kHzで行いました。

Mix Advice by 浦本雅史

浦本雅史

1. まずはやりたいようにやってみる

 音楽は自由だと思いますし、触ってみないことにはイメージも湧いてこなかったりもするので、まずは一度好きにやってみるのがいいと思います。今はミュージシャンがミックスするのも当たり前な時代になってきて、プロのエンジニアは、エンジニアリングはもちろん、アーティスティックな部分も求められるようになりました。一方で、スタジオでエンジニアリングを学んでいないからこそできる部分も絶対にあると思うので、まずは触りたいように触って、ツマミを全部回してみるとどうなるかなども実際にやって確かめてみるといいと思います。

2. 作っているパートだけに集中しすぎない

 ミックス中は、作業中のパートだけを聴かないようにした方がいいでしょう。歌の調整をするときにソロで聴かないとか、リバーブをかけるときにリバーブの成分だけを聴くのではなく曲を聴きながら判断するとか、聴いているようで聴いていないような感覚でずっとやっています。自分が作りたいものを作ろうと意識しすぎていると、作っている途中に思いがけず“これは良い”と思えるタイミングを逃してしまうかもしれません。プラグインを使うときも、数値にとらわれすぎてそういう瞬間を逃さないように気を付けた方がよいですね。


【Profile】サウンドエンジニア/サウンドプロデューサー。青葉台スタジオ所属。サカナクションやKID FRESINO、長谷川白紙、a子などの作品に携わる。サカナクションの作品ではレコーディングやミックスのほかライブマニピュレーターも務め、バンドの表現にさまざまな側面から深くかかわる。

【特集】ミックスパラレルワールド〜Emerald「MIRAGE」のミックスに挑戦しよう

5人のエンジニアによる題材曲のミックス音源、ミックスコンテスト用の音源素材のダウンロード方法はこちらのページで!(音源ダウンロード期限:2024年3月25日まで)