【実践編】インピーダンスで何が変わる?|インピーダンスって何だっけ?25のQ&Aで完全攻略!

【実践編】インピーダンスで何が変わる?|インピーダンスって何だっけ?25のQ&Aで完全攻略!

音楽制作をしている方なら、どこかで必ず耳にする“インピーダンス“というワード。しかし、“その正体って、何?“と聞かれたら、意外と曖昧になってしまう人もいるのではないでしょうか? この特集では、音響ハウスで数々の機材のメインテナンスや修理を行っている須田淳也氏を講師に迎え、インピーダンスにまつわる25のQ&Aを紹介! 続いては実践編と題し、マイク、ギター、ヘッドフォンなど、機材を接続する際のインピーダンスをピックアップ。これを読めば、今日から機材の見え方が変わるかも⁉

Q8. マイク入力とライン入力で入力インピーダンスは異なりますか?

A8. 異なります。入力を想定した機材の出力インピーダンスに合わせています

 オーディオI/Oでは、XLR端子のマイク入力と、フォーン端子のライン入力が備わっていることが多いと思いますが、これらの入力インピーダンスの値は異なります。マイク入力は一般的に1~5kΩ前後、ライン入力は50kΩ前後に設定(コンソールなどでは10kΩの場合あり)されていることが多いでしょう。ライン入力の方が高いですね。これは、ソースとなる機材の出力インピーダンスが機材によって異なるためです。出力トランスを備えているコンデンサー・マイクは、出力インピーダンスが非常に低いので、ロー出しハイ受けの視点からすると、マイクをライン入力に接続しても問題ありません。ただライン入力は、ゲイン特性が低い=マイクの入力レベルを十分に上げられないという、インピーダンスとはまた別の問題があるため適していないのです。よほどの事情がなければ、マイクはマイク入力に接続するのがよいでしょう(昨今のコンデンサー・マイクの中にはアンプ・ゲインが高く、ライン入力でも使えそうな製品も存在します)。

※仮にライン入力にコンデンサー・マイクを接続する場合、別途、ファンタム電源ユニットを用いる必要あり

Q9. マイクの種類によって出力インピーダンスは異なりますか?

A9. 若干の差はありますが基本的には大きな差はありません

 48Vファンタム電源で動作するタイプや、真空管回路を搭載し専用の電源ユニットを使って動作するコンデンサー・マイクは、マイク本体の出力トランス=変圧器によって出力インピーダンスが低くなるように設計されていることが多いです。ビンテージのリボン・マイクなどは電源で動作せず、リボンの振幅とマグネットからなるシンプルなパッシブ回路で、回路自体のインピーダンスは非常に高いのですが、こちらも同様に出力トランスを搭載していることが多いので、結果的に出力インピーダンスは低くなります。

左から、ダイナミック・マイク、リボン・マイク、コンデンサー・マイク。回路インピーダンスが高く出力トランスを備えている場合は、低インピーダンス化されている。写真のマイクはいずれも出力トランスを搭載している製品だ

左から、ダイナミック・マイク、リボン・マイク、コンデンサー・マイク。回路インピーダンスが高く出力トランスを備えている場合は、低インピーダンス化されている。写真のマイクはいずれも出力トランスを搭載している製品だ

Q10. マイクとマイクプリのインピーダンスの関係は気にするべき?

A10. 一般的にはそれほど気にしなくても大丈夫です

 今の時代に現行品として流通している通常のマイクであれば、あまり気にしなくても問題ありません。

Q11. ギターなどをつなぐ“Hi-Z入力”って?

A11. インピーダンスが高い機材をつなぐための端子です

 オーディオI/Oやミキサーには、マイク/ライン入力のほかに“Hi-Z入力”という機能を備えているものがあります。これはエレキギターなどの出力インピーダンスが高い楽器を接続するための端子です。一般的なエレキギターは、出力インピーダンスがとても高いので、マイク入力やライン入力に入力すると、ロー出しハイ受けの状態にできなくなってしまいます。エレキギターをオーディオI/Oに直挿しで録音/演奏するときは、Hi-Z入力に接続しましょう。ちなみにZとはインピーダンスを表す記号で、“Hi-Z”とは“ハイインピーダンス”という意味です。Hi-Z入力の入力インピーダンスは1MΩ程度。

Hi-Z入力はライン入力と同一の端子上に備わる機材も多い。接続すると自動でHi-Z入力が有効になるもの、ボタンでライン入力とHi-Z入力を切り替えるものなど機材によってさまざま

Hi-Z入力はライン入力と同一の端子上に備わる機材も多い。接続すると自動でHi-Z入力が有効になるもの、ボタンでライン入力とHi-Z入力を切り替えるものなど機材によってさまざま

Q12. DIって何のために必要?

A12. 楽器のインピーダンスを下げて出力するために必要です

 DI(Direct Injection Boxの略称)はQ11のHi-Z入力と同様、出力インピーダンスが高い楽器のインピーダンスを下げるために使用することが多い機材です。インピーダンスを下げると、流すことができる電流も増える。つまり信号レベルを大きくできるということです。

Q13. Hi-Z入力やDIを使わないと音にどんな影響がありますか?

A13. ノイズの影響を受けたり、意図しない音の劣化を生んでしまいます

 エレキギターやエレキベースの生音ってすごく小さいですよね。その小さな音を、ピックアップのような回路で電気信号に変換するとインピーダンスは必然的に高くなり、そのままケーブルで引き回すとノイズの影響をもろに受けてしまいます。その影響を抑えるためにDIを用います。トランジスター黎明期に近い古典的な回路のDIや真空管を用いたDIもあり、それらで固有のキャラクターを付加することもありますね。ただ、どちらかというとステージやレコーディングではエレキギターにDIを使いませんよね。これはギター・アンプ、ベース・アンプにつないで楽器とアンプを一つのシステムとして見ることで、エレキギターが意図的にレベルをブーストして生まれるひずみで固有の音を作るという特性があるから。オーディオ機器と異なり、ハイインピーダンスによる弊害やアンプの真空管回路の特徴を逆手に取って、クリエイティブに活用する例もあるんです。

Q14. シンセなどの電子楽器の場合もインピーダンスは気にした方がよいですか?

A14. 基本的には気にしなくて大丈夫ですが、ビンテージのシンセサイザーでは例外も

 基本的に電子楽器は出力段で低インピーダンス化されていたり、出力トランスが搭載されているため、ある程度信号が増幅されています。音量をある程度出せる=出力インピーダンスが低くなっているので、気にしなくてもよいかと思います。つまり、Hi-Z入力ではなく、ライン入力への接続で問題ありません。まれにビンテージのシンセサイザーでは例外も考えられるので、ビンテージ愛好家の方は少し念頭に置いておきましょう。また、レコーディング・スタジオやステージにおいては、キーボードやシンセサイザーをDIに接続することもしばしばあるかと思いますが、これには習慣的な面もありつつ、低インピーダンス化が目的です。DIを用いてライン・レベルの信号にします。受け手の機材の入力インピーダンスが高ければ直接接続しても事実上、問題ありません。

Q15. オーディオI/Oの出力を、エフェクターやギター・アンプ、アウトボードへ接続する場合、インピーダンスへの配慮は必要ですか?

A15. 現代のオーディオI/Oは出力インピーダンスが低いので大丈夫でしょう

 これもやはり機材の進化によって、現在流通しているようなオーディオI/Oであれば、出力インピーダンスが低くなるよう設計されていてある程度の電流が流れるようになっているので問題ないです。ビンテージのアウトボードなどであっても、入力インピーダンスが極端に低い機材はなかなかないと思います。ロー出しハイ受けを意識しましょう。

Q16. ヘッドフォンのインピーダンスの違いって気にした方がいいですか?

A16. 再生装置によって合う/合わないがあるので気を付けましょう!

 ここまでロー出しハイ受けに気を付けていればOKというお話でしたが、最終的に音を出力するヘッドフォンやイアフォンでは少し趣が異なってきます。特に、スマートフォンの音楽をヘッドフォンで直接聴きたい場合などは要注意です。ドライバーのインピーダンスを設計上意図的に低くしているようなヘッドフォンは、再生するために多くの電力を必要とします。しかし、スマートフォン内のアンプは多くの電流を流すパワーを持っていないためうまく再生されないことがあるのです。比較的求めやすい価格帯のヘッドフォンやイアフォンなどは、スマートフォンの再生に向いている製品も多いので、導入の際は可能であれば試してみるとよいでしょう。

イアフォンとスマートフォン。イアフォンやヘッドフォンは、再生装置に合わせて選ぶようにしよう

イアフォンとスマートフォン。イアフォンやヘッドフォンは、再生装置に合わせて選ぶようにしよう

Q17. ヘッドフォン/イアフォンを選ぶ際はインピーダンスにだけ気を付けてればいい?

A17. 〝能率〟も関わってきます

 ヘッドフォン/イアフォンやスピーカーを選ぶ際は、インピーダンスのほかに〝能率〟の値も気にするとよいでしょう。能率とは、1Wの電力でスピーカーやドライバーを鳴らしたときに、1m離れた位置からどれくらいの音の大きさ(dB)で聴こえるかという基準です(ヘッドフォンの基準電力は1mW)。この値が大きいほど、同じ大きさの入力信号のときにより大きな音量で再生できます。つまり、インピーダンスの値が問題なくても、能率の低い機種を選ぶと十分な音量を得られなかったり、良い音で再生できない場合があるので注意が必要です。出力インピーダンスが低く、出力が大きなアンプを推奨します。

Q18.インピーダンスがすごく低い、もしくはすごく高いヘッドフォン/イアフォンはどうやって再生すればいい?

A18. ヘッドフォン・アンプを使いましょう

 いろいろなメーカーが、さまざまなインピーダンスを持つイアフォン/ヘッドフォンを開発しています。入力インピーダンスを低く設定しながら能率が高いヘッドフォンもあれば、能率も低いモデルもある。その反対に、高い入力インピーダンスを持つヘッドフォンもあります。これらをきちんと再生できるのが、出力インピーダンスの低いヘッドフォン・アンプ。アンプの出力段(電力増幅段)が低インピーダンスで動作(電流供給できる)するので、どのようなスペックを持つモデルでも強力に駆動し、十分な音量と音質を得られます。オーディオI/Oにもヘッドフォン・アンプが内蔵されていることが多いので、ヘッドフォンの駆動力を機材選びの目安の一つにしてもいいかもしれません。

ヘッドフォン・アンプとヘッドフォン。ヘッドフォン・アンプには、写真のような大型の据え置き型だけでなく、スマートフォン・サイズにDACを搭載したポータブル・タイプもある

ヘッドフォン・アンプとヘッドフォン。ヘッドフォン・アンプには、写真のような大型の据え置き型だけでなく、スマートフォン・サイズにDACを搭載したポータブル・タイプもある

Q19. スピーカーとパワー・アンプのインピーダンスの関係について教えてください。

A19. 使用するスピーカーに合わせて、出力インピーダンスが低いパワー・アンプを選びましょう

 アンプ内蔵のアクティブ・スピーカーであれば、入力インピーダンスを確認し、オーディオI/Oの出力インピーダンスとの関係がロー出しハイ受けになればOKです。パッシブ・スピーカーの場合はパワー・アンプが必要になります。もし能率が低いスピーカーをしっかり駆動させようと思ったら、性能が高く、出力インピーダンスが低いパワー・アンプを選ぶ必要があります。またPA用のスピーカーは、爆音で鳴らすために能率が高く、その上でインピーダンスはスピーカーとしては高い値に設定されているので、パワー・アンプの駆動に余裕が生まれます。逆にハイエンドなパッシブ・スピーカーの場合だとインピーダンス(能率も)は低い場合が多いので、パワー・アンプはそれに耐えうる出力インピーダンスが低いものを選ばないといけません。

COLUMN|PAスピーカーのパラレル接続

 ライブ会場では音をより拡散させるために、1箇所に対して複数のスピーカーを使うことが多いですよね。このとき、スピーカーの接続方法によって、パワー・アンプ側から見た入力インピーダンスは変化します。例えば、2chのパワー・アンプに対して入力インピーダンスが16Ωのスピーカーを2台接続する場合、1chに1台ずつ接続すると、両方のスピーカーの入力インピーダンスは16Ωとなります。しかし、1chに2台のスピーカーを並列に接続(パラレル接続)すると、入力インピーダンスが小さくなり、1台あたりの入力インピーダンスは8Ωになるのです。この考え方は、PAスピーカーとパワー・アンプの組み合わせを選ぶ際に必要になるので、知っておくとよいでしょう。

※解説と図表は簡潔に説明するための一例です

※解説と図表は簡潔に説明するための一例です

【特集】インピーダンスって何だっけ?25のQ&Aで完全攻略!

初級編 〜やさしいインピーダンス入門〜
応用編 〜もっと知りたい!インピーダンス〜

 

須田淳也(音響ハウス)

須田淳也(音響ハウス)
大の音楽好きのテック・エンジニアで約30年のキャリア。とりわけビンテージ機材に強く、マイクをはじめ直すだけではなくオリジナルの良さを生かしチューニングも行う。さらに機材販売やビルの構造管理まで受け持つ、何でも屋的な立ち位置

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