アフリカン・ダンスミュージック特集!ゴムやアフロビーツなどの必聴ディスクを紹介

アフリカン・ダンスミュージック特集!ゴムやアフロビーツなどの必聴ディスクを紹介

特集の最後は、アマピアノ以外にも世界的注目を浴びているアフリカン・ダンスミュージックにフォーカス。アフリカの伝統的な音楽と現代的なサウンドが融合した気鋭ジャンルを3つ紹介しよう。各ジャンルには“必聴ディスク”を2作品ずつピックアップしたので、それらを聴きながら本文を読みすすめると、さらに理解が深まることだろう。

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シンゲリ(Singeli)〜タンザニア(東アフリカ)起源の高速エレクトロミュージック

 シンゲリは、タンザニアの首都=ダル・エス・サラームのストリートで2000年代前半に生まれたダンスミュージック。東アフリカのスワヒリ文化圏における伝統音楽ンゴマや、タアラブ、ボンゴフレーバーといった現地のポピュラー音楽を電子音楽とかけ合わせたものだと言われ、世間に認知され始めたのは2010年頃だそうです。ステージではsteinberg CubaseやImage-Line Software FL Studioで制作されたビートに乗せ、スワヒリ語のラッパーとダンサーがパフォーマンスします。

 最大の特徴は高速なテンポとアーティストの若さ。主に10代後半〜20代前半が中心で、テンポは180〜300BPMにおよぶ曲も存在します。もともとシンゲリは貧しい地域における野外パーティーで楽しまれていましたが、現在はタンザニア国内でラジオ放送されたり、選挙キャンペーンで使用されるまで市民権を得ているようです。

 シンゲリが国際的に知られるようになったのは、ウガンダのレーベルNyege Nyege Tapesによるところが大きいでしょう。2017年にリリースされたコンピレーションアルバム『Sound Of Sisso』は、その斬新なサウンドからEUを中心に話題となりました。

 

『Sounds of Sisso』V.A.(Nyege Nyege Tapes)

 

 2019年にかけてはBanba Pana、Jay Mittaといったアーティストたちの作品が次々と世にリリースされ、2021年にはDJ/プロデューサーDuke率いるPamoja Recordsのコンピレーションアルバム『Sounds of Pamoja』が発売。現在は、2022年に19歳でデビューしたDJ Travellaが一番の若手注目株です!

 

『Sounds of Pamoja』V.A.(Nyege Nyege Tapes)

文化の盗用(Cultural Appropriation)とは?

 これは特に近年の欧米で指摘されるようになった問題で、他の文化を無断で使用する、あるいは勝手に使用することを意味します。しばしば“模倣は最大の賛辞”と言われますが、どこからが問題になるのでしょうか? それは、経済的/社会的格差を考慮に入れたときです。例えば世界的に見れば経済大国である日本の音楽制作者が、アフリカの路上で生まれた音楽をそのまま真似して発売し、それによって収益を得る場合、それは文化の盗用や文化資産の搾取と見なされることがあります。この問題を回避するにはインスパイア元となった楽曲をクレジットしたり、収益の一部を還元する方法があります。しかし最も望ましいのは単なる模倣にとどまらず、影響を受けた文化を尊重しつつ、独自の新しい音楽スタイルへと昇華させることでしょう。

Yuko Asanuma

Yuko Asanuma
【PROFILE】ベルリンを拠点に、音楽に関する執筆、翻訳、アーティストのブッキングやマネージメントなどに携わるフリーランス。訳書に『アンジェラ・デイヴィスの教え: 自由とはたゆみなき闘い』(河出書房新社)などがある。

ゴム(Gqom)〜テクノ/ベースミュージック × 南アフリカ音楽のミクスチャー

 ゴムは、南アフリカの代表的な都市の一つ、ダーバンのタウンシップ(※1)で誕生したダンス・ミュージック。テクノやハウス、ベースミュージック、ブロークンビーツ、クワイト(※2)、民族音楽などが混ざり合ったサウンドで、中心テンポは125〜130BPMです。ズールー語で“ドラム”を意味します。2010年頃に生まれたと言われており、プロデューサーたちは“Kasimp3”という音楽共有サイトに楽曲をアップし、現地の乗合タクシーやクラブでプレイされることで各地に広まっていったそうです。海外ではDJのコード9らがUKクラブシーンでヘビープレイ。2015年にロンドンのレーベルGoon Club AllstarsからリリースされたRudeboyz『Rudeboyz EP』や、レーベルGQOM OH!が制作したコンピレーションアルバム『Gqom Oh! The Sound of Durban』によって、ゴムは世界中のアンダーグラウンドミュージック・ファンに注目されました。

※1:南アフリカにおいて、主にアパルトヘイト(人種隔離政策)時代に黒人専用の居住区として指定された区域のこと。現在も多くの黒人が暮らしている
※2:アパルトヘイト終結後の1990年代に、南アフリカで発展した音楽ジャンル。ハウスをルーツとしており、跳ねるようなビートと現地の言葉によるラップや歌が乗るのが特徴

 

『Gqom Oh! The Sound of Durban)』V.A.(GQOM OH!)

 

 大きな転機となったのは2016年。南アフリカでBabes WodumoとMampintshaによる「Wololo」が大ヒット。続いてDJ Maphorisaなどメジャーシーンで活躍するプロデューサーたちもゴムを取り入れ、国中で大流行となります。

 

『Wololo(feat. Mampintsha)』(『Gqom Queen, Vol. 1』収録)Babes Wodumo(West Ink Records)

 

 その後2019年にはビヨンセ「MY POWER」にDJ LagやBusiswa、Moonchild Sanellyといった南アフリカのプロデューサーやアーティストが起用されたことで、世界的な話題に。近年はアマピアノの流行に押されて衰退したかのように見えましたが、新たな派生ジャンルが生まれるなどゴムは今でも広がりを見せています。

mitokon

mitokon
【PROFILE】南アフリカ音楽に特化したDJで、ライターの板谷曜子としても活動。ゴムのパーティークルー“TYO GQOM”のメンバー。DJやSNS、音楽誌への寄稿を通じ、アフリカの最新音楽シーンの魅力を発信している。

アフロビーツ(Afrobeats)〜西アフリカ産のポップスにレゲトンやヒップホップ要素が融合

 アフロビーツは2000〜10年代にかけて、ナイジェリアやガーナを中心とする西アフリカで誕生した音楽ジャンル。UKで人気を博したことで世界へ広がりました。フェラ・クティで有名なアフロビート(※3)の影響を受けながらも、ハイライフやジュジュ、フジといった西アフリカの伝統的なポピュラー音楽と、ダンスホールレゲエやレゲトン、ヒップホップ、R&Bといったジャンルが融合しています。リズムとしてはクラーベ※4と呼ばれるキューバ音楽特有のリズム“3-2”や、トレシージョ※5の“3-2-3”が主流。制作にはImage-Line Software FL Studioが広く用いられています。ダンスホールレゲエと比較すると、キックやベースをやや控えめに鳴らす傾向が特徴です。

※4:キューバのポピュラー音楽において一般的なリズムパターン。最初の小節に3つの音符があり、2番目の小節に2つの音符がある“3-2”と、その逆である“2-3”のパターンがある
※5:クラ—ベと同じく、キューバのポピュラー音楽において一般的なリズムパターンの一つ。“3-3-2”のパターンを持つ

 アフリカの社会/政治/経済的問題への主張が多くのリスナーの共感を呼び、初期にはディバンジ、Fuse ODG、2Babaらが、そして2010年代半ばからはバーナ・ボーイ、ウィズキッド、Davidoらが同シーンを牽引し、アフロビーツを世界的なブレイクに導きました。ウィズキッドは2016年にドレイクとの「ワン・ダンス」で脚光を浴び、バーナ・ボーイは2020年のアルバム『トワイス・アズ・トール』でグラミー賞を獲得。近年、アフロビーツのアーティストたちは米国市場への進出が顕著で、2024年開催予定の第66回グラミー賞では“最優秀アフリカン・ミュージック・パフォーマンス賞”カテゴリーが新設されるなど、アフロビーツやそのほかのアフリカ音楽の影響力が増しています。経済成長と平行して、今後ますますアフロビーツは世界の注目を集めていくでしょう。

 

『ワン・ダンス feat. ウィズキッド&カイラ』(『ヴューズ』収録)ドレイク(ユニバーサル)

 

『トワイス・アズ・トール』バーナ・ボーイ(ワーナーミュージック・ジャパン)

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アオキシゲユキ
【PROFILE】アフリカ音楽キュレーター。コンゴのファッション集団サプールをきっかけにアフリカにはまる。不定期でJ-WAVE「SONAR MUSIC」に出演。「ゆらぎ」「Party No Dey Stop」のクルーとしても活動。

【特集】アマピアノ制作術

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