TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days 〜DEVOTION〜 Day25【コンサート見聞録】

TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days 〜DEVOTION〜 Day25【コンサート見聞録】

結成40周年を目前に控え全11都市で16公演が行われた『DEVOTION』リリースツアーの最終公演に迫る!

2024年がデビュー40周年となるTM NETWORK。その活動は今なお加速し続けており、2023年6月にアルバム『DEVOTION』を発表し、ライブツアー『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days 〜DEVOTION〜』を同年9月からスタートさせた。今回編集部は、11月30日に東京国際フォーラム ホールAで開催されたツアー最終日を訪問。音響を担当したスターテックの代表取締役/サウンドデザイナーの志村明氏に、PAシステムについて話を伺った。

DATE:2023年11月30日(木)
PLACE:東京国際フォーラム ホールA
PHOTO:Makiko Takada(ライブ)、小原啓樹(機材)

2階席に向けて振り上げるようにスピーカーを配置

 メインスピーカーには、JBL PROFESSIONAL VTX AシリーズのVTX-A12を採用。L/Rに各13台リギングしており、ロウワー(1階席前方)、ミドル(1階席中央以降)、アッパー(2階席)と3ブロックに分けてコントロールしている。

 「下の2台がロウワーで、ここだけ水平指向角度がVTX-A12より30°広い、120°のVTX-A12Wにしています。その上の6台がミドル、一番上の5台がアッパーです」

 東京国際フォーラム ホールAは、座席数5,012の日本でも有数の広さを誇る大ホールだ。これまでに志村氏はホールAで何度も音響を担当しているとのことだが、音場を作るにあたって特に注意している点は何なのだろうか。

 「音を均一にするのが難しいですね。一番後ろの客席まで、ロー感も含めて届けるにはどうするか。音響会社によってはメインスピーカーをもっと高い位置まで上げている場合もありますが、我々は低めにして振り上げるようにしています。2階席部分にあたる1階席の天井には吸音材が入っているようで、上から振り下ろすと音がぼやけてローもハイもない圧縮された音になってしまうんです」

 ラインアレイスピーカーは設置する角度によって音圧が変わるそう。会場がどこであっても、まずはJBL PROFESSIONALの音響モデリングソフトLine Array Calculatorを使って均一な音場になるようプランニングしている。さらにオーディオアナライザーMeyer Sound SIM3、スピーカーマネージメント・システムMeyer Sound Galileo GALAXYを用いてチューニング。本番が始まってからも調整は続く。

 「システムエンジニアの方と、私も2階席まで上がります。特に初日(編注:取材前日の11月29日)の開演直後には、“ここの帯域が吸われた”というポイントを、Galileo GALAXYをワイヤレスで操作して調整しました」

東京国際フォーラム ホールAのステージをFOHのPA席から見たところ

東京国際フォーラム ホールAのステージをFOHのPA席から見たところ。L/Rの外側とステージ中央上にあるラインアレイスピーカーは会場常設のもので、今回のライブでは用いられていない

メインスピーカーのJBL PROFESSIONAL VTX-A12

メインスピーカーのJBL PROFESSIONAL VTX-A12。13台をロウワー(1階席前方)、ミドル(1階席中央以降)、アッパー(2階席)とブロック分けして客席を狙っている。最下段のロウワーの2台は、水平指向角度の広いVTX-A12Wとなっている

L/Rそれぞれのステージ脇に、サブウーファーJBL PROFESSIONAL VTX-S28を3台スタックしたセットを2つ用意

L/Rそれぞれのステージ脇に、サブウーファーJBL PROFESSIONAL VTX-S28を3台スタックしたセットを2つ用意。ツアーのほかの会場では1セットだったが、ホールAの広さに合わせて追加された。ニアフィル、アウトフィル用としてVRX932LA-1も配置。なお写真中央のマイクは映像収録用のもの

ステージ前方にはMeyer Sound UPJ-1Pを等間隔に4台設置

ステージ前方にはMeyer Sound UPJ-1Pを等間隔に4台設置。前方の客席はメインスピーカーよりもステージが近いため、リップシンクを補正する用途とのこと

FOHに置かれたメインコンソールYAMAHA RIVAGE PM10のコントロールサーフェスCS-R10

FOHに置かれたメインコンソールYAMAHA RIVAGE PM10のコントロールサーフェスCS-R10

CS-R10の右隣にはスピーカーを管理するシステムをセット

CS-R10の右隣にはスピーカーを管理するシステムをセット。測定用マイクとオーディオアナライザーのMeyer Sound SIM3(写真右のラック一番下)で測定を行い、スピーカーマネージメント・システムのMeyer Sound Galileo GALAXY(本体はステージ袖モニターコンソール横のラックに格納)でEQなどをコントロールする。写真右下のApple MacBook AirにはGalileo GALAXYをリモートで制御できるソフトMeyer Sound Compassがインストールされている

スピーカーのパワーアンプはcrown I-Tech HDシリーズのIT12000HDを使用

スピーカーのパワーアンプはcrown I-Tech HDシリーズのIT12000HDを使用。1台あたり4,000W×2の出力を持つ。ホールからドームまで、さまざまな会場で用いているそうだ

モニターコンソールもYAMAHA RIVAGE PM10を使用

モニターコンソールもYAMAHA RIVAGE PM10を使用。メンバーのほか、舞台監督や映像、照明などの演出チームにもここから送っている。また、イヤモニだけでなくモニタースピーカーも用意されている。「宇都宮さんはイヤモニがメインですけど、スピーカーの音も聴いて歌っていますからね」と志村氏

モニターコンソール横のラックには、YAMAHA RIVAGE PM10のDSPエンジンDSP-RXを2台用意

モニターコンソール横のラックには、YAMAHA RIVAGE PM10のDSPエンジンDSP-RXを2台用意。それぞれFOH、モニター用で起動している

I/OラックのYAMAHA RPio622

I/OラックのYAMAHA RPio622

隠し味となるPM10内蔵のSILKプロセッシング

 FOHとモニターのコンソールにはYAMAHA RIVAGE PM10を採用。ボーカルや各楽器、ライブ用シーケンスなどから構成されるおよそ50chのインプットは、I/OラックのYAMAHA RPio622からYAMAHA独自のネットワーク規格TWINLANeを使用して伝送されている。PM10は多彩な機能を有していながらコンパクトであり、96kHzのサンプリングレートに対応していることも採用するポイントとのことだ。

 「音の立ち上がり、奥行き、粒立ちが今までのコンソールとは全く異なります。小室さんがライブのために新たに作ったシーケンスを流すので、今の制作環境で作られた音源をきちんと再生するには、スペックを合わせないといけないですからね」

 今回のツアーでステージに立つのは、小室哲哉、宇都宮隆、木根尚登のメンバー3人のみ。使用するボーカルマイクは、カプセルにSENNHEISER e 945、トランスミッターにWisycom MTH400を使用したもので統一している。

 「数年前にカプセルをe 945にしたところ、宇都宮さんの声にすごく合っていたんです。マイクをそろえた方がコントロールしやすいし、木根さんや小室さんとの混ざり具合もかなり良い。ボーカルには特別な処理をしないというのが我々の方針としてもあって。例えば宇都宮さんのボーカルは、ハイパスフィルターとその日の歌い方に合わせたEQの微調整、あとはPM10のマイクプリに内蔵するRUPERT NEVE DESIGNSのSILKプロセッシングを通しています。SILKは通すだけで質感が良くなる、隠し味的なものです」

 「TM NETWORKはクオリティが命なんです」と語ってくれた志村氏。満員の観客で埋め尽くされたライブは、宇都宮の伸びやかな歌声、木根の切れ味鋭いギター、小室が織りなす変幻自在のシンセ、さらには迫力のある低音や眼前に迫るようなエレクトロニックサウンドなど、“今”のTM NETWORKを存分に味わうことのできるものだった。素晴らしい演者とともに、機材や音場作りに妥協しない姿勢が、この夜のステージを作り上げていたことは間違いないだろう。

小室哲哉のシンセはステージ上に6台セット

小室哲哉のシンセはステージ上に6台セット。左から時計回りに、moog Moog One、minimoog Model D、YAMAHA Montage 7 WH、SEQUENTIAL PROPHET X、access VIRUS indigo Redback、VIRUS Polar TI2。これら6台に、舞台袖のコンピューターで起動しているソフトシンセ音源の計7系統を出力。Montage 7では、内蔵音源とソフトシンセ音源を、フットペダルでレイヤーを調節しながら演奏している。minimoog Model Dは、エフェクトを搭載していないため、VIRUSシリーズ2台の足元にあるラックに格納したLINE 6 ECHO PROに接続されている。また、PROPHET Xは同期されていないそう。志村氏は「これらはリアルタイムにコントロールする、小室さんならではの演奏にマッチしたセットアップになっていると思います。若いお客さんも多いですが、彼らにはシンセのサウンドがすごく新鮮に聴こえているのではないでしょうか」と語る

舞台袖に配置したデジタルミキサーYAMAHA TF1は、小室のシンセをミキシングするためのもの

舞台袖に配置したデジタルミキサーYAMAHA TF1は、小室のシンセをミキシングするためのもの。シンセの出力はステージボックスにまとめられ、TF1とDanteで接続している

舞台袖にあるギター類のエフェクターやアウトボード

舞台袖にあるギター類のエフェクターやアウトボード。木根のエレキギターのメインとなるのは写真右上、エフェクトボードの半分以上の面積を占めているLINE 6 HELIX Floor。そのほかボード上には、木根の12弦アコースティックギターにつなぐFISHMAN PLATINUM PRO EQ/DI Analog Preamp、宇都宮のアコースティックギターのDI代わりとして用いているZOOM A3をセット。左のラックケースには上から、DRAWMER 1968(コンプ)、Heritage Audio HA-73X2 Elite(マイクプリ)、Demeter amplification STDB-1(DI)。1968とHA-73X2 Eliteには、2chそれぞれにYAMAHA、Guildのアコースティックギターを入力。STDB-1はエレキギター用で、ギターアンプは使用していない

ライブトラックのマニピュレートを行うシステム周り

ライブトラックのマニピュレートを行うシステム周り。万が一のトラブルに備えAvid Pro Toolsを2つ立ち上げている。出力はDanteで行い、20chをパラアウトしている

マイクはメンバー全員同じモデルで、カプセルにSENNHEISER e 945、トランスミッターにWisycom MTH400を使用

マイクはメンバー全員同じモデルで、カプセルにSENNHEISER e 945、トランスミッターにWisycom MTH400を使用。「とても優れたカプセルだと思います」と志村氏は語る

音響担当の皆さん。左から敬称略で、赤堀、服部、山川、中尾、福田、志村、Rodney Houston(Harman International)、加谷、George Georgallis(Harman International)、溝口、柴原

音響担当の皆さん。左から敬称略で、赤堀、服部、山川、中尾、福田、志村、Rodney Houston(Harman International)、加谷、George Georgallis(Harman International)、溝口、柴原

 

 MUSICIAN 

小室哲哉(syn、g、vo)、宇都宮隆(vo)、木根尚登(g、k、vo)、向笠高章(manipulator)、福田佑允(manipulator)

 MUSIC 

  1. Avant
  2. Whatever Comes
  3. Mission To Go
  4. 君の空を見ている
  5. Show my music beat
  6. Fool on the Planet
  7. Still Love Her
  8. TIMEMACHINE
  9. inter 1
  10. Come On Everybody
  11. Action
  12. inter 2
  13. TIME TO COUNT DOWN
  14. DEVOTION
  15. TK Solo
  16. THE POINT OF LOVERS' NIGHT
  17. Children Of The New Century
  18. GET WILD
  19. Intelligence Days

 STAFF 

企画・制作:M-TRES
主催:DISK GARAGE

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