角銅真実 インタビュー 〜4年ぶりのアルバム『Contact』の制作を語る

角銅真実 インタビュー 〜4年ぶりのアルバム『Contact』の制作を語る

全部の音を自分の手で触りたい。そういう欲求が今作にはありました

打楽器奏者/シンガーソングライターで、ceroや石若駿 SONGBOOK PROJECTなどでも活動する角銅真実が、4年ぶりのアルバム『Contact』をリリースした。ライブにも参加している気心の知れたバンドメンバーを中心に、さまざまなミュージシャンを迎えて制作された今作は、歌もの、インストゥルメンタルを問わず、柔和な質感をまといながらも、異世界に降り立ったような不思議な感覚も持ち合わせている。今回は角銅だけでなく、レコーディングとミックスを行った大城真にもインタビューを実施。まずは角銅の話から、その謎に迫っていこう。

録った素材を一度Logic Proに立ち上げる

——今作の制作はいつ始まったのでしょうか?

角銅 ちょうど1年前くらいからだったかな。割とのんびりと録っていきました。

——角銅さんが曲作りを行う際、デモを用意するのか、それとも譜面で作っているのでしょうか?

角銅 どちらもあります。デモはそれを再現するというより、シミュレーションとして共有する感じです。でも割合的には、譜面と口頭で伝えることの方が多いかもしれません。

——ご自宅にDAW環境はありますか?

角銅 あります。DAWはApple Logic Pro、オーディオインターフェースはRME Babyface Proです。打ち込みはやらないのですが、パッとマイクで録って組み立てていったりはします。今作の曲たちも、スタジオで録ったものをLogic Pro上で編集しています。といっても、テープを切って貼るようなシンプルな感覚です。ボーカルも今回家で録ったものが多くて。宅録もすごく多いです。「外は小雨」は、ベーシック以外は自分で宅録した音がいっぱい入っているし、「蛸の女」や「長崎ぶらぶら節」とかもそう。特に今作は、全部の音を自分の手で1回触りたい、みたいな欲求があって。スタジオで録った音も宅録した音も、Logic Proに立ち上げてみて何かはしていました。

——プラグインを使ったりというのは?

角銅 そういうのは全然やっていないですが、Logic Pro付属のエコーとか使ったものもあったかな。今回エンジニアをやってくれた大城(真)さんとオンラインでつないで、一緒に編集したりしてエコーの音を選んだりとか、エフェクト的なことはなるべく一緒にやってもらいました。

——宅録でのマイクは何を?

角銅 大城さんに借りたNEUMANN U 87とsanken CU-51、あと私物のAKG C 414も使っています。ヘッドホンは昔買ったSENNHEISERのものです。すごくこだわりがあるわけではなく、やり慣れた環境という感じです。

小さな音やテクスチャーが好き

——大城さんはレコーディングからミックスまで関わっていますね。今回お声がけした理由は何でしょうか?

角銅 大城さんは1st(『時間の上に夢が飛んでいる』)と2nd(『Ya Chaika』)のエンジニアをしてくれて、特に1stは大城さんが声をかけてくれたことが最初の作品を作るきっかけでした。付き合いも長くてテンポも合っているというか、自然なペースで作りたいというのもあったし、大城さんだからてらいなく出せる音があるというのがお願いした理由です。

2ndアルバム『Ya Chaika』

——クレジットを拝見すると、複数の場所でレコーディングされています。

角銅 前作の『oar』がスタジオでの録音を楽しんだという感じがあって。その一方で、普段自分が聴く音楽が、あまりスタジオらしいサウンドというよりも、キッチンで録音したものとか、天井が高い木の建物で録音しているなというものとか。そういう場所性を大事にした音像にしたいというのがありました。だから、自分で場所を探すところから始めて、とりあえず録ってみて、それを生かしながら別のところでも録っていくというふうに進めていきました。今もまだ録音場所を探し続けています。

——録音の手順は?

角銅 基本的に一発録りしたいと考えていて、生の感じ……それも場所性と関係するんですが、空気感みたいなものを録りたい。本当はすごく広い場所で、みんなで輪になって“せーの”で録るというのが理想ではあったんですが、マリンバみたいな大きな楽器もあったので、スタジオのブースを開けて、顔は見えないけど一緒に録っていました。

——録音のこだわりというのはありますか?

角銅 空気感とテクスチャーです。今作にもシンプルな音像というより、ちっちゃなものがたくさん集まって一つの音楽になっている曲が多いかなと。耳をすますと鳴っている音だったり、きぬ擦れや肌触りの分かるような小さな音が好きなんです。

——今作を聴いて、いわゆる楽音以外の音がたくさんちりばめられているのをすごく感じました。

角銅 録音作品って、曲でもあるけど時間の記録でもあって、その中だとどこへでも行ける。「外は小雨」のサム(・アミドン)さんと一緒に鳴っている虫の声は、8年前くらいに神奈川の城山で録った音なんです。ロンドンのサムさんを神奈川に連れてきたように感じていて、そんなふうに場所も時間も超えられるじゃないですか。だから、あまりそういう音と楽器が奏でる音というものに違いはないです。

——普段からフィールドレコーディングされている?

角銅 します。好きです。奏でることもですけど、いろんな音を聴くのも好きなんです。友達が面白い話を始めたら録ったりもします。Apple iPhoneのボイスメモやレコーダーに録りためた音は、今作にいろいろと入っています。

——「枕の中」にも鈴虫の鳴き声が曲全体に入っています。

角銅 この曲は大城さんのスタジオで録音していて、お庭にマイクを置いてもらって、町の音も聴きながら一発録りしました。演奏するという行為は、場所との共鳴みたいな意識が自分の中にあって。同じ曲の演奏でも、場所が変われば曲の意味が変わる。その場の雰囲気や響きも演奏の一面だなと思うことが増えて、それが面白いなって。関係が長いのもあるけど、大城さんはそういうことをふっと試してくれるんです。

普通に曲を作ると奇数拍子になる

——今作には奇数拍子やポリリズム的な要素など、リズムへの多彩なアプローチを感じられます。作曲するにあたってリズムに対してどのような意識を持っているのでしょうか?

角銅 大きく2つあって、1つはなぜか分からないですけど普通に曲を作ると5か7拍子とか奇数拍子になっちゃうんです。あと、私がよく演奏するマリンバは、手に2本ずつマレットを持って演奏する楽器で、ピアノと違い4つの限定された打点かつ体を動かして演奏します。ギターやピアノとも異なる身体性のある楽器なので、独特な手ぐせがあるように思います。あと、普段小唄や民謡を聴くのが好きなのですが、そういうタテの拍子ではない節回しへの興味もあります。

——「長崎ぶらぶら節」はまさにそういった楽曲で、歌声にエコーがかかっているのがギャップもあり面白いです。

角銅 あれはThe Space Ladyというアーティストの大ファンで、彼女のようなエコーを入れてみたかったんです。

The Space LadyのYouTubeチャンネルから

——あと気になったのが、1曲目の「i o e o」の始まりで水に潜って、9曲目の「theatre」の終わりに水から出てくるような音が入っていますね。

角銅 潜ったり出てきたりする音は家の洗面所で録りました。出てくる音にはアルゼンチンのティグレの湿地帯で録ったカエルの声を重ねています。地球の真裏まで貫通して交信(Contact)するっていう遊びです(笑)。

——出てくるときの音が、まるでサラウンドのようにちらばって聴こえます。

角銅 あれは3回分の出てきた音を重ねています。全部同じ場所だけど時空がゆがんだ感じになるかと思いやってみました。今作の元々のテーマはSFで、藤子・F・不二雄先生が何かのインタビューで、“SFの意味はサイエンスフィクションでもあるけれど、僕はそれを少し不思議と訳します”と言っていたのを見て感動して。今は何かと不思議なものって省略されがちな時代ですけど、もっと不思議について考えてもいいんじゃないかなって。自分の無意識を信じるじゃないですけど、何で鳴っているか分からないけど聴こえたから入れたとしか言えない、みたいな音がたくさん入っていると思います。

——「外は小雨」のサム・アミドンさんとはどのようにやり取りをされたんですか?

角銅 ずっと好きだったんですけど、フェスで共演したのをきっかけに、やり取りが始まって、参加してもらいました。今回は録音などオンライン上で行いました。すごくうれしかったですね。

——本当に不思議な魅力が詰まったアルバムだと感じます。どんな人に聴いてほしいというイメージはありますか?

角銅 特にないですが強いて言うなら、いつか別の星の生き物とか……宇宙人に聴いてほしいです。録音作品を記録として残すのは未知と出会いたいからで、自分から離れて記録は出会っていく。すぐに誰かに聴いてほしいというわけでもなくて、“宇宙人に届け!”って思っています(笑)。


続いては…大城真が語る角銅真実『Contact』のレコーディングとミックス

Release

『Contact』
角銅真実
ユニバーサル UCCJ-2233

Musician:角銅真実(vo、marimba、k、fl、他)、古川麦(g、cho)、秋田ゴールドマン(b、cho)、光永渉(ds、cho)、巌裕美子(vc)、サム・アミドン(fiddle、vo)、石若駿(p)、中村大史(g、accord、banjo、musical saw)、竹内理恵(fl、b.cl、sax)、幸洋子(voice)、きりん(cho)、奥貫史子(vln)、日比彩湖(p、cho)、楳田愛(cho)、Pablo Amilcar Alvarez(cl)、葛城梢(mandolin)
Producer:角銅真実
Engineer:大城真、原真人、佐藤鈴佳、髙島隼人、Nancy、角銅真実
Studio:SOUND CREW、aLIVE、プライベート、他

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