デペッシュ・モード「ゴースト・アゲイン」ミックスのポイントを解説 by マルタ・サローニ

デペッシュ・モード「ゴースト・アゲイン」ミックスのポイントを解説 by マルタ・サローニ

ここでは、デペッシュ・モード『メメント・モリ』に収録されている「ゴースト・アゲイン」のファイナル・ミックスについてマルタ・サローニ氏が解説。氏は、まずセッションを整理したら全トラックをミュートし、曲の中での重要度の高い順に、ミュートを解除しては、必要に応じてEQで不要な帯域をカットするという。「ゴースト・アゲイン」は、ドラム・ループを元に組み上げていった曲なので、ドラムから順番にミュートを解除して処理を進めていったそうだ。

Pick up Track|デペッシュ・モード「ゴースト・アゲイン」from『メメント・モリ』

Release

メメント・モリ
デペッシュ・モード
ソニー:SICP6511(完全生産限定盤)

『メメント・モリ』デペッシュ・モード(完全生産限定盤)
『メメント・モリ』デペッシュ・モード(輸入盤)
【左】完全生産限定盤、【右】輸入盤

Musician:デイヴ・ガーン(vo)、マーティン・ゴア(k、g、vo)、ジェイムス・フォード(syn、p、g、b、ds、perc、prog)、マルタ・サローニ(prog)、ダヴィデ・ロッシ(vln、vc)、ルアン・ホムジー(vln)、デジレー・ホズリー(vln)
Producer:ジェイムス・フォード
Engineer:マルタ・サローニ、フランシーヌ・ペリー、グレース・バンクス
Studio:Electric Ladyboy、Shangri-La、Zona、Blanco

Drums|キックを最前面に出しつつクリアに聴こえるように処理

 ドラムの音色はROLAND TR-606とNOISE ENGINEERING Basimilus Iteritas Alterを組み合わせて作成。キックを最前面に出しつつ、すべてがクリアに聴こえるように処理しているという。

 ドラム・バスには、サチュレーターのSOUNDTOYS Decapitator、EQのFABFILTER Pro-Q 3、UNIVERSAL AUDIO Teletronix LA-2A、AVID EQ III 7-Bandの4つのプラグインを使用している。

SOUNDTOYS Decapitator

SOUNDTOYS Decapitator

UNIVERSAL AUDIO Teletronix LA-2A

UNIVERSAL AUDIO Teletronix LA-2A

 ドラム・バスから送っているパラレル処理用のトラックもあり、こちらにはSOUNDTOYS Devil-LocUNIVERSAL AUDIO UAD AMS RMX16を使用。ファイナル・ミックスの段階でひずみを加えるのにもってこいなのがDevil-Locだそう。

SOUNDTOYS Devil-Loc

SOUNDTOYS Devil-Loc

UNIVERSAL AUDIO UAD AMS RMX16

UNIVERSAL AUDIO UAD AMS RMX16

Bass|低域が聴こえにくいスピーカーでも存在感を出す

 ベースはMOOGのモジュラー・シンセで作成。「ベースを大きめにするのがすごく好きなので、そのためにはできるだけクリアにしておくことが重要です」とサローニ氏は語る。

 この曲では、Devil-Locでサチュレーションを付加し、EQで存在感を足した後、SOUNDTOYS MicroShiftを使用して、少しだけステレオに広げている。Wetのミックス割合は相当低めにしてあるとのこと。どちらも低域が少なめのスピーカーでもきちんと聴こえるようにするための処理だ。

Devil-Loc

Devil-Loc

SOUNDTOYS MicroShift

SOUNDTOYS MicroShift

Guitar|パートごとに6トラックを用意してミックス

 ドラム&ベースの上に重ねるギターはマーティン・ゴアが演奏したもの。テープ・マシンのほか、エフェクトとしてKORG MS-20や、実機のSDD-320 Dimension D、RMX16(リバーブ)を使用している。録音の際にはアンプ2台に加えてDIも使っていて、パートごとに、ルーム・マイク、DI、Amp1、Amp2、Mu-Tron Bi-Phase、AMS/LEXICON(リバーブ)のトラックを用意。これらをバスにまとめ、Pro-Q 3やUAD Teletronix LA-2AVALHALLA DSP Valhalla Roomなどで処理している。その後はマスターのAUXトラックに送り、ギター全体をまとめる処理を行えるようにしたとのこと。

パートごとに、ルーム・マイク、DI、Amp1、Amp2、Mu-Tron Bi-Phase、AMS/LEXICON(リバーブ)のトラックを用意

パートごとに、ルーム・マイク、DI、Amp1、Amp2、Mu-Tron Bi-Phase、AMS/LEXICON(リバーブ)のトラックを用意

UAD Teletronix LA-2A

UAD Teletronix LA-2A

VALHALLA DSP Valhalla Room

VALHALLA DSP Valhalla Room

Synth|Soothe2で存在感を保ちつつ出過ぎた高域を抑える

 シンセのソロ以外には、ELKA SynthexやARP Solina String Ensembleを使用。SynthexにはリバーブとしてVALHALLA DSP Valhalla VintageVerbに加え、AUXトラックでUAD EMT 250をかけている。AUXトラックではなく元のトラックでVintageVerbを使うことで、ステレオ・スプレッダー的な効果も出せるとのこと。「魔法的な魅力のある素晴らしいプラグインです」とサローニ氏。Solina String EnsembleにはWAVES Doublerでワイド感を強調するとともにキラキラ感を付加している。

VALHALLA DSP Valhalla VintageVerb

VALHALLA DSP Valhalla VintageVerb

WAVES Doubler

WAVES Doubler

 シンセ・ソロは、ARTURIA PolyBruteとBUCHLAを混ぜて作成。セッションの際にテープ・マシンをはじめ、さまざまな機材を通し、ミックス時にはOEKSOUND Soothe2を使用している。シンセ類、特にモジュラー・シンセの広大な周波数レンジへの対処のためで、存在感を損なうことなく、主張しすぎていた高域のみを抑えることができるという。「Soothe2はこういう作業には最高ですね」とサローニ氏。

OEKSOUND Soothe2

OEKSOUND Soothe2

Vocals|常にサウンドの上に位置するようオートメーションを書く

 歌詞が確実にクリアに聴こえるようにするため、大量のオートメーションが書きこまれている。デイヴ・ガーンの素晴らしい歌が、常にほかのサウンドの上に位置するようにしたかったそうだ。パートやセクションごとに、エフェクトにもオートメーションを書き、ちょっとずつ違ったフィーリングを感じられるようにしたという。

歌詞が確実にクリアに聴こえるようにするため、大量のオートメーションが書きこまれている

歌詞が確実にクリアに聴こえるようにするため、大量のオートメーションが書きこまれている

 使用したプラグインはDevil-Loc、Soothe2、VALHALLA DSP Valhalla Delay。Devil-Locは混ぜ具合を相当抑えることでボーカルにも効果的に働くとのこと。EQ→コンプ→EQ→ディエッサー→再度EQ→Devil-Loc→SOUNDTOYS Radiator→Soothe2、そして最後にまたEQという形で丁寧に処理がなされた。

Devil-Loc

Devil-Loc

Chorus

 マーティン・ゴアのコーラスには、デイヴとは違った専用のスペースを設けるために、2トラックを少しずつ左右に振りEQをかけ、WAVES H-Delayをピンポン・ディレイにして幅を出しているその繰り返しをスムーズに聴かせるため、VintageVerbもインサート。その後に再度EQでローミッドを少し下げ、クリアに聴こえるようにしている。

WAVES H-Delay

WAVES H-Delay

VintageVerb

VintageVerb

Master|マスタリング前にできるだけベストな状態にしておく

 ミックスが中盤程度の段階に差し掛かかったら、その後はマスター・バスにプラグインを挿した状態で作業を進める。PSP MasterQ2でミックス全体のEQを調整しつつ、UAD SSL 4000 G Bus Compressorで全体をなじませる。常にスロー・アタック/ファスト・リリースで使うことで、どんなアタックもつぶれないように気を付けているとのこと。

PSP MasterQ2

PSP MasterQ2

UAD SSL 4000 G Bus Compressor

UAD SSL 4000 G Bus Compressor

 その次はEQのUAD Chandler Curve Bender、そして最後のマルチバンド・コンプWAVES Linear Phase Multibandで、特定の箇所でのみ目立ち過ぎる帯域をコントロールする。こうした処理で下がってしまったボリュームは、ゲインを上げて補正。マスタリングの前にできるだけベストな状態にしておくため、最後の最後にちょっとした調整をして、低域や高域にまだスペースがあるかどうかを判断することもあるという。ミックス作業が終盤に差し掛かると、リミッターDMG AUDIO Limitlessを挿して、マスタリング後のボリュームでどんなサウンドになるか把握しておく。そうすることで、ちょっとした調整が必要なことに気づくこともあるそうだ。サローニ氏はここまでの処理を完了し、Limitlessを外したミックスをマスタリング・エンジニアに送ったという。


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