Berlin Calling〜第102回 4年ぶりにフル開催された実験的電子音楽の祭典“Berlin Atonal”

今までで最長の10日間にわたるプログラム

 実験的電子音楽の祭典、“Berlin Atonal”が9月7〜17日にかけて開催された。1982年に地元のライブ・ハウスで始まったこのフェスティバルは、1991〜2012年の間は休止。2013年に、市内中心部でも最も大きな屋内会場であるKraftwerkという発電所跡地に場所を移して再開された。それ以降は4〜5日ほどの開催期間で、夜はコンサート、深夜帯はクラブ・イベントという構成で、大抵は8月の最終週に行われてきた。2020〜2022年の間はパンデミックの影響もあり、開催されなかった。代わりに、2021年にはアート・エキシビションを中心とした“Metabolic Rift”、2022年は現代音楽の作曲家、ヤニス・クセナキスの生誕100周年を記念した“X100”が開催された。4年ぶりとなった今年は、“Metabolic Rift”の形式とこれまでのフェスティバルの形式を合わせたような内容で、なんと今までで最長の10日間にわたるプログラムだった。9月13〜17日のベルリン・アート・ウィークと開催期間が重なっていたことを意識した内容であったとも言える。

 筆者はそのうちの、週末を中心に数日足を運んでみた。今年は話題の振付師兼ダンサーのフロレンティナ・ホルツィンガーが1週目の3夜連続でかなりインパクトのある宙吊りのダンス・パフォーマンスがあったり、平日には音楽制作のワークショップが行われるなど、新たな試みも見られた。個人的にはサンドウェル・ディストリクトの再結成ライブや、プリズン・レリジョンのライブ、マラ(DMZ)のクロージングDJセットなどがハイライトだったが、周囲の評判などを聞いたところ、今年はコンサートよりも深夜のクラブ・イベントの方が内容のバラエティもあり、盛り上がったようだ。

1週目の金曜の夜の目玉となった、約10年ぶりに活動を再開したサンドウェル・ディストリクト。レジス、サイレント・サーバント、ファンクションという豪華メンバーのテクノ・アクトだ(写真©Helge Mundt)

1週目の金曜の夜の目玉となった、約10年ぶりに活動を再開したサンドウェル・ディストリクト。レジス、サイレント・サーバント、ファンクションという豪華メンバーのテクノ・アクトだ(写真©Helge Mundt)

2週目土曜日の深夜に出演したアメリカのノイズ・デュオ、プリズン・レリジョンは会場の雰囲気とマッチした熱気あるライブで観客を魅了した(写真©Helge Mundt)

2週目土曜日の深夜に出演したアメリカのノイズ・デュオ、プリズン・レリジョンは会場の雰囲気とマッチした熱気あるライブで観客を魅了した(写真©Helge Mundt)

 ただ、今年気になったのはチケット代の高騰である。1日分の当日券は60ユーロ、通しパスは300ユーロという値段。深夜12時以降のクラブ・イベントのみのチケットでも35ユーロだったので、地元の人がふらりと行く値段ではない。そのため、地元のオーディエンスが例年よりずっと少なかった印象だ。インフレやエネルギー・コストの上昇でベルリンのクラブや音楽会場は軒並み入場料が値上りした。だから、必要性は理解できる。しかし、実験音楽やクラブ・イベントの高級化はベルリンの伝統であるDIYの精神が失われつつあるようで、残念な傾向だ。もっと誰にでもアクセスしやすいものであってほしい。

 

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浅沼優子/Yuko Asanuma

【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている

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