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U-LEE 〜東京拠点のヒップホップグループ“YENTOWN”所属のDJ/音楽プロデューサー

“いいものを作る”というゴールを見定めていくのが重要だと思っています

今回登場するのは、DJ/音楽プロデューサーであり、東京を拠点に活動するヒップホップ・グループ“YENTOWN”のメンバーのU-LEEだ。クラブ・イベントに数多く出演するだけでなく、ミックスCDのリリース、楽曲制作なども行い、精力的に活動している。そんな彼に、使用機材のこだわりや、制作に対する独自のアティチュードについて伺った。

【Profile】福岡県出身のDJ/プロデューサー。クリエイティブ集団YENTOWNのメンバーであり、東京渋谷を中心に多くのクラブ・イベントに出演。DJスキルには定評があり、DMCやRedbull 3 Styleなど多くの大会に出場。また、YENTOWN、ANARCHYのバックDJとしても活動している。

 Release 

『MONIBUM』
MonyHorse
(D.T.F. Records)

低域が見えるADAM AUDIO A77H

■プライベートスタジオ

 ここには半年前くらいに引っ越したばかりなんです。以前住んでいた物件は防音設備とかも全然されていなくて、夜に音を出すと苦情を入れられることが多かったので、引っ越すことにしました。今回の引っ越しをきっかけに自宅とスタジオを統一したのですが、やっぱり効率が上がりましたね。仕事とプライベートの空間を分けたい気持ちはもちろんあるんですけど、夜中に作業したいとなったとき、これまではタクシー移動でとてもお金がかかってしまっていたので……。今の環境のほうがやりやすいですね。

U-LEEの制作環境。コンピューターはAPPLE MacBook Proで、DAWはABLETON Liveを主に使用する。MacBook ProのディスプレイにはFABFILT ER Pro-Q 3が立ち上がっている。「EQはPro-Q 3とLive内蔵のプラグインを場合に応じて使い分けている」とU-LEEは語る。モニターはADAM AUDIO A77H

DJスペース。DJコントローラーはPIONEER DJ DDJ-1000SRT、スピーカーはADAM AUDIO A3Xをチョイス

バイナルDJブース。ターンテーブルはTECHNICS SL-1200 MK5(写真左)、RELOOP RP-8 000(写真右)、ミキサーはPIONEER DJ DJM-S11を使用

■コンピューターとDAWシステム

 音楽制作に使用しているコンピューターはAPPLE MacBook Proで、DAWはABLETON Liveをインストールしています。ヒップホップというとIMAGE-LINE FL Studioのイメージが強いと思うのですが、僕がやりはじめた時期はまだMac対応じゃなくて。Liveは、仲のいい人たちが使ってることが多かったんです。最初のうちはYENTOWNのナベ君(Nabewalks)とかに教えてもらいましたね。感覚で操作しても思った通りに動いてくれる点が気に入っています。

 オーディオ・インターフェースはUNIVERSAL AUDIO Apollo Twin。購入して10年くらいたちますが、丈夫で壊れることもありません。Apolloに十分満足しているのですが、RMEのユーザーが周りに増えてきて最近気になっています。音質の良さに加えて、レイテンシーがとても少ないという話をよく聞くので、いつか試してみたいですね。

10年ほど愛用しているというオーディオ・インターフェース、UNIVERSAL AUDIO Apollo Twin

■モニター・スピーカーとヘッドホン

 モニター・スピーカーはADAM AUDIO A77H。その前は同社の小型スピーカーを使用していて、音質や価格帯が気に入っていたので今度もADAM AUDIOにしようと思いA77Hを選びました。AシリーズからSシリーズまでいろいろと試聴したのですが、A77Hの低域の鳴りが価格帯以上に奇麗だな、と。サブウーファーも鳴らしているかと錯覚するくらい、低域が見えました。やっぱり、キックと808(ROLAND TR-808系キック・ベース)の鳴りは大事なので。低域が割れないという点と、スーパーローなどの聴きとりにくい低域が振動として伝わってくるかどうか、スピーカー選びはそこが重要なポイントですね。その点、A77Hはクラブでの鳴りと印象が近くて。そのおかげで家でしっかりとシミュレーションができるので、ミックスの精度はだいぶ上がったと思います。

 モニター・ヘッドホンはAKG K712 Pro。スピーカーで大音量で作業していると、ついつい何でもかっこいいと錯覚してしまうので、最終の細かい調整を行う際はヘッドホンを使用しています。 DJ用のヘッドホンはTECHNICS EAH-DJ1200。これに関しては、ハウジング部の270°回転機構が決め手です。稼働した状態で固定できるので、首に掛けながら耳を傾けるだけでモニター・チェックできるのがいい。この仕様がほかに見つからなくて、昔からずっと愛用しています。会場にヘッドホンを忘れてしまった場合のために、リスニング用の有線接続のイヤホンも常に持ち歩いていますね。

■レコーディング機材

 マイクはコンデンサー・マイクのAMATERAS 8097で、同社のファンタム電源、2087と組み合わせて使用しています。これまで使用していたマイクは高域が強調されすぎていたのですが、8097はフラットで高域がキツすぎない。NEUMANN U87 AIあたりと近い雰囲気でとても気に入っています。2087のおかげで、音の迫力もすごいんですよ。

デスク上に設置したヘッドホン・アンプのMACKIE. HM-4(写真左)、ファンタム電源のAMATE RAS 2087(写真右)。ボーカル・レコーディングの際は、同社のコンデンサー・マイク8097と2087を組み合わせて使用している。U-LEEは「AMATERASのマイクを使いはじめて、どういう要素をマイクに求めているかが分かった」と言う

■お気に入りの音楽制作ツール

 最近使うのがSIXTH SAMPLE Cramit。ディストーション系プラグインで、挿すと簡単に派手になってくれるんです。

テンションが乗らなくても毎日作るのが大切

■曲作りのこだわり

 最近は、ビートの鳴りを強調しすぎないようにしています。好きな海外のヒップホップをあらためて聴いたときに、全体のミックス・バランスが整っているからこそ低域が奇麗に鳴っているということに気づいたんです。それまでは低域ばかりにフォーカスしていたのですが、バランスを考えて作るようになりましたね。

 鳴りに関連する話で言えば、結局はサンプル選びが一番大事なのかな、と。例えばキックをでかくしたいとき、複数のサンプルを重ねることはあまりやらないです。それよりも、もともと鳴りのいいものを探すほうが大事。サンプル選びがうまくいっていると、その後のミックスでやることがだいぶ減りますよね。

■制作のアティチュード

 “評価されたい”といった欲が出てくると余計な方向に行ってしまうので、“いいものを作る”というゴールを見定めて作るのが重要だと思っています。かっこつけすぎず、弱いところもさらけ出してるラッパーの方が、言葉が刺さったりするじゃないですか。ビート・メイカーも同じなのかなと思うんですよね。テクニックを見せつけたくなったりすることもあると思いますが、僕は素人っぽさみたいなものをできるだけ残したいなと思っています。ヒップホップの強みは、不協和音も良しとするような“雑さ”だったりもするので。

 あと、なるべく毎日作ることも大切にしています。テンションが乗らないときだって、人間なので絶対ある。そういうマイナスな気分のときも作れるように心がけていますね。意外とそういうときのほうが曲ができることもあるので。気分で物事を決めないように、制作に取り組むようにしています。

U-LEEを形成する3枚

『Madvillainy』
マッドヴィレイン
(Stones Throw)

「彼の作品からは非常に刺激を受けましたが、特にこのアルバムからの影響は大きいです。サンプリングのセンスがとても優れているアルバムだと言えます」

 

『ドーナツ』
J・ディラ
(Stones Throw)

「J・ディラは自分が最も好きなビート・メイカーの一人。このアルバムは、細かな効果音が挿入されたり、サンプルに微細な加工が施されたりしていて勉強になります」

 

『Iridescence』
ブロックハンプトン
(Question Everything)

「この作品を聴いたときは、大きな衝撃を受けました。特に作品全体の一貫性や音楽性、複数のボーカルにおける細かい処理などに影響を受けています」

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