少ない情報量ゆえに解釈の自由度が高い。それがテクノの魅力なんです
今回登場するのは、大阪出身のDJ/音楽プロデューサーのSEKITOVAだ。13歳の頃から音楽制作をはじめ、Maltine Recordsなどから楽曲をリリース。これまでに手掛けたアーティストは、森高千里からTHE RAMPAGEまで幅広い。DJとしてはミニマルテクノからディープハウスを主軸に、さまざまなフェスやクラブでプレイしている。今回はそんなSEKITOVAのプライベートスタジオを訪れ、彼のDTMツールや音作りのポイントなどを伺った。
【Profile】1995年1月1日生まれ、大阪出身のDJ/音楽プロデューサー。ジョイ・ベルトラムやデイヴ・エンジェルといったアーティストに影響を受け、エレクトロニックミュージックを軸にさまざまな音楽ジャンルを横断しながら活動を行っている。“テクノはジャンルではなく向き合う姿勢”を信条とする。
Release
「All day - SEKITOVA Remix」
(『16PRAY <LIVE & DOCUMENTARY盤>』収録)
THE RAMPAGE from EXILE TRIBE
(rhythm zone)
サーバー経由でDAWの音をiPhoneから再生
■プライベートスタジオ
ここには2年ほど住んでいて、引っ越しする時からプライベートスタジオとして使うことを想定していました。特に制作時の騒音対策として堅牢な建物が必要だと考えたので、コンクリート造りかつ1階の物件を選びました。広さは6.5畳ほど。スタジオ内の反響対策としては吸音材は使わず、あえて大きな家具や収納棚などを拡散材として活用することで反射を抑えています。ボーカルブースなどは設けておらず、レコーディングの際は友人のスタジオを借りることもあります。
■コンピューターとDAW
音楽制作に使用しているコンピューターは2019年モデルのApple MacBook Proで、DAWはAbleton LiveとBITWIG Bitwig Studioをインストールしています。両者ともバージョンアップするたびに新機能が追加されていくので興味が尽きません。音楽制作を始めた当初はApple GarageBandを使っており、2015年にリリースされた森高千里『百見顔(Hyamikao) / Foetus Traum』の楽曲を作る際にもGarageBandを用いていました。その後、2017〜18年頃にメインDAWとしてLiveを採用。Liveは直感的に扱えるため、曲作りのアイディアやひらめきを逃しにくいという利点があります。また付属エフェクトを手軽に使えるところも魅力。特にCompressorは複雑な設定をしなくてもサッと音をまとめられます。
■モニタースピーカーとヘッドフォン
スピーカーはYAMAHA MSP5 STUDIO。当時、パソコン音楽クラブの西山君(⻄⼭真登)やin the blue shirtらとシェアしていた大阪のスタジオに置いてあったもので、それをそのまま僕が使い続けています。僕の場合、MSP5 STUDIOでこのくらいに調整すれば、クラブではこう鳴るだろうというのが感覚的に分かるんです。そのくらい、MSP5 STUDIOは慣れ親しんでいるスピーカーですね。今後もMSP5 STUDIOを使い続ける予定なので、 新たなスピーカーの導入は考えていません。むしろ、スタジオ内の反射をどう抑えるかが重要です。吸音対策をしっかりして、MSP5 STUDIOの特性を把握できる環境を作りたいと思います。モニターヘッドホンは、DJプレイ時にも使っているAudio-Technica ATH-PRO700MK2。一時期ほかのヘッドホンを使ったこともありましたが、ATH-PRO700MK2に落ち着きました。結局、DJ中に聴いている音が曲作りにもそのまま生かせるんです。制作時とDJプレイ時の間において、サウンドの違和感がないのは大きなメリットだと思います。
■モニターイヤホン
イヤホンはApple EarPods。Sonosaurus SonoBusというアプリ/ソフトウェアを使って、DAWの音をサーバー経由でApple iPhoneに飛ばしているんです。普段からよく使っているイヤホンで確認できるのが便利ですし、iPhoneのスピーカーで確認したいときもいちいち音源を書き出す手間が省けていいですね。SonoBus内で専用ルームを立ち上げて共有すれば、友達とリアルタイムにDAWの音を聴かせ合いながら作業することもできます。最近インストールしたアプリの中でも特別に重宝していますね。
MiniMetersのカラー波形表示機能を活用
■曲作りのこだわり
オリジナル曲に関しては、特にここ数年、踊れてハッピーなバイブスや、協調的な雰囲気のある曲を主に制作しています。また、DJプレイで使える曲を作ろうとも心掛けていますね。例えば京都のレーベル、finestylewestからリリースした「topi (SEKITOVA DGD mix)」がまさに良い例です。作った曲がDJで使える/使えないの判断基準としては、テンポ感と展開のバランスが大事。展開が多すぎたり複雑すぎたりすると、1〜2時間というDJプレイの中では使いづらくなってしまいます。なので僕の中では、曲中で展開をこっそり忍ばせていくようなニュアンスで作るようにしているんです。テンポに関しては、ここ最近は130BPMを超えることが多くなってきました。コロナ禍以前は130BPMを絶対に超えないようなスタンスでやっていて、統一感やつなぎやすさを重視していたんです。でもコロナ禍になったのをきっかけにいろいろチャレンジしたいと思うようになり、最近は130BPMを超えた曲を作るのもアリだなと考えています。
■お気に入りの音楽制作ツール
僕は曲を作る際、最初から完成形がイメージできないとつまづきやすいタイプなんです。そのため、音楽制作中はDirect MiniMetersを常に立ち上げています。これは曲の波形やラウドネス値、スペクトログラム、オシロスコープなどをリアルタイムにモニターできるメータープラグイン/アプリ。僕の場合、特にカラー波形表示機能が重要になります。実はMiniMetersのそれは、DJ向け楽曲管理ソフトPioneer DJ rekordboxのカラー波形表示とよく似ているため、まるでDJプレイで曲を再生しているときのようなイメージで曲作りをすることができるんです。普段からrekordboxの波形表示を見慣れているので、同じような画面で曲の波形をチェックできるのは本当に便利なんですよ。
■テクノの醍醐味
EDMなどと比べて少ない情報量ゆえに、解釈の自由度が高い点ですね。またアレンジによってはブラックミュージックに由来するグルーブを解体し、新たなグルーブを上書きすることも可能です。今後は海外のレーベルからもリリースし、ワールドワイドに活動していきたいと考えています。
SEKITOVAを形成する3枚
『ライツ・アンド・カラーズ』
デイヴ・DK
(Moodmusic)
「無機質な電子サウンドに微細なエナジーを感じさせる未来的な音楽。中2の頃に出会ったアルバムで、そのときに受けた衝撃波の慣性で今まで音楽をやっています」
『アミグダラ』
DJコーツェ
(Pampa records)
「DJコーツェだけが成し得る、奇怪なサウンドとポップさの融合。DJとしての価値が存分に発揮された“取り合わせ”の妙を凝縮した傑作です」
『「ゼルダの伝説 時のオカリナ」オリジナルサウンドトラック』
近藤浩治
(ポニーキャニオン)
「人生初プレイしたゲームで、その音楽も含めて影響を受けました。通底するダークさに対する音楽の距離感、ハーモニーの感触は僕の音楽的価値観の原点です」