Jun Kamoda 〜イルリメ/(((さらうんど)))のボーカルとしても知られるマルチクリエイター

Jun Kamoda 〜イルリメ/(((さらうんど)))のボーカルとしても知られるマルチクリエイター

今回登場するのはヒップホップ・アーティスト、イルリメとしてデビューし、現在はポップス・バンド(((さらうんど)))や、ハウス・クリエイターとしても活動するJun Kamodaだ。近年はモール・グラブ主宰のSteel City Dance Discsやブリストルの名門Black Acreといった海外のダンス・ミュージック・レーベルからも作品を発表している。そんな彼に、制作手法や機材のこだわり、独自の音楽哲学などを伺った。

Interview:Susumu Nakagawa Photo:Jun Kamoda

【Profile】関西のヒップホップ・アーティスト/ビート・メイカー/DJ。2000年にイルリメとしてデビューし、2011年には鴨田潤名義で、2012年にはTraks BoysのXTALと組んだバンド(((さらうんど)))として作品をリリース。2016年以降はJun Kamoda名義で海外レーベルからEPを発表している。

 Release 

『RE-EDITS FOR THE DANCE FLOOR』
Jun Kamoda
(カクバリズム)

モニター・スピーカーのKRK VXT6は余裕たっぷりに低域を出してくれます

プライベート・スタジオ

 このスタジオは今年の4月から使っています。もともとは同じ物件内にある10畳くらいの部屋をスタジオにしていましたが、スピーカーの鳴りをうまくコントロールできず、現在は6畳の部屋に移動したんです。こちらのほうが鳴りを整えやすかったですね。床には、100円ショップなどで購入できるポリエチレン製のジョイント・マットを敷くのがお勧め。余分な低域を吸収してくれるので、音の締まりが良くなりました。仮に機材を落としたとしても、機材や床が傷つかないのもいいです。

DAW

 コンピューターはAPPLE MacBook Proで、ABLETON Liveをインストールしています。6〜7年前まではAVID Pro ToolsとIMAGE-LINE FL Studioを使っていましたが、ハウスを作るようになってからはLiveを使うようになりました。Liveは長い尺の曲が作りやすいなと感じています。あと、(((さらうんど)))のメンバーでもあるXTAL君もそうなんですが、周りにいる音楽クリエイターはLiveユーザーが多いので、Liveのプロジェクト・ファイルごとやりとりできるのも便利ですね。

メイン・マシンはAPPLE MacBook Proで、DAWはABLETON Liveを使用。モニター・スピーカーはKRK VXT6を設置する

メイン・マシンはAPPLE MacBook Proで、DAWはABLETON Liveを使用。モニター・スピーカーはKRK VXT6を設置する

オーディオ・インターフェースとマイク

 オーディオ・インターフェースはRME Fireface UCXで、もう8年くらい使用しています。マイクはコンデンサー・タイプのAKG C414 XLIIで、Fireface UCXのマイク入力へダイレクトに挿してラップやボーカルをレコーディングしています。もしFireface UCXが壊れたとしても、また同じものを購入しようかなと思うくらい音質が良いです。可搬性も優れているので、ライブ現場にも持ち込んで使っています。

オーディオ・インターフェースはRME Fireface UCX

オーディオ・インターフェースはRME Fireface UCX

マイク・スタンドには、コンデンサー・タイプのAKG C414 XLIIをセット

マイク・スタンドには、コンデンサー・タイプのAKG C414 XLIIをセット

モニター・スピーカー

 メイン・モニターはKRK VXT6 で、インシュレーターのWELLFLOAT A4を敷いています。デスク上に置くモニター・スピーカーとしてはちょっと大きいと思いますが、これくらいのサイズじゃないと低域がよく鳴らないんです。これより一回り小さいサイズのスピーカーも試してみましたが、やはり頑張って低域を出している感じがするんですよね。その点、 VXT6は余裕たっぷりに低域を出してくれます。

モニター・ヘッドフォン

 AUDIO-TECHNICA ATH-M50Xのホワイト。これも低域がよく出る傾向にあります。自分はフラットな音がするモニターが好きじゃなくて、どちらかというとテンションを上げてくれるものが好きです。あと万が一壊れたときでも、すぐに代わりのものを用意できるかどうかがポイントですね。

ヘッドフォンはAUDIO-TECHNICA ATH-M50XWHを愛用している

ヘッドフォンはAUDIO-TECHNICA ATH-M50XWHを愛用している

ハイハットにフィルターのオートメーションを書き、曲構成に合わせて展開を作る

曲作りの手順と飽きないための工夫

 まずはLiveを立ち上げ、MIDIを打ち込んでドラム・パターンを作るところから始めます。ドラムができたらベースや上モノのサンプルを追加するという流れで、至ってシンプル。ヒップホップと違って、ハウスは毎回4つ打ちキックが基本なので飽きやすく、ほかのベテラン・ハウス・クリエイターはそれをどう乗り越えているのか逆に質問したいくらいですね(笑)。知り合いのハウス・クリエイターの中には、ローファイ・ハウスからUKガラージ/2ステップに転向する人もいました。自分の場合、“今日はハウス作りたくないな”というときは、ヒップホップ・ビートを作っています。

ロータリー・ボリューム・コントロール・タイプのDJミキサー、BOZAK AR-6。アナログの質感を演出するために、2ミックスの最終段でこれに通しているそう。Kamodaは「デジタルっぽい角が取れ、2ミックスに空気感が加わります」と話す

ロータリー・ボリューム・コントロール・タイプのDJミキサー、BOZAK AR-6。アナログの質感を演出するために、2ミックスの最終段でこれに通しているそう。Kamodaは「デジタルっぽい角が取れ、2ミックスに空気感が加わります」と話す

カセット・デッキのTECHNICS RS-615U

カセット・デッキのTECHNICS RS-615U

ビート・メイキングのこだわり

 よくやるのはハイハットにローパス・フィルターをかけ、リアルタイムにそのフィルターのオートメーションを書くというテクニックです。こうすることでハイハットに躍動感を与えることができるし、曲の構成に合わせて展開を作ることもできます。クラブ系の音楽はループ・ミュージックなので、このテクニックはキックやスネア、上モノにも応用可能です。フィルターだけじゃなく、ディレイのドライ/ウェット量でオートメーションを書くときもあります。曲を再生しながら自由にノブを回すとライブ感が出るのでお勧めです。

サンプリング・ネタについて

 以前は古い時代のレコードからサンプリング・ネタを探すことが多かったのですが、それだと結構大変なこともあり……。あるときから考え方を変えて、使いたい音源の権利者に直接許可を得るという方法がいいなと思ったんです。この方がリスクもないですし、気兼ねなくサンプリングできます。この発想から生まれたのが、KASHIFや在日ファンクの楽曲をサンプリングしたEP『Escape The Night/Funky Protection』でした。ある意味サンプリングというのは、自分のリスナーにその曲をプレゼンテーションすることにもなりますしね。また、サンプリング許諾を簡単に行えるWebサービス、Tracklibも面白いです。これはサンプリング・カルチャーに革命を起こすかもしれませんね。

ラップのエディットのこだわり

 普段は大体3〜4テイクを連続で録り、良い部分のみをエディットして1つのトラックにまとめています。ラップのエディットでは、コンプをかける前にボリューム・オートメーションを書くのですが、コツとしては各フレーズにおける一番最初の音を3dB上げるというもの。こうすることによって、ラップの言葉が聴きとりやすくなります。このテクニックはエンジニアのTsuboi(The Anticipation Illicit Tsuboi)さんから学んだものですが、ラップだけじゃなくボーカルにも使えるので宅録をやっている人はぜひ試してみてください。歌詞とメロディに抑揚を演出することができます。

お気に入りのソフト音源

 ベースはROLAND TB-303のエミュレーション・ソフト、AUDIOREALISM Bass Line 3。音の太さと使いやすさが決め手です。シンセはARTURIA V Collectionの中にあるDX7 VやMellotron Vをよく用います。

AUDIOREALISM Bass Line 3。ROLAND TB-303をエミュレーションしたソフト音源で、Kamodaのお気に入りだという

AUDIOREALISM Bass Line 3。ROLAND TB-303をエミュレーションしたソフト音源で、Kamodaのお気に入りだという

読者へのメッセージ

 今SFとDJをテーマにしたアニメを作っていて、その音楽も作っています。2023年に完成予定なのでお楽しみに!

Jun Kamodaを形成する3枚

『Oncle Jazz』
メン・アイ・トラスト
(Return To Analog)

 「(((さらうんど)))のアルバム『After Hours』をマスタリングする際、お手本にした作品。カセット・テープ版を聴いて、重心の置き方や音量感を勉強しました」

 

『Only Human』
KH
(Ministry Of Sound)

 「クラブ・トラックのマスターを作るときは、KHことフォー・テットの4つ打ち音源をリファレンスに。“どういう鳴りにしたらよいのか”を参考にしています」

 

『Broken Record with Rick Rubin, Malcolm Gladwell, Bruce Headlam and Justin Richmond』
PUSHKIN

 「これはポッドキャスト。リック・ルービンがゲストを招き、インタビュー形式で話しているのですが、内容が深くて面白いです」

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