Cubase Pro 11で作曲時に便利なMIDI編集の便利機能&Tips|解説:近藤圭一

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 初めまして。新しくこのコーナーを担当します作編曲家の近藤圭一です。僕にとってSTEINBERG Cubaseは、20年以上愛用している(サンレコ愛読歴もほぼ同じ!)音楽制作には欠かせない一番の相棒です。普段はJポップを中心に仕事をしており、職業作家の視点からどんな機能を使って制作しているかなどを紹介できればと思います。短い間になりますが、お付き合いください!

MIDIリアルタイム入力時のミス・タッチを一括で編集する

 まずは制作を始める前の準備について。僕は普段、作曲用テンプレートをあらかじめ作っていて、使うであろうトラックがすべて立ち上がった状態から楽曲制作を始めます。必ず使うインサート・エフェクトや、センド・エフェクト、グループ・バスも大まかに組んである状態です。ほかのTipsにも通じることですが、クリエイティブな発想をできるだけ短時間で形にするために、このような下準備はとても大事だと思います。プロジェクトはテンプレートとして複数保存できますので、例えばジャンル別、クライアント別などを用意しておくのもいいかもしれませんね。

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筆者がテンプレートとして保存しているプロジェクト・ウィンドウ。使いそうなトラックやエフェクトがすべて組まれた状態になっている

 さて、ここからは作曲時に多用するとても便利なMIDI編集機能を幾つか紹介できればと思います。

 

 突然ですが、皆さんは楽器の演奏は得意でしょうか? 僕はもともとギタリストなので、ギターはある程度弾けますが、鍵盤の演奏が得意ではないんです。作曲の大枠はギターとAPPLE iPhoneのボイスレコーダーで行うものの、Cubaseには後々の移調やBPM、リズムを変更することを考えて、MIDIで打ち込んでいくようにしています。その際、マウスでポチポチ打ち込んでもいいのですが、個人的には肩が凝って苦手。一方で鍵盤を使ってリアルタイムで打ち込んでいくと、意図しない場所にノートが入力されてしまうことがよくありますよね。そんなときに、Cubaseに搭載された豊富なMIDI編集機能がとても便利です。

 

 まずは、グリッドからずれたノートに対して感度指定クオンタイズを行います。これはあらかじめクオンタイズパネルで設定した割合でクオンタイズを行うもので、僕の場合は50%に設定しています。ノートをずれた分の半分だけグリッドに寄せるという動作をすることで、自然な調整が可能です。クオンタイズパネルはプロジェクト・ウィンドウのツールバーから、もしくはメニュー・バーで“編集→クオンタイズパネル”を選択することで開きます。

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プロジェクト・ウィンドウ上部のツールバーにあるクオンタイズのボタン。赤枠部分をクリックしてオンにすると、感度指定クオンタイズができる

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クオンタイズパネル。赤枠部分から、感度指定クオンタイズの設定を行う

 鍵盤のミス・タッチでゴミ・ノートが入ることもありますよね。そんなときはMIDIノート全体を選択した状態で、メニュー・バーから“MIDI→機能→ノートの削除”を選択することで、指定したノートのみを削除することが可能です。使い方はとても簡単。まず“長さの最小値”“ベロシティーの最小値”をそれぞれ設定します。次に、両方の条件を満たしたノート、またはいずれか一方の条件を満たしたノートのどちらを削除するかを選択して、OKを押すだけです。通常ゴミ・ノートは長さが短く、ベロシティも小さいことが多いので、適切に設定すればゴミ・ノートのみを奇麗さっぱり取り除くことができます。

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指定したノートを削除するダイアログ。設定した長さやベロシティーに満たないノートを一括で削除できる

 ほかにも、メニュー・バーから“MIDI→機能”を選択すればさまざまな便利機能にアクセスできます。中でも僕は以下の機能をよく使用します。

  • レガート
  • オーバーラップを解消
  • 設定したベロシティに変更
  • すべてのコントロールデータを削除

 これらの機能はすべてショートカットの割り当てが可能です。ショートカットはマクロを組むこともできます。例えば僕の場合、リアルタイム録音後すべてのMIDIを選択し“オーバーラップ解消→すべてのコントロールデータを削除→ノートの削除”といった動作をまとめて行うことにしています。

強力なMIDI編集をカスタマイズするロジカルエディター

 Cubase Pro 11にはロジカルエディターというMIDI編集機能も搭載されており、これでもかというほどかゆいところに手が届く編集が可能です。最初は少しとっつきにくいかもしれませんが、作業効率大幅アップ間違い無しですので、ぜひ使いこなしてください。

 

 まずは、MIDIノートをショートカットで自在に前後ナッジできるようにカスタマイズしていきましょう。メニュー・バーから“MIDI→ロジカルエディター”を選択してロジカルエディター・ウィンドウを開きます。上枠内で、フィルター対象を“タイプ”、条件を“等しい”、パラメーター1を“ノート”に設定。下枠は実行対象を“ポジション”、操作を“足す(+)”、パラメーター2を“秒”、バラメーター1を“0.001”に設定します。設定が終わったら左上の+を選択してプリセットに保存しましょう。これはMIDIノートの開始位置を下枠のパラメーター1で設定した数値分(今回は0.001)後ろにずらすコマンドです。数値の単位は下枠のパラメーター2で変更可能。今回の例では“秒”なので、1msずらす設定になります。

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ロジカルエディター・ウィンドウ。上半分でフィルター条件を、下半分で操作内容を設定する。赤枠内の“機能”では、検索された要素に対して何を行うかを、変換/削除/選択から選んで実行できる。画面は、MIDIノートの開始位置を1msec後ろにずらす設定。黄枠の操作を足す(+)から引く(-)に変更すれば、開始位置を前にずらす設定になる。赤矢印の+ボタンから設定をプリセットとして保存することも可能

 次に“操作”の部分を“足す(+)”から“引く(-)”に変更したものを作り、こちらもプリセットに保存します。保存した各プリセットは、ショートカット・ウィンドウのコマンドにあるProcess Logical Presetからショートカットの設定が可能になりますので、任意のキーに割り当てれば完了です。

 

 続いて、選択したMIDIノートのベロシティを、指定した数値だけ増減させるというコマンドを見ていきましょう。少し複雑になりますが、先ほどと同じようにフィルター対象や条件、操作を設定して組み合わせていきます。こちらもショートカットに登録しておくと便利です。これで、選択したノートのベロシティを下枠のパラメーター1で指定した分(画面では6)だけ増減することができるようになりました。

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ロジカルエディターウィンドウ。赤枠内のように演算子AndとOrを使用することで、フィルター条件を無限に組み合わせることができる。画面は、選択したMIDIノートのベロシティを、指定した数値だけ増加させるという設定。赤矢印の“値2”はベロシティのことを指している。黄枠の操作を足す(+)から引く(-)に変更すれば、ベロシティを下げる設定になる

 ほかにも8分裏の音符だけを選択したり、バラバラのベロシティーを指定した数値に近付けるベロシティ・コンプ、ノートの終わりの長さを指定数値分増減、ベロシティやポジションのランダム化……など、ロジカルエディターではさまざまなMIDI編集が可能です。紹介しきれない機能がまだまだありますが、今回はこの辺で。次回は編曲時に便利なオーディオ編集機能を中心に紹介していければと思っております。

 

近藤圭一

【Profile】SUPA LOVE所属の作詞作曲編曲家。バンド活動を経た後、職業作家として活動を開始。ジャニーズ、AKB48グループ、坂道シリーズ、ハロプロ、アニメ、韓流グループなどさまざまなアーティストへ作品提供を行う。AKB48「シュートサイン」(47thシングル)、宮野真守「ぼくはヒーロー」(NHKみんなのうた)、日向坂46「青春の馬」(TV主題歌)、乃木坂46「悲しみの忘れ方」(映画主題歌)、和光市立下新倉小学校校歌などを手掛けた。

【Recent work】

『夢限大セイリング』
dreamBoat
(テイチクエンタテインメント)

製品情報

STEINBERG Cubase

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LINE UP
Cubase LE(対象製品にシリアル付属)|Cubase AI(対象製品にシリアル付属)|Cubase Elements 11:13,200円前後|Cubase Artist 11:35,200円前後|Cubase Pro 11:59,180円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.14以降
▪Windows:Windows 10 Ver.1909以降(64ビット)
▪共通:INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー、8GBのRAM、35GB以上のディスク空き容量、1,440 x 900以上のディスプレイ解像度(1,920x1,0
80を推奨)、インストール時に使用するインターネット接続環境