ダイナミック・マイクSHURE KSM8 新製品発表会 in NAMM 2016

SHUREは世界初のデュアル・ダイアフラム構造を採用したダイナミック・マイクKSM8を発表した。これは新しいダイナミック・マイクの歴史を作るためにSHUREが総力を上げて開発した今までに無い革新的なモデルだという。そんなKSM8についてNAMM 2016で行われた製品発表会を元に紹介していく。

SHUREの歴史

SHUREは昨年90周年を迎えた歴史あるマイク/オーディオ機器メーカーである。独自の技術によって生まれたUnidyneカートリッジは、それまでのマイクの常識を覆した。Unidyneカートリッジは改良が重ねられ、マイクをスタンドに付けたまま使用するスタイルから、ボーカリストが手に持って歩き回りながら歌えるスタイルへと変えていった。特に1966年に誕生したSM58、SM57は、50年たった今でも音楽/放送業界において「ゴッパー」「ゴーナナ」と親しまれている。当時のテクノロジーの高さを証明しているといって良いだろう。

ksm8-k ▲ SHUREは2014年1月にModel55のUnidyneテクノロジーが称えられ、IEEE Milestone賞を受賞している
ksm8-l ▲Unidyneカートリッジは改良を重ね小型化し、さらにハンドリング・ノイズを防ぐショック・マウント機構を採用したハンド・ヘルド・マイク545、565が誕生した。565にはマイクを口に近づけた時の破裂音を回避するためにボール型のグリルを装備した。そしてその後さらなる改良により現在もなお世界中で使用されているスタンダード・モデルSM57、SM58が誕生した

新たな50年、100年を見据えたダイナミック・マイクKSM8とは

ksm8-d ▲NAMM2016のSHUREブースで初公開されたKSM8

KSM8の開発は、SM58というあまりにもスタンダードになりすぎたモデルの特性をより現代的に改良するために何ができるか考え、ゼロからスタートした。

そして、それは既存の技術を使ってどのように実現できるかを考えるのではなく、理想に近づけるためにはどのようなテクノロジーや生産技術が必要かを考えるという、今までとは逆の流れで開発を行った。そのため完成まで7、8年という歳月を費やしたが、SM58誕生50年という節目の年に発表することができて本当にうれしいと、プロダクト・マネージャーのJohn Born氏は語った。

ksm8-j ▲KSM8を使用してプレゼンテーションするプロダクト・マネージャーJohn Born氏

KSM8の一番の大きな特長は、"Dualdyne"と銘打たれたデュアル・ダイアフラム機構だ。1枚のダイアフラムの下側にもう1枚のパッシブ・ダイアフラムを入れることによって、近接効果を大幅に排除し、軸を揺らしたときの極端な高域の減衰を防ぐことができる。

ksm8-m ▲Dualdyneテクノロジーはすでに特許取得済

一般的なダイナミック・マイクは近接効果により、マイクに近づけると低音が強調、逆に遠のくと高域が減衰してしまうが、KSM8は距離によって音量は変わるものの、音の質感は変わらない。これにより、色付けなく収音可能な距離(スイート・スポット)が拡大したことが分かる。

ksm8-f ▲近接効果による音質変化を既存のマイクとKSM8で比較したイメージ図。KSM8の音質は距離によって影響をうけにくい

一般的なダイナミック・マイクの周波数特性は、近接効果とのバランスを取るためにどうしてもミッドレンジあたりにピークがある。そのためエンジニアはEQで補正しフラットにする処理が必要だが、KSM8であれば音作りをする作業時間を削減することができるだろう。

ksm8-g ▲KSM8とそれ以外のダイナミック・マイクの周波数特性を比較した図。赤い線がKSM8の周波数特性だ。ほかに比べて4〜5kHz辺りのピークが抑えられている。

周波数ごとの指向特性においても一般的なダイナミック・マイクの場合、特に低域の周波数特性はふらつきやすいが、KSM8に関してはあらゆる周波数帯域において非常に均一な指向特性を実現している。

ksm8-h ▲主要な周波数帯域ごとカーディオイド曲線。非常に均一な指向特性であることが分かる

これらのサウンドは何100ページにも及ぶ長い計算から導き出されたハードの組み合わせによって作られているという。

ksm8-e ▲緻密な計算式によって作られたパーツで構成されている

これはマーケティング担当のアイデアで作られたビデオ。各部品の製作工程の様子がよくわかる。

後半は開発チームとPAエンジニアによるディスカッションが行われた。開発段階において、テレビ番組、コンサート、企業イベントなど、いくつかにおいてベータ・テストを行ったところ、どの状況においてもナチュラルでフラットなサウンドで、音作りがしやすいという高評価をもらったという。

すでに発売されているコンデンサー・マイクKSM9との違いについての質問が上がったが、「コンデンサー特有の高域の伸びが欲しい時はKSM9を。また現場での使いやすさを優先させるなら、KSM8はダイナミック・マイクとして今までになかったタイプなので使ってみる価値は十分あると思いますよ」と回答していた。

ksm8-i ▲KSM8開発チームとベータ・テストに参加したPAエンジニアとの質疑応答の様子。

そのクオリティの高さは実際に手にすればわかる。ライブ・ハウスやスタジオ、楽器店などで機会があればまずは試していただきたい。KSM8がさまざまな現場で活躍する日は遠くないだろう。非常に楽しみな製品だ。

SHURE KSM8

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仕様
カートリッジタイプ: デュアル・ダイアフラム・ダイナミック(ムービング・コイル)
周波数特性:40〜16,000 Hz
指向特性:カーディオイド
出力インピーダンス:300 Ω
感度:-51.5 dBV/Pa(1.85 mV) (1 kHz、開回路電圧)
極性:ダイアフラムへの正圧印加時にピン 2 に正電圧を発生
質量:330 g
コネクター:3 ピン XLR、オス
ハウジング:アルミ・ダイキャスト製(ブラック塗装またはブラッシュド・ニッケル仕上げ)

ラインナップ/定価(税抜)
・KSM8/N(ニッケル) /88,000円
・KSM8/B(ブラック)/88,000円
・RPW714 /120,000円
(ハンドヘルド型送信機マイクヘッド/ブラック)

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発売日 2016年3月発売予定

製品ページ http://www.shure.co.jp/go/ksm8/jp/
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