
モンスター・アナログ・シンセJupiter-8を
小さなボディに凝縮したJP-08
今回JP-08、JX-03、JU-06で再現されるシンセは、1980年代に発売されたJupiter-8、JX-3P、Juno-106になります。まずJP-08はROLANDが1981年に発売し、世界にその名を轟かせたJupiter-8を復刻したものです。オリジナルは巨大とさえ呼べるボディに所狭しとツマミやスライダー、ボタンが並んで壮観なのでありますが、さすがに小さなJP-08にそれらすべてを再現するのは無理。ということで、基本的にメイン・パネルの音作りに関する部分だけを再現したものになりました。アルペジエイター関連やTR-808と共通デザインだったカラフルなボタンはありません。またボイス数も4です(ただし、2台をMIDI接続すると8音も可能になります。これはシリーズ他機種も同じです)。オシレーターやフィルターの信号経路や変調ルーティーンはJupiter-8そのものなので、シンセとしては申し分ない仕様ですね。
なお復刻にあたり、波形追加とオシレーター・レンジが拡張され、より現代の音楽シーンにマッチするようになっています。また2つの音を重ねることも可能(DUAL)なので、例えば音を“芯”と“余韻”に分けて作り合体させることで、深みのある音作りが可能です。
肝心の音ですが、やはりACBテクノロジー恐るべし。オシレーターは広範囲にわたりフラットな特性で、極太ベースから流麗なストリングス、張りのあるブラスに澄んだ金属音など多彩なサウンドを無理なく奏でてくれます。あらためてJupiter-8ってよくできてるなあと思いました。
それからこれは全機種共通の仕様でもありますが、ポリ/ユニゾン/ソロモードの切り替えが可能な上、ポリフォニック・ポルタメントがかけられたり、ポルタメントをかけたまま演奏中にポリからユニゾンにしても音が切れないとか、細かいアイディアが随所に見え隠れ。“もうこれ1台で十分じゃないかな?”とさえ思いたくなります。
ちなみに、Roland Boutiqueシリーズをビルトインできる専用鍵盤K-25Mも同時発売されました(写真①②)。音源モジュールをカシャンとはめ込めますから、音源3つと鍵盤1つを買って挿し替えしてもいいし、音源と鍵盤を3つずつ買ってもよし。もちろん音源だけ購入して鍵盤は手持ちのものを使うというのもアリです。


ROLAND初MIDI対応シンセJX-3Pを
大幅に強化したJX-03
JX-03(写真③)は1983年に登場したROLAND初のMIDI搭載シンセ、JX-3Pを復刻したものです。

JX-3Pはパネル上にツマミが無く、別売りのコントローラーPG-200を接続することで、素早い編集やリアルタイム・コントロールを可能にするというシンセでした。もちろんJX-03は最初からツマミ群が搭載されているので安心ですが、それよりすごいのは、3機種中一番さまざまな機能拡張が行われていることでしょう。オリジナルのJX-3PはSyncやMetal(FM)のかかりが浅くあまり効果が感じられなかったのですが、JX-03はオシレーター・レンジが上下にこれでもかと広がり、オシレーター波形も大幅増量、ノイズも2種類になり、弱かったシンクとFMが2モード化によって強化が施され、ダメ押しにリング・モジュレーターを追加。ボーナスでLFO波形も倍増と大盤振る舞いです。おかげでオリジナルより、ずっと幅広い音色が楽しめるようになりましたが、オリジナルのJX-3Pの質感はしっかりキープ。だからまず聴いてほしいのがプリセット音です。とても上手に作られたストリングス、ブラス、クラビ、ボイスなど代表的な音色が32種収録されています。2DCOにHPF(ハイパス・フィルター)、LPF(ローパス・フィルター)があり、強力になったFMとシンク、そしてリング・モジュレーターの搭載など一通りのシンセ・パラメーターは用意されているので、幅広いジャンルでの即戦力と成り得ます。
Juno-106を復刻したJU-06は
コーラス・エフェクトのノイズまで再現
続いてJU-06(写真④)は現在のアナログ・シンセ・リバイバルのきっかけとなったJuno-106をモデリングしたものです。

1オシレーターながら矩形波とのこぎり波を同時に鳴らしたり、サブオシレーターがあったり、ノイズが併用できたりと合理的な構成なのに加え、ROLANDの伝家の宝刀とも言えるコーラス・エフェクトを併用することで、上品なストリングスを筆頭としたパッド系をメインに、ベースから効果音まで独特のサウンドが出せたのが人気の秘密でしょう。
JU-06はJuno-106の基本構成はそのまま、HPFのコントロール無段階化とLFO速度の改変で、より使いやすい仕様になってます。音を出してみればROLANDならではのベースやストリングスの質感が満喫できます。あらためて触って思うことは、パラメーターは少ないのに、非常に合理的な設計になっているため、見た目以上に多彩な音を作ることが可能であることです。中でも個人的にオッ!と思ったのは、従来のモデリングが苦手としていたVCFだけの発振も可能なこと。VCF発振させた状態でオシレーターとピッチを合わせたときに起こるギュロロロロという濁りのある音もしっかり再現できているのは感心。ちなみにコーラスはオリジナル通りのかかり具合が喜ばしいのですが、オンにするとわずかに“シャー”っとノイズが加わるところまで再現しているのには参りました。
小型で電池駆動にも対応
16ステップ・シーケンサーも搭載
Roland Boutiqueシリーズはどれもかなりコンパクトで、特にツマミ類は手の大きい人だとギリギリ操作ができるくらいの小ささです。でもパネルは金属なのでしっかりしていますし、ツマミのデザインも従来のROLAND(あるいはBOSS)製品を踏襲。スライダーは先端にLEDがはめこまれています。ツマミやスライダーを動かした際の適度な重量感は信頼性があるので、精巧に作られた鉄道模型のようです。
使い勝手もよく考えられています。例えば電源は単三電池×4本かUSBバス・パワーを使用。持ち運びに便利だし、電池が切れそうになっても出先のコンビニで買えばOKです。パソコンとUSB接続をすればオーディオ・インターフェースとしても使え、この音が侮れません。バキっとしたパンチがあり、分離もとてもよく、正直この価格帯だからどうかな?という当初の読みは良い意味でハズレました。さらにスピーカー内蔵というのもシャレが効いているというか、面白い試みで評価できます(写真⑤)。どうも最近のROLAND製品は、“面白そうなことは何でもやっちゃえー”的なフットワークの軽さと“でも、やるからにはマジです”というプロ精神の同居が好ましいです。

操作で特徴となるのは、まずパネル面で目立つ2つのリボン・コントローラー。基本的な働きはピッチ用とモジュレーション用です。指でタッチすると現在地点をLEDが示してくれるというスグレもの。ついでに電池残量がわずかになるとカラー・タイマーが点滅し始めるのも親切です。そして、このリボン・コントローラーは、シーケンサーのテンポやエンベロープ・ディケイを一括でコントロールしたり、音階を入力できたり、システム設定を行ったりと、さまざまな機能をも兼ね備えてます。
もうひとつはステップ・シーケンサー。これは個人的に大プッシュしたいですね。さすがはTR-808やTB-303を産んだROLAND。実によくできてます。何が良いって、“シーケンサーを再生しながらさまざまな編集を行えること”です。最高16ステップのシーケンス・パターンが組め、16種類まで保存が可能。音階、ステップ数、スケール、そしてタイやゲート・タイム、さらにシャッフルなども加えることができます。もちろん再生しながらつまみによる音色変更もできるので、クラブでのリアルタイム・ギグなどでは大活躍間違いなしですね。適当に音階を入力して、奇数や偶数ステップだけを再生させたり、休符をスキップさせたりというトリッキーな再生もできるので、たった一つのパターンから無限に展開できます。
で、そのエディット方法がなかなかすごいんです。そもそもパネルには“Manualとその隣のボタンを同時に押すとシーケンサー・モードに入る”という情報以外は何も書かれてないのです。どうやってノートを入力する? ゲート・タイムは? 目的により違いますが、おおむねMANUALやCHORUSなどを押しながら●▲(数字ボタンが多い)を選択という感じ。習うより慣れろで、結構すぐ覚えると思います。ちなみにマニュアルは紙1枚だけですから、携帯電話の機能を覚えるよりはるかに簡単です。前述したリボン・コントローラーをピッチやモジュレーション以外の機能に変更する際も同様の手法を用います。
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Roland Boutiqueシリーズは、音良し、使い勝手よし、デザイン良しと、これほど素晴らしいシステムでありながら数量限定販売なのだそうです。事情があるのでしょうが、限定などと言わずROLANDのいにしえの名機たちを続々と復刻してくれたらなあ、と夢想してしまうのは筆者だけではないと思います。などと言ってても始まらないので、とにかく買うしかないですね、これは。

製品サイト:http://www.roland.co.jp/promos/roland_boutique/
(サウンド&レコーディング・マガジン 2016年1月号より)