中土智博が使う Studio One 第1回

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第1回
Studio Oneに移行した理由と
プラグインのプリセット管理について

『サウンド&レコーディング・マガジン』をご覧の皆様、初めまして作編曲家の中土智博と申します。今月から数回にわたりStudio One 3(以降S1)の使い方をご紹介していきたいと思います。とその前に“お前誰だよ?”って方に対して軽く自己紹介を。僕はRemark Spiritsという1vo&2MCのヒップホップをベースとしたユニットのサウンド・プロデューサーとして2007年にデビューし、現在は作編曲家として活動しております。

インフォビューを表示させることで
DAWの移行もスムーズに

前述したユニットで活動していた当時、ソフト・シンセの充実度に引かれMOTU DPからAPPLE Logicに移行。しかし制作する楽曲のジャンル感が変わるとともに増大するトラック数の影響からか、ミックス時の音のにじみが気になっていました。アナログ・ミキサーやMETRIC HALOのDSPミキサーでサミングをしたり試行錯誤してはいましたが、レイテンシーの影響を受けるので、音質的なメリットよりもデメリットの方がネックになり、根本的な解決には至りませんでした。そんな折、音楽プロデューサーの佐藤純之介さんに田辺恵二さんを紹介していただいたことをきっかけにS1(当時はVer.2.0)に触れ、ほかのDAWの“いいとこ取り”をしたような使用感に感激し、“コレなら時間を掛けずに移行できる!”と一念発起。進行中のプロジェクトがあったにもかかわらず、無謀にも移行に踏み切ったのです。

DPからLogicに移行する際かなりの痛みを伴ったので、不安はありましたが、ショートカットのカスタマイズや、インフォビューを表示させておけば、マウス・カーソルが指している個所でどのような操作ができるかが表示されるので、1カ月程度で、業務ベースでも不安なく使えるようになっていました。

◀インフォビューは、マウス・カーソルが差し示している個所で、何ができるか表示してくれるので、DAW初心者や不慣れな間は表示させておくのがオススメ!! 右上の矢印ボタンで画面をメニュー・バーに表示させることも可能(デフォルトではメニューバー内に表示される) ▲インフォビューは、マウス・カーソルが差し示している個所で、何ができるか表示してくれるので、DAW初心者や不慣れな間は表示させておくのがオススメ!! 右上の矢印ボタンで画面をメニュー・バーに表示させることも可能(デフォルトではメニューバー内に表示される)

当時デモ音源のやり取りをしていた佐藤さんから”ぱっと聴きでも分かるぐらい音が良くなった!”と返事をいただき、S1への移行は間違いじゃなかったと確信したのでした。今では譜面の書き出し以外の作業をS1のみで行っています。

それでは僕のS1の使い方を、“仕込み→作曲→編曲→納品”の流れに合わせてご紹介していきましょう。

プリセットはプラグイン側で選ばず
S1のブラウザで選択

曲を作り始める際、テンプレートから作る方が多いと思いますが、僕は、S1に移行してからは作り込んだテンプレートは使いません。と言うのも、僕の場合はテンプレートにロードした音源/音色の雰囲気に流されてしまいがちになるのと、S1は音源/プラグインのロードをアレンジビューやミキサーへのドラッグ&ドロップするだけで素早いオペレーションが可能だから。Aux/Busトラックも簡単に生成され、後述するブラウザーが簡単で使いやすいので、大まかなジャンル別のテンプレートを用意するメリットをあまり感じないのです。さらにVer.3から検索機能が強化され成熟度が増しました。

▲検索機能が強化されたブラウザー機能。ループ、エフェクト、インストゥルメント、プリセットを、ファイル名だけでなく、スタイル、楽器名で素早く探せるようになった。またコンテンツにタグ付けも可能で、さらに検索がしやすくなっている ▲検索機能が強化されたブラウザー機能。ループ、エフェクト、インストゥルメント、プリセットを、ファイル名だけでなく、スタイル、楽器名で素早く探せるようになった。またコンテンツにタグ付けも可能で、さらに検索がしやすくなっている

管理の簡単さと実際のワークフローになじみやすいシンプルさがあるので、感覚的に使えるでしょう。プラグインごとにメニューへの表示/非表示が切り替えられたり、任意に設定したフォルダに振り分けて表示させたり、プラグインのベンダー、フォーマットごと(PRESONUS純正、Audio Units、VST2、VST3など)に表示することも可能です。

▲筆者の場合は、例えばコンプやEQはモデリングものやデジタルもの……といったふうに分類。ジャンル別よりもメーカー別で選ぶ方が速い場合もあるので、並び替えを切り替えながら探しやすいやり方で選んでいる ▲筆者の場合は、例えばコンプやEQはモデリングものやデジタルもの……といったふうに分類。ジャンル別よりもメーカー別で選ぶ方が速い場合もあるので、並び替えを切り替えながら探しやすいやり方で選んでいる

ここでご紹介したいのは“S1のブラウザ上でプリセットを管理/選択する方法”です。一見地味かもしれませんが、各シンセやエフェクトのブラウザーの仕様の違いに左右されず、同じ操作感でプリセットを呼び出すことができます。“なーんだ大したこと無いやん!”って思ったあなた! だまされたと思って一度試してみてください。プルダウン・メニューだったり、カラム表示だったり……メーカーによって異なる“プリセットを選ぶ”と言う工程を統一できるので、フレーズやちょっとしたアイディアなど、瞬間瞬間に浮かんでは消えていくイメージを逃がすこと無く形できます。これって非常に重要だと思うんですよね。

僕の場合、自分で作った音色だけではなく、ソフト・シンセ購入時にはファクトリー・プリセットもほぼ全音色試聴し、気に入った音色や“使える!”と判断した音色はカテゴリー別にフォルダー分けをして、S1上でプリセットとして保存しています。少々時間はかかりますが、余裕があるときに少しずつ仕込んでおけば、締め切りが厳しい作曲コンペやタイム・トライアルのような編曲案件が舞い込んできたとき、本当に助かっています。最近のシンセはプリセット数も多いので楽な作業ではありませんが、音色の山に埋もれがちな“本当に使える音色”との出会いがあるかもしれませんよ!!

フォルダー分けをすることで、カーソルでプリセットを選択→ドラッグ&ドロップで呼び出すことができる上に、トラック名も自動的にプリセット名がアサインされるので、“プラグインを立ち上げ→プラグインのブラウザーで音色選び→トラック名を付ける”という作業と比べると、かなり時間短縮になります。

▲プリセットをフォルダー分けして管理する際、”Finderに表示”を使えば、Finder上でフォルダー分けやリネームができる。その場合は”再読み込み”でS1のブラウザー上でも反映される。筆者は、名前を付ける際、検索しやすいように音色名にタグを付けたり自分の曲名やインスパイアされたアーティスト/曲名をもじってネーミングすることで、どんな音なのかイメージしやすいようにしている ▲プリセットをフォルダー分けして管理する際、”Finderに表示”を使えば、Finder上でフォルダー分けやリネームができる。その場合は”再読み込み”でS1のブラウザー上でも反映される。筆者は、名前を付ける際、検索しやすいように音色名にタグを付けたり自分の曲名やインスパイアされたアーティスト/曲名をもじってネーミングすることで、どんな音なのかイメージしやすいようにしている

またS1はソフト・シンセのプリセットを保存する際、今まではシンセとエフェクト・チェイン、おのおのを別々に保存/管理していたわけですが、現バージョンからプラグインの設定も合わせて保存することができます。

▲エフェクト・チェインを併せて保存している場合は、アイコンが変わるので一目りょう然(最下段) ▲エフェクト・チェインを併せて保存している場合は、アイコンが変わるので一目りょう然(最下段)

ちょっと脱線しますが、Ver.3からの新機能Multi Instrumentsでは、複数のシンセをレイヤーして、さらにインサートしたエフェクトの設定までも一度に保存することが可能。もちろんサード・パーティのシンセにも対応しています(個人的にはシンセはレイヤーしてナンボだと思っているので、この機能追加にはかなりアガりました!)

▲Multi Instrumentsでは、音源ごとに個別に音量の調整、エフェクトのインサート、ノートレンジやNote FXのインサートが可能。筆者はXFERRECORDSのSerumとS1標準のMai Taiをレイヤーするのがマイブーム。何方も2オシレーターのシンセで似た出音にしつつも、微妙にパラメーターをズラしつつお互いの音量バランスを変えることで音にアナログ・シンセ的な深みや広がりを出している ▲Multi Instrumentsでは、音源ごとに個別に音量の調整、エフェクトのインサート、ノートレンジやNote FXのインサートが可能。筆者はXFERRECORDSのSerumとS1標準のMai Taiをレイヤーするのがマイブーム。何方も2オシレーターのシンセで似た出音にしつつも、微妙にパラメーターをズラしつつお互いの音量バランスを変えることで音にアナログ・シンセ的な深みや広がりを出している

というわけで、仕込み編はいかがだったでしょうか? 次回は作曲時のTIPSを紹介してきいきたいと思います。

*Studio One 3の詳細は→http://www.mi7.co.jp/products/presonus/studioone/