第一線で活躍するエンジニアに毎月お薦めの新作を語ってもらう本コーナー。小泉由香氏の今月のセレクトは、アラニス・モリセット『Such Pretty Forks in the Road』、ジョン・レジェンド『ビガー・ラヴ』です。
楽曲/音質共に良い意味で落ち着いた
アナログ感のある仕上がり
アラニス・モリセットが8年ぶりに新譜をリリース! 今までの彼女の作品は、ギターが効いてジャキジャキしたバンド・サウンドをバックに“ドライブするロックなモリセット!”というのが個人的な印象でした。しかし9枚目の今作は、楽曲/音質共に良い意味で落ち着いたアナログ感のある仕上がりです。
プロデュース兼レコーディングとしてアレックス・ホープとキャサリン・マークスを起用。ウォームで柔らかな音質で録音されたボーカルは、お母さんになったモリセットの今を表現しているかのようです。ロックな曲はあまりありませんが、優しく包み込むほんわかしたアルバムになっています。ちなみに『ジャグド・リトル・ピル』の25周年を記念した日本公演は、新型コロナの影響でキャンセルになりました。
どこか懐かしさのあるファンクやR&Bの楽曲が
パンチのある低音によって現代風に
ジョン・レジェンドの7作目は、プロデューサー陣にオーク・フェルダーやチャーリー・プースなどを迎え、ミックスはHUMANZ名義の2人組、ゲイリー・ブラウンとボビー・キャンベルが担当。どこか懐かしさのあるファンクやR&Bの楽曲が、パンチのある低音によって現代風になっていたりと、低音フェチには聴き応えのある作りになっています(笑)。
個人的には少しだけ入れ込むレベルを下げた方が、低音の“しっぽ”部分の伸びが出てきて面白いかも?と思ったりします。歌のビブラートに加え低音やシンセがもっとひずみとして引っ掛かりそうなのに、よくここまでに留めたという点でコントロール力に感心した一枚です。
小泉由香
【Profile】マスタリング・スタジオ、オレンジ主宰。音楽愛に裏付けられた丁寧な仕事で信頼が厚い、日本を代表するマスタリング・エンジニア
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