Berlin Calling〜第97回 野外フェスティバル感が増して一層楽しい “Superbooth” が今年も開催!

楽器見本市の概念を覆す、誰もが楽しめる音楽イベント

 ベルリンの名物シンセ専門店 “Schneidersladen” の店主であり、ヨーロッパ最大規模のモジュラー・シンセの流通を担うシュナイダーさん。その彼が、フランクフルトの楽器見本市 “musikmesse” からシンセ部門を独立させる形で2016年からベルリンで始めた “Superbooth” は、楽器見本市の概念を覆す、誰もが楽しめる音楽イベントだ。パンデミック中に苦肉の策で屋外に展示会場を移した2021年版が、思いのほか好評だったため、それ以降は屋内から屋外に展示スペースが移されている。もともと子供/家族向けのレクリエーション・センターを会場としている上に、シュナイダーさん自身がかなり遊び心のある人物なので、カラフルでフレンドリーなところが魅力だ。それが、今ではさらにテントやバンガローが展示会場となり、ますます野外音楽フェスティバルのようになってきた。今年は春らしい陽気と晴天に恵まれ、 “シンセサイザーの国際見本市” というイメージからはまず連想しないような、光と開放感に満ちていた。

新緑が美しい最寄駅からの道のり。さわやかな会場周辺の環境と、黒いTシャツ姿が目立つシンセ・オタクたちとのコントラストが何ともおかしい

新緑が美しい最寄駅からの道のり。さわやかな会場周辺の環境と、黒いTシャツ姿が目立つシンセ・オタクたちとのコントラストが何ともおかしい

 今回は250以上の展示者が、35カ国から参加したそうだ。開催期間5月11日〜13日までのうち、筆者は1日目の木曜日と2日目の金曜日に足を運んだが、盛況だった。例年、最終日の土曜日が一番の人手となる。これまでは屋内で行われていたライブ・パフォーマンスなどは複数の屋外ステージで行われ、ほとんどのワークショップやプレゼンテーションは屋内で行われていた。これまではびっしりと詰まっている印象だった屋内スペースも、かなりの部分が屋外に移されたおかげでゆとりが出て、リラックス度が増していた。今年は子供や家族連れの姿をあまり見かけないなと思ったら、前週に同じ会場で “Minibooth” という5〜14歳の子供向けの電子音楽イベントが別途行われていたそうだ。

話題となっていたTEENAGE ENGINEERINGのField Seriesの新商品、TP–7 Field Recorder。手のひらサイズのコンパクトなレコーダーが、文字通りフィールド感あふれる屋外ブースで発表されていた

話題となっていたTEENAGE ENGINEERINGのField Seriesの新商品、TP–7 Field Recorder。手のひらサイズのコンパクトなレコーダーが、文字通りフィールド感あふれる屋外ブースで発表されていた

高橋達也氏率いるKORG Berlinの、2020年の創設以来、初となった成果発表。まだプロトタイプ段階ながら熱い注目を集めた“アコースティック・シンセ”。高橋氏の説明に聴き入るラシャド・ベッカー

高橋達也氏率いるKORG Berlinの、2020年の創設以来、初となった成果発表。まだプロトタイプ段階ながら熱い注目を集めた “アコースティック・シンセ” 。高橋氏の説明に聴き入るラシャド・ベッカー

 日本からは、航空券の高騰やインフレ、為替の影響か、出展者も訪問者もあまり見かけなかったが、ベルリンの音楽関係者は電子音楽の制作や演奏をしていない人も多く訪れていた。シンセ業界のインクルーシビティと多様性の促進に積極的に取り組んでいるというSuperbooth。誰でも(事前登録をすれば)参加できる初心者向けワークショップや、女性インストラクターによる女性やノンバイナリーの人向けのビギナー・ワークショップも用意されている。また毎年恒例の子供アンサンブルの即興演奏など、知識のない人でも体験しやすい雰囲気と機会が作られている。筆者も、楽しかった!

 

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浅沼優子/Yuko Asanuma

【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている

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