Berlin Calling〜第92回 アフリカとドイツのアーティストたちの創造性“交配”プログラム『Afropollination』

滞在/共同制作プログラムの第一フェーズが実施された

 2022年を振り返ると、筆者の音楽体験のハイライトはウガンダで開催されたフェス『Nyege Nyege Festival』だった。私は2019年に次いで2度目の参加だったが、今年は初めて日本からもTYO GQOMのメンバーとボアダムスのEYE氏が出演を果たした。そのおかげで日本国内でも、同フェスやNyege Nyege Tapes及びその姉妹レーベルHakuna Kulalaの作品や所属アーティストたちへの注目度が高まったのではないかと思う。

 今回は新しい会場だったためにイベント運営の問題も多くあったが、有意義なプログラムの始まりでもあった。ドイツとアフリカ諸国の音楽家やダンサー総勢32名が参加した『Afropollination』という、新たな滞在/共同制作プログラムの第一フェーズが実施されたのだ。

 ドイツからは、フットワークのプロデューサーDJ Paypal、すでにHakuna Kulalaから作品をリリースしているビート・メイカーのDebmasterなど、ベルリン在住のアーティスト9名がウガンダに渡った。アフリカ側も、マリ、タンザニア、ケニア、ルワンダ、コンゴ民主共和国、カメルーン、南アフリカなど、さまざまな国から選ばれたアーティストが、全員ウガンダの首都=カンパラにあるNyege Nyegeが運営する滞在制作施設、Nyege Nyege Villaに集結。9月に参加者全員の初の顔合わせとなったが、プログラムは2023年6月にベルリンで開催される『Afropollination Festival』まで、6つのフェーズにわたって行われる長期的なものだ。

Nyege Nyege Villaで顔合わせをするプログラム参加アーティストたち。ドイツ側の参加者9名のうち5名はアフリカ系バックグラウンドを持ち、カメルーン系フランス人やアンゴラ系ポルトガル人なども参加。アフリカ及びアフリカン・ディアスポラの多様性を反映している Photo: Jan Moss

Nyege Nyege Villaで顔合わせをするプログラム参加アーティストたち。ドイツ側の参加者9名のうち5名はアフリカ系バックグラウンドを持ち、カメルーン系フランス人やアンゴラ系ポルトガル人なども参加。アフリカ及びアフリカン・ディアスポラの多様性を反映している
Photo: Jan Moss

 

第1フェーズのカンパラでの制作やセッションの様子を、音楽映像作品を多く手掛けてきたフランス人映像作家ヴィンセント・ムーンが撮影。そのショート・ムービーが次々とYouTube上で公開されている

 

タンザニアの高速ストリート・ダンス・ミュージック“シンゲリ”の代表的なプロデューサーであるSisso(手前)と、同郷のキーボーディストMaiko(奥)。Nyege Nyege Villa滞在中のスタジオでの様子。 Photo: Jan Moss

タンザニアの高速ストリート・ダンス・ミュージック“シンゲリ”の代表的なプロデューサーであるSisso(手前)と、同郷のキーボーディストMaiko(奥)。Nyege Nyege Villa滞在中のスタジオでの様子。
Photo: Jan Moss

 

 この企画の代表を務め、ワールドミュージック・エキスポ『WOMEX』にも長年携わるPiranha Arts社のクリスティン・センバ氏に話を聞いてみた。“我々はNyege Nyegeの功績を高く評価し、尊敬しているので、長い間一緒に何かしたいと考えていました。ドイツとアフリカ大陸のアーティストの交流によってお互い得られるものは大きいと考え、ドイツ連邦文化財団に1年間のこの企画を申請したところ、TURN 2という助成を受けられることになりました”

 TURN 2とは、ドイツが植民地主義の反省から、アフリカ諸国との公正な関係を築くための芸術分野での取り組み。プログラムの参加アーティストは、独自の審美眼を持つNyege Nyege側によって選出されたそうだ。次のフェーズではハンブルクとベルリンに一部のアーティストが共同出演し、制作を続ける。各フェーズの様子は映像で記録され、最終的にコンピレーション作品が発表される予定だという。 

 

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浅沼優子/Yuko Asanuma

【Profile】2009年よりベルリンを拠点に活動中の音楽ライター/翻訳家。近年はアーティストのブッキングやマネージメント、イベント企画なども行っている

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