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ブライアン・イーノ『FOREVERANDEVERNOMORE』インタビュー

ブライアン・イーノ『FOREVERANDEVERNOMORE』インタビュー

ミュージシャン、プロデューサーとして50年以上のキャリアを誇るブライアン・イーノ。2022年の6月から9月にかけて開催された展覧会『BRIAN ENO AMBIENT KYOTO』が好評のうちに幕を閉じたのもまだ記憶に新しいが、10月には最新作『FOREVERANDEVERNOMORE』を発表。2005年の作品『Another Day On Earth』以来となる、イーノ自身のボーカルを収録したアルバムだ。さらに今作は、ステレオ・ミックスのほかにDolby Atmosミックスも発表。長年サウンド・インスタレーションを発表してきたイーノの世界観を、存分に堪能できる作品と言えるだろう。今回はイーノに加え、アルバムに参加するギタリストのレオ・エイブラハムズ、エンジニアのエムレ・ラマザノグルにもインタビューを敢行。制作の全貌を詳しく伺った。

歌も音楽も同列に存在する

今作は『Another Day On Earth』以来、17年ぶりのボーカル・アルバムです。かなり長い期間が空いていますが、なぜ歌を収録しようと思ったのでしょうか?

イーノ 自分の新しい歌声を見つけたからさ。『BRIAN ENO AMBIENT KYOTO』でも展示した「The Ship」の制作中に発見したんだけれども、非常に低い音域の歌声がとても気に入ったんだ。とりわけドラマチックじゃないところが良い。これまで何年も作ってきたアンビエント・ミュージックというものは、聴き手をムードの中に誘い込んで感覚を味わってもらう音楽なんだ。そういう音楽に、ポップ・ソングの歌い方は合わない。“僕がここで歌っています!”とか“皆さん注目してください!”という主張が強すぎるからね。私が作るアンビエント・ミュージックの中に、そういう歌声がいてほしくない。

同じ歌というカテゴリーでも全く異なると。

イーノ 年を取ると誰しも声が低くなるけれども、いつまでも10代の頃の歌い方を維持し続けようとする生き方もある。一方で、もう自分が老人になったことを受け入れて、年老いた声で歌う生き方もある。私がしっくりきたのは後者の方で、“この声を使った新しい表現ができるじゃないか!”と気づいたんだ。抱えている感情や考えを声で表現できると気づいたときは、すごく開放的な気分だったよ。

17年ぶりのボーカルとは思えない見事な歌声です。

イーノ 実はこの22年間、アカペラ・グループとして活動している。個人的なものだからレコーディングもライブも行っていなくて、毎週決まった時間に集まって伴奏無しのアカペラで歌う。私の人生の中でも一番の楽しみさ(笑)。

今作を聴くまで、“アンビエント・ミュージック”と“歌”というのは対極にあるものというイメージを持っていましたが、2つが見事に混ざり合っているように感じました。

イーノ その2つを共存させるのがすごく難しくて、これまでなかなかできなかったけれど、ようやく答えを見つけることができた。アンビエント・ミュージックにはリズムやコードという基本的な骨組みがあるわけではないのだから、歌もその中の音と同様、自由に浮遊させればいいんだと。音楽は歌を支えるためにあるわけじゃない。歌も音楽も同列にあって、ぴったりと合うこともあれば、たまには浮いてしまったり、支え合ったりもするものなんだ。

現在の歌声を手に入れたからこその境地ですね。

イーノ これまでアンビエント・ミュージックの中には人間がいなかった。その世界に誘い込まれたリスナーだけが唯一の人間だったんだ。けれども、この年老いて低くなった声なら音楽の中にいても違和感が無いなと。“僕もここにいます。だけど気にしなくていいからね”と寄り添っているような歌声だと思っているよ。

歌のメロディはどのように作っているのでしょうか?

イーノ それは自分でも分からない。歌っているうちに、いつの間にかメロディが出来上がっているんだ。大体はシンプルなんだけど、むしろシンプルでないと。注目してほしいとか、興味を引くようなものであってはいけない。

「These Small Noises」はメロディが際立ち、作中でも特に情緒的な印象の楽曲です。

イーノ あれは22年以上前に書いた、アルバムの中でも一番古い曲なんだ。この曲がしっくりくる作品が無くてずっと寝かせていたから、ほかの収録曲と毛色が異なるかもしれない。でも、一般的な楽曲のように構成の繰り返しがほとんどない、変わった曲になっているよ。

ローパス・フィルターで陰影を作る

歌はどういったマイクで録音していますか?

イーノ SHURE SM58とSM7Bの2本かな。あまり高価でないマイクを使っている。私にとってマイクそのものより重要なのが、高域を調節するローパス・フィルターだ。最もシンプルだけれども、最も興味深いツールさ。レコーディング・スタジオでは、誰もが音をブライトにして存在感を出す傾向があるけれども、私は奥行きや陰影を作るのが好きでね。ローパス・フィルターを使えば、存在感をなくすことができるんだ。

ローパス・フィルターはどういった機種を?

イーノ APPLE Logic Proに搭載されているものをそのまま使っている。AUDIOTHING Things-Tiltというフィルター・プラグインも使うけど、ローパス・フィルター自体はとてもシンプルな構造だから、そんなに高価なものを買う必要はないよ。

ボーカルの録音は何度もテイクを重ねているのか、それとも一発録りのような形でしょうか?

イーノ 曲によってさまざまだ。「I’m Hardly Me」は歌詞を2分で書いて、録音も1テイクで終わった。「Who Gives a Thought」は歌詞を書くのに何カ月もかかって、多分68回は録り直したんじゃないかな(笑)。

それはつまり、歌い方というよりも歌詞を再考するために録り直しているのですか?

イーノ どちらもさ。多くのミュージシャンのように前もって歌が出来上がっているわけではないからね。何となく頭にあるメロディやタイミング、トーンなどのイメージを、歌いながら形にしているよ。

作曲は発見のためのプロセス

曲作りは何から始めていくのでしょうか?

イーノ まずサウンドから曲を作る。サウンドがもたらす情景を少しずつ明確にしていく。写真の現像にとても似ていて、液体からゆっくりと浮かび上がってくるけれども、何が出てくるのかは自分でも分からない。自分でもそこで初めて発見するんだ。作曲は自分にとって発見のプロセスであって、既に頭の中にあるものを複製させることではない。

一般的な作曲のイメージとはかなり異なります。

イーノ いろいろな手法を使って自分の趣向や癖を超えるようにしている。オブリーク・ストラテジーズ・カード(編注:1975年にイーノと画家のペーター・シュミットが開発。100枚以上のカードで構成され、各カードには抽象的な内容の短いテキストが書かれている)もその手法の一つだけど、作業をランダム化することで、自分が思ってもみない組み合わせを発見することに興味があるよ。

サウンドという面だと、「We Let It In」の深いリバーブがかかったような吐息が耳に残りました。

イーノ あれは私の娘の吐息さ。彼女の声のスピードを落とすことで深い音になった。実はあの曲は私の歌声以外はすべて娘の歌声なんだ。とても実験的で面白い歌い方をするから彼女と共作するのが好きだし、私自身も実験的な試みをたくさん録音している。アーカイブしている断片が、今は8,500ほどあるんじゃないかな。それらの中からランダマイザーを使って3~5つくらいを引っ張ってくる。一斉に鳴らすと大抵は聴けたもんじゃないけれど、たまに見事な組み合わせになって、本当に美しい音を聴かせてくれる。あの曲は2011年、2017年、2019年にレコーディングした断片のコラージュが元だよ。

素材の加工はほかにどのような手法を?

イーノ あるサウンドを全く新しいものに変えるのが好きでね。ストレッチしたりつぶしたり、ハーモニクスを追加したり。レコーディング自体、正確な音を追求することに興味がなくて、「There Were Bells」冒頭の鳥のさえずりは携帯電話で録音した。携帯電話のマイクのコンプ、リミッターが素晴らしいんだ。たくさん機材をそろえたところでなかなか生み出せないサウンドだよ。ほかにもAKG C1000 Sというマイクがお気に入りで、4kHz付近のレスポンスがすごく変わっているから、音をシャープに捉えてくれる。明るさを付け加えたいときに使っていて、今回のストリングスはC1000 Sで録音しているよ。

イーノのお気に入りマイクというAKG C1000 S。今作ではバイオリンやビオラのストリングス・パートの録音に使用された。イーノは「4kHz付近の音色が独特で、白や銀色といったイメージの明るさを付け加えたいときに使用しているよ」と語る

イーノのお気に入りマイクというAKG C1000 S。今作ではバイオリンやビオラのストリングス・パートの録音に使用された。イーノは「4kHz付近の音色が独特で、白や銀色といったイメージの明るさを付け加えたいときに使用しているよ」と語る

「Making Gardens Out of Silence in The Uncanny Valley」の、ノイズが混じった声も面白い効果だと思いました。

イーノ あれは22年ほど前に録った、ロンドンの日本食レストランで働いていた日本人ウエイトレスの声さ。英語には無い発音を求めていてね。スタジオで日本語の文章を読んでもらい、その声をストレッチした。まだ技術に限界があったから、すごく粗くて石のようにザラザラした感じもあれば官能的に聴こえる部分もあって面白くて。当時はそれがとても新しい技術だったから使ったし、今も常に新たな可能性を切り開いてくれる機材や技術を探しているよ。

それは、いわゆるビンテージのアナログ機材には興味がないということなのでしょうか?

イーノ そうだね。アナログ機材とともに育ってきたから当然音は好きだし、今でも多くの人が愛用しているのは良いことだと思う。ただそれよりも、未知の音を作ることの方に興味がある。アーティストには、カウボーイと農家の2種類がいると考えているんだけれど、カウボーイは新しい土地を見つけ、農家は1カ所に定住して土地を耕す。私はカウボーイのように新たなものを追い求めているけれど、土地を育てる人とその両方ともいることが大事なんだ。

ソフト・シンセの組み合わせで無限に音が作れる

制作はどのような環境で行っていますか?

イーノ ほとんどの制作を、ロンドンの3.5㎡くらいの狭いスタジオで行っていて、隣には100㎡くらいの広いスタジオがある。制作した音楽を広いスタジオのサラウンド・システムで聴いている。制作ではTANNOYの1960年代製スピーカーを使っていて、とにかく気に入っているんだ。ソフトで優しい音……いわば制作においては最も不正確な音だよ(笑)。音楽を批評的に聴きたくないし、包み込んでくれるような温かい音で聴きたいからね。1日16時間作業をしても全然耳が疲れない。ほかにもスピーカーを持っているけど、結局いつもTANNOYに戻っているかな。本当に物が無くて、ほとんどハードウェアも置いていない。シンセもほとんどソフト・シンセを使っている。新しいソフト・シンセを手に入れて、どんなことができるか試しているときは本当に楽しいよ(笑)。

イーノが制作を行う3.5㎡ほどのスタジオの一部。ギターやベース、キーボードのほか、ピンク色に光るターンテーブルの周りにはSUZUKI Omnichord、ハンドパンといった楽器も見える

イーノが制作を行う3.5㎡ほどのスタジオの一部。ギターやベース、キーボードのほか、ピンク色に光るターンテーブルの周りにはSUZUKI Omnichord、ハンドパンといった楽器も見える

上掲したスタジオのデスクトップ周り。中央にはMIDIキーボードのM-AUDIO Oxygen Pro 61をセット。マイクは、机の上にSHURE SM58、右側のアームにはSM7Bが用意されている。モニター・スピーカーはTANNOY SRM12Bを使用

上掲したスタジオのデスクトップ周り。中央にはMIDIキーボードのM-AUDIO Oxygen Pro 61をセット。マイクは、机の上にSHURE SM58、右側のアームにはSM7Bが用意されている。モニター・スピーカーはTANNOY SRM12Bを使用

制作用スタジオと隣接する、100㎡ほどのスタジオ。主にリスニング用途として使用している。スピーカーはBOSE L1のほか、壁の上部には複数のJBL Control 1 Proを設置。16チャンネルのサウンド・システムを構築しているそうだ

制作用スタジオと隣接する、100㎡ほどのスタジオ。主にリスニング用途として使用している。スピーカーはBOSE L1のほか、壁の上部には複数のJBL Control 1 Proを設置。16チャンネルのサウンド・システムを構築しているそうだ

よく使うソフト・シンセは何でしょうか?

イーノ Logic Pro付属のEFM1だね。同じくLogic Pro付属のパワフルなRetro Synthや、とても多様性があるES2も気に入っている。画家に例えるなら、基本的な色の組み合わせだけで無限に絵が描けると思っているよ。

APPLE Logic Pro付属のソフト・シンセEFM1。16ボイスのFMシンセで、イーノが一番使用しているソフト・シンセとのこと。なおこのページに掲載するプラグイン画面はイーノ本人のものものではないので参考として見てほしい

APPLE Logic Pro付属のソフト・シンセEFM1。16ボイスのFMシンセで、イーノが一番使用しているソフト・シンセとのこと。なおこのページに掲載するプラグイン画面はイーノ本人のものものではないので参考として見てほしい

Analog、Sync、Table、FMの4種類のオシレーターを選択できるLogic Pro付属のソフト・シンセRetro Synth

Analog、Sync、Table、FMの4種類のオシレーターを選択できるLogic Pro付属のソフト・シンセRetro Synth

Logic Pro付属のソフト・シンセES2。減算合成とFM、ウェーブテーブル合成をミックスして音作りを行う。イーノいわく「3つともすごくベーシックなシンセだけど、組み合わせればいくらでも音作りできるんだ」と語る

Logic Pro付属のソフト・シンセES2。減算合成とFM、ウェーブテーブル合成をミックスして音作りを行う。イーノいわく「3つともすごくベーシックなシンセだけど、組み合わせればいくらでも音作りできるんだ」と語る

今作はDolby Atmosミックスもリリースされています。これまでにも立体音響を用いたインスタレーション作品を発表されていますが、その魅力とは何なのでしょうか?

イーノ まずは慣れ親しんだステレオを想像してほしい……目の前に音が配置されているよね。もちろんそれはそれで素晴らしいけれど、40年以上サウンド・インスタレーションに携わる中で、天井、壁、床といろいろなところから音に包まれるという、もっと素晴らしい感覚を味わってきた。音の中に自分が没入することと前から音が来るのを待つのとは、全く違う体験だ。これまで音楽作品として発表する機会がなかったから、ようやく多くの人に聴いてもらえるものができたかなと。

まさに“体験”と言えるような、同じ音楽のはずなのに全く別物という印象も受けました。

イーノ 人間は自分の耳で聴き取れる範囲の音を聴いているけど、自分がいない外の世界でも音が鳴っている。聴こえるはずのない“外の世界の音も音楽の一部である”または、“今聴いている音楽が外の世界の一部である”という感覚を表現したいとずっと思っていて、それには立体音響がすごく向いているんじゃないかな。宇宙のように巨大なものの中心にいるというような感覚を体験してもらいたいね。

レオ・エイブラハムズ 〜イーノとの出会いから今作の制作を語る

レオ・エイブラハムズ

『FOREVERANDEVERNOMORE』に6曲でギタリストとしてクレジットされているレオ・エイブラハムズ。ギタリストとしてだけでなく、エンジニア、プロデューサー、作曲家など多方面で活躍している。約20年にわたってイーノの作品に参加しているキーパーソンの一人だ。イーノとの出会いから今作の制作についてまで、詳しく話を聞いた。

ABLETON LiveのAudio Rackで音を作る

イーノと最初に出会ったのはいつごろですか?

エイブラハムズ 20年ほど前に、たまたまギター・ショップで試し弾きをしていたらブライアンが店にやってきた。僕のギターがすごく良いと思ってくれたのか、スタジオに来ないかと声をかけてくれたんだ。

すごい偶然ですね!

エイブラハムズ 今でもこの話を人にすると、自分でも驚くよ。そのとき既にプロのミュージシャンとして活動していたけど、彼との出会いで人生が変わったのは間違いないね。

イーノの作品に数多く関わっていますが、ギタリストのほかにも役割を担っているのですか?

エイブラハムズ ブライアンは数多く制作しているから素晴らしい録音のアーカイブがあって、それを整理する助けが必要なんだ。彼は常に新しい作品作りに気持ちがいってしまう人だから、アルバムとして仕上げることにあまり興味が無い。僕が編集作業好きだということを知ってから頼まれるようになり、プロデュースにも関わるようになった。

今作はいつ頃から制作を?

エイブラハムズ アルバムの一部は2021年の8月、ギリシャで行ったライブ音源から2曲を使っている。ブライアン自身はもう何年も今作の楽曲に取りかかっていて、収録候補が40曲あった。2022年の6月に10日間かけて仕上げたよ。

イーノとの制作はどのような手順なのでしょうか?

エイブラハムズ その日何をやるかにもよるよ。僕がギターを弾いて、そこに彼がエフェクトを加える。その音に反応してまた僕が弾く。あるいは僕がABLETON Liveで作ってきた音を合わせたり、ボーカル・テイクを編集したりもしたね。曲をどうするか意見交換した時間もすごく長かった。ほとんどの作業をブライアンのスタジオで行ったよ。

Liveでの音作りについて詳しく教えてくれますか?

エイブラハムズ Liveはオーディオを加工したり、ギター・サウンドを作るのに使っている。Liveだと、Audio Rackを使えば多層的なエフェクトを簡単に作れるからね。ギターという一つの楽器を元にどこまで周波数帯域を広げられるかに関心があるんだ。Audio Rackを使うことで、例えばサブベースの層、ディストーションの層、リズム的な層というようないろいろな層を一つのソースから作れるというのがすごく魅力的でね。「There Were Bells」のインスト部分にまさにそういうふうにサブベースやストリングスっぽく聴こえる音が入っているんだけど、あれは僕がギリシャのライブで弾いたギターが元になっているよ。

エイブラハムズが愛用するJAMES TRUSSART Deluxe Steel Caster。ボディにメタル素材が採用されている。エイブラハムズは「ほかのギターと比べて変わったハーモニクスが生成されて、加工するのに適した音を出せる。あとは弾いているときに服のボタンが当たったりすると独特の音が鳴って、その音を加工するのも面白いんだ」と語る

エイブラハムズが愛用するJAMES TRUSSART Deluxe Steel Caster。ボディにメタル素材が採用されている。エイブラハムズは「ほかのギターと比べて変わったハーモニクスが生成されて、加工するのに適した音を出せる。あとは弾いているときに服のボタンが当たったりすると独特の音が鳴って、その音を加工するのも面白いんだ」と語る

ギターを弾く際に使用するMIDIフット・コントローラーRJM Mastermind GT と、サステインを生成するペダル・エフェクターGAMECHANGER|AUDIO Plus Pedal。エイブラハムズは「同様のエフェクターの中で最も音が音楽的で美しい」とPlus Pedalを絶賛する

ギターを弾く際に使用するMIDIフット・コントローラーRJM Mastermind GT と、サステインを生成するペダル・エフェクターGAMECHANGER|AUDIO Plus Pedal。エイブラハムズは「同様のエフェクターの中で最も音が音楽的で美しい」とPlus Pedalを絶賛する

ABLETON LiveのAudio Rack機能を活用し、ギターを多層的に加工。画面上ではギター・アンプ&エフェクトを再現するプラグインNATIVE INSTRUMENTS Guitar Rig 5や、リバーブ・プラグインのVALHALLA DSP Valhalla VintageVerbなどがラックに組み込まれている

ABLETON LiveのAudio Rack機能を活用し、ギターを多層的に加工。画面上ではギター・アンプ&エフェクトを再現するプラグインNATIVE INSTRUMENTS Guitar Rig 5や、リバーブ・プラグインのVALHALLA DSP Valhalla VintageVerbなどがラックに組み込まれている

ボーカルをミックスに溶け込ませるSoothe2

編集の役割を担っているとのことですが、エンジニアリングのようなことも行っているのですか?

エイブラハムズ ブライアンの代わりにいろいろ整える作業はしたかな。基本的に僕がやったことは、中低域のレゾナンスを調整したり、超低域をカットしたり、ディエッサーをかけたりといったシンプルなこと。ブライアンと仕事をするときに大切なのは、ブライアン自身が最後の仕上げをすることなんだ。僕が作った音のバランスを採用することもあったし、変更することもあったかな。

その際に使用したプラグインは何でしょうか?

エイブラハムズ ミックス的な作業で使ったのは、OEKSOUND Soothe2とFABFILTER Pro-Q3だけだね。特にSoothe2は便利なプラグインで、ボーカルに使うと下手にEQをかけなくても自然にミックスの中に溶け込む。ただ、ブライアンが録音してきた素材がそもそもすごく良い音だったから大きく処理する必要は無かったんだ。

ボーカル録音については、2本のマイクしか使わなかったとイーノから聞いています。

エイブラハムズ SHURE SM7Bは僕が薦めたんだ。彼はいつも手軽なセッティングで、SM58を使って歌を録るのが好きなんだけど、今作は普通の歌モノと比べて声の役割が少し違う。より深く広がりのあるボーカルを録りたいと考えたときにSM7Bがうってつけだった。低音の伸びも出るし高域もSM58より伸びやかに録ることができたよ。

今作は歌も入っていることで、これまでとは異なる新たなイーノ作品の幕開けになっているように感じます。

エイブラハムズ アンビエント・ミュージックの一番の魅力はいろいろな解釈ができることで、僕にとって大切なのは、決してBGMではないということ。一種の瞑想(めいそう)とも言えるような、深く味わうべきもの。ブライアンの音楽はありがちなドローンじゃなくて、聴き手を音の世界に誘い込んでくれるところが大好きなんだ。

話を伺ってみて、お二人がとても通じ合っているように思いました。

エイブラハムズ そうかもね。彼を友人だと思っているし、若いときに出会って世の中を理解する上ですごく大きな影響を受けた。非常に親切で、知的で、そして道徳感も持ち合わせている。ブライアンは、音楽だけでなく僕の人生をより良い方向に導いてくれた人だね。

エムレ・ラマザノグル 〜Dolby Atmosミックスの手法とは?

エムレ・ラマザノグル

『FOREVERANDEVERNOMORE』のDolby Atmosミックスを手掛けたエムレ・ラマザノグル。これまでブラック・アイド・ピーズやジョナス・ブルーなどの有名アーティスト作品だけでなく、クラシックや劇版のDolby Atmosミックスまでも手掛けるエンジニアだ。イーノの構想が、アルバムとして形になった今作への取り組みについて伺った。

音の前面を取り除く

イーノとはこれまでにも関わりがあったのですか?

ラマザノグル 今回が初めてさ。ジョン・ホプキンスのアルバムを前にミックスしたことがあって、レオ・エイブラハムズとも何度も仕事をしていたということで声がかかったのかなと。あとは、レーベルから技術的に複雑なミックスの仕事のときには声をかけてもらっているね。

実際にイーノと仕事をした印象はいかがでしたか?

ラマザノグル 最高だったね。本当に心から素晴らしいものだった。僕がDolby Atmosミックスを行うときは、最初にステレオ・ミックスに忠実な形でテスト・ミックスを作るんだけど、彼はそれに対して、“これは素晴らしい。良いミックスだけれど、全く別のものを作ろう”と言ってきた。もう大歓迎さ(笑)。彼はどういう作品にしたいかという考えをすごく明確に持っているから、こちらとしても助かったよ。従来のDolby Atmosミックスとは違った彼独自の立体音響で、出来上がったものがとにかくクールだったんだ。

特にどの辺りが従来と異なっているのでしょうか?

ラマザノグル 彼は、前面を取り除いた。目の前から音が向かってくるという形にはしたくなかったんだろうね。聴き手が完全に音の中に包み込まれるというミックスで、その空間ではあらゆる前後左右あらゆる面が前であってもおかしくない。天井が前と言ってもいいくらいさ。ボーカルが部屋のど真ん中にあって、ぐるりと360度一周している。今までいろいろな作品を手掛けてきたけど、そういうアプローチは初めてで素晴らしいと思ったね。どの音をどこに置きたいということも完璧に把握しているから作業がとても速かったよ。そもそもほとんどのアーティストはDolby Atmosミックスに立ち会わないから、その場でいろいろと“これはどう?”とか“気に入った?”とか確認しながら試すことができるし、一緒にいてくれるのがうれしかったね。

ミックス作業は自身のスタジオで?

ラマザノグル そうだね。3×3.5mのあまり大きくない部屋だけど、作業する分には問題無い。7.1.4chのシステムを、GENELEC 8330とサブウーファーの7360で組んでいる。7360はパンチの効いたスピード感のあるサウンドで気に入っているよ。狭い部屋で作業するにはこれ以上の環境はないし、構築できてとてもラッキーだと思うよ。

LFEを使わなくても低域が聴こえるように

新旧さまざまな環境で録られた素材が使われていると聞きました。ミックスする上で困難はありましたか?

ラマザノグル 特になかったよ。僕はその音源がどのように録られたのかを知らなかったし、ステレオ・ミックスの時点でほとんど問題が無かった。もらったステムも全く不満の無い完璧なものですごく作業が楽だったよ。こちらが作業しやすいように解体してくれているとでも言うのか、あまり手を加えなくてもDolby Atmosに適応させることができたんだ。あそこまで完璧な形で送ってくれる人はめったにいない。もちろんボーカルのスペースを作るために低音に重さを加えたり、包み込むような音の配置を心がけたりはしたけど、いわゆる大手術はしていない。音色に手を加えることはほとんどしていないし、プラグインもあまり使わなかった。

今作のDolby Atmosミックスを聴いて、確かに四方から音に包み込まれるような感覚が強かったです。一方で、低域の迫力もかなり感じました。

ラマザノグル 低域の置き場所を孤立させることで、かなり押し出すことができたんだ。いつもはステレオ・ミックスと同じようにするけれど、今回はもっと響かせるようにしている。ブライアンは、低域で段々と盛り上げて頂点でパッと解放するというような展開作りをしていて、効果的に低域を使っている。あと、実はLFEのチャンネルをほとんど使っていない。必ずしも聴く側のシステムにLFEがあるわけではないから、LFEが無くてもちゃんと低域が聴こえるミックスを心がけているよ。

アルバムの1曲目「Who Gives a Thought」のDOLBY Dolby Atmos Renderer画面。ラマザノグルは「包み込むようなサウンド作りで意識したのは、大きな穴を残さないこと。変に動きを付けたり、ギミックを使ったりするのではなく、すべての音がちゃんとつながりを持っているようにしたかった。通常のDolby Atmosミックスとは異なったかなり大胆な配置もしているけれど、きちんとバランスを取るようにしたよ」と語る

アルバムの1曲目「Who Gives a Thought」のDOLBY Dolby Atmos Renderer画面。ラマザノグルは「包み込むようなサウンド作りで意識したのは、大きな穴を残さないこと。変に動きを付けたり、ギミックを使ったりするのではなく、すべての音がちゃんとつながりを持っているようにしたかった。通常のDolby Atmosミックスとは異なったかなり大胆な配置もしているけれど、きちんとバランスを取るようにしたよ」と語る

これまで数多くの作品のDolby Atmosミックスを手掛けてきたからこその配慮があるんですね。

ラマザノグル よくDolby Atmosで、あちらこちらに音を動かしまくっているものを耳にするけど、僕が関わっている作品でそういうことはできるだけしたくない。一つの作品として、すべての音にちゃんとつながりがあるようにしたいからね。僕はDolby Atmosを“ステレオ・プラス”と呼んでいて、よりエモーショナルで聴き疲れしないミックスになっているけど、ミックス自体はオリジナルのステレオ・ミックスを踏襲している。ちゃんと音楽作品として1枚のレコードを聴いていると感じてもらいたいというのが僕のアプローチさ。

イーノのビジョンが、見事に音楽作品として具現化されていると思います。

ラマザノグル ブライアンも今回のDolby Atmosミックスをすごく気に入ってくれたと思うし、彼の思い描く世界を形にできたと思う。今やAPPLE AirPodsなどを使って、身近にDolby Atmosを再生できる環境も増えてきているから、ぜひとも体験してみてほしいね。

Release

『FOREVERANDEVERNOMORE』
ブライアン・イーノ
ユニバーサル:UCCS-1325

Musician:ブライアン・イーノ(vo)、レオ・エイブラハムズ(g)、ダーラ・イーノ(vo)、セシリー・イーノ(vo)、ロジャー・イーノ(accordion)、ピーター・チルヴァース(k)、マリーナ・ムーア(vln、viola)、クローダ・シモンズ(vo)、ジョン・ホプキンス(k)、キョウコ・イナトメ(vo)
Producer:ブライアン・イーノ
Engineer:エムレ・ラマザノグル
Studio:プライベート

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