こんにちは、作編曲家の島田尚です。ドイツに本社を置くBITWIGが、音楽制作ソフトBitwig Studioをバージョン4にアップデートしました。第2回めは、新機能の中でも目玉とも言える“Operators”を中心に、初心者目線でも分かるように丁寧に紹介していきたいと思います。
Operatorsで単調なMIDIパターンを変化
皆さんはこれまで、格好良いドラム・パターンを打ち込んでみたけれど、“曲全体として単調になってしまった”という経験はありませんか? そんなとき、Bitwig Studio 4で新しく実装されたエディット機能、Operatorsが役立ちます。この機能を使うとMIDIノートやオーディオ・イベントのランダマイズや細かい設定が行え、予期しないフレーズを簡単に生み出すことが可能です。
具体例として、まずはMIDIでドラム・パターンを構築し、Operatorsを試してみましょう。新規プロジェクトを開いてみると、“Inst 1”という名前のトラックが立ち上がるので、画面右端にある“ブラウザー”から“プリセット→デバイス→Bitwig→Container→Drum Machine”と進み、下部のカテゴリーからプリセットである“808 Sensitive (Bass-08)”をダブル・クリック。すると、Bitwig Studio 4付属のドラム専用ソフト音源、Drum Machineが立ち上がります。
続いて、Inst 1トラックの1小節目をダブル・クリックして空のクリップを作成し、画面左側のインスペクターにある“ループ”をオンにします。画面下部にあるドラムエディターにて、シンプルな8ビートを作りましょう。
さて、いよいよここからが本題。Operatorsを用いて、この単純なドラム・パターンに変化を付けていきます。試しにハイハット1拍目裏のMIDIノートを選択し、インスペクターにある“オペレーター”セクションから“チャンス”(サイコロのマーク)の値を50%に設定してみましょう。すると、選択したMIDIノートが鳴ったり鳴らなかったり、ランダムに再生されます。つまり、チャンスで設定したパーセンテージでMIDIノートが再生されるというわけです。
自分の場合はこれを応用して、ゴースト・ノートとしてシェイカーを16分音符でベタに打ち込んでおき、これらのチャンス値を下げるということをします。これによって、同じループでも小節ごとにシェイカーの表情が変わるという効果を演出できるからです。
次はハイハット2拍目頭のMIDIノートを選択し、オペレーター・セクションにある“リピートレート”音符+斜線のマーク)をoff→3に設定します。するとハイハットが3連符で再生され、簡単にパターンが変化しました。なお、リピートレートを4にすると、32分音符で4回再生されます。リピートレートを使えば、例えばトラップ・ビートのようなハイハットの連打も、あっという間に作ることが可能ですね!
今度は右隣にある“リピートカーブ”を調整してみましょう。−100〜100%の間で値を変更でき、+になるほどリピートされる音の間隔が短くなります。例えるならば、ボールが地面に落ちて跳ねてを繰り返し、最終的には跳ねなくなる、というリズミカルな効果を簡単に作ることが可能なのです。
また、リピートカーブの右隣にある“リピートベロシティエンド”では、−100〜100%の間でリピート回数に応じたベロシティ変化を調整することができます。自分なら、これをサビ前でキックの細かい連打がフェード・インする仕掛けを作るのに応用できると思いました。
ドラム・パターンを有機的にするコンディション
次は、現在のドラム・パターンをさらに有機的にする機能“発生”(ifマーク)です。現在のドラム・パターンにクラップを3拍目裏と4拍目表に打ち込み、両者を選択します。そしてオペレーター・セクションにて“発生”という項目から“コンディション”をクリックすると、“常時”“初回に”“ネバーファースト”などさまざまな項目が現れるので、今回は“フィルオン”を選択してみましょう。今度は画面最上段にあるツール・バーから、“フィル”ボタンをクリック。これで再生すると、クラップが鳴るようになりました。
つまり、MIDIノートを“フィルオン”に設定すると、“フィル”ボタンがオンのときだけ指定のMIDIノートが再生されるということなのです。コンディションの項目には、“フィル”ボタンがオフのときに、指定のMIDIノートが再生される“フィルオフ”もあります。
これらの設定を駆使すれば、ライブ・パフォーマンスでリアルタイムにドラム・パターンを変化させるというような演出も容易にできることでしょう。
最後はオペレーター・セクションにある“再発”(反復記号)機能。スネアのMIDIノートを選択し、再発レングスの値をoff→4に変更すると、“再発ステップ”が4つ現れます。マウスでクリックし、ステップ1とステップ3をオンにして再生すると、選択したスネアが1小節目と3小節目だけ再生されることが分かります。この機能を使えば、“アクセントとなる効果音などを4小節目だけ再生させる”といった応用が可能です。
このようにOperatorsは、1小節の単調なフレーズでも簡単に“揺らぎ”のある8/16/32小節のフレーズに展開できるため、ドラム・パターンにはもってこいの機能。同じループに聴こえていても、毎回微妙に違うパターンが再生されるので、有機的なフレーズがほしいときにお勧めです。特に“チャンス”では、まるで生き物のようにフレーズが変化するため、無限の可能性を秘めていると言えます。
なお、MIDIだけではなくオーディオ・イベントにもオペレーター・セクションがあるため、例えばボーカルのある部分を連打させたいときに、サンプラーを立ち上げる必要が無いのもBitwig Studioならではですね!
ほかにも、Bitwig Studio 4にはMIDIノートのベロシティや発音確率、音圧、ゲイン、パンなどを専用レーンで自由に変更できる“ノートエクスプレッション”があり、細かい変化を付けたいときにサッと使える便利な機能です。
ここまでBitwig Studio 4の新機能の一つ、Operatorsを中心にかけ足でお話ししましたが、いかがでしたでしょうか?それでは、また来月にお会いしましょう!
島田尚
【Profile】作編曲家/ギタリスト/キーボーディスト。秋元康が総合プロデュースを行う48グループや坂道シリーズなどのほか、TV番組やCMの音楽を手掛ける。王道ポップスからエレクトロ、ストリングス/ブラス・アレンジ曲までオールマイティに対応。クラシック/ジャズ、両方の音楽理論に基づいた、楽曲に相応しいプロデュース能力に定評がある。
【Recent work】
『LIGHTS』
AATA
(AATA)
BITWIG Bitwig Studio 4
LINE UP
フル・バージョン/ダウンロード版:50,875円|クロスグレード版またはエデュケーション版:34,100円|12カ月アップグレード版:20,900円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以上
▪Windows:Windows 7/8/10(64ビットのみ)
▪Linux:Ubuntu 18.04以上
▪共通:SSE4.1に対応したCPU