快適な制作環境を実現するBitwig Studioのユニークな機能|解説:LOBOTIX

快適な制作環境を実現するBitwig Studioのユニークな機能をご紹介|解説:LOBOTIX

 こんにちは、LOBOTIXです。最終回はBITWIG Bitwig Studioの制作面や環境作りの面白さをご紹介していきたいと思います。それではいってみましょう!

MIDIとオーディオを自在に行き来できる

ハイブリッドトラック

 ダブステップなどのベース・ミュージックはオーディオ・バウンスを多用します。ユニークなオーディオ・エディットが大胆なフレーズやグルーブの鍵の一つと言えるでしょう。そんなときに活用したいのがハイブリッドトラック。インストゥルメントトラックのMIDIデータをその場でバウンスすることで、そのトラックはMIDIデータとオーディオが混在するハイブリッドトラックになります。

 筆者の場合、ベース・ミュージックでグルーブを作る際にVITAL AUDIO Vitalなどのシンセでモジュレーションを駆使して基本部分を作ります。

筆者にとっては体の一部というくらい使い込んでいるソフト音源、VITAL AUDIO Vital。Bitwig StudioのSpectral Suiteと合わせて未来的なサウンドを作り出すもよし、豊富なフィルター・キャラクターなどを利用してローファイやアナログ的なサウンドも自由自在

筆者にとっては体の一部というくらい使い込んでいるソフト音源、VITAL AUDIO Vital。Bitwig StudioのSpectral Suiteと合わせて未来的なサウンドを作り出すもよし、豊富なフィルター・キャラクターなどを利用してローファイやアナログ的なサウンドも自由自在

 それを4小節や8小節のパターンへと発展させる際に、シンセ・パラメーターのオートメーションを使ってもよいのですが、バウンスしてしまったほうがより大胆なアプローチが可能です。例えば4小節の後半部分だけをバウンスしてタイム・ストレッチなどでリズムに変化を付けたり、ピッチやフォルマントでサウンドを変えたり、切り刻んでスタッター的なフレーズを簡単に作れます。

クリップを選択してCtrl(Windows)/command(Mac)+Bでバウンス。1小節分をバウンスして後半の2拍をタイム・ストレッチで半分の長さにしたり(赤枠)やリバース(黄枠)を使ってフレーズにバリエーションを加えている。これ以外に頭の1拍だけ削りたいなどのケースでもバウンスして削除してしまうと処理が楽なのでオススメ。なお、ハイブリッドトラックになると、トラックのアイコン(緑枠)も変化する

クリップを選択してCtrl(Windows)/command(Mac)+Bでバウンス。1小節分をバウンスして後半の2拍をタイム・ストレッチで半分の長さにしたり(赤枠)やリバース(黄枠)を使ってフレーズにバリエーションを加えている。これ以外に頭の1拍だけ削りたいなどのケースでもバウンスして削除してしまうと処理が楽なのでオススメ。なお、ハイブリッドトラックになると、トラックのアイコン(緑枠)も変化する

 以前はバウンスするというと、隣にオーディオ・トラックが増える、という感覚に抵抗がありましたが、Bitwig Studioならそういうストレスとも無縁です。

オペレーター

 ここで触れておきたい機能がオペレーター。これはMIDIノートなどに数値を設定することで、ノートを切り刻んでリピートさせたり、ループ再生した際の発音する確率をコントロールしたりするBitwig Studio独自の機能。

MIDIノートにオペレーターを使っている様子。赤枠がオペレーターのパラメーター(ここでの画面は英語表示)。グラデーションがかかっている箇所がオペレーターのノートリピート機能を使ったり、ベロシティ・カーブを調整したりしたもの。トラップ的なハイハットのロールなどにも活用できる。

MIDIノートにオペレーターを使っている様子。赤枠がオペレーターのパラメーター(ここでの画面は英語表示)。グラデーションがかかっている箇所がオペレーターのノートリピート機能を使ったり、ベロシティ・カーブを調整したりしたもの。トラップ的なハイハットのロールなどにも活用できる。

 これがなんとオーディオイベントでも使えるのです。例えば2分音符でバウンスしたクリップをダブルクリック。編集画面でオーディオイベントを選択するとインスペクターにオペレーターが表示されます。リピートレートを上げればあっという間にスタッター・サウンドに! リピートカーブをいじってスピードを徐々に遅くしたり、ここにフォルマントやピッチのオートメーションを書き込めばあっという間にフィル的なベース・フレーズの出来上がり。もちろんベースに限らずあらゆるオーディオイベントで活用できます。

こちらは2拍のオーディオイベントにオペレーターを使っている画面。オーディオイベントが点線で分割されているのが分かる。これはインスペクターにあるリピートレートが15に設定されているためで(赤矢印)、その間隔が少しずつ広がっているのは、リピートレートの右にあるリピートカーブで徐々に遅くなる設定を行っているため(黄矢印)

こちらは2拍のオーディオイベントにオペレーターを使っている画面。オーディオイベントが点線で分割されているのが分かる。これはインスペクターにあるリピートレートが15に設定されているためで(赤矢印)、その間隔が少しずつ広がっているのは、リピートレートの右にあるリピートカーブで徐々に遅くなる設定を行っているため(黄矢印)

クリップランチャー

 ライブ演奏に適していそうな機能ですが、アイディアの保管庫としても便利。例えばプロジェクトテンプレートの時点でオーソドックスなドラム・パターンや、ベース・サウンド用の白玉ノートをランチャーに仕込んでおけます。筆者はピアノロールを開いて打ち込むという作業がどうにも面倒なので(笑)、こうしておけばすぐにサウンド・デザインに集中できるのです。トラックで書いたオートメーションが、そのまま保存されるのもポイント。フィルインで複雑にオートメーションを書き込んだグロウル・ベースなどもドラッグしてそのままランチャーに保管できます。“これもとっておいて別のフレーズも探りたい”というときにとても便利。

筆者のプロジェクト・テンプレート。ざっくりと曲構成のマーカーも入っている。クリップランチャーどころかアレンジウィンドウにも既にノートが配置されたグータラ仕様! 再生してすぐにツマミでサウンド・デザインが行えるようなコンセプト。ノートの長さを変えたいときもピアノロールを開かずに、クリップをAlt(Windows)/option(Mac)+ドラッグでストレッチすると楽。一番上のMONITORトラック(赤枠)にはSONARWORKS SoundID Reference用のリッスン・バスが入っており、REFトラック(黄枠)には後述するリファレンス曲が格納されている

筆者のプロジェクト・テンプレート。ざっくりと曲構成のマーカーも入っている。クリップランチャーどころかアレンジウィンドウにも既にノートが配置されたグータラ仕様! 再生してすぐにツマミでサウンド・デザインが行えるようなコンセプト。ノートの長さを変えたいときもピアノロールを開かずに、クリップをAlt(Windows)/option(Mac)+ドラッグでストレッチすると楽。一番上のMONITORトラック(赤枠)にはSONARWORKS SoundID Reference用のリッスン・バスが入っており、REFトラック(黄枠)には後述するリファレンス曲が格納されている

2拍分のクリップをランチャーにコピーしたところ。オートメーション・カーブがそのまま維持されている点に注目。使わなかったクリップも右クリックでライブラリに保存できるので、のちのち素材としても活用できる

2拍分のクリップをランチャーにコピーしたところ。オートメーション・カーブがそのまま維持されている点に注目。使わなかったクリップも右クリックでライブラリに保存できるので、のちのち素材としても活用できる

 さらに、アレンジウィンドウを占拠しないのでサウンド・ジャムの録音場所としても活躍します。例えば第2回で紹介したグリッチ・サウンド。ループ再生しながら手動でジャム・セッションしている音を録りたいですよね。そういうときは新規のオーディオトラックのランチャーにレコーディングしていくのがオススメ。クリップランチャーは小節頭にも合わせてくれるので後のエディットもやりやすくなります。クリップを右クリック(Macはcontrol+クリック)してライブラリに保存しておけば別の曲でもすぐ使える素材に。これら一連の作業を制作中のアレンジの流れを崩さずにできるのです。

Audio Receiver

 これは、あらゆるオーディオチャンネルの信号を受信できる非常に優れたデバイスです。筆者はリファレンス曲との比較で活用しています。リファレンス曲の捉え方にはさまざまな考え方があると思いますが、筆者の場合はシンプルにオリジナル曲のマスター・エフェクト後のサウンドとリファレンス曲を並べて聴き比べます(リファレンス曲はBeatportなどでWAVを購入することが多いです)。しかし、マスターにエフェクトがあるとリファレンスにもかかってしまうため、事前にバスなどを使ったルーティングで回避するケースが多いと思います。ところが、Audio Receiverを使えばその必要はありません。

 まずはリファレンスのトラックをミュート(もしくはフェーダーをゼロに)してしまいます。そしてマスターに挿したエフェクトの後ろにAudio Receiverをインサートし、Audio Sourceをリファレンス・トラックのPREに。これでエフェクトやフェーダーの影響を受けないリファレンスのサウンドがマスターから出力されます。そしてAudio Receiverをオフにすればオリジナル曲が流れます。さらにひと工夫。マッピングブラウザーパネルを呼び出して、Audio Receiverのオン/オフにショートカット・キーを割り当てましょう。すると再生しながらキー一つでリファレンスと聴き比べが簡単にできます。

マスター・トラックのエフェクト(といってもクリッパーだけです)の後に、Audio Receiverをインサートしている。REF_01というのはリファレンスが配置されたトラック(赤枠)。これをAudio Source(黄枠)にPREでアサインして再生すると、マスターの音声を上書きするようにリファレンスが再生される。その後にアナライザーを使えばメーターでの比較もスマートに

マスター・トラックのエフェクト(といってもクリッパーだけです)の後に、Audio Receiverをインサートしている。REF_01というのはリファレンスが配置されたトラック(赤枠)。これをAudio Source(黄枠)にPREでアサインして再生すると、マスターの音声を上書きするようにリファレンスが再生される。その後にアナライザーを使えばメーターでの比較もスマートに

Ver.5でついに実装されたマルチセグメント・エンベロープ・ジェネレーター

MSEG

 6月29日に正式公開されたVer.5で、ついに5種類のMSEG(マルチセグメント・エンベロープ・ジェネレーター)が実装されました! これらはXFER RECORDS Serumなどでポピュラーになったグラフィカルなモジュレーターです(第1回で使っていた4-StageもMSEGに置き換えればよりスマートにコントロールできます!)。これらがそろうことでBitwig Studio内のツールを組み合わせてどんどん自由に発想を広げていけるようになりました。

MSEGの一つであるSegments(赤枠)を活用した筆者のスネア・テンプレート。マルチサンプルとMSEGの一つであるSegmentsでコントロールされたシンセの組み合わせで、さまざまなスネア・サウンドを生成できる。Grid内のモジュールとしてだけではく、MSEGのSegmentsとCurvesはデバイスのモジュレーターとしても使えるので、Gridの編集画面を開かず即座にいじりたい場合はこちらに配置すると便利(黄枠)

MSEGの一つであるSegments(赤枠)を活用した筆者のスネア・テンプレート。マルチサンプルとMSEGの一つであるSegmentsでコントロールされたシンセの組み合わせで、さまざまなスネア・サウンドを生成できる。Grid内のモジュールとしてだけではく、MSEGのSegmentsとCurvesはデバイスのモジュレーターとしても使えるので、Gridの編集画面を開かず即座にいじりたい場合はこちらに配置すると便利(黄枠)

 まだまだ楽しい機能満載なのですが、Bitwig Studioは制作の流れを崩さずに、ひらめきを形にするのに優れた音楽環境です。最近は即興的なアプローチに関心があって、タッチ・スクリーンを導入してGridを演奏したりしています。これもクリップランチャーを使えば今までのワークフローにスルッと導入していけるのです。従来のDAWの概念にとらわれない、自分にとって居心地の良いスタジオ環境を作る楽しさを味わってみてください!

 というわけで、4回にわたり連載させていただきました。何かしらインスピレーションのお手伝いができたなら幸いです。YouTubeのLOBOTIX CHANNELでもBitwig StudioをはじめさまざまなTipsを動画にしていますので、ぜひご覧ください! それではまたどこかでお会いしましょう!

 

LOBOTIX

【Profile】エレクトロニック・ミュージック・アーティスト、VTuber。2018年よりダブステップなどのベース・ミュージックを中心にプロデュース。自身のYouTubeチャンネル、LOBOTIX CHANNELではDTMがより楽しくなるような制作チュートリアルを多数アップしている。ユニークでエッジの効いたサウンド・デザインを分かりやすく解説した動画は、DTM初心者をはじめ国内外の実績あるミュージシャンからも好評。海外プラグイン・メーカーへのプリセット提供や開発にも携わっている。

【Recent work】

『LOUDER E.P.』
LOBOTIX

 

 

 

BITWIG Bitwig Studio

BITWIG Bitwig Studio

LINE UP
Bitwig Studio
フル・バージョン:69,300円|エデュケーション版:47,300円|12カ月アップグレード版:29,700円

Bitwig Studio Producer:34,100円
Bitwig Studio Essentilas:17,600円

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降、macOS 12、INTEL CPU(64ビット)またはAPPLE Silicon CPU
▪Windows:Windows 7(64ビット)、Windows 8(64ビット)、Windows 10(64ビット)、Windows11、Dual-Core AMDまたはINTEL CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
▪Linux:Ubuntu 18.04以降、64ビットDual-Core CPUまたはBetter ×86 CPU(SSE4.1対応)
▪共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インターネット環境(付属サウンド・コンテンツのダウンロードに必要)

製品情報

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