Bitwig Studioでホワイト・ノイズから作るメロディック・グリッチ|解説:LOBOTIX

ホワイト・ノイズから作るメロディック・グリッチ|解説:LOBOTIX

 こんにちは!LOBOTIXです。今回は荒野のようなホワイト・ノイズから、カッコいいサイバー・グリッチ・サウンドを作っていきます。最近では、さまざまなジャンルで“メロディやコードなどに分類できないけど印象に残るサウンド・テクスチャー”でトラックを構成していく手法が増えています。今回はそんな模索の中で見つけた新しいサウンドです。それではいってみましょう!

Harmonic Splitを誤作動させる!?

 まずはホワイト・ノイズを用意します。右クリック(Mac:control+クリック)でオーディオトラックを立ち上げて、オーディオエフェクトの“ユーティリティ”カテゴリー内にあるTest Toneを選択します。このデバイスは音響的なテストのために使うものなのですが、今回はあえてここからクールでとがったサウンドを作ってみたいと思います。

立ち上げるだけで音が出るTest Tone。本来はテスト用だがアイディア次第でさまざまな使い方が可能。赤枠部分をクリックして、波形を選ぶことができる。ここではWhite Noiseを選択。今回は行わないが、こういったデバイスでさえBitwig Studioでは各パラメーターをモジュレーションで自由自在に動かせる

立ち上げるだけで音が出るTest Tone。本来はテスト用だがアイディア次第でさまざまな使い方が可能。赤枠部分をクリックして、波形を選ぶことができる。ここではWhite Noiseを選択。今回は行わないが、こういったデバイスでさえBitwig Studioでは各パラメーターをモジュレーションで自由自在に動かせる

 Test Toneでは、上部のアイコンをクリックして開くメニューからWhite Noiseを選択します。音量も少し上げて、Gainを−15dB辺りにしてください。

 次にインサートするオーディオエフェクトはSpectral Suiteの一つ、Harmonic Splitです。まずはセッティングしてみましょう。画面には上からオレンジ、水色、白とチャンネルのツマミが並び、その下にスピーカーのアイコンがありますが、オレンジ以外をクリックしてオフにしてしまいます。そして、Sensitivityの数値をドラッグして7~8%に設定すると……レトロSFのコンピューターみたいな不思議なグリッチ・サウンドが聴こえてきます! 一体何が起こってるんだ!?

右側のデバイスが未知の可能性を秘めたHarmonic Split。まずはオレンジのチャンネル以外のスピーカー・アイコンをクリックしてオフにする。またSensivity(赤枠)は7〜8%に設定。Spectral Suiteシリーズは出力チャンネルのソロ、ミュートを使ってパラメーターをいじるとサウンドのアイディアを発見しやすいのでいろいろ試してみよう

右側のデバイスが未知の可能性を秘めたHarmonic Split。まずはオレンジのチャンネル以外のスピーカー・アイコンをクリックしてオフにする。またSensivity(赤枠)は7〜8%に設定。Spectral Suiteシリーズは出力チャンネルのソロ、ミュートを使ってパラメーターをいじるとサウンドのアイディアを発見しやすいのでいろいろ試してみよう

 このHarmonic Splitは、サウンドから任意の倍音とそれ以外の倍音成分に分割することができるデバイス。デフォルトだとオレンジ・チャンネルは“Odds(奇数倍音)”が出力され、矩形波のようなサウンドになります。

 今回のホワイト・ノイズのような、ピッチが定まらず全帯域にわたってランダムに倍音が動き続けるサウンドを入力すると、Harmonic Splitは“どこを基準にすればいいんじゃあ!!”とワチャワチャ探し回るのですが、それがオレンジのチャンネルでサウンドとして聴こえて、今回のようなグリッチ・サウンドになるのです。この仕組みを使ってトラックで使えるように加工していきましょう。

 Harmonic Splitの左半分はグラフのような画面になっていて、その下にThresholdと表示されています。その右側の数字を上にドラッグしてみると紫のラインが現れて、スペクトラムと交差する部分で音が鳴ることが分かるでしょう。また、Thresholdの左側にはTiltというパラメーターがあり、この数値をプラス方向に設定すると高域寄りに、マイナス方向では低域寄りにスペクトラムが傾きます。これを+8dBくらいにして、先ほどのThresholdを上下にドラッグしてみると高速のアルペジオのようになりますね。そして上部のLowとHighで周波数帯域を制限できるので、今回は80Hzと3kHz辺りに設定。

 では、ここにモジュレーターで動きを付けていきます。Thresholdを−78dBあたりにして、Harmonic SplitにBeat LFOをアサインしてください。動きの量は30dBくらい。LFOをお好みの速さや波に調整してみましょう。

Lowを80Hz、Highを3.37kHz、Thresholdを−78.7dB、Tiltを+8.0dBに設定し、モジュレーターのBeat LFO(赤枠)をHarmonic Spliteへ追加。Beat LFOの矢印部分をクリックしてThresholdを30.2dBに設定。これでThresholdが30.2dBの範囲で上下する。モジュレーションの柔軟性はBitwig Studio最大の魅力の一つ。通常のアルペジエイターやMIDIの打ち込みでは得られないサウンド・デザインが可能

Lowを80Hz、Highを3.37kHz、Thresholdを−78.7dB、Tiltを+8.0dBに設定し、モジュレーターのBeat LFO(赤枠)をHarmonic Spliteへ追加。Beat LFOの矢印部分をクリックしてThresholdを30.2dBに設定。これでThresholdが30.2dBの範囲で上下する。モジュレーションの柔軟性はBitwig Studio最大の魅力の一つ。通常のアルペジエイターやMIDIの打ち込みでは得られないサウンド・デザインが可能

 さらにパターンを面白くするためにStepsモジュレーターも使います。同じくThresholdに20dBくらいでアサインしてください。また、ステップ数を16、左下をFree runnningにするとランダム性が出てきます。なお、Beat LFOは、Stepsよりも少し遅めになるように調整するのがお勧めです。

ステップ・シーケンサー系モジュレーターのSteps(赤枠)をHarmonic Splitへ追加。矢印部分をクリックしてから、こちらもThresholdの値をクリックして20dBくらいの範囲で動くように設定する。トリガー・モード(緑枠)を“Free running”にすると再生停止状態でもシーケンスを奏でてくれる。サイコロ・ボタン(青枠)をクリックすると、ランダムにパターンが生成されるのでアイディアの模索にとても便利

ステップ・シーケンサー系モジュレーターのSteps(赤枠)をHarmonic Splitへ追加。矢印部分をクリックしてから、こちらもThresholdの値をクリックして20dBくらいの範囲で動くように設定する。トリガー・モード(緑枠)を“Free running”にすると再生停止状態でもシーケンスを奏でてくれる。サイコロ・ボタン(青枠)をクリックすると、ランダムにパターンが生成されるのでアイディアの模索にとても便利

 今度はピッチも整えてよりメロディックな印象にします。Odds内にピッチ補正系の無料エフェクト・プラグイン、AUBURN SOUNDS Graillon 2をインサート。反応をかなり速めにしてD♯mコードを設定してください。加えて、調性感を出すためにミュートしていた水色チャンネルをオンにしましょう。

フリーのピッチ補正系プラグイン、AUBURN SOUNDS Graillon 2。鍵盤をクリックして鳴らしたいピッチを青く点灯させる。画面ではレ♯、ファ♯、ラ♯のD♯mコードに設定。Enableつまみでピッチ補正の度合いを調整し、Smoothつまみで反応の速さを設定する。今回はカオティックでとても速いアルペジオなので単体で聴くと効果は薄めだが、トラックに入るとオン/オフでは印象がかなり変わる

フリーのピッチ補正系プラグイン、AUBURN SOUNDS Graillon 2。鍵盤をクリックして鳴らしたいピッチを青く点灯させる。画面ではレ♯、ファ♯、ラ♯のD♯mコードに設定。Enableつまみでピッチ補正の度合いを調整し、Smoothつまみで反応の速さを設定する。今回はカオティックでとても速いアルペジオなので単体で聴くと効果は薄めだが、トラックに入るとオン/オフでは印象がかなり変わる

 そして、Evens内にXYNTH Rezonatorのようなコード・サウンドが作れるレゾネーターをインサートしたいのですが、持っていない方にここで朗報! YouTubeのLOBOTIX CHANNELで、“Bitwig Gridで作るColourBass Resonator!!”という動画のページを見つけてください。ここで配布しているパッチを使えば無料です(めっちゃ宣伝)! これは同じくD♯m系のコードで設定します。

筆者謹製のLBTX PolyResonator! FX Gridで作成したダウンロードすると3種類のパッチが含まれているが、Diatonic Quantizeと書いてあるパッチがスケールに沿って設定しやすい。Evensを選択した状態で青い+マークにパッチをドラッグ&ドロップすればOK。また配布状態の設定でテンションを含んだD♯mコードになっているのでそのまま使用できる。Gridに慣れてくればアイディア次第でさまざまなエフェクトを自作できるのでお試しを

筆者謹製のLBTX PolyResonator! FX Gridで作成したダウンロードすると3種類のパッチが含まれているが、Diatonic Quantizeと書いてあるパッチがスケールに沿って設定しやすい。Evensを選択した状態で青い+マークにパッチをドラッグ&ドロップすればOK。また配布状態の設定でテンションを含んだD♯mコードになっているのでそのまま使用できる。Gridに慣れてくればアイディア次第でさまざまなエフェクトを自作できるのでお試しを

 あとはOdds、Evensの音量を12dBくらいまで上げてHarmonic Splitの設定は完了(NonsはオフのままでOKです)。

Loud Splitで濁り成分を取り除きPitch Shifter2段がけでサイバー感を

 良い感じになってきましたが、まだ少し耳障りな感じです。ここで登場するのがLoud Split。これもSpectral Suiteの一つで、音量の大きさで成分を分離できるデバイスです。

Hamonic SplitのPost FXにインサートしたLoud Split。音量の大きさでLoud、Mid、Quietのチャンネルに分離することができ、さまざまな使い方が考えられる。ここではMidを思い切ってミュートしてみた。やはりチャンネルをソロにして“自分がいじりたいサウンドはどこだろう”とイメージしながら使ってみるのがアイディアを生み出すコツ

Hamonic SplitのPost FXにインサートしたLoud Split。音量の大きさでLoud、Mid、Quietのチャンネルに分離することができ、さまざまな使い方が考えられる。ここではMidを思い切ってミュートしてみた。やはりチャンネルをソロにして“自分がいじりたいサウンドはどこだろう”とイメージしながら使ってみるのがアイディアを生み出すコツ

 ここでは分離の境目になるThresholdを赤チャンネルで−62dBくらい、緑チャンネルで−100dBくらいにして、それぞれのチャンネルをソロで聴いてみましょう。まずは赤のLoudチャンネル。一番音量のあるメロディックな成分が聴こえます。次に黄色のMidチャンネル。これはギュルギュルして耳障りな感じ。緑のQuietチャンネルはノイジーさはあまりなく低音成分まで含んでいます。

 というわけでMidチャンネルはオフにしてしまいましょう。これでクリアな印象になりました。少し音痩せした分、Quietのボリュームを上げておきます。

 ここからはエフェクトでさらにカッコよく仕上げていきましょう。Loud SplitのQuiet内にPitch Shifterをインサートして、Grainを5Hzくらい、Pitchを−12stに。さらにこれを複製してこちらはPitchを12stにします。するとレーザーのようなサイバー感が! お前ほんとにホワイト・ノイズだったのか!?

 最後はLoud Splitの後ろにBit-8をインサート。画面の設定がおすすめですが、ポイントはClockを上げ、Anti-aliasをオンにして高域が伸びる状態にすることです。その上でShapeのSoft Clipで音量を稼ぎ、Quantizeでひずみ方を調整します。今回は先ほどのレーザー・サウンドと相性の良さからDiffusionを選びました。

Pitch ShifterとBit-8の設定。Pitch ShifterはChainsデバイスでまとめて、Grainにマクロをアサインし、それを保存しておけば使い回しが楽に。また、Bit-8は筆者が最も好きなデバイス。豊富な設定で通常のビット・クラッシャーでは得られない豊かなサウンドを生み出せる

Pitch ShifterとBit-8の設定。Pitch ShifterはChainsデバイスでまとめて、Grainにマクロをアサインし、それを保存しておけば使い回しが楽に。また、Bit-8は筆者が最も好きなデバイス。豊富な設定で通常のビット・クラッシャーでは得られない豊かなサウンドを生み出せる

 これで完成! お疲れさまでした。このサウンドをリサンプリングして、サンプラーやオーディオの切り貼りでカッコイイパターンを作ってみてください。

 次回もSpectral Suiteを使った面白いサウンドをご紹介します。それではまたお会いしましょう!

 

LOBOTIX

【Profile】エレクトロニック・ミュージック・アーティスト、VTuber。2018年よりダブステップなどのベース・ミュージックを中心にプロデュース。自身のYouTubeチャンネル、LOBOTIX CHANNELではDTMがより楽しくなるような制作チュートリアルを多数アップしている。ユニークでエッジの効いたサウンド・デザインを分かりやすく解説した動画は、DTM初心者をはじめ国内外の実績あるミュージシャンからも好評。海外プラグイン・メーカーへのプリセット提供や開発にも携わっている。

【Recent work】

『LOUDER E.P.』
LOBOTIX

 

BITWIG Bitwig Studio

BITWIG Bitwig Studio

LINE UP
Bitwig Studio:フル・バージョン/ダウンロード版:50,875円|クロスグレード版またはエデュケーション版:34,100円|12カ月アップグレード版:20,900円

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降、macOS 12、INTEL CPU(64ビット)またはAPPLE Silicon CPU
▪Windows:Windows 7(64ビット)、Windows 8(64ビット)、Windows 10(64ビット)、Windows11、Dual-Core AMDまたはINTEL CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
▪Linux:Ubuntu 18.04以降、64ビットDual-Core CPUまたはBetter ×86 CPU(SSE4.1対応)
▪共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インターネット環境(付属サウンド・コンテンツのダウンロードに必要)

製品情報

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