YAMAHAのデジタル・ミキサーに、新たなラインナップとしてDM7シリーズが登場した。ライブ会場はもちろん、演劇などの公演を行う劇場や、テレビやインターネット配信を行う放送局など、その活用が期待されるシーンは多岐にわたる。ここでは、DM7で新たに搭載された機能を中心に、ヤマハミュージックジャパンPA営業部の橋田裕造氏、岡本悠希氏、加茂優也氏に話を伺った。
Photo:Hiroki Obara
仕込み時間を短くする3種のAssist機能
YAMAHA DM7シリーズには、コンソールのDM7、DM7 Compactと拡張用コントローラーDM7 Controlがラインナップされている。それぞれの概要を岡本氏に伺った。
「DM7とDM7 Compactは入力チャンネル数が異なり、DM7は120chで、アナログ入力(XLR)が32ch、DM7 Compactは72chでアナログ入力(XLR)が16chです。DM7 Controlは物理的な操作子を増やすためのDM7専用コントローラーで、DM7とDM7 Compactそれぞれに接続可能です」
DM7シリーズ誕生の背景について、橋田氏はこう話す。
「不要なものをそぎ落としてシンプルにしたいというコンセプトで、機能が固定されている物理ノブを減らし、タッチ・スクリーンと、選択した機能をノブにアサインする“TOUCH AND TURN”、任意の機能を割り当てるスクリーン・エンコーダーでの操作が中心となります。操作子が減った分、設定やシーン・リストを表示するユーティリティ画面を追加しました」
チャンネル・ストリップには、FET LimiterとDiode Bridge Compressorの2種を追加。さらに、DAN DUGAN SOUND DESIGNとの共同開発によるDan Duganオートマチック・ミキサーがマウントされているため、EQ RACKのリソースをつぶすことなく使用することができるという。
DM7シリーズから新しく追加された特徴的な機能が、Split ModeとAssist機能だ。Split Modeは、チャンネル数を半分ずつにしてコンソール内部を仮想的に2つに分ける機能で、片方は現場のオペレート、もう一方で同時に配信向けのミックスを行うといったことが1台で完結できるようになっている。
Assist機能は「オペレーターの仕込みの時間を短くしてクリエイティブな部分に費やす時間を増やすためのもの」と橋田氏。入力信号の音圧などに応じてチャンネル名(楽器の種別)を提案するNaming Assist、入力信号の適切なヘッド・アンプ・レベルを提案するHA Assist、フェーダーのバランスを提案するFader Assistの3種類が用意されている。
ユーザー・インターフェースも改良され、ホーム画面では、チャンネル名やパッチを信号の流れに沿って表示。チャンネル名の日本語表記にも対応し、文字入力は、Mac/Windows対応のエディター・ソフトDM7 EditorまたはAPPLE iPadアプリDM7 StageMixで行う。ここで加茂氏が補足する。
「DM7 Editorは本体画面と全く同じ表示で、メーター確認用に置いておくことも、遠隔での調整を行うこともできます。アプリのDM7 StageMixは、ステージ上でのチューニングなど、モニターのオペレートがしやすい画面構成です」
そのほかDM7シリーズには、DAWソフトのフィジカル・コントローラーとして活用できるDAWリモート機能も搭載されている。
EQやダイナミクスの設定を演者ごとに切り変える
DM7 Controlには、DM7シリーズに劇場用機能を追加するTheatre Packageと、放送用機能を追加するBroadcast Packageが付属。これらは、ソフトウェア単体としても販売される。
「Theatre Packageの醍醐味は、アクター・ライブラリーの追加です。機能をオンにしたチャンネルに画面が追加され、例えばWキャストのミュージカルで、EQやダイナミクスの設定を演者ごとに切り変えられます。Broadcast Packageでは、ラウドネス・メーターやミックス・マイナス機能など放送局向けの機能が追加されます」と橋田氏が話す。
DM7シリーズは、新規格“PYカード”による入出力の拡張も可能。MADI接続用のPY64-MD、AES/EBU接続用のPY8-AE、MIDI/GPI接続用のPY-MIDI-GPIが発売される。
DM7シリーズの開発には現場の声が反映されたといい、橋田氏は「PA、SR、演劇や放送局の方に何が欲しいか意見を伺い、DM7シリーズに到達しました。必要なものは残しつつ、入れられる機能は全部入れ込んだミドルレンジ・ミキサーです」と話した。