WARM AUDIO〜往年の名機を範とするコンプ/EQ/バス・コンプを徹底テスト

WARM AUDIO〜往年の名機を範とするコンプ/EQ/バス・コンプを徹底テスト

テキサスを拠点とする音響機器ブランド、WARM AUDIO。“良い製品を良い価格で提供する”というコンセプトを掲げ、往年の名機を範としたマイクやアウトボードをリリースしている。先月より製品ラインナップからアウトボードを取り上げている当コーナー。今回のVol.4ではコンプやEQなどの4製品に迫る。前回に引き続きテストしてもらったのは、若い世代を中心に支持を集めているシンガー・ソングライターのtonunとフリーランスのエンジニア、佐藤慎太郎氏の二人。実際に試す中で感じた印象を詳しく聞いた。

Photo:Takashi Yashima

歌の輪郭がはっきりするWA-2A

WA-2A|オープン・プライス(市場予想価格:118,000円前後)

WA-2A|オープン・プライス(市場予想価格:118,000円前後)

 今回のテストは、まず2台のコンプから実施。tonunのグルービーなR&B楽曲「東京cruisin'」をオケとして使用し、ボーカル・レコーディングを行ってみた。マイクはWARM AUDIOのコンデンサー・マイクWA-14、マイクプリには前回テストしたWA73-EQを用いている。

テストの際のtonunのボーカル・マイクには、WARM AUDIOのコンデンサー・マイク、WA-14を使用した

テストの際のtonunのボーカル・マイクには、WARM AUDIOのコンデンサー・マイク、WA-14を使用した

 最初はWA-2Aから。テストに先立ち、音量のバランス取りで試しに録音したところ、佐藤氏は「とりあえず通しただけの段階で、既にものすごく良い音ですね。真空管ライン・アンプの性能がしっかりしている証拠だと思います」と、早速そのサウンドを絶賛していた。

 その後、さまざまなパラメーター設定で歌録りを行う中、佐藤氏が気に入ったのは一音ごとにリダクション・メーターの針が振れるような、深めにかけた設定とのことだ。

 「どんな設定にしても非常に良いですが、特にがっつりとかけたときの音は、なかなかほかのコンプで出せない音のように感じました。強くかけすぎると逆に引っ込んだように聴こえてしまうコンプも多い中、WA-2Aの場合はむしろ存在感が出てきます。今回オケに使った「東京cruisin'」はビートの強い楽曲なのですが、歌声が小さくなるところでもしっかりと聴こえてきましたね」

 「もちろん浅めの設定もすごく奇麗に整ってくれますよ」と、佐藤氏が続ける。

 「僕はボーカルを宅録する際にはコンプをかけ録りしてほしいと常々思っていて、そうすることで小声でもしっかりと歌のニュアンスを出すことができるんですよ。歌のモニターとしてもその方が断然歌いやすいと思うので、ぜひ宅録アーティストの方にも使ってみてほしい。この価格でこのサウンドが手に入るというのは本当に素晴らしいです」

 tonunは、普段のデモ作りを行う際にハードウェアのコンプは使用していないそう。前回、マイクプリのみで行ったボーカル・テストとの違いについて、「通すとこんなにも音が変わるというのが、本当に不思議ですね。ボーカルのための場所ができているというような、輪郭がはっきりとする印象を持ちました」と、驚きとともに語った。

WA-2A|SPECIFICATIONS
●入出力チャンネル数:1 ●アタック・タイム:10ms(固定) ●リリース・タイム:60ms(50%) ●入出力インピーダンス:600Ω ●最大入出力レベル:16dB ●周波数特性:15Hz〜20kHz(±1dB) ●セルフ・ノイズ:−74dB ●外形寸法:482(W)×88(H)×175(D)mm(コントロール・ノブを含まず、実測値) ●重量:4.1kg(実測値)

再現性が高く安定したサウンドのWA76

WA76|オープン・プライス(市場予想価格:85,800円前後)

WA76|オープン・プライス(市場予想価格:85,800円前後)

 ここからもう1台のコンプ、WA76をテスト。佐藤氏は、第一印象として操作性を評価した。

 「クリック式つまみを採用しているのはうれしいです。エンジニアにとって、設定を正確にリコールできるかどうかは非常に大事なポイント。特にこのタイプのコンプは、インプット/アウトプットの相互関係が非常に繊細ですから」

 サウンドについてはどうだろうか。tonunは、その印象を「同じコンプなのに全然違います。WA-2Aと比べると、より高域のシャリっとした成分が強調されるような印象です」と表現する。UNIVERSAL AUDIO 1176LNを所有する佐藤氏は、サウンドを次のように評する。

 「1176LNはビンテージ感のある素晴らしいコンプですが、こちらが意図する以上にかかりすぎてしまうこともあります。その点、WA76はとても安定していて扱いやすいですね。コンプとしてすごく優秀で、実機のコンプを初めて導入してみたいという方にも向いていると感じました。アタック速め、リリースを最も速くしてレシオを8:1という、現代的な音楽にマッチした設定にしてみたところ、しっかり歌が前に出てきました。ボーカル以外だと、ベースなどのどっしりとしたパートのサウンドをくっきりさせるのにも有効だと思います」

 WA-76のテスト後、コンプをかけずに歌録りしてみたところ、tonunは「コンプが無いと歌いにくい」と感じたそうだ。

 「声を張り上げるときに音量をセーブしたり、マイクとの距離を意識したりしないといけないのですが、WA-2AやWA76を使って録ったときはそういうことを考えなくなり、歌に集中できました。ボーカリストには本当に役立つ機材です」

WA76|SPECIFICATIONS
●入出力チャンネル数:1 ●アタック・タイム:20〜80ms ●リリース・タイム:50ms〜1s ●レシオ:4:1/8:1/12:1/20:1 ●入力インピーダンス:600Ω ●PAD:−23dB ●最大メイクアップ・ゲイン:55dB ●外形寸法:482(W)×88(H)×150(D)mm(コントロール・ノブを含まず、実測値) ●重量:3.2kg(実測値)

気持ちの良いドンシャリを生成するEQP-WA

EQP-WA|オープン・プライス(市場予想価格:95,800円前後)

EQP-WA|オープン・プライス(市場予想価格:95,800円前後)

 続いてパラメトリックEQ、EQP-WAについて。低域と高域に対して、それぞれでブーストとカットの調節が可能なEQだ。まずは低域をカットしてボーカル・レコーディングを行ったところ、「すっきりした理想のサウンドになりました。低域のポイントが、20Hzから上は800Hzまで幅広く選択できるのはとても便利です」と佐藤氏。

 次に、「東京cruisin'」のキックのトラックにインサートしたところ、「すごく良いキックになりましたね」とtonunが評するように、抜群の相性をもたらした。佐藤氏に聞く。

 「気持ちの良いドンシャリです。ブーストとカットを同時にかけられるという矛盾した面白さがあり、しかもその2つを両手で調節できるのは実機ならではの操作性ですよね。時間をかけてじっくりミックスを作り込みたい方にEQP-WAはぜひお薦めですし、直感的な操作のおかげで、理詰めでは到達できないようなサウンドも生み出してくれるでしょう」

 キックのほかには、エレピなどの中域がたまりやすいパートにおいて、低域と高域の良い成分を引き出すのに向いており、ギターやベースにも適しているだろうとのことだ。

EQP-WA|SPECIFICATIONS
●入出力チャンネル数:1 ●低域ブースト:20/30/60/100/ ●200/400/800Hz(最大+12dB) ●低域カット:20/30/60/100/ ●200/400/800Hz(最大−18dB) ●高域ブースト:3/4/5/8/10/12/ ●16kHz(最大+18dB) ●高域カット:3/4/5/10/20kHz(最大−14dB) ●入出力インピーダンス:600Ω ●外形寸法:482(W)×88(H)×150(D)mm(コントロール・ノブを含まず、実測値) ●重量:3.8kg(実測値)

ビート感を損なわないBus-Comp

Bus-Comp|オープン・プライス(市場予想価格:99,800円前後)

Bus-Comp|オープン・プライス(市場予想価格:99,800円前後)

 最後にバス・コンプのBus-Compを、エフェクトをすべて外した2ミックスにインサート。アタック遅め、レシオを1.5、ハイパス・フィルターを185Hzという比較的マイルドな設定でチェックした。佐藤氏は「バス・コンプに一番大事なのはビート感を損なわないということで、見事にその期待に応えてくれました。トランス内蔵も、自分的には最高の評価ポイント。言語化が難しいのですが、トランスを通さないとたどり着けないサウンドというのが確実にあります。プラグインで同じ音を作るのは難しいと思いますよ」と語る。

 バス・コンプになじみがなかったというtonunも、「散らばっていたのがまとまって、スタイリッシュになった印象です。自分でも使ってみたいです」と大きな興味を示した。

Bus-Comp|SPECIFICATIONS
●入出力チャンネル数:2 ●ハイパス・フィルター(サイド・チェイン):30/60/105/125/185Hz ●ダイナミック・レンジ:120dB以上 ●入力インピーダンス:10kΩ ●出力インピーダンス:50Ω ●周波数特性:15Hz〜20kHz(±1dB) ●出力ノイズ:−90dBu以下 ●外形寸法:482(W)×44(H)×242(D)mm(コントロール・ノブを含まず、実測値) ●重量:3.4kg(実測値)


 テストを終え、「これまであまり実機に触れてこなかったのですが、それでも効果を手に取るように実感できました」とtonun。最後に、エンジニアから見たWARM AUDIOの魅力について、佐藤氏に伺った。

 「機材としてのルックスも良く、どの製品も求めやすい価格帯を実現しているのがすごいです。“こういうふうに変化してほしい”と期待する音がちゃんと実現されていて、名機への大きなリスペクトを、想像以上に感じ取れましたね」

 

シンガー・ソングライターのtonun(写真左)と、エンジニアの佐藤慎太郎氏(写真右)

tonun(写真左)
【Profile】甘くスモーキーな歌声と、心地良いトラックが魅力のシンガー・ソングライター。2020年10月、YouTubeに「最後の恋のmagic」を投稿し活動を開始。最近作は、2022年10月リリースのシングル「Sugar Magic」

佐藤慎太郎(写真右)
【Profile】レコーディング、ミックス、マスタリングまで手掛けるフリーランス・エンジニア。これまでにSANABAGUN.、Ryohu、TENDREといったアーティストだけでなく、劇伴やCM音楽など幅広い作品に携わっている

製品情報

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