アメリカの地でビンテージ・サウンドを育て上げたTELEFUNKEN ELEKTROAKUSTIKの物語

アメリカの地でビンテージ・サウンドを育て上げたTELEFUNKEN ELEKTROAKUSTIKの物語

“TELEFUNKEN”がアメリカのマイク・メーカーになるまで

 アメリカのマイク・ブランドとして有名なTELEFUNKEN ELEKTROAKUSTIKだが、実はその前身はドイツのメーカーであることをご存じだろうか? 1903年に無線通信の開発を行っていたドイツの2つの企業が合併してできたのが、“TELEFUNKEN”という会社なのである。当時はテレビ、ビデオ・カメラ、真空管、マイクなど、数多くの分野で世界のテクノロジー産業をリード。1947年には、指向性の切り替えが可能な世界初のコンデンサー・マイク、NEUMANN U 47の販売を開始する。その後U 47の販売契約が更新されなかったことを機に、新たなマイクロフォン・シリーズを開発するべく、AKGと技術提携を結び誕生したのが、AKG C 12のカプセル=CK12を搭載したコンデンサー・マイク、Ela M 251であった。しかし、トランジスターやマイクロ・チップを採用した、ノイズが少なく故障もしにくいソリッド・ステートな機器が台頭してきたこともあり、1985年にEla M 251の生産は中止となった。

 後に真空管のサウンドが再評価され、価値が上昇。その流れの中でEla M 251を復刻させようと動いたのが、上写真でEla M 251 Eを持ちほほえむトニー・フィッシュマン氏だ。彼こそが、アメリカの企業であるTELEFUNKEN ELEKTROAKUSTIKを創設した人物である。

 彼がいかにしてEla M 251を復刻し、その後どうやって新たなマイクを開発していったのか、フィッシュマン氏本人にメール・インタビューを敢行。そして、彼が日本で製品を流通させるにあたり、絶大な信頼を寄せている佐藤俊雄氏にも話を聞くことができた。さらにこの企画の最後には、コンデンサー・マイクAlchemy Seriesとダイナミック・マイクM80の、エンジニア田中章義氏によるインプレッションを掲載する。これらのレポートを通して、TELEFUNKEN ELEKTROAKUSTIKの魅力を再発見していこう。

創業者/CEO トニー・フィッシュマン インタビュー

 ここでは、TELEFUNKEN ELEKTROAKUSTIK(以下TELEFUNKEN)の創業者でありCEOのトニー・フィッシュマン氏に、ブランドの歴史や製品の開発について話を聞く。

すべてはEla M 251の交換部品作りから始まった

 フィッシュマン氏はTELEFUNKENを興す前、Ela M 251の交換部品を作る事業を立ち上げるという構想を抱いていた。

 「Ela M 251の全体的な構造はもちろん、特にインジェクション・モールディング(合成樹脂の加工法)に魅力を感じていました。オリジナルのEla M 251はパターン・スイッチが壊れていることが多く、市場においてそこに需要があると感じ、スイッチを作り直したいと思っていたんです」

 次第にこの考えは交換部品にとどまらず、“オリジナルのEla M 251を復刻する”という大きなプロジェクトにつながっていく。当時のことをフィッシュマン氏はこう語る。

 「自然とすべてのパーツにおいて新たな型を作ることになり、結果としてオリジナルのマイクを復刻させることになりました。当時、23年前の私は、膨大な時間と費用をかけていましたが、現在のような3Dスキャニングやプリンティングの技術があれば、かなり異なった経験となっていたことでしょう」

 Ela M 251の復刻にあたり最も時間と労力を費やしたのが、CK12カプセルの再現だという。

 「幸運にも私は多くのビンテージのカプセルCK12に触れることができ、“どんな理由で、どのカプセルを気に入ったのか”を把握しながら、リバース・エンジニアリングを進めていくことができました。最初は数え切れないほどの試行錯誤があり、私たち自身も理解できないほど多くのバリエーションが生まれていましたね。何年にも及ぶこうした経験のおかげで、現在の境地までたどり着くことができましたが、今でも製造工程の細かな改良を続けています」

思考に刻み込まれた“ビンテージ機材への知見”

 こうしてEla M 251の復刻機Ela M 251Eが誕生し、フィッシュマン氏は2001年にアメリカの企業としてのTELEFUNKNを立ち上げることとなった。Ela M 251Eに続いて、NEUMANN U 47、U 48、AKG C 12といったビンテージ・マイクを“Diamond Series”として復刻し、その後は独自の製品も開発している。ビンテージ・マイクの再現は、後の新しいマイクの開発にどんな影響を与えたのだろうか。

 「私たちの思考にはビンテージ機材への知見が刻み込まれており、“ビンテージ機材の音質と同等なものを、もっと手頃な価格帯で実現したい”と考えたんです。それまでは他社のデザインの再現をしていたに過ぎませんでしたが、良いマイクを作るすべは既に持っていたため、自信はありましたね」

 こうして開発された同社初のオリジナル・マイクが、RFT Seriesであり、現在はそれらを改良したAlchemy Seriesが展開されている。Diamond Seriesの技術をいかにして落とし込んだのだろうか?

 「Diamond Seriesでは、歴史に合ったものにするため変更が許されない部分が多くありました。しかし、新製品であればそういった制約に縛られることはありません。マイクを良いサウンドたらしめていたものはすべてそのままにして、それら以外の要素に手を入れることにしたのです。すべてのパーツをカスタム製作するのではなく、スタンダード化されている既存パーツを幾つか用いることで、劇的なコスト・ダウンに成功しました」

 現在Alchemy Seriesには、TF11 FET、TF29、TF39、TF47、TF57の5モデルがラインナップされている。主観的な側面も大きいと言えるオーディオ機器において、“誰にでも通用するサウンドであること”を重視して開発を行ったそうだ。

 「TF47とTF51は、U 47やEla M 251からインスピレーションを受けながらも、それらの “新しいバージョン”として開発しました。一方でTF29、TF39、TF11 FETはさらにオリジナルなサウンドで、私たちがビンテージ・マイクだけでなく、新しくユニークなサウンドをこの産業に提供できるということを示せたと思います。特にTF11 FETは私たちが初めて開発したラージ・ダイアフラムのFETコンデンサー・マイクで、これを作り出せたことにとても興奮しています」

 Alchemy Seriesの展開後、TELEFUNKENはダイナミック・マイクの開発にも着手する。そして2008年に誕生したのがM80だ。開発の経緯を伺おう。

 「TELEFUNKENは“ハイクオリティなスタジオ・サウンド”として知られてきましたが、それをライブの世界にももたらしたいと考えたのです。そのためM80は、ダイナミック・マイクでは一般的に考えられないくらい良い音で、クリアに聴こえるものにすること、そして、ステージとレコーディングの両方において快適に使えるものを目指していきました」


 Diamond Series 1 
Ela M 251E

Ela M 251E

Ela M 251E|1,804,000円

Ela M 251E

 複数のビンテージのEla M 251を元にリバース・エンジニアリングを行い開発。不足していたパーツは、オリジナルの設計図を元に再生産している。TELEFUNKEN ELECTROAKUSTIKで生まれた最初のマイクと言えるだろう。

SPECIFICATION
●指向性:単一、無、双 ●周波数特性:20Hz〜20kHz ●出力インピーダンス:200Ω/50Ω ●最大SPL:138dB ●外形寸法:51(φ)×216(H)mm ●重量:960g(接続部を含む)


 Diamond Series 2 
U47 U48

U47 U48

U47(写真左)、U48(同右)|各1,496,000円

U47

 カプセルはM7、真空管はVF14Kを搭載し、トランスもオリジナルを再現している。左のセットの写真はU47のもので、U48についても同様のセットが付属する。

SPECIFICATION
●指向性:単一、無(U47)、単一、双(U48) ●周波数特性:20Hz〜20kHz ●出力インピーダンス:200Ω/50Ω ●最大SPL:138dB ●外形寸法:57(φ)×248(H)mm ●重量:624g


 Diamond Series 3 
C12

C12

C12|1,496,000円

C12

 AKG C 12の設計図をもとに製作したCK-12カプセルと、6072真空管を搭載。回路やトランスはオリジナルと同等のものを備える。

SPECIFICATION
●指向性:無〜双(9段階) ●周波数特性:20Hz〜20kHz ●出力インピーダンス:200Ω ●最大SPL:138dB ●外形寸法:41.3(φ)×254(H)mm ●重量:567g

偶然によって選ばれたパーツは一つもない

 TELEFUNKENには現在約30名のスタッフがおり、マイクの製造や開発は、アメリカ・コネチカット州のサウスウィンザーで行われている。音質向上のポイントについて尋ねると、マイク製作における信念が伝わってきた。

 「私たちは手を抜かず、最大限の知識をもって挑んでいます。“製品を少しでも早く世の中に出さなければならない”というプレッシャーを感じることもありますが、それでも品質の基準を高く維持し続けているのです。私たちが手掛けるマイクにおいて、長い歴史の中で培われてきた形状、機能、それらの組み合わせや回路に至るまで、偶然によって選ばれたものは一つもありません。もし変更が必要となったら、長い期間をかけて私たちの基準と合致するものにする必要があります。TELEFUNKENの製品が世の中にどう認識されているのかも自覚していますし、そのことを真剣にとらえています」

 最後にあらためてブランドの魅力や今後の展望を伺おう。

 「私たちは、ブランドの歴史を理解しリスペクトしてくれる従業員に恵まれました。日々製品に込められる彼らの情熱が、TELEFUNKENのさらなる魅力を作り上げています。また、私はここ数年間でFAIRCHILD 660と670のリバース・エンジニアリングを行ってきました。FAIRCHILD RECORDING EQUIPMENT, LLC.は、パンデミック初期に私が始めた、これらの開発を行う姉妹カンパニーです。去るNAMM 2023ではTELEFUNKENのブースでTELEFUNKEN 670と銘打ったプロトタイプをお披露目しました。今年のAES 2023 International Conference on Audio Educationでは、TELEFUNKENの隣にFAIRCHILD RECORDING EQUIPMENTのブースを展開して、660と670を展示する予定です」


 Next Challenge 
FAIRCHILD 670

FAIRCHILD 670

 フィッシュマン氏が新たに開発したFAIRCHILD 670の復刻機、TELEFUNKEN 670のプロトタイプが、NAMM 2023で展示されていた。AES 2023 International Conference on Audio Educationでは660も展示予定とのこと。

佐藤俊雄 インタビュー 〜TELEFUNKENはいかにして日本に上陸したか〜

佐藤俊雄

【Profile】宮地商会M.I.D.に所属しながら、ビンテージ機材のメンテナンス、改造、リボン・マイクの修理などを行い、自身のマイク・ブランドTONEFLAKEも手掛ける異色の存在。メジャー・レコード会社にてアーティストおよびエンジニアの活動経験もあり、FUJI ROCK FESTIVAL’22では、苗場音楽突撃隊のゲスト・ボーカルとして出演している。

 TELEFUNKENと日本の関係性を語る上で外せない人物がいる。それが佐藤俊雄氏だ。まずはフィッシュマン氏との出会いについて伺おう。

 「トニーと私はお互いマイクロフォン・コレクターで、1990年代からつながりがあり、部品についての相談をすることもありました。その中で、“Ela M 251の復刻をしようと思うんだけどどう思う?”と聞かれたのを覚えています。彼はとんでもなく本気で、AKGから設計図をすべて購入し、その設計図通りの型を作る機械まで製作していたので驚きましたね」

 このようなフィッシュマン氏と佐藤氏の友人関係が、後に宮地商会M.I.D.が正規輸入代理店として製品の流通を手掛けることになるきっかけとなったという。

 「私は、トニーがEla M 251Eを発表する前に“自分なら製品のサポートができる。代理店を任せてくれないか”と、彼を説得したんです。国内代理店を任せてもらうにあたって必要だった条件が、“分解、組み立てがすべてできるかどうか”で、トニーが“お前ならできるだろう”と、評価してくれました。もちろん本国の技術者も製品のチェックを行っていますが、長い距離を運搬すると、気温や湿度などの影響を受けてしまうんです。電源事情もアメリカと日本では異なるので、アメリカでは起きなかった問題が日本で発生してしまうこともありますね。そこで、日本で商品を受け取ったら、ある程度分解をして動作確認をしています。ソフトウェアで視覚的にチェックをしつつも実際に音を聴いて判断していて、Diamond Seriesに関しては、そのすべてを私が管理しているんですよ」

 最後にTELEFUNKENというブランドや、フィッシュマン氏に期待していることを尋ねた。

 「FAICHILD 660、670を復刻させるという話を聞き、彼の情熱が衰えていなかったことを確信しました。過去の優れた機材はみんながこぞってレプリカを作りますが、ここまで本物同然に作ろうとするメーカーは、私の知る限りほかにありません。その情熱をもって660、670を復刻させようとしているわけですから、もうさすがだなとしか言えないです。当面はこの製作にかかりきりでしょうけど、今後も何かもう一つくらい、大きなことをやるんじゃないかなと思っています」


◎続いては…「TELEFUNKEN Alchemy SeriesとM80を田中章義&ミツメ川辺がチェック!

製品情報

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