TELEFUNKEN Alchemy SeriesとM80をエンジニア田中章義&ミツメ川辺素がチェック!

TELEFUNKEN Alchemy SeriesとM80を田中章義&ミツメ川辺がチェック!

 ここからは、TELEFUNKENがオリジナル・マイクとして開発したコンデンサー・マイク、Alchemy Seriesと、ダイナミック・マイクM80のサウンドを確かめていく。ミツメのボーカル=川辺素の声、アコギ、アコギの弾き語りを、エンジニアの田中章義氏にレコーディングしていただいた。テストを終えた田中氏は、「さすがTELEFUNKEN。ツボを押さえるというのはこういうことなんだなと思いました」とおっしゃっていたが、それがどういうことなのか、また、ビンテージ機への知見がどのように落とし込まれているのか、各マイクへのインプレッションから探っていこう。

Photo:Yukitaka Amemiya

【田中章義】上写真左。Studio Greenbird出身。ミツメをはじめ、橋本絵莉子、映秀などのアーティストのほか、映画、TV、CM等幅広くレコーディングやミックスを手掛ける。ミツメのメンバーは学生時代からの盟友。

【川辺素】上写真右。東京を中心に活動する4人組バンド、ミツメのボーカル。ミツメとしては2023年5月に4曲入りEP『ドライブ』をリリース。

Bigfish Sounds
川辺素
レコーディングは、Bigfish Soundsのコントロール・ルームの一角で(右写真)、プレイバックはサブ・コントロール・ルームで行った(左写真)。すべてのマイクにおいて、川辺の声、アコギ、アコギの弾き語りで試している

 

レコーディング中の川辺素

Alchemy Series

 TELEFUNKENが初めて開発した独自のマイク・シリーズ=旧RFT Seriesを改良。現在5モデルをラインナップし、ブランドの強みであるビンテージ・サウンドを継承しながらも、モダンな要素が加わっているのが特徴となっている。

TF11 FET

TF11 FET

TF11 FET|154,000円/単体、308,000円/ステレオ・セット

完成形に近い音で録れます

 Alchemy Seriesは、どれもケースがしっかりしていて、細かいところの作り込みがすごく、所有欲を満たしてくれますね。まずTF11 FETについては、第一印象がとても良いです。高域がしっかりと出ているので、弾き語り、声、アコギ、すべて完成形に近い音で録れます。音色補正的な意味のEQは必要ないと思いますね。また、100Hz以下が落ちているので、低域の嫌な膨らみがなく扱いやすいです。特に男性ボーカルや、歌い上げるタイプの女性ボーカルにマッチすると思います。低域の膨らみが抑えられているという点は、宅録での使いやすさにもつながりますね。僕はアレンジャーの方が自宅で録ってきた音もよく扱いますが、この音だったら“めちゃめちゃ良く録れてるね!”と驚くと思います。実際に人に薦めたくなるマイクですね。声はもちろん、アコースティック楽器全般に合いそうです。

SPECIFICATION
●指向性:単一 ●周波数特性:20Hz〜20kHz(±3dB) ●出力インピーダンス:110Ω ●最大SPL:135dB ●外形寸法:46(φ)×175(H)mm ●重量:545g

TF29 TF39

TF29 TF39

TF29(写真左)、TF39(同右)|231,000円/TF29、264,000円/TF39

音色を作り込めるナチュラルな音

 マイクプリやEQなどでしっかりと音色を作り込んでいける、ナチュラルな音です。低域の量感を作りやすいのはTF11 FETとの大きな違いですね。また、中域のおいしいところをしっかり録ってくれていて、特に中低域が充実しているのが特徴。川辺も普段と違和感なく歌えているようでしたね。TF29、TF39の違いは指向性の切り替えができるかどうかのみで、基本的な音色は一緒ですが、TF29の方が少し高域が出ていて音が速いような印象を受けました。TF39は、双指向、無指向にすると音像がオープンになっていき、弾き語りだと、アコギの低域の響きがより聴こえるようになってきます。これも中域から下をしっかり録ってくれている証拠ですね。声はもちろん、管楽器のようにアタックがしっかりしたソースもきれいにいなしてくれると思いますし、なんでもそつなくこなしてくれそうなマイクです。

SPECIFICATION
●指向性:単一(TF29)、単一、無、双(TF39) ●周波数特性:20Hz〜20kHz(±3dB) ●出力インピーダンス:<300Ω ●最大SPL:130dB ●外形寸法:46(φ)×200(H)mm ●重量:650g

TF47

TF47

TF47|319,000円

ビンテージ機をメンテしたらこういう音になる

 今回試した中で一番色気があると思います。中域がしっかりありながら、高域も奇麗です。弾き語りは立体感があり、音像が大きく聴こえます。声についても、中域の張りと明るさがあり、アコギ単体を録音しても、つやを感じます。川辺がモニターする音について、「口の中の共鳴している感じが伝わってくる。“今響いている感じで歌えているな”というのが分かりやすい」と言っていましたが、これは名機と呼ばれるマイクにおいて、多くの歌い手の方が抱く印象と共通しています。ビンテージのマイクは、ハイ落ち、ロー抜けしていることがありますが、TF47はきちんとフォーカスが合っていて、“きちんとメンテナンスされたビンテージ・マイクはこうだよね”という音がします。歌い上げる系のシンガーの声から、ウィスパー・ボイスまで、歌の表情がしっかり出てくるマイクだと思いますね。

SPECIFICATION
●指向性:単一、無、双 ●周波数特性:20Hz〜20kHz(±3dB) ●出力インピーダンス:<300Ω ●最大SPL:125dB ●外形寸法:46(φ)×200(H)mm ●重量:710g

TF51

TF51

TF51|319,000円

まさにEla M 251と同じ方向性の音

 TF47とはまた方向性が違うマイクですね。中域がすっきりしていて、高域がなめらかに出ていて、まさにCK12カプセルの音がしています。僕はかなり好きですね。TF47ほどの太さは感じづらいですが、同じくらい立体感がありますし、エアリーな部分はこちらの方が感じます。Ela M 251と同じ傾向ですね。どこかの帯域が盛り上がっているという印象を受けづらいチューニングなので、音の距離感が分かりやすいと思います。TF47とTF51、どちらも目指している名機の良いところをうまく拾い上げていて、TF51は特に高域がEla M 251 Eっぽいですね。TF47とTF51の使い分けについては、声については歌い手の合う、合わないや、好みによると思います。アコギについては僕の場合、かき鳴らすようなフレーズはTF47、オケになじませたい場合や、より繊細な音を録る場合はTF51を選ぶかなと思いますね。

SPECIFICATION
●指向性:単一、無、双 ●周波数特性:20Hz〜20kHz(±3dB) ●出力インピーダンス:<300Ω ●最大SPL:128dB ●外形寸法:46(φ)×200(H)mm ●重量:615g

Dynamic Series

 コンデンサー・マイク並みのワイドなダイナミック・レンジおよび周波数特性が特徴。今回試したM80のほかに、より近接効果やフィードバックを抑えたM81や、キック用のM82などもラインナップする。M80はボディとグリルのカラーをカスタマイズ可能。

M80

M80

M80|39,600円(ボディ:ブラック、グリル:クロームの場合)

宅録のクオリティ・アップに最適

 音のトーンはTF11 FETに似ていますね。一般的なダイナミック・マイクよりも高域を拾ってくれます。また、EQで高域を上げたときに、ダイナミック・マイクは“ジリジリした嫌な成分”が出てきてしまうことがありますが、それがなく、うまい具合に持ち上がってくれます。オンマイクで声を録ると、近接効果により低域のふくよかな部分が良い感じに収音されるので、高域を上げていくだけで十分だと思いますね。ライブではもちろん使いやすいでしょうし、宅録の際“コンデンサー・マイクは環境音を拾いやすいから使いにくいけど、ダイナミックだと高域が物足りない”ということが多いと思いますが、これを使えばクオリティが上がると思います。

SPECIFICATION
●指向性:超単一 ●周波数特性:50Hz〜18kHz(±3dB) ●出力インピーダンス:<325Ω ●最大SPL:135dB ●外形寸法:48(φ)×184(H)mm ●重量:430g


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