ハードウェア・モデリングから独自の製品まで、多くのプラグインを手掛けるSOFTUBE。当コーナーでは、プラグインのレビューと併せて、オリジナルのプリセットがダウンロード可能となっています。今回取り上げるのはシンセ・プラグイン、Model 84 Polyphonic Synthesizerです!
オリジナルを強く感じさせるLPFセクションのFREQ
鬼才ジョン・カーペンターに、“まさに1980年代のようなサウンド。大好き!”と言わしめたModel 84 Polyphonic Synthesizer(以下Model 84)。モデルとなっているのは外観からも分かる通り、1984年発売の“あの”6音ポリシンセ。自分にとっても初めて手に入れた思い出深いポリシンセです。
まずは、実機の冷んやりとした触り心地や、ずっしりとした重みを思い起こさせるほど再現度の高いGUI。個人的にグッときたのは、厚みのある文字の塗装がしっかりと再現されている点です。こんな剥げ方していたなあ……と音を出す前から感慨にふけってしまいました。さすがSOFTUBE、外観の表現にぬかりなし。音の方にも期待が高まります。
実際に鍵盤をクリックすると、粘っこくて粗い“あの”サウンドが、ダイレクトに耳に飛び込んできます。特に心を動かされたのは、LPFセクションのFREQ(カットオフ周波数スライダー)を上げていったとき。ざらっと濃い部分が明るさを帯びて抜けていく感触に、思わず“これだ!”と叫びそうになりました。それは、あたかもサウンド・チップから生み出された電子の響きが、真空パックされているかのようです。
パネルの構成もほぼオリジナルを踏襲。DCO、LPF、ENVなど、音作りに関連するセクションは赤、ホイールの挙動を設定するPITCH、MOD、2種類のポリ/ユニゾンの切り替えを行うVOICINGなど、パフォーマンスに関連するセクションは白に色分け。初心者でも音作りの流れが分かりやすい配置になっています。どのパラメーターも反応が良く、音の変化が直接的かつドラスティックなので、知識がなくとも楽しく音作りに没頭してしまいそう。MIDI CCにも対応しているので、設定次第では実機を触っているような感覚で操作できるようになるのもうれしいです。さらに画面の右端をクリックすると、プラグインならではの拡張パネルが出現。ここでは追加機能のベロシティとアフタータッチの設定、コーラス・エフェクトのモノラル/ステレオ切り替えなどが可能です。
ユーザーの目線に寄り添ったプリセット・ブラウザー
音作りの上で特に使い勝手良く感じたのはDCOセクションのSUBとNOISE。音に物足りなさを感じたときに重宝するSUBは、あざとくなく程よいチューニング。実質的にハイパス・フィルターのように機能するEQとの組み合わせで、音の存在感を微細に調整できます。NOISEはアタックやリリースの設定次第で音色にパーカッシブなニュアンスを与えられるほか、LPFとの組み合わせでジェットストリームのような効果を演出することも可能。そのままコーラス・エフェクト(これもまたオリジナルそのままの秀逸な出来)をモノラルからステレオに切り替えて、少しずつローパス・フィルターを上げていけばほら、夜明けの草原の風を感じる……!
プリセットには往年のオリジナル・パッチに加え、低音の効いた重たいベース、サイケデリックな郷愁を誘うドリフト・サウンドなど、今の感覚にアップデートされた音色も収録。プルダウン・メニューから選べるほか、隣接するウィンドウ・マークをクリックすれば、すべての音色がブラウジング可能に。ここではタグやキーワード検索で音色を絞り込め、膨大なプリセットから欲しい音色に素早くアクセスできることに加え、それぞれの音色に簡単なディスクリプションが付いていて、選ぶ際のヒントとしてはもちろん、オリジナル音源を保存する際のメモとしても活用できるので大変便利。ユーザー目線で気の利いた機能だと思います。
コンプや派手な空間系エフェクトの追加はなく、あくまでオリジナルが目指したそのままの音を高い鮮度で提供しようという開発者の意図が感じられました。それぞれの時代でジャンルを問わずに活躍してきた、オリジナルへの愛とリスペクトの表れかもしれません。Model 84、お薦めです!
Ryota Miyake's Presets:Flash Crystal Percussion
エレクトロクラッシュ風のパーカッション
エレクトロクラッシュ風のメロディアスなパーカッション。デモの曲はリリースとLPF(黄枠)の開閉で起伏を付けました。細かい設定でいろいろなニュアンスを作り込めるのはプラグイン・シンセならでは。それにしてもアナログの温かさが84割増になるこのコーラス・エフェクト、とても好みです。
Ryota Miyake's Presets:Lonesome Sparrow Keyboard
ノスタルジックなキーボード・サウンド
なぜか聴くと郷愁の念に駆られてしまう、ノイズ混じりの揺らいだ音色。そこにタイムの短いGLIDE(黄枠)を加えると、たまにキュンとつまづきそうになる様子が愛おしい。さらに温かなコーラス・エフェクトを加えて愛しさ84割増に。もう君のコーラスなしではいられない......!
三宅亮太(CRYSTAL)
JUSTICEやサンダーキャットなど、海外からも高く評価されるシンセサイザー・バンド、CRYSTALのメンバー。Flash Amazonasや、ソロではSparrows名義でも活躍。秋にはCRYSTALの新曲、Sparrowsの3rdアルバム『Kings & Queens』のリリースを控えている。