BITWIG Bitwig Studio 5 レビュー:柔軟性に富んだモジュレーション機能とクリップ再生機能を搭載したDAW

BITWIG Bitwig Studio 5 レビュー:柔軟性に富んだモジュレーション機能とクリップ再生機能を搭載したDAW

 BITWIG Bitwig Studioは、音楽の新しいアイディアを切り開く革新的なクリエイティブ・ツールです。DAWの基本的な機能はもちろん、サウンド・メイキングからライブ・パフォーマンス、ミックス・ダウンに至るまで、あらゆる場面で活躍してくれる機能が備わっています。そのBitwig Studioがこのたびバージョン5へとメジャー・アップデートしました。新デバイスの追加、モジュレーション・システムの向上、エディターやミキサー画面の改良など、画期的な進化を遂げています。自由な発想と目的に合わせた用途で使用できる、まさにDAWの粋を超えたソフトウェアになったと言えるでしょう。

自由度の高いカーブ作成機能を備えた5種類のMSEGを搭載

 まずは新たに登場したデバイス、MSEG(マルチセグメント・エンベロープ・ジェネレーター)から紹介しましょう。Gridモジュールとして追加された5種類のMSEGですが、その中の2種はモジュレーターとしても使用できます。いずれのMSEGにおいてもユーザーが独自のカーブ(エンベロープや波形)を作成できる点が大きな特徴です。1つずつ見ていきましょう。

Segments

 エンベロープ・ジェネレーターです。タイム・ベースは時間単位あるいは音符単位から任意に選択可能で、動作モードをワンショット、ホールド、ループ、ピンポンの4つから選べます。これらの設定により、一般的な4つのステージ構成からなるADSRと比べて複雑なエンベロープを生成可能。The GridやPolymerのモジュールとして、または任意のパラメーターを制御するモジュレーターとして活用できます。

Segments。複雑なカーブを作成できて、動作もワンショット、ホールド、ループ、ピンポンから選べる高機能エンベロープ・ジェネレーター

Segments。複雑なカーブを作成できて、動作もワンショット、ホールド、ループ、ピンポンから選べる高機能エンベロープ・ジェネレーター

Curves

 LFOです。周期を時間あるいは音符単位で設定できて、周期のスタート位置を位相で調整可能です。LFOのリセット・タイミングもノート・オンや再生時などに設定できるほか、グルーブ(シャッフル)への同期も可能。LFOモジュレーター、あるいはGridモジュールとして使用できます。

Curves(赤枠)。スタート・ポイントやスタート・タイミングの設定が可能なLFO

Curves(赤枠)。スタート・ポイントやスタート・タイミングの設定が可能なLFO

Scrawl

 オシレーターのカーブ(波形)を描きたいときはScrawlの出番です。The GridとPolymerで使用できます。優れたアンチエイリアスを備えており、どんなピッチでも適切に発音されるように計算されています。

Scrawl。多彩な波形を描けるオシレーター。The GridとPolymarで使用できる

Scrawl。多彩な波形を描けるオシレーター。The GridとPolymarで使用できる

Transfer

 シンプルなウェーブ・シェイパー・モジュールで、The Gridで使用できます。オーディオなどの入力信号を通すことでオリジナルのひずみを生み出すことができます。

Transfer。ウェーブ・シェイパー・モジュール。オリジナルのひずみを得たいときに効果的

Transfer。ウェーブ・シェイパー・モジュール。オリジナルのひずみを得たいときに効果的

Slopes

 Gridモジュールとして使用できるパターン・シーケンサーです。ピッチやゲートの発音タイミングなどを、シンプルな直線的アプローチでコントロールできることはもちろん、ほかのMSEGと同じように曲線を描いたり、深さを変えることで、より複雑なメロディやシーケンス・パターンを生み出せます。

Slopes。パターン・シーケンサーで、ほかのMSEGと同様に複雑なパターンを作成できる

Slopes。パターン・シーケンサーで、ほかのMSEGと同様に複雑なパターンを作成できる

 これら5種類のMSEGは、いずれもカーブ表示部分をクリックして編集用のポップアップ・ウィンドウを開けます。

Curvesの編集用ポップアップ・ウィンドウ(赤枠)を開いた状態

Curvesの編集用ポップアップ・ウィンドウ(赤枠)を開いた状態

 その画面のサイズも変更可能です。この画面ではペン・ツールを使いフリーハンドで描くこともできますし、ポイントを追加あるいはドラッグしてカーブを変形できるほか、ステップ/パルス波/ノコギリ波/三角波などを選んで連続した形を描画することも可能です。各ツールは数字キーの1〜7に対応しているので素早く操作できます。

 またポイントをスナップ可能なグリッドが縦横に表示されており、その数も個別に変更できるので、拍子に合わせた変化も簡単に作れるでしょう。そのほか、option(Mac)/Alt(Windows)を押しながら線をドラッグして曲線を作ったり、点上でshift+option(Mac)/Shift+Alt(Windows)を押してドラッグすることで点の両側の線のカーブを調節できます。さらにカーブの反転やミラーリングといった機能も用意されていて、とても高機能です。

 ユーザーがデザインしたカーブはBWCURVEファイルとして保存でき、ほかのMSEGでも読み込めます。ユーモアあふれるプリセットも用意されていて、ブラウザーから一目で確認、読み込みが可能です。

ブラウザーでプリセットのBWCURVEファイルを表示したところ。左右対称だったり、ビルが並んでいる都市の街並み風だったり、Crocked(酔っぱらい)と名付けられたものなど、ユニークなカーブを用意

ブラウザーでプリセットのBWCURVEファイルを表示したところ。左右対称だったり、ビルが並んでいる都市の街並み風だったり、Crocked(酔っぱらい)と名付けられたものなど、ユニークなカーブを用意

トラックにインサートしたモジュレーターでプロジェクト上の全デバイスをコントロール可能

 バージョン5では、モジュレーション・システム自体もよりパワフルになりました。デバイスに限定されず、さまざまなプラグインをはじめミキサーやプロジェクトの機能まで網羅して使用できます。

 例えば1つのモジュレーターをトラックにインサートすると、同じトラック上のデバイスやトラックのパン、センドなどをモジュレート可能です。さらに、そのモジュレーターをデバイスパネルのPROJECTにインサートすれば、その1つのモジュレーターでプロジェクト上の全デバイスはもちろん、チャンネル・ストリップやプロジェクトのテンポに至るまで、さまざまなパラメーターをコントロールできます。

モジュレーターをパラメーターにマッピングする際は、左の画面のようにマッピング可能な操作子が薄い青で表示される。この画面ではデバイスパネルのPROJECTにAudio Sidechainモジュレーター(赤枠)をアサインし、マッピングしようとしているが、画面内のほとんどのノブがマッピング可能な状態になっている

モジュレーターをパラメーターにマッピングする際は、左の画面のようにマッピング可能な操作子が薄い青で表示される。この画面ではデバイスパネルのPROJECTにAudio Sidechainモジュレーター(赤枠)をアサインし、マッピングしようとしているが、画面内のほとんどのノブがマッピング可能な状態になっている

 もともとBitwig Studioには、複数のステップ・シーケンサーやエンベロープ・ジェネレーターなど、40種類以上ものモジュレーターが搭載されています。また外部からのインプット入力をCV信号として使用できるHW CV Inモジュールを使ってハードウェアからの信号を受け取ることもできます。こうした多彩なコントロール・ソースをモジュレーション信号として利用し、トラック、ミキサー、プロジェクトなどをコントロールできるというわけです。

 また、MSEGのようなポップアップ形式の編集用画面が、モジュレーターのStepsとKeytrack+にも追加され、大きな画面で設定を作り込めるようになりました。加えて、The Gridの各シーケンサーも専用ウィンドウを開いて編集が可能となっています。画面のサイズ変更も行えて、見やすくなっているので、編集作業の効率アップにも期待でるでしょう。

Stepsの編集用画面をポップアップで開いたところ。この画面はドラッグで拡大/縮小が可能

Stepsの編集用画面をポップアップで開いたところ。この画面はドラッグで拡大/縮小が可能

多彩な再生方法が用意されたクリップランチャー

 Bitwig Studioのアレンジウィンドウには2つの編集画面が存在しています。一つは一般的なDAWと同じくタイムラインに沿って編集を行えるアレンジャータイムライン。そしてもう一つはタイムラインに縛られず、クリップと呼ばれるフレーズの入ったボックスを直感的に再生できるクリップランチャーです。今回のアップデートではクリップランチャーに新たなパフォーマンス機能が追加されました。

インスペクターパネルではクリップの再生方法を設定可能。今回追加されたon Release(赤枠)では、再生ボタンを離した後の挙動をUse Project Setting/Continue/Stop/Return/Next Actionから選択できる。さらにMainとALTで個別に設定でき、option(Mac)/Alt(Windows)を押しながら再生ボタンを押すことで切り替えられる。これらの設定はプロジェクト、シーン、クリップの3つのレベルで可能となっている

インスペクターパネルではクリップの再生方法を設定可能。今回追加されたon Release(赤枠)では、再生ボタンを離した後の挙動をUse Project Setting/Continue/Stop/Return/Next Actionから選択できる。さらにMainとALTで個別に設定でき、option(Mac)/Alt(Windows)を押しながら再生ボタンを押すことで切り替えられる。これらの設定はプロジェクト、シーン、クリップの3つのレベルで可能となっている

 クリップは再生ボタンを押すと再生されますが、このボタンを離したときの挙動=リリースアクション(画面ではon Releaseと表示)を、Continue/Stop/Return/Next Actionから選べます。Continueだとそのまま再生され、Stopではボタンを離したときにクリップの再生が止まり、Returnでは前に再生していたクリップに戻れます。しかも、これらの設定はプロジェクト全体、あるいはクリップとシーンごとに設定可能で、クリップとシーンではUse Project Setting(プロジェクトの設定に従わせる)という選択も可能です。

 さらに新たに追加されたALT機能を使うと、再生およびリリースアクションの設定を通常のMAINとは別にもう一つ、ALTとして用意しておきキーボード・ショートカットなどでスイッチングできます。例えば、再生範囲を指定するラウンチQを1小節に設定してシンプルに安定した再生をするようにしておきます。そして、ALTではラウンチQをオフにして、リリース・アクションを前に再生していたクリップに戻るようにする設定をしておけば、シンプルな設定とトリッキーな設定を瞬時に入れ替えることが可能です。 また、最後に再生したシーンは、“ターゲットシーン”として記録され、シーン名に下線が引かれて識別できるようになりました。またミキサー画面を開いてマッピングブラウザパネルを表示させると、ターゲットシーンやその前後のシーンをMIDIコントローラーなどで再生できるオプションが追加されています。

赤枠がターゲットシーン。黄枠はMIDIコントローラーにマッピングするためのオプション。上段中央がターゲットシーン、左がその前、右がその後のシーン再生用、下段はターゲットシーンの選択用

赤枠がターゲットシーン。黄枠はMIDIコントローラーにマッピングするためのオプション。上段中央がターゲットシーン、左がその前、右がその後のシーン再生用、下段はターゲットシーンの選択用

 これらの機能を組み合わせて活用すると、クリップやシーンの再生をリアルタイムでコントロールしながら、トラックの新しい展開を直感的に生み出すことができるでしょう。

 注目ポイントはまだあります。デバイスパネルには各デバイスの機能からよく使うものを選んで1カ所に表示できるリモートコントロール機能がありますが、これをミキサー画面でも表示できるようになりました。

ミキサー画面にリモートコントロールを表示できるようになった

ミキサー画面にリモートコントロールを表示できるようになった

 テンポやマスタートラックのフェーダー、パンなどもリモートコントロール可能です。これらを活用すれば、ライブ・パフォーマンスや制作など、使用環境に応じた最適なカスタマイズを行うことができるでしょう。

 デバイスやプリセットなどを検索して読み込むためのブラウザー画面も新しくなりました。階層構造がなくなり、カテゴリーを超えた柔軟なブラウジングが可能です。1つの検索画面からデバイスやプリセット、そしてメディアやコンテンツなどあらゆるものを検索できます。その上、検索結果はブラウザー画面の左端に並ぶクイックソースにスマートコレクションとして保存できるので、よく使う機能に素早くアクセスできます。見た目が変わっただけでなく、探しているものを効率的に見つけられる工夫が施されたデザインです。

新しくなったブラウザー。赤枠がクイックソースのアイコン

新しくなったブラウザー。赤枠がクイックソースのアイコン

 そのほか、LFOモジュレーターは前述のCurvesと同じくグルーブへの同期が可能となり、Wavetableの波形を信号として使用できるLFOモジュレーター/Gridモジュールも仲間入りしました。

 Bitwig Studio 5で新しく備わったMSEGのカーブ作成機能やモジュレーションの強化は、ユーザーの思い描いたアイディアを形にし、オリジナリティを導き出すための柔軟性に富んだサポートとなることでしょう。またリアルタイム・コントロールに強くなったクリップランチャーやカスタマイズ性が高くなったリモートコントロール機能も、ステージ上や制作現場、あらゆる場面でその力を発揮します。利便性とユニークさを兼ね備え、クリエイションに新たな可能性を与えてくれるBitwig Studioの将来に今後も目が離せません。

 

Yuri Urano
【Profile】フィールド・レコーディングや声を用いたアナログ・サウンドと、シンセサイザーやコンピューターを使ったデジタル・サウンドを融合させ、独自の世界観を構築するエレクトロニック・アーティスト。

 

 

BITWIG Bitwig Studio 5

フルバージョン/ダウンロード版:50,875円/クロスグレードまたはエデュケーション版:34,100円

BITWIG Bitwig Studio 5

REQUIREMENTS
▪Mac:mac OS 10.14以上
▪Windows:Windows 7/8/10/11(64ビットのみ)
▪Linux:Flatpakがインストールされた最新のディストリビューションまたはUbuntu 20.04以上
▪共通:SSE 4.1に対応したCPU

製品情報

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