劇団四季 × SENNHEISER Digital 6000~JR東日本四季劇場[春][秋]に導入されたワイヤレスシステム

劇団四季 × SENNHEISER Digital 6000~JR東日本四季劇場[春][秋]に導入されたワイヤレスシステム

送信機が小型軽量で、出演者側の使い勝手も良い。バッテリーの持ちや耐久性に優れ、40以上の多チャンネルを安定運用できるのも魅力

2020年に、劇団四季の専用劇場として東京の竹芝に誕生したJR東日本四季劇場[春]と[秋]。両劇場は隣接しており、キャパシティ約1,500席の[春]では『アナと雪の女王』をロングラン上演中。約1,200席の[秋]では『ウィキッド』が1月27日に千秋楽を迎え、『ゴースト&レディ』が5月6日から11月11日まで上演される予定となっている。今回、本誌は両劇場で使われているワイヤレスシステムSENNHEISER Digital 6000シリーズについて取材した。

Product Overview|Digital 6000シリーズ

SENNHEISERからリリースされたTVホワイトスペース帯対応のデジタル・ワイヤレスシステム。劇団四季が導入しているのは受信機EM 6000 Dante(470~714MHz)、ボディパック送信機SK 6212 A5-A8(550~638MHz)、SK 6212 B1-B4(630~713.8MHz)で、シリーズ製品としてハンドヘルド送信機SKM 6000もラインナップされている。本文でも触れている相互変調抑制機能のほか、Sennheiser Digital Audio Codecによる高音質とワイドなダイナミックレンジも特徴。

EM 6000

EM 6000

SK 6212

SK 6212

SKM 6000

SKM 6000(左からフロント、リア)

舞台用かつらにも仕込みやすい送信機

 劇団四季にDigital 6000シリーズが導入されたのは2020年9月のこと。それ以前は、全劇場でSENNHEISERのアナログ・ワイヤレスシステム3000シリーズの受信機と5000シリーズの送信機という組み合わせが使用されていた。経年により、新しいワイヤレスシステムの導入が検討される中でDigital 6000シリーズが選ばれた理由を劇団四季 音響・音楽部の森下要氏はこう語る。

 「大きなきっかけは、四季で『アナと雪の女王』を上演するにあたり、アメリカの音響デザイナーがDigital 6000シリーズを選び、ご使用になっていたことです。海外作品の場合、オリジナルを手掛ける音響デザイナーから使用機材の指定があることが多く、指定がない場合も同等の音のクオリティを担保しなければいけません。それもあり、Digital 6000シリーズが候補の一番手でした」

 森下氏を含む四季音響チームは現地に飛び、『アナと雪の女王』を観劇した上で関係者に使い勝手をヒアリングして、Digital 6000シリーズの導入を決定。その後『アナと雪の女王』の設営が始まるタイミングで納品され、運用を開始した。

 「使いはじめて感じた一番大きなメリットは、小さくて軽いことです。ボディパック送信機のSK 6212は重量わずか112gで、一例を挙げると出演者の舞台用かつらの中に仕込んで使っています。送信機が大きいとかつらの形に影響しますし、重いと出演者の負担になるので、小型軽量だからできることですね

手のひらに乗せると送信機の小ささがよく分かる。このサイズでフレキシブルな運用が実現された

手のひらに乗せると送信機の小ささがよく分かる。このサイズでフレキシブルな運用が実現された

劇団四季の要望を満たすワイヤレス

 送信機と、それに接続するマイクヘッドを、いかに身に着けるかが演劇にとっても重要なポイントとなる。以下では、劇団四季ならではの興味深い工夫を写真付きで紹介しているのでご覧いただきたい。

 「たくさんのチャンネルを同時に、安定して使用できることもメリットです。劇団四季の演目は出演者が多い上に、一部の出演者にはバックアップ用のチャンネルを割り当てる運用も行っています。使用チャンネル数は現在[春]で44ch、[秋]で42chとなっています」

 多チャンネル運用は、Digital 6000シリーズの、送信機間の干渉を抑えるための技術によって実現されている。例えば、1つ目の波を700MHzに設定し、2つ目の波を700.4MHzに設定した場合(送信機が発している波自体の幅を考慮して少なくとも400kHzは間隔を空ける)、その2つの波の間隔分だけ外側に、つまり699.6MHzと700.8MHzに干渉波が生じる。相互変調と呼ばれるこの現象をDigital 6000シリーズは技術的に抑えており、最低400kHzの間隔を空ければ、等間隔でチャンネルプランを組める。これにより、ユーザーはより多くのチャンネルを干渉なしに扱えるわけだ。

 「[春]と[秋]、隣り合った劇場で40数波ずつ同時に使っても干渉は起きていません」と、森下氏もその安定性に手応えを感じている。

ミニボディパック送信機SK 6212。対応周波数の異なるA5-A8(550~638MHz)とB1-B4(630~713.8MHz)を使い分けている

ミニボディパック送信機SK 6212。対応周波数の異なるA5-A8(550~638MHz)とB1-B4(630~713.8MHz)を使い分けている

[秋]の調整室に置かれたラック。21台の受信機EM 6000 Danteのほか、ミニボディパック送信機用のバッテリー充電器が収められている

[秋]の調整室に置かれたラック。21台の受信機EM 6000 Danteのほか、ミニボディパック送信機用のバッテリー充電器が収められている

送信機のバッテリー充電器。オフィシャルスペックでは、12時間の連続駆動が可能

送信機のバッテリー充電器。オフィシャルスペックでは、12時間の連続駆動が可能

 そして、音響スタッフのみならず、出演者にとっても大きなメリットがあると森下氏は話す。

 「Digital 6000シリーズは、我々がワイヤレスシステムに求めているものを満たしていると感じます。音響機器を管理する立場から見ると、多チャンネルを安定して扱えることのほかに、バッテリーの持ちが良いことや耐久性、防水性に優れていることもメリットが大きいです。また、出演者に心地良く使ってもらえるかどうかも、ワイヤレスシステムを選ぶときに重視している点ですが、先ほども言った通り小型軽量で着け心地が軽やかな上、お客様から見えにくくする工夫もしやすいですし、長時間使ったときに筐体が熱くなり過ぎないところも良いですね。出演者は公演が始まる前から衣装を着て、かつらをかぶってスタンバイしている間も送信機をオンにしていますし、公演が始まったら照明を浴びて動き回るので暑いわけです。そんな状態ですから、熱が気にならないのも大きなポイントです」

小道具の眼鏡にマイクヘッドMKE 1を付けている。マイクも遠目からは分からないほど小さい

小道具の眼鏡にマイクヘッドMKE 1を付けている。マイクも遠目からは分からないほど小さい

2つの送信機とマイクヘッドを組み合わせ、万が一どちらかが落ちても音が拾えるようにしたもの

2つの送信機とマイクヘッドを組み合わせ、万が一どちらかが落ちても音が拾えるようにしたもの

マイクケーブルの余る部分は送信機に貼り付けて固定。ケーブルはメイクに合わせて色を変えている

マイクケーブルの余る部分は送信機に貼り付けて固定。ケーブルはメイクに合わせて色を変えている

耳に引っ掛けるパーツにマイクヘッドを付けたもの。使い勝手を追求した手作り感が印象的

耳に引っ掛けるパーツにマイクヘッドを付けたもの。使い勝手を追求した手作り感が印象的

帽子の中に送信機を仕込んだところ。マイクヘッドのケーブルも、きちんとホールドされている

帽子の中に送信機を仕込んだところ。マイクヘッドのケーブルも、きちんとホールドされている

市販のヒップパッドを利用して送信機を固定。ぴったりした衣裳でも送信機の形が影響しなくなる

市販のヒップパッドを利用して送信機を固定。ぴったりした衣裳でも送信機の形が影響しなくなる

使用者によっては柔らかいアンテナが敬遠されるため、送信機のアンテナを硬いチューブで固定

使用者によっては柔らかいアンテナが敬遠されるため、送信機のアンテナを硬いチューブで固定

衣裳やメイクの色に合わせてケーブルは黒。マイクヘッドの向きを調整できるよう針金を入れている

衣裳やメイクの色に合わせてケーブルは黒。マイクヘッドの向きを調整できるよう針金を入れている

 2024年2月現在、劇団四季に導入されているDigital 6000シリーズは、デジタルワイヤレス受信機のEM 6000 Dante(470~714MHz)、ミニボディパック送信機のSK 6212 A5-A8(550~638MHz)とSK 6212 B1-B4(630~713.8MHz)だ。内訳としては[春]に受信機22台/送信機44台、[秋]に受信機21台/送信機42台、そしてディズニーミュージカル『美女と野獣』を上演している舞浜アンフィシアターに受信機16台/送信機32台が導入されている。さらに今後、5月から上演される『ゴースト&レディ』用に受信機21台/送信機42台が導入される予定だ。『ゴースト&レディ』は[秋]で上演される演目だが、オリジナル作品であり、稽古の段階から劇場での動きを想定した作り込みを行わなくてはならない。そのため、稽古場でも衣裳やかつらに送信機を仕込んだ状態で使いたい、という要望に応える形で新たに導入される。

 今後も、メインとなるような演目にはDigital 6000シリーズを使っていくとのこと。劇団四季の主力ワイヤレスシステムとして、ますます力を発揮していくだろう。

取材にご協力いただいた皆さん。中央が森下要氏。その他の方々は、左から[春]でワイヤレスシステムの検聴を担当されている石原愛子氏、仲井風美氏、[秋]で検聴を担当されている酒井愛美氏、樋口由華氏。検聴担当はマイクへの飛沫防止のためマスクを着用している

取材にご協力いただいた皆さん。中央が森下要氏。その他の方々は、左から[春]でワイヤレスシステムの検聴を担当されている石原愛子氏、仲井風美氏、[秋]で検聴を担当されている酒井愛美氏、樋口由華氏。検聴担当はマイクへの飛沫防止のためマスクを着用している

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