2023年春から、JVCケンウッドが実証実験を開始したQUIET STARS。「“音”でつながる!」をキャッチフレーズに、誰かの投稿へ次々と音を重ねていけるサービスだ。サンレコでは9月に、DÉ DÉ MOUSEへこのQUIET STARSでの“お題”の提供を依頼。ピアノのフレーズと「懐かしさ」というテーマが設定された。その投稿の中から、DÉ DÉ MOUSEが「懐かしさ」を感じた作品や、彼の興味を引いた楽曲をピックアップして、コメントしてもらった。
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投稿作品の聴き方
以下、曲タイトルをクリックすると当該投稿のQUIET STARSページにて試聴が可能です。
DÉ DÉ MOUSEからのコメント〜リリース状態まで至った作品
「追憶」(Masayuki Ichinoseさん)
【投稿者コメント】
望郷、追憶、といったイメージで、フィールドレコーディングした公園の音を下敷きにしました。
音像の鮮明さが変化する環境音と、BPMをずらしてフェイズしながら表情を変えていくシーケンスが、テーマの表現を狙っています。
アナログなローファイにする手法はよくありますが、この「追憶」はデジタルローファイというか、圧縮されてシュワシュワした感じの音質になっているのがいいですね。結構僕もこの手法を使うんですけど、1990年代のインターネットに上がっている楽曲試聴みたいな感じの音質が、めちゃくちゃ今っぽいなと思いました。
「AM2:59」(はくさん、Libeさん)
【投稿者コメント】
深夜テンションです!!
チルハウスとして成立するなあと思いました。キックは、もう少し丸い音の方が個人的には好みですが、そういう意識を持ってミックスすると、結構いい雰囲気になるだろうなと感じました。
「トレース」(石田史奈さん)
ボーカルが入っているものはやはりまとまっている感じがしますね。ベースのルートとピアノ、オクターブ下のボーカルが音程的に当たってしまっているのが惜しいと思いましたが、そこも意図があるのかもしれませんし、懐かしさにつながっているとも感じました。
DÉ DÉ MOUSEからのコメント〜ミックスまで進んでいない投稿
※楽曲名が無いため、楽曲の内容が分かる仮題を編集部で設定いたしました
ダブだいすき(axpxnさん)
クオリティ高いですね。僕も、こういう感じのダブ感、懐かしい感じがします。ゼロ年代感というか、ドラムにフェイザーかかかった感じがして、「ちゃんとしたダブ」としてのクオリティは高いですね。ここまで作り込むと、ほかのユーザーと共有できる感じが限定されてしまうかなとは思いました。ジャンル感を感じさせてくれる作品が少ない中で、その点では最も耳が向く作品ですね。
三連系(歌もの大好きさん、はくさん)
個人的にめちゃくちゃ好きでした。多分、KORG M1系の“ドゥ”っていうシンセの音なんじゃないかなっていう感じがあって、それがドゥドゥドゥみたいな感じの3連だと、一気にハドソン・モホーク感が出てきます。
和風トライバル系(doさん)
2002〜2003年くらいの感じがありますね。音色がカラオケの音源みたいで、そのチープさが逆にすごい良かった。Roland SC-88のような、懐かしさを感じさせられました。
冷めたミルクティー(明日は寝癖がつきませんようにさん、石田史奈さん、kawakiさん)
「トレース」の石田さんのボーカルが入ったもので、よくまとまっていると思います。「割り勘にするカラオケ 左から2番目のミルクティー」という歌詞が学生時代を思い出せる感じがしてよかった。
時計の音から着想(響色さん、はくさん)
皆さん、割と僕の提示したピアノのモチーフを大事にしてくれたのですが、それに続くコードの展開をきちんとしてくれた投稿だと思います。中盤からコード進行が変わって展開があるのがよかったです。
TK風(51s -EMさん)
ご自身で「TK風」とおっしゃっていますが、初期TRF感というか、プロデュースワークを始めたころの小室哲哉さん感がありますね。TR-808系の音を使ったハウスのビート感とかも含めて、1990年代半ばっぽい懐かしさがありました。
ウクレレ×お祭り(りりぃさん、はくさん)
ウクレレの演奏にお祭りの音が重なっています。時々お祭りの笛の音とかが、キーが外れるんですよ。そこが、演奏と全然違う場所でお祭りをやっているみたいな感じがします。自分が聴いている音楽と、外で流れてる音が、時々シンクロしたりすることがあるじゃないですか。そんなふうに偶然音が合う瞬間もある。楽典としてはもちろんアウトなんですけど、キーが合ったときに「よし!」と思う感じを思い出させてくれました。
リハーモナイズ(はるさん)
ピアノと、別の投稿でストリングスでリハモをしてくれました。ピアノの方は、現代音楽現代音楽とジャズの間と言われればそれっぽくもあるし。「懐かしさ」とは関係ないけれど、面白かったです。
ブレイクビーツ(goatechさん、Towa Keitaさん)
僕が3rdアルバム『A journey to freedom』(2010年)を作っていたときのデモみたいな感じで、そういう意味ですごく懐かしかったです。「当時あの辺にブレイクビーツを乗せてみよう」と思いながら、制作していたことを思い出します。
DÉ DÉ MOUSEからの投稿作品全体に対する総評
僕が出したモチーフに出された答えはどれも愛おしい
投稿作品を聴いてみると、僕も若いころに頑張っていたことを思い出して、Y2Kとか2000年代を感じさせる懐かしさが全体的にあったと思いました。上記のようにいくつかの作品にコメントしてみましたが、「どの作品が良いか」というのも難しいんですよね。僕が出したモチーフに対してみんな答えを出してくれてるから、どれもこれも愛おしいんですよ。だから、僕からすると、みんないい投稿でした。
いろいろな人が自由に投稿している分、キーから外れている音があったりする。でも、だからと言って音楽的に間違いではないというか、何回か聴いているうちにそれが正解だと感じられることは、僕も経験としてたくさんあるんです。キーが外れているということをどう捉えるかっていうのも人それぞれですし。
そうやって聴いていると、「面白いか、面白くないか」という意識が出てきてしまって、僕がお題として出した「懐かしさ」という目線で聴かなければいけないなと思い直したりしました。
聴き手を驚かそうという意識を持ってほしい
全体的に、「デモ」感があるのが、懐かしさを感じる要因の一つ。例えば、友達と曲を作ろうと思って集まったけれど、ピアノを弾いて、その上にシンセリードでメロディを載せた時点でアイディアが尽きてしまったみたいな経験は、割とあると思います。QUIET STARSはユーザーが自分が思い浮かんだパートを足すので、投稿者自身が完成形を見ているわけではない。だから、「デモ」という感じがある。そこが懐かしさを感じさせてくれるポイントになっていて、ミックスフェーズまで行ったような投稿ではなく、完成していないものの方が、懐かしさというポイントだけで言えば高くて。QUIET STARSはいい作品をこの場でみんなで作っていくという趣旨のサービスだと思いますが、違う観点の面白さを感じました。
でも、コラボは難しくて、相手に自分のトラックを渡したら、原型を留めないようなものになったり、僕も受け取ったら原型が残らないほどエディットすることもある(笑)。今ではさすがにディレクター的な意識が働きますし、相手のことも分かった上で「これは任せよう」と思ったりしますが、相手の顔が見えない中でのコミュニケーションは難しいですね。その意味では、今回「これが俺の世界だ!」と主張しているような作品がほとんどなかったと感じました。皆さんの素直さとか性格の良さみたいなのを感じてよかったなと思います。僕が提示したピアノのコードも、もっと変えてしまってもらってもよかったんですが、皆さんのそんな素直さなのか、リスペクトしてくれたのか、それをきちんと生かした投稿が多かったように感じました。
もう少し言えば、僕はもうちょっと発想の転換を期待したところがあったのですが、皆さんの投稿は、ちゃんと1+1が2になっていたと思います。実は、1+1を1にしてもいいし、0にしてもいいし。そこには音楽的知識と技術が求められますが、聴き手を驚かそうという意識があるといいなと思いました。
AI作曲時代に「手作り」することの価値が問われる
来年以降、恐らく音楽AIの進化が進んで、例えばAIが作曲した曲をアイドルが歌うとか、そういうことになってくると思うんです。そんな中で、QUIET STARSで、音楽を自分で作って、サークル的な感じでみんなで楽しむということに、別の価値があるように思います。
YouTubeとかでも、別に手作りしなくてもいいけど、わざわざ自分で作ったりする動画が結構人気だったりするじゃないですか? そういう無駄かもしれないものって、音楽の世界では昔からあって、あえて古い機材で作るのがそのジャンルのルールだったりすることもありました。QUIET STARSの投稿は、ちゃんと人間がこういうルートをたどって作りましたという意味があるものが、可視化されるんじゃないかなと思っていて。それが僕がさっき「デモ感」という部分と繋がっていると思います。こうやってみんなで音楽を作る面白さみたいなものを提示するものがあるし、人の温かさみたいなのを感じさせられる。みなさんの投稿を聴いて、そう思いました。
QUIET STARSへの登録はこちらから
https://music-pf.jvckenwood.com/
DÉ DÉ MOUSE