エネルギーがあって存在を感じさせるケーブル。自分の中のスタンダードです
日本発のケーブルブランドとして、世界中のミュージシャンやスタジオから愛用されているMOGAMI。中でも、ネグレックス・シリーズのマイクケーブル2534は、音質と情報量保存を重視してレコーディングスタジオ用に開発された製品だ。4芯構造のバランス・カッド結線により近接電磁ノイズをキャンセリングするという特徴を持ち、取り扱いやすい柔軟性も確保。既に国内外を問わず多くのユーザーを獲得しているが、このたびXLRプラグのNEUTRIK NC3FXX-BAGとNC3MXX-BAGを装着したオフィシャルパッケージが発売された。そこで本稿では、自社スタジオのBigfish Soundsにおいて、2534を長年にわたり使用しているエンジニアの柏井日向氏に、その魅力について語っていただいた。
Photo:Takashi Yashima
スタジオの基本ケーブルとして2534を採用
MOGAMIブランドのケーブルは、スタジオでよく見かけますから、そういう意味ではアシスタントエンジニアの頃から存在は知っていました。ただ、特に意識しはじめたのは20年ほど前からだと思います。フリーランスになって、自宅スタジオで使うケーブルや自分の機材環境を見直した際、あらためて当時の考えつく製品をほぼすべて聴き比べたんです。その結果、やはりMOGAMIのケーブルは自分の感覚に合うなという印象を持ちました。
今の自社スタジオであるBigfish Soundsの基本となっているケーブルは2534です。機材やシチュエーションによってケーブルを使い分けることはありますが、8~9割は2534だと思います。例えば、ライブルームとコントロールルームをつなぐ回線はすべて2534ですし、Avid Pro Toolsのオーディオインターフェース関連に使用するD-Subケーブルも2534を改造したものを使っています。アウトボードの結線も、機材によってケーブルを変えているものもありますが、ほぼ2534です。パッチベイで使用しているバンタムケーブルもMOGAMI製品ですね。
“スタンダードな感覚”を構成する大切な仲間
MOGAMIのイメージは昔も今も変わりません。フラットやナチュラルという表現をされる方もいらっしゃいますし、それは確かにそうですが、僕にとってはエネルギーがあって存在を感じさせるケーブルという印象です。“静かなケーブル”という表現がありますよね。ハイエンド系の製品でケーブルの存在を感じさせないような特徴のときに使われる言葉ですが、MOGAMIのケーブルはそれとは全く逆です。MOGAMIのケーブルを通った音がしますし、その音が好きなんです。それが“存在を感じさせる”ということですね。
ケーブルの中には上下の帯域がエンハンスされるタイプの製品もあって、高域の伸びが素晴らしいとか、低域がよく出ているといった特徴を持っていたりしますが、ベーシックに多用するケーブルがそういう特性を持っていると僕としては困るんです。ミッドレンジを大切にしたいですし、上下がエンハンスされると、どうしても中抜けの感覚が積み重なっていくことになってしまいます。そういう意味で、MOGAMIは中域感もありますし、ダンピングファクターも早すぎないし遅すぎないという適度なスピード感なんです。
レコーディングを行う際には、各機材でのスタンダードな音の感覚というのがあって、例えばNEUMANN M 49を使えばこれくらいの太さ、Neveのトランスを通したら、さらにこれくらいの太さになるという基準が自分の中にあるのですが、2534はそのスタンダードを構成する大切な仲間という感じですね。スタジオにおけるケーブルというのは、体でいうと血管みたいなものだと思うんです。アナログで結線する以上、音がすべてそこを通るわけですからね。
その上、2534はコストパフォーマンスにも優れています。やっぱりケーブルって、スタジオだと200mとか300mくらいは使いますから、当然コスパというのは重要になるんです。また、取り回しで使いづらいと感じたことはないですし、ノイズに関しても気になったことはありません。ライブハウスでのライブレコーディングで何十mと引き回してもトラブルが起きたことはありませんから耐久性も問題ないと思います。
今回発売されたオフィシャルパッケージ品は、XLRプラグにNEUTRIK製を使っていますが、僕もこれまでNEUTRIKのプラグを付けて使ってきたので同じですね。このプラグによっても音が変わるので、特にマスターのインサートに使うケーブルのプラグはいろいろと試しました。そうすると確かにハイエンドが出る製品などもあるのですが、ケーブルと同じで自分にとって、そこはプラグで変わってほしくない部分なんです。そういう点で、2534とNEUTRIKのプラグという組み合わせは、自分の中のスタンダードになっています。
スタンダードを持つというのは、とても大事なことだと思います。いろいろなケーブルを聴き比べる際も、あらためて2534で聞いてみると、感覚がリセットされます。油っぽいものを食べたときに、水で口をゆすぐようなイメージです。
これから音楽制作を始めようと思って、ケーブルも選びたいと考えている方は、MOGAMIから始めるのは当然アリですし、もう、それで上がりかもしれません(笑)。
【柏井日向】MAGNET STUDIOにてエンジニア人生をスタート。2013年株式会社Bigfishを設立、2019年にはスタジオ「Bigfish Sounds」をオープンさせた。アナログな質感を生かした音作りを得意とし、ポップスからクラブミュージックまでジャンルに縛られない柔軟な感性を持つ。2022年には取締役としてカルチャーカンパニー「NiEW Inc.」に参加(https://niew.jp/)。エンジニア/プロデュースワークに加え、音楽レーベル、アーティストマネージメント、イベント制作など多くの側面からアーティストをサポートする。
2534オフィシャルパッケージ
製品ラインナップ
- 3m:MOGAMI 2534 3M FM BLK Official Package(5,720円)
- 5m:MOGAMI 2534 5M FM BLK Official Package(6,270円)
- 7m:MOGAMI 2534 7M FM BLK Official Package(6,820円)