こんにちは。作曲家の高木洋です。連載2回目はDigital Performer(以下DP)のショートカットとMIDI機能について書いていきたいと思います。DPではほぼすべてのコマンドに対して好きなショートカットキーを割り当てることができます。ショートカットのカスタマイズは、DPの作業効率を大きく左右する大事な鍵です。作業中頻繁に使うコマンドは、どんどんカスタムショートカットを設定していきましょう。
ショートカットを単独キーにカスタマイズ
まずは設定方法について。セットアップメニュー→コマンドを選択すると、コマンド名と対応するショートカットが表示されるコマンドウインドウが開きます。
DPのコマンドは膨大な数なので、スクロールしながら探すのは大変です。目当てのコマンドが分かっている場合は、検索部分でショートカットを設定したいコマンド名を入力してみましょう。コマンドを見つけることができたら、右側のMACキー1、またはMACキー2に好きなキーを入力します。1つのコマンドに対して2つまでショートカットを設定可能です。
もし新たに設定したショートカットキーが、ほかのコマンドで既に使われている場合、“バインディングコンフリクト”というウインドウが表示され、何のコマンドと重複しているか知ることができます。作業ミスを防ぐためにも、ショートカットは重複することがないようにしましょう。
僕はよく使うコマンドを、キーボード最上段のファンクションキーの列と、その下の数字キーの列に以下のようにまとめています。ファンクションキーはF1から順に、“リージョントランスポーズ”“クオンタイズ”“ベロシティを変更”“デュレーションを変更”“新規MIDIトラック作成”“新規モノラルオーディオトラック作成”“新規ステレオオーディオトラック作成”“トラックを削除”です。数字キーは1から順に、“チェンジキー”“チェンジメーター”“チェンジテンポ”“シフト”“スケールタイム”“スマートクオンタイズ”“ステップレコード”としています。皆さんもよく使うコマンドを設定してみましょう。command(WindowsではCtrl)キーやshiftキーなどを絡めたデフォルト設定よりも、ワンタッチでショートカットできるようにしておく方が格段に作業効率が上がりますよ。
リージョントランスポーズで簡単にピッチを変更
さてここからは、僕がDPで最もよく使う“コマンド四天王”とも言うべき4つのコマンドについて解説していきたいと思います。まずは“リージョントランスポーズ”です。
選択したMIDIノートを任意のピッチに上下できるコマンドで、仕組みを理解するとどんなピッチでも一瞬で変更できます。変更したいMIDIノートを選択してコマンドを選択すると、“□からC3へトランスポーズ”と書かれたウインドウが表示されます。この□に書かれたピッチはマスターキーボード(鍵盤)で指定することができます。例えばMIDIノートを1オクターブ下げたい場合、真ん中のドより1オクターブ上のドを弾き、C4と表示させてReturnキーを押します。短3度上に上げたいときはA2を、2オクターブ+増4度下げたいときはF♯5を弾けばいいわけです。
このコマンドのすごいところは、MIDIノートを選択した後は一切マウスに触れる必要なく、どんな音程にも一瞬で変更できる点です。F1キー(僕の場合ですが)→鍵盤→リターンキーを“タンタンターン!”みたいな感じで軽快に押していきましょう。
クオンタイズは複数の項目を同時に調整可能
次は“クオンタイズ”。手弾きで入力したMIDIノートの位置補正に使うものです。DPでは一つのウインドウでさまざまな項目を同時に設定することができ、とても使いやすいです。
ウインドウ右上の“グリッド”で基準の音符を選択し、その下の“連符”ではお好みで連符も設定可能。どんなに複雑な連符も設定できるので、弦のかけ上がりなどのオーケストラの打ち込みでは特に重宝します。
“オプション”では、“強さ”でクオンタイズの強さを設定できるので、手弾きのニュアンスを残したいときはここを調整してみましょう。逆にステップ録音したMIDIノートをバラつかせたいときは、その下の“ランダマイズ”を設定します。“強調”というスライダーを前後させることで、タイミングを突っ込みぎみにしたり、モタりぎみにしたりできます。
コンプのように設定できるベロシティ
3つ目は“ベロシティを変更”です。選択したMIDIノートのベロシティをまとめて変更できます。機能として用意されているのは、すべて同じベロシティにする“設定”、指定した数値の分を増減できる“加算”、パーセンテージで変更する“スケール”といった一般的なものだけではありません。“スムース”では選択範囲の最初から最後にかけて徐々にベロシティを大きく(小さく)することができたり、“コンプレス/エクスパンド”ではコンプのようにレシオやゲイン、スレッショルドを決めて変更できるなど、細かく設定できます。さらにすべての機能においてランダマイズの効果を加えることができるので、より柔軟な変更が可能です。
最後は“デュレーションを変更”です。MIDIノートの長さを変更できます。
ベロシティを変更と同様、一般的な設定のほかにも、“リリースを移動”でMIDIノートの重なりを解消したり、“範囲設定”でデュレーションの最小値と最大値を決めて変更できたりします。DPで作成したMIDIデータをMakeMusic finaleなどの譜面作成ソフトにコンバートする際に特に重要なコマンドなので、譜面作成の話をする際にあらためて触れたいと思います。
今回も最後に、DP上で作成したデータを録音スタジオに持ち込む際に用意しなければならないものを紹介します。今回はテンポデータ入りスタンダードMIDIファイルというものです。これがないと、テンポや拍子の情報をスタジオのDAWで参照することができません。特に曲中でテンポや拍子が変わるような曲の場合においては、“何小節目から録音して〜”といった作業が難しい状況になってしまいます。
作成するには、ファイルメニュー→別名で保存→FormatのミニメニューからスタンダードMIDIファイルを選び、MIDIファイルオプションの中から“フォーマット0 - テンポ/メーターのみ”を選択します。前回紹介したパラオーディオ・データと併せて、忘れずに作成するようにしましょう。
次回も引き続き、Digital Performerの便利なMIDI編集機能について紹介していきます。お楽しみに!
高木洋
【Profile】作曲家。アニメ、特撮、ドラマ、映画などの劇伴、ポピュラーソングの作編曲やコンサートでのオーケストラアレンジなど、さまざまな分野で活躍。劇伴では現在放送中の『仮面ライダーガッチャード』をはじめ、『魔法つかいプリキュア!』などのプリキュアシリーズ、『おしりたんてい』『地縛少年花子くん』『千銃士』など数々の作品を手がけている。またアニメの主題歌、エンディングテーマ、キャラクターソングに加え、アーティスト、声優のシングル曲、オリジナルアルバムへの楽曲提供など、歌作品の分野でも活躍中。
【Recent work】
『キボウノチカラ~オトナプリキュア’23~エンディングテーマソングシングル』
キュア・カルテット(五條真由美、うちやえゆか、工藤真由、宮本佳那子)
※M①「雫のプリキュア」(NHK Eテレ放送中の『キボウノチカラ~オトナプリキュア’23~』EDテーマ)を作曲
MOTU Digital Performer
オープン・プライス
LINE UP
Digital Performer 11(通常版):79,200円前後
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降
▪Windows:Windows 10 & 11(64ビット)
▪共通:Intel Core i3または同等のマルチプロセッサー(AMD、Apple Siliconを含むマルチコア・プロセッサーを推奨)、1,024×768のディスプレイ解像度(1,280×1,024以上を推奨)、4GB以上のRAM(8GB以上を推奨)